10倍株の研究

四季報が発売されました!

12月15日に、新しい四季報が発売されました。個別株投資に興味ある方には、四季報の通読をおススメします。株価が高くなってしまったため、割安な銘柄探しに難儀していますが、年に4回の4000本ノックだと思って今回も取り組みたいと思います。

リンク】四季報通読のすゝめ(2016年12月16日)
リンク】四季報を通読しました(2017年3月20日)

10倍株の研究

今回の四季報の冒頭に、営業利益・時価総額が10年間で10倍になった銘柄リストがのっていました。10年で10倍とは、年率26%複利リターンです。私は将来の10倍株を見つけたいので、過去の10倍株から何かヒントを得られないかと調べてみました。

日経平均を10年間保有した場合

まず、日経平均を10年間保有した場合、約17000円が約23000円に増えました。これは、年率換算で約3%の複利リターンです。

日経平均(出典:Kabutan.jp)

複利効果

年率3%や10%、20%と聞いても、1年ではたいした差が生まれないために軽視してしまいがちです。しかし、年月を積み重ねるとその差は膨大になります。年率10%で10年運用できれば、元本は2.5倍に増えます。20%であれば6.2倍、26%であれば10倍になるのです。ちなみに年率3%では、1.35倍に増えただけです。

複利効果のグラフ

10倍株にみる2つの特徴

特徴① 銘柄コード

日本の上場企業には、1000から9999まで銘柄コードが付与されています。10倍株が生まれる場所には、どうやら偏りがあるようです。

10倍株の銘柄コード(出典:四季報)

上図にあるように、過去10年間の10倍株の多くが、2000番台と3000番台から生まれています。逆に5000番台からはありません。
ご参考までに、銘柄コードの分類を添付しました。

(出典:Wikipedia)

特徴② 時価総額

10倍株の購入時の価格を調べてみると、その半分が100億以下になっています。また、10倍株のうち80%が時価総額200億以下です。この数字は、個人投資家にとっては非常に心強いです。なぜなら、多くの機関投資家にとって時価総額200億円は手が出せない領域だからです。

10倍株10年前の時価総額(出典:四季報リストより、Nagatomo Investments算出)

まとめ

マクロでは低成長の続く日本ですが、過去10年で約50社の10倍株がありました。存在確率としては、上場4000社のうち約1/100。その多くは、銘柄コード2000~3000番台の超小型株(時価総額200億円以下)に隠れているようです。そんな観点で、四季報を通読してはいかがでしょうか?

10倍株候補を見つけましたら、是非ともNagatomo Investmentsまでご連絡ください。みなさんの情報をお待ちしています。

Happy Investing!!

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資本主義から逃げ出して、回帰して思う事

資本主義とは何か?

Wikipediaによれば、資本主義とは「生産手段の私的所有および経済的な利潤追求行為を基礎とした経済体系」です。1980年代から日本やアメリカで育った身としては、資本主義社会を当たり前に感じてしまうわけですが、これはごく最近のことです。そもそもヨーロッパで資本主義という言葉が使われだしたのが1850年。つい150年前のことでしかありません。例えば1万年前に始まった農耕など人間の歴史の時間軸で考えても、非常に歴史が浅いと言わざるを得ません。

資本主義から逃げ出した

私は、大学を卒業した2004年から2009年まで資本主義の最前線である金融業界で働きました。それまでの人生経験から世の中を理解する多様な切り口の中で、お金という切り口がとても強力だと感じていたからです。しかし、機関投資家の株式アナリストとして、事業やお金について日々考える時間がありすぎる中で、色々と疑問に思ってしまいました。一番の疑問は、お金という切り口で人間の行動が説明できたからと言って、それに何の意味があるのだろうかという点です。人間が生まれるはるか昔から地球上にあるものを、人間は私的所有していいのでしょうか?政府は経済成長、企業は売上や利益の成長と当たり前のように言うが、そもそも成長することは絶対的に正しいことなのでしょうか?

そんなことを考えすぎ、歴史の浅い資本主義から離れ、人間が古くから行ってきた生きていくための営みにヒントを求めようと思いました。具体的には、①自分の先祖が全て子供を残してくれたこと、②自分の先祖が全て衣食住を確保してきたことは、絶対的に本当だと思えました。逆に言えば、自分の先祖が全て都会に住んで経済成長を目指したとは全く信じられませんでした。そんな訳で、2009年から2013年の間、結婚して子供2人授かり、農業や大工仕事をしていました。

資本主義に回帰した

2014年から個人投資家として都会生活に戻ってきました。肉体労働を楽しめなかったという事もありますが、それ以上に資本主義を肯定できるようになったことが大きいです。

  

今の私の考えは、上記The Passions and the Interestsを書いたアルバート・ハーシュマンという経済学者に近いものです。人間の男には動物的本能として、他の雄を倒し、できるだけ多くの雌を囲って子孫を残したいという純粋な欲求があると思います。しかし、個別最適が全体最適に一致するとは限りません。ホモ・サピエンスが身体的能力に勝るネアンデルタールなど他の類人猿に対して優位に立てたのは、身体的能力が弱いが故に集団で協力することを覚えたからだと言う説もあるようです。上記ハラリ氏のサピエンス全史などはこの立場だと理解しています。つまり、人間社会の歴史とは、いかに動物的欲求を抑えて集団活動を維持していくかというものだということです。

集団活動を維持する仕組みとして、宗教や王朝、法律、貨幣制度などが生まれたのでしょう。しかし、人間が地球上で一番強い種族の地位を確立してしまうと、やはり個人的本能欲求を押さえつけるだけではフラストレーションが溜まってしまいます。そのはけ口が、売春、コロセウム、酒、ギャンブル、スポーツ、さらにコントロール不能になると戦争になったりするのでしょう。

「みんなのため」というスローガンが失敗することは社会主義国家を見ても明白なのですが、個人的には宗教的集団生活を体験して実感しました。現代資本主義社会における私有の概念や競争に背を向けて共同生活を選ぶ人たちは、日本においてもいます。どの集団も、始まりは美しいようです。崇高な理念に共感する人々が集まり、精神的な豊かさを追求するための場を作っていきます。しかし、時が経つにつれて生活が安定してくると、フラットであったはずの集団内部で上下関係が生まれます。私有の概念がないために力のあるボスが総取り状態になってしまい、まさに人間版サル山です。女性もボスに気に入られることが生存戦略につながるためか、一夫多妻制状態になりやすいようですし、暴力もあるようです。これらの経験を通して、人間の本能的欲求を発散しつつ、かつ全体最適のために活動してもらうことの難しさを実感しましたし、そう考えれば現代資本主義社会は極めてよく回っているなと感心してしまいました。

アルバート・ハーシュマン氏いわく、『人間の本能欲求を宗教などで押さえつけることはできない。圧力が強すぎて、いつかは蓋が吹き飛んでしまうことは歴史が証明している。唯一できることは、お互いの本能欲求をぶつけ合って、摩耗させることだ。』つまり、毒をもって毒を制するのが資本主義の本質なのです。競争が嫌だと言っていると、抑圧された本能欲求がより醜い形で現れて驚くような気がします。

資本主義から逃げ出したことは、私にとっては間違いでした。慣れない農業や大工仕事に励んでは疲れて寝ていた日々の数年間は楽しめたのですが、少し慣れてくると頭でっかちな自給自足的生活で自分の本能欲求を満たすことはできなかったようです。

Happy Investing!!

投資家にコントロールできること

コントロールできることに注力したい

現実世界は、自分がコントロールできることとできないことで構成されています。そしてこの世で起きるのほとんどのことは、自分のコントロール外にあります。例えば自分が挨拶をしたからと言って、相手が挨拶してくれるとは限りません。しかし、相手が挨拶しなかったという現実をどのように受け止めるのかはコントロールできます。同じ現実に直面しても、「ちょっと聞こえなかったのかな、次はもっと大きく挨拶しよう」と解釈する人もいれば、「あの人は自分のことを嫌っているのではないか」と解釈する人もいるでしょう。

自分でコントロール可能な領域を見極め、その領域に関してはしっかりと手綱を握ってしていくことが大切だと思っています。そして、それ以外のコントロールできない部分に関しては、流れに身を委ねる勇気を持ちたいものです。

上場株式の少数株主にコントロールできること

では、個人投資家のような上場株式の少数株主にコントロールできることは何でしょうか?私は、4つのしかないと思っています。①いつ、②どの銘柄を、③いくらで、④どれだけ 買うかというシンプルな勝負です。

①+②=企業の本質価値

①と②は企業の本質価値を表しています。例えば、トヨタ自動車を例にとります。トヨタ自動車の株価は、2008年、2013年、2016年に6000円でした。同じ株価だったからと言って、トヨタ自動車の本質価値が一定であるとは考えにくいです。もしかしたら、2008年の本質価値は一株4000円だったので、6000円の市場価格は割高だったかもしれません。2013年の本質価値は一株6000円だったので、妥当な金額だったかもしれません。そして、2016年の本質価値は9000円まで上昇しているので、一株6000円で購入しても割安だったのかもしれません。

チャート画像
トヨタ自動車の株価 (出典:ヤフーファイナンス)

大切なのは、自分が本質価値を評価できる企業と、できない企業を選別することです。私には、世の中のほんの一握りの企業の本質価値を評価する力しかないと自覚しています。謙虚に、分からないことを分からないと言えるかどうか、投資家のコントロール能力が問われます。例えば、仮想通貨市場が盛り上がっています。しかし、ビットコインの本質価値を論理的に説明できる人はあまりいないと思います。市場価格が上昇しているから買うというのは投機であって、もちろん投機を否定はしませんが、投資とは別物だと思います。

出典:ビットフライヤー

③+④=投資実行

企業の本質価値を算出できた一部の企業に対して、いくらで投資すればいいのでしょうか?本質価値が一株5000円として、4000円なら投資するのか、3000円なのか、2000円なのか。どれだけの安全域(つまりは上値余地)を求めるかは投資家が決めるしかありません。そして、その安全域が確保されるまで待たなくてはなりません。

現在のように株価が上昇してくると、当然広い安全域を確保した投資が難しくなります。上昇相場についていきたくて、投資がしたくて安全域を緩めたくもなります。そんな自分への警鐘も兼ねて、書きました。待つのはつらい!株価が割安になるまで冬眠できる仕組みが欲しいです。

投資はシンプルだが、簡単ではないというバフェット氏の言葉を噛み締める日々です。

Happy Investing!!

インセンティブの大切さ

チャーリー・マンガ―の金言

I think I’ve been in the top 5% of my age cohort all my life in understanding the power of incentives, and all my life I’ve underestimated it. Never a year passes that I don’t get some surprise that pushes my limit a little farther. – Charlie Munger

私は、インセンティブの重要性を理解することにかけては同年代の上位5%に入っていると自負している。そんな私でも、毎年のようにインセンティブの重要性を過小評価していたことに気付かされる。ー チャーリー・マンガ―

サラリーマンのインセンティブ

投資家仲間と、「投資家がサンタさんへお願いするとしたら」というトピックで盛り上がりました。大量保有ルールの変更、競争過多な業界での再編、失敗を嫌う文化の刷新、株式持ち合いの解消、生え抜き社長文化の刷新など、色々なアイディアが出ました。私は、「日本企業の終身雇用制度を止めること」を提案しました。すると、「終身雇用制度は実質的に壊れている」、「残っている人は、居心地が良いと思っている」という意見をもらいました。私は日本企業で働いたことがないので、思い込みで話してしまっていたのかもしれません。

特に興味深かったのが、日本企業は会社都合で辞めた場合の退職金は手厚いが、自己都合になると80%カットになることもあるという点です。例えば、50歳の方が、60歳定年退職で5000万円の退職金をもらえるとします。自己都合で80%カットであれば、50歳で転職した場合には1000万円しか退職金がもらえません。差額の4000万円(5000万ー1000万)/ 10年(60歳ー50歳)=年間400万円 以上のメリットなければ経済合理性からは転職できないことになります。

大企業に勤めている人ほど、年収や退職金も高いはずです。さらには大企業なので組織がなくなることも考えにくいとなれば、ますます転職するインセンティブがなくなります。多くの人は、想像しうる未来(多くの場合は現状の延長線上)に合わせて合理的に行動しているのです。

まずインセンティブを変えよう

「人材の流動性を上げよう」や、「終身雇用制度をやめよう」という掛け声では何も変わらないということです。それを支えるインセンティブに手を付けてこそ、初めて人間は動くのです。例えば、退職金制度を廃止にすれば、大きなインパクトがあるでしょう。

アメリカのFedEx社(貨物運送)での実話を紹介します。FedEx社は、朝までに荷物の仕分けが間に合わなくて困っていました。色々な取り組みをしてみても結果が出ません。そこで、夜間シフトの労働者に対して時給支払いから、仕分けが終われば支払う形態に変えたところ、一気に問題が解決したそうです。時給では、労働者のインセンティブは長時間働くことになります。かかった時間に関わらずに仕分けが終われば支払う成果型に変えたことで、労働者に初めて早く作業を終えるインセンティブが芽生えたのです。

日本の労働者の潜在能力は、インセンティブによって押さえつけられているように感じます。扶養控除で人為的に年収103万以上稼ぐと手取りが減らすなど、勤労意欲を阻害する以外の何物でもありません。より多くの方々が力を発揮できるインセンティブが広まるように、サンタさんにお願いしたいです。

Happy Investing!!

投資家として長く続けるために

投資家としての経験値を謙虚に受け止める

22000円という日経平均が絶対的に高いかどうかの議論はさておき、少なくとも3つの追い風を受けていると思います。(1)好景気、(2)世界的な低金利環境、(3)日銀による株式ETF購入。つまり、現在の株価はこの3つの追い風を既に織り込んでいるのかもしれません。そうなると、現在の価格からさらに上値を達成するためには、織り込まれている以上の材料が必要となります。

次の株価支援材料・抑制材料が何になるのかは良く分かりませんが、自分が運用してきた相場環境を冷静に見直す必要があるなと感じています。私は、2006年夏に機関投資家に就職して株式投資と出会いました。2009年夏に退職するまでの3年間は日経平均が16000円から8000円を割り込むような大幅な下落相場でした。対ベンチマーク相対評価される環境下で、保守的な運用のおかげで良い成績を残すことができました。しかし、アナリストとして勤務しながらお金や経済成長について考えすぎたあげく自爆気味に疲れてしまい、2013年末まで投資から離れていました。そして2014年から個人投資家として活動した間は、16000円から20000円の大きなレンジ相場になっています。

私は投資家として、2009年から2013年のような長期的な相場低迷や、2013年の急激な上げ相場を経験したことがありません。さらに、個人投資家としては2006年から2009年のような急激な下げ相場を経験したこともありません。こうして振り返ってみると、経験していないことだらけというのが正直な感想です。

個人投資家として長期低迷相場に耐えられるのか?

個人投資家は絶対リターンを出す必要があります。仮にある年に日経平均が-20%で、自分が-10%であったならば、機関投資家なら褒めてもえるかもしれません。しかし、個人投資家として相対リターンは全く無意味なことです。金融危機の後、2007年から2013年まで日経平均の回復には6年間もかかっています。もし仮に今回下げ相場が訪れるとすれば、中央銀行は金利を下げて金融緩和する余地がないため、さらに株価の低迷が長期化する可能性すらあります。最低5年、長くて10年耐える準備ができているのでしょうか?そんな思考実験を行っては、なかなか個人投資家も大変だなと思うのです。

心の準備、体の準備、資金の準備をお忘れなく。

Happy Investing!!

ある銘柄にいくら投資すべきか?ケリーの公式

投資先をみつけただけでは稼げない

現在の市場価格が本質価値に比べて大幅に割安と思われる投資先を見つけることは大切です。しかし、それだけでは稼ぐことはできません。実際にその企業の株式を購入し、市場の価格変動に惑わされることなく保有し続け、購入価格より高値で売却して初めて利益が確定します(配当金をもらえる場合もあります)。

投資先と、十分な安全域を確保した購入価格が分かったとして、次に問題になるのは、一体いくら投資すべきかということです。

ケリーの公式とは何か

次のコインを投げる賭けについて考えてみましょう。

参加料は100円です。コインを投げて、金額が記載された面が表になれば参加料100円に加えて200円もらえます。しかし、金額ではない面が表になれば、参加料の100円は没収されます。両面が出る確率は50%ずつとしたとき、この賭けには資産の何%を賭けるべきでしょう?

損益 x 確率を合計した期待値が0を上回っているので、この賭けには参加すべきです。そして、1回に資産の何%を賭けることが最適かについては、ケリーの公式が答えてくれます。

ある賭けを繰り返し行った場合に資産を最大化するために賭ける資産の割合 = エッジ / オッズ

今回のコイン投げの場合、 エッジ(50)/ オッズ(200) = 1回に資産の25%を賭けることが最適。ということが分かります。

株式投資への応用

例えば、以下の場合を考えてみましょう。

時価総額100億円で取引されている企業がある。普通の事業環境下での本質価値は200億円だと考えている。景気後退などに見舞われた場合、本質価値は50億まで低下する可能性がある。厳しい不況が続いた場合は、破産する可能性もある。では、この会社に資産の何%を投資すべきでしょうか?

エッジ / オッズ = 資産の60%を投資せよとのお告げです。。。そんなに投資するの怖いと思うのが普通の反応だと思います。しかし、上記コイン投げと比べると、勝率が50%に比べて75%と高いことが分かります。自分の考える確率が間違っているだろうか?など様々な考えが頭をよぎりますが、ケリーの公式に当てはめるといくら賭けるべきかと知っておくのは有益だと思います。

実践者:チャーリー・マンガ―

ウォーレン・バフェットの相棒、チャーリー・マンガ―はケリーの公式を完全に実践しています。彼が自らのヘッジファンドを運用していたときには、投資先はなんと2社。資産の40%と50%を投資していたとか。景気後退時に市場価格が1/3に減ったこともあったようですが、鉄の精神力で保有を続け、最終的には大儲けしたそうです。

集中投資した方がよいことは分かっていても、集中投資するほど日々の価格変動が大きくなります。日々の価格変動が関係ないことを頭で理解しつつも、私などはまだまだ影響を受けてしまいます。認知的整合性に欠けていることは認識しながらも、含み益が増えれば嬉しく、含み損を抱えれば落ち込んでしまいます。ご参考までに、ウォーレン・バフェットは、一つの投資先に資産の最大40%を投資していたそうです。しかし、そのような場合は滅多になかったと語っています。

ごく少数の、非常に有利な投資機会に、大きく賭ける。。。少しでも実践できるように頑張ります。

Happy Investing!!

CFAリサーチチャレンジで再認識するシンプルであることの難しさ

CFAリサーチチャレンジとは

CFAリサーチチャレンジとは、CFA協会が主催する大学生・大学院生向けの企業分析コンクールです。3~5名のチームで参加するのですが、日本大会の優勝チームはアジア大会へ、そのまた優勝チームは世界大会へと駒を進めることができる、非常にグローバルな取り組みです。今年の日本大会を例に取りますと、約20チームが参加しています。分析対象企業はヤマハ長期業績レポートはこちら)で、各チームとも10ページほどの企業価値分析レポートを提出します。レポートの評価が高かった4チームが決勝のプレゼンテーションに進むという流れです。

このコンクールの特徴は、機関投資家の実務と同じ環境が用意されているということです。ヤマハからの事業説明会には、中田社長自らが1時間の説明、2時間の質疑応答に臨まれて驚きました。内容も、アナリスト向け説明会と遜色ないものです。多忙なスケジュールから金融業界の底上げに時間を割いて頂き、本当に有り難いことです。大企業の社長と3時間も対話するなどあまりに贅沢すぎて、どれほど恵まれているのか学生の方々は分かっているのかなと思ってしまいました。ヤマハ側としても採用やPR効果も期待できるのでしょうが、学生の方々へのチャンスは確実に増えていると感じます。もう一つの特徴は、各チームにメンターとして配属されていることです。最大6時間まで、メンターに質問をすることができます。メンターの中で、私のような個人投資家は異例でして、他の方は機関投資家の要職にある方ばかりです。学生時代に金融プロフェッショナルと直に作業ができるということは、なかなか経験できないのではないでしょうか。メンター側である私も、作業後に学生や教授と食事に行くなど世界が広がり、楽しませて頂いてます。

企業分析はシンプルだから難しい

Warren Buffettは投資について、「シンプルだ。だからと言って、簡単とは限らない」と語っています。バリュー投資でやることは、企業の本質価値より割安で買って、本質価値に戻るまで辛抱強く待つ、ということだけです。極めてシンプルです。実際、私が売買をした日数は、市場が開いている日数の1/5もないと思います。ほとんどの日は、ただ待っているのです。しかし、シンプルであることは分かっていながら、ほとんどの投資家はベンチマークを超えるリターンを出すことができないのが現実です。

学生の企業分析を見ていると、私自身がCapital Groupでアナリストを始めたときのことを思い出して懐かしくなります。将来業績予想のために全ての数字が大切に思えてしまうのです。売上や原価はもちろん、従業員数、広告宣伝費、旅費交通費などなど、予想できる項目には際限がありません。まるで数字のジャングルを彷徨ううちに、方向を見失ってしまうのかもしれません。実際に自分で情報に触れて数字をいじって悩んだ先に、ようやくシンプルさに到達できるように思います。たくさん迷うことは、シンプルさに到達するために必要なステップだと思います。苦労してつかみ取ったシンプルさがあるからこそ、市場価格の変動にも自信をもって株式を保有し続けることができるように思います。少なくとも、自分の経験ではそうでした。Capital Groupの場合、セクターの立ち上げにほぼ1年間の猶予がありました。よくもまあ、給料を払って長い間迷わせてくれたものだと思いますが、1人で悩み考える時間がたっぷりあったからこそ、投資家として成長できたのだと思います。その機会をくれたCapital Groupにはとても感謝しています。

ほとんどの投資家は、数字のジャングルで迷う経験をしていないのではないでしょうか。雑誌や掲示板など、他人の意見を参考にすることはとても大切です。何でも自分でやろうとする私には足りない資質です。しかし、他人の意見を検証することなく採用してしまうと、市場価格が下がったときに保有し続ける自信が持てるでしょうか。買い推奨していた人たちも、株価が下がってくると声が小さくなってしまうのがよくあるパターンです。投資では、企業の本質価値以外に助けてくれるものはありません。

一番大切なことを見極める

企業の本質を見抜く上で、社長が自分と自分の会社を診断する本―誰も言ってくれない自分と会社の盲点と欠点を探るという本がお薦めです。最初の項目は、『あなたの会社の存続と成長を保証してくれる最も重要なものは何か』の質問に、あなたはハッキリと確信をもって答えられるか、です。投資家(株主)にとっても、投資先企業は「あなたの会社」ですから、この質問が一番大切だと思います。

会社や事業にとって本当に重要なポイントは多くても2,3しかありません。そのポイントを外すと、人件費や宣伝費や他のポイントを正しく予想できたとしても、正しい企業価値を算出することはできません。数字のジャングルを見通すことは難しいですが、自分の見通しが正しく、また結果として株価が上昇したときの嬉しさは格別です。その感覚を何度でも味わいたくて、今日も四季報をめくります。

Happy Investing!!

CFA証券アナリストになって良かったこと

CFA証券アナリストとは?

CFA証券アナリストは、アメリカ発祥の資格です。1947年に生まれた資格で、現在では世界137か国に約13万人の資格保持者がいるそうです。金融業界とくに運用業界において、国際的な資格として認知されています。

日本では、約1500名の資格保持者がいるそうで、年間100名ほど増えています(私が合格した2016年の日本の合格者は88名でした)。日本で一般的に知られている証券アナリスト資格の合格者が年間1000名以上であることを考えると、まだまだ認知度が低い資格です。

なぜCFAを取得したのか?

2006年に1次試験合格

2006年にキャピタル・グループに入社した際、まったく資産運用経験のなかった私は上司にCFAを取得するよう言われました。同僚のほとんどが、MBAかCFA資格を保持していたからだと思います。私は2006年12月の1次試験に合格しましたが、その後の2次、3次試験は受験しませんでした。上司には「1次試験に合格しました」とだけ報告して、あとは黙っていました。上司はCFA資格を持っていなかったので、そもそも3次試験まであることすら知っていたのか怪しいものですが。このような生意気な態度をとっていた理由は、CFAの内容にあります。CFAを取得したからと言って、運用能力が向上するとは思えなかったのです。確かに試験勉強は大変ですから、①勉強に耐えることができる、②一定の知的水準をクリアしている、③英語力がある、という判断基準にはなると思います。しかし、外資系運用機関の従業員は、既に①~③が出来ているから職を得ることができたわけで、いまさらCFA取ってどうするのという気分でした。

2016年に3次試験合格

2014年に個人投資家として資産運用を再開しました。Warren BuffetやCharlie Munger、Mohnish Pabraiの考えを読むにつれ、自分の資金を預けたくない投資信託を顧客に販売することはできない、自分の納得いく運用スタイルを探したい、と理想は高くなりましたが、果たしてうまくいくものか不安もありました。機関投資家時代の成功は、組織の力があってのものではないかという疑念が常にありました。個人投資家として失敗した場合に少しでも再就職の可能性を高める方法として思いついたのが、CFA資格を取得することだったのです。こうして、最初の受験から10年も時間がかかりましたが、無事に合格することができました。

CFAの価値

CFA資格の維持には年会費がかかります。年4万円くらいです。会社員であれば、CFA取得者を雇用している会社側にも箔がつくというメリットがあるので、経費で落とせるのでしょうが、個人投資家の立場でこの費用を払うべきかは悩ましいところです。合格してから1年間お試し期間で会員資格を使ってみた結果、有料であっても加盟するメリットがあると思っています。日本CFA協会は、試験対策やセミナー企画、大学生向けにCFAリサーチチャレンジなど、様々なイベントを運営しています。興味のあるセミナーに参加し、リサーチチャレンジにもボランティアとして参加させて頂きました。これらを通して、運用業界の方々と知り合うことができたのが、何よりの収穫です。キャピタル・グループに在籍していたころは、企業調査とは自分1人で行うもので、他のセルサイドや運用者と交流することは百害あって一利なしかのように極端に考えていました。自分の世界を狭くしてしまったことも、機関投資家生活を長く続けられなかった理由の一つかもしれません。

これからもブログ発信、セミナー開催と並んでCFAの活動に関わりながら、少しでも運用業界の発展に貢献できれば嬉しいです。ボランティア2年目となりましたCFAリサーチチャレンジは、現役大学生の方々がファンダメンタル投資に触れる素晴らしい企画です。また次回に紹介したいと思います。

Happy Investing!!

買い物リストのすゝめ

買物リストのすゝめ

2017年3集・夏号

私は次の手順で企業調査を行っています。

① 四季報を通読して、興味のある会社を書き出す。
② 書き出した会社につき、一社づつ調べていく。
③ 事業内容を理解でき、企業価値を算出できる企業について、買い物リストに載せる
④ 新しい四季報が発売されると、また①から繰り返す

9月15日(金)の四季報秋号の発売を前に、滑り込みセーフで夏号の①~③が完了しました。今回は、興味を持てた会社が約450社。そのうち228社が買い物リストに載りました。

Lauren Templetonのアドバイス

グローバル・バリュー投資の父ともいわれる、John Templetonの姪にあたるLauren Templetonさんが動画で買物リストの効用について語っています。市場暴落時には買い物リストを取り出し、買い向かうのだそうです。あらかじめ買い物リストを用意しておくことで、慌てることなく行動することができるそうです。私はまだまだ経験が足りず、買い物リストを用意して割安であることが分かっていても、「もっと安くなるかもしれない」などと欲を出して行動が遅れてしまいます。買い物がリストがなければ、もっと出遅れているのかもしれません。素直に行動できるようになりたいものです。

Eric Cinnamondのアドバイス

中小型株で絶対リターンを目指す投資を行っている方を取り上げたポッドキャストです。この中で、Ericさんも米国企業200~300社の買い物リストを常にアップデートしていると語っています。

買い物リストを見て思う事

時価総額

時価総額別に見てみると、以下のようになっていました。

私の買物リストには大企業から超小型企業まで万遍なく含まれているようです。一方、全上場企業3,725社に対しての買い物リスト掲載率は6%でした。時価総額1000億円以上の大企業に関しては全上場企業の10%という掲載率で安定していますが、小型株になると企業間のバラつきが大きく、掲載率が下がってしまうようです。

割高・割安

私が考える適正価格からの乖離幅ですが、割高な企業が約100社。割安な企業が約130社。私は、Benjamin GrahamやMohnish Pabraiに倣って大きな安全域を求めています。基本的に、適正価格の半額以下でしか購入しません。そのような投資チャンスは、現在7社くらいしかないように思います。

「せんみつ」とはよく言ったもので、1,000社に3社くらいしか投資に値する会社はないということです。これはという投資チャンスはなかなかないものですが、また淡々と四季報秋号に向き合っていきたいと思います。

Happy Investing!!

2017年4集・秋号

貴重な失敗例に学ぼう:江守HD(9963)

株式は紙切れになる?

株式は紙屑になるかもしれないから株式投資は危ない、と言う人がいます。タカタや東芝など大企業の不祥事や倒産は大きく報道されるので、そういう印象を持ってしまうかもしれません。では、ここで質問です。2015年に上場廃止になった銘柄は何社あったでしょうか?Wikipediaによると、答えは以下の通りです。

東京証券取引所

名古屋証券取引所

  • オプトロム(2015年10月1日、セントレックス 7824)上場契約違反等

東京証券取引所で8社、名古屋証券取引所で1社、合計9社です。2014年末の上場企業数が約3500社であったことを考えると、1年間の間に株式が紙切れになった確率は0.3%です。景気状況によっても違うでしょうから厳しめにみて、10年間でも平均0.5% x 10年=5%程度ではないでしょうか?個人的にはあまり高いとは思えないのですが、いかがでしょうか?

貴重な失敗例から学ぼう:江守HD(9963)

株式が紙屑になることを心配するより、貴重な大失敗例から学ぶ方がお得だと思います。99%以上の企業が倒産しないなか、どうすれば倒産できるのか?

第1回としまして、江守ホールディングスを取り上げたいと思います。民事再生手続きを経て興和グループに譲渡され、現在は江守商事株式会社として興和グループ出身の市川哲夫社長の元で再出発を図っています。江守商事のホームページはありますが、過去の決算資料など都合の悪い情報を会社から公開することはありません。しかし、上場廃止になった企業も含めた決算資料を株主プロで見ることができます。株主プロを運営する有報データマイニング社のみなさん、本当にありがとうございます!

そして、上場廃止になった企業の株価はヤフーファイナンスなどからは見れなくなります。そこで、株ドラゴンというサイトがお薦めです。

決算情報

【参考リンク 】 江守HDの長期業績レポート

売上・利益やROE・ROAを見ている限り、江守HDは素晴らしい会社に見えます。中国事業の急拡大によって、順調に業績を伸ばしているようにみえます。

 

しかし、営業キャッシュフローには危機の兆候が表れています。

2010年3月期までも営業CFは赤字と黒字を繰り返し、そもそもキャッシュ管理の甘い会社だったことが分かります。しかし、それまで多くても±20億円だった営業CFが、2011年3月期から60億円以上の赤字に急拡大します。売上が急激に伸びたからという説明になるのでしょうが、商社というビジネスモデルを考えてみましょう。

① 在庫を仕入先から購入する。代金は買掛金で後払い。
② 顧客に在庫を販売する。代金は売掛金で後日回収。
③ 仕入先に支払う。買掛金がなくなり、現金が減る。
④ 顧客から代金を回収する。売掛金がなくなり、現金が増える。

以上、①~④をグルグルと繰り返すことになります。③と④の間に時間差があることが多いので、この間の運転資金需要が生まれることは理解できます。

では、問題の2010年3月期~2011年3月期のバランスシートを見てみましょう。

いかがでしょうか?何か気になる点はありましたか?

私は、上記①から④の事業サイクルを回しているはずなのに、売掛金、在庫、買掛金の伸び率にばらつきが気になりました。

売上  659億円 > 953億円 +44%
売掛金 182億円 > 248億円 +36%
在庫  26億円 > 40億円  +53%
買掛金 107億円 > 127億円 +18%

売上、売掛、在庫の伸びは+40%内外で理解できます。在庫も将来の成長を見越して多めに保有していると考えることもできます。ですが、それに対して買掛金の伸びが低すぎます。顧客からの代金回収は今まで通りでありながら、仕入れ先には早く支払い行っているということです。これでは、キャッシュが必要になってしまうことは容易に想像がつきます。

この状態が単年度で是正されればまだしも、4年間も続くという事は異常です。営業キャッシュフローは特殊な業界(例:分譲住宅)を覗いて黒字であることが当たり前です。そもそも、赤字と黒字を繰り返していたことが経営陣によるキャッシュ管理の甘さを表しています。管理の甘さが、中国法人の責任者による架空販売を許す土壌をはぐくんでしまったのだと考えます。

江守HDの教訓

キャッシュフローは会社にとっての血液です。利益は出なくても会社は死にませんが、キャッシュがなくなれば確実に死にます。利益の伸びを考える前に、まず長期的な営業キャッシュフローの推移を確認することが大切だと思います。その事業は、(競合他社と比較して)普通はどの程度の運転資金が必要なのでしょうか?それに対して、調査対象企業のキャッシュ管理は優れているのか・劣っているのでしょうか?

サルも木から落ちる

江守HDの大量保有報告書を見ると、フィデリティという有名機関投資家が2013年から大株主であることが分かります。これまで見てきた通り、既に2011年3月期に問題の兆候が見えていましたが、売上や利益の拡大が魅力的に感じてしまったのでしょう。有名機関投資家でも、こうした間違いがあるという一例です。ご参考まで。

Happy Investing!!