カトリック教会のニュースで考えた

ローマ法王庁#3が、少年への性的虐待で有罪判決を受けた

ペル枢機卿が少年への性的虐待の罪で有罪判決を受けたというニュースが出ていました(BBC日経)。

現在ペル枢機卿はローマ法王庁で3番目の地位にあるということで、有罪を受けるカトリック教会聖職者としては最高位だということです。

Wikipediaによれば、21世紀に入ってから世界中でカトリック聖職者による性的虐待が発覚しているようです。

考え事

これまで隠してこれた不祥事が発覚しているカトリック教会の様子は、昨今の日本企業や政府の不祥事発覚と似たものを感じます。

当人たちにしてみれば、これまで通りの行動を続けているだけなのでしょうが、告発者を抑えきれなくなっているように感じます。

背景には、①個人に対して相対的に組織の力が低下していること、②SNSなどで個人の発信力が強くなっていること があるような気がします。

宗教に対しても、厳しいコンプライアンスの目が向けられ批判の声があがる現状は、良いことだなと思います。

ただし、問題の根絶は難しいと予想します。

不祥事を起こした企業を見ていると、1回の発覚で終わることは少なく、残念ながら氷山の一角であったことの方が多いように思います。

バフェットさん曰く「ゴキブリを一匹見たら、もっとたくさんいると思え」。

この問題を契機に、ますます透明性のある、ガバナンスの効いた組織になりますように。

Happy Investing!!

エルピーダ坂本社長、『不本意な敗戦』を読んで

『不本意な敗戦』を読んで

エルピーダメモリの社長だった、坂本さんの著書を読みました。エルピーダメモリと聞くと、懐かしい気分になります。1999年にNECと日立のDRAM事業を統合することで誕生した、日本の半導体メーカーです。1990年代に世界一だった日本の半導体産業ですが、大きな設備投資によるスケールメリットを追求する段階での競争に敗れ、シェアを大きく落としてしまいます。例えば、エルピーダメモリ誕生時のDRAM市場シェアは17%あったそうですが、2002年には4%台に落ち込んでしまったそうです。たったの3年で、シェアが1/3以下になってしまうとは、凄まじいスピードです。

エルピーダは1999年から3年連続赤字。NEC派や日立派が争って混乱していたようです。そんな火中の栗を拾いに、2003年に坂本さんが社長就任、2005年には黒字回復して株式上場に成功します。その後、2012年に経営破たんに至るまでのストーリーがまとめられています。

ポイント

この本を読んで、2つの点が心に残りました。一つは、坂本さんが優秀な経営者であること。経営破たんから再生したJALとの比較が出てきます(p.49)が、JALは全社員の1/3が希望退職し、これまで空港までタクシーで行っていたパイロットに公共交通機関を使うようにと、当たり前のコストカットを行いました。しかし、サムソンなど世界の巨人と戦っているエルピーダは、そんな無駄はとっくになくしていました。東京本社の応接室のソファは、広島工場でいらなくなったものを持ってきたそうです。

エルピーダ・ウェイも納得が行く内容(p.84)です。
・会議は1時間以内
・レポートはA4サイズ1枚以内
・メールの返事は24時間以内
・国内出張は全員エコノミーか普通車
・全員を名前で呼び、肩書で呼ばない

坂本さんは、当たり前のことを当たり前に実行できる優秀な経営者だと感じました。問題は、これだけ改善を行っても経営破綻するほど、半導体ビジネスが難しいということです。例えばですが、

・グローバル競争であること
・サムソンのような巨大な競争相手がいること
・市場環境が急変すること

3年後の収益予想はおろか、来年の収益予想を行うことすら難しいと思います。例えエルピーダの経営陣がいかに優秀であったとしても、厳しい結果になった可能性が高いと思います。バフェットは、「優秀と評判な経営者に、難しいと評判な事業を経営させると、だいたいの場合は事業の評判が勝つ」と述べていますが、エルピーダはその典型例だと思いました。

坂本さん、貴重な経験をシェアして頂き、ありがとうございました。
Happy Investing!!

 

サンバイオ株にみる、レバレッジの危険性

サンバイオ株の乱高下

ニュースに事欠かない株式市場ですが、最近のビッグニュースはサンバイオでしょう。脳神経細胞への再生医療を目指すバイオベンチャーです。事業内容はこちら

2018年11月1日に、外傷性脳損傷を対象にした治験で主要項目を達成したと発表(リンク)。外傷性に対して有効であったならば、脳梗塞に対しても有効なのではないかという期待が膨らみ、2018年10月末に4000円だった株価が、2019年1月末に3ヵ月で3倍に急騰します。しかし、2019年1月29日に、慢性期脳梗塞を対象にした治験で主要項目を達成できなかったと発表(リンク)。失望売りが売りを呼び、4日間ストップ安で株価は急落します。

nextir35さん

私がブログをチェックしている個人投資家の一人に、nextir35さんという方がいます(リンク)。ブログの開示を見る限り、圧倒的な運用実績を残してきました。これぞという投資チャンスに大きく賭けることができるようで、保守的な自分の運用結果と比べて羨ましく思ったこともあります。

2015年からの公開リターン(2015201620172018)をまとめると、2018年末までの4年間で40倍に増やしていることになります(税前だと思いますが)。圧倒的な運用成績です。

そのnextir35さん、2019年1月末のポートフォリオはサンバイオのみだったそうです(リンク)。そして、暴落に巻き込まれてしまいます。2月5日は、今後の運用実績開示を取りやめるとの投稿がありました(リンク)。nextir35さんが手がけた信用2階建てという取引は、100円の元本+260円を借金して、360円分の取引ができるそうです。今回のように360円で買った株価が1/3になったとすると、120円が残ります。自分の元手が無くなることはもちろん、140円の借金が残ってしまいます。元本を失うだけにとどまらず、借金が残ってしまうのが信用取引、レバレッジ取引の怖い点です。元手が大きいほど取引金額が大きくなっているので、残る借金額も大きくなってしまいます。

教訓

今回の達人の失敗に、100%が有り得ない投資の世界で、信用取引がいかに危険かを再確認しました。バフェットさん曰く、「レースに勝つためには、まずゴールまでたどり着く必要がある」。

有名なバフェットさん、マンガ―さんですが、初期の頃に、もう一人Rick Guerinというパートナーがいました。バフェットさんが成功したバリュー投資家をまとめた、The Superinvestors of Graham and Doddsville という文章にもPacific Partnersの運用者として登場します。19年間、複利32.9%という素晴らしい運用成績を残しました。そんなGuerinさんが表舞台から姿を消した理由も、信用取引にあったそうです。相場下落で、バークシャーハサウェイ株を安値で売却せざるを得なくなったそうです(リンク)。

私は信用取引を一度もしたことがないですが、今後も絶対にやめておこうと心を新たにしました。

nextir35さんが致命傷を負っていないこと、そして復活を願ってやみません。

Happy Investing!!

TTP(徹底的にパクる)

実社会はTTP(徹底的にパクる)してOK!

私たちは、学校生活を通して、テストのカンニングやレポート丸写しを禁じられてきます。その後遺症か、私は実社会に出てからしばらく、自分のオリジナル探しに拘り過ぎていたなと思います。しかし、新社会人がいくら頭をひねったところで、出てくるアイディアはたかが知れている確率が高いと思います。社会人になって15年くらい経ちましたが、今では逆に、TTP(徹底的にパクる)信者になってしまいました。圧倒的な成功例の行動様式を真似することに躊躇がなくなりました。それで圧倒的な成功例の結果に少しでも近づけるのであれば、自分のオリジナリティを捨てることなど安いものだと思えるようになりました。自分もようやく、オリジナリティから来る小さな成功に飽き足らず、オリジナリティを犠牲にしても圧倒的な結果を出したくなったのだと思います。

大事なのは、「都合よく」パクるのではなく、「徹底的に」パクること

2月11日の日経新聞朝刊の12面に、「官民ファンドのインセンティブ」について記事がありました(リンク)。人事でゴタゴタのあった産業革新機構(INCJ)については、私も2018年12月に記事を書きました(リンク)。しかし、インセンティブ面での特徴については、今回の記事で初めて学びました。

この官民ファンドは、政策的にイノベーションを後押ししようと、米国のベンチャーキャピタル(VC)をモデルに作られました。米国のVCは長い歴史の中で試行錯誤を続け、最も効果的と思われる報酬体系などを磨いてきたわけです。その特徴を取り出してみると

1、ファンドは10年期限。期限が来れば、損失も確定する。
2、成功報酬は、投資元本を全て返却してから発生(元本返還原則)し、青天井であること
3、成功報酬にクローバック条項があること。成功報酬が発生した後、別案件で損失が発生した場合、成功報酬を返却すること。

しかし、VCを模倣したはずのINCJのファンドを見てみると、

1、損失確定して国民負担を生じさせてはいけないと、ファンド解散を先延ばしする可能性がある。
2、元本返還原則がない。2018年1月までに、INCJは9093億円を投資し、6875億円を回収したそうです。元本返還原則に照らせば、成功報酬はゼロです。しかし、INCJは個別案件ごとに成功報酬を発生させているそうです。また、報酬が青天井であることも、ありえません。
3、クローバック条項がない。

あなたがINCJの運用者であれば、このインセンティブ設計を前にどのように行動するでしょうか?おそらく、利益は積極的に確定させて成功報酬を稼ぐ一方、含み損を抱えた案件はできるだけ先送りにするのではないでしょうか?これでは、イノベーションとは全く逆の結果になり、ゾンビ企業群を産んでしまいます。米国VCは報酬が青天井であるからこそ、含み益を抱えた投資先の保有を続け、10倍、100倍の利益を享受しようとします。10年期限とクローバック条項があるからこそ、含み損を抱えた案件を上手く処理しようとします。このあたりのインセンティブ設計を理解して真似することなく、イノベーションが起こせると思っているとしたら、甘すぎます。

「ファンド」などという言葉に惑わされず、細かい制度設計まで真似されているか、確認が必要です。

自分が誰かの真似しようとしたときも、都合よく真似していないか、チェックしようと思いました。

Happy Investing!!

 

価格競争にご用心

1年で70%下落したダイヤモンドワイヤの価格幅にビックリ

昨日、中村超硬(6166)がMSワラント(行使価額修正条項付き新株予約権)の発行を発表しました(リンク)。前回の投稿で、最近多発しているMSワラント発行の問題点を書きました。「またか」という気持ちで発表資料(リンク)を読んで驚きました。珍しく、社長による動画説明もありましたので、ご参考まで。

中村超硬はダイヤモンドワイヤのメーカーです。主に太陽光パネルのシリコン切断に使われているそうで、一見ニッチ分野で競争力のある企業のように感じます。

中村超硬の説明資料によると、ダイヤモンドワイヤの価格が、2018年に入ってからなんと70%も下がっているそうです。太陽光発電メーカーが増えて生産調整が始まった上に、世界トップ市場である中国政府による補助金打ち切りにより、火に油を注ぐ事業環境となっているそうです。市場参加者の感情で動く株価が1年に70%動くことはよくある話ですが、実際の商品価格が1年で70%下がるとは、なかなかお目にかかれません。

予見できなかったのか?

中村超硬は、2017年に個人投資家の間で人気の小型株だったようです。太陽光、収益拡大というテーマ性が魅力的だったのか、2017年に株価は1000円から7000円へ7倍。2018年は逆に、7000円から800円へ。ジェットコースターのような株価です。

過去の事業実績を見ると、赤字が頻発しています。2018年3月期のみ切り出すと、売上が前年比2.4倍と気持ちのよい業績ですが、なぜ赤字になったのかをよく調べた方がいいです。

2017年3月期の有価証券報告書(リンク)によれば、販売単価交渉に失敗して取引量が減ったことで減収、赤字につながったことが分かります。

2018年3月期の有価証券報告書(リンク)には、2018年2月後半から市場が急変して販売単価が大幅に下落していること、リスクも明記してあります。

5年後を見通せるか?

後出しジャンケンという批判はあるでしょうが、以上を見てくると、中村超硬の事業リスクは明らかだったのではないでしょうか?事業を分析するとき、5年後の姿を見通せるかと自問自答すると良いと思います。中村超硬の場合は、過去の事業実績を一目見ただけで難しいことが分かります。とてつもなく儲かってるかもしれないし、赤字が5年間続く可能性すらあります。

爆弾を保有しないように、少なくとも、不況期間を含む過去10年の事業実績+有価証券報告書のリスク注記には目を通した方がいいのではないでしょうか?もっとも、私も今年は基本作業を怠った銘柄で、被弾してしまいましたが・・・。お互い、気を付けましょう!

Happy Investing!!

行使価額修正条項付新株予約権(MSワラント)の問題点

相次ぐ行使価額修正条項付新株予約権(MSワラント)の発行と株価下落

最近、行使価額修正条項付新株予約権(Moving Strike ワラント=MSワラント)の発行の発表が相次いでいます。そして、発表と同時に株価が大幅安になっています。仮に本質価値を超えた株価下落であれば、投資チャンスになるのでしょうか?

事例1:日本管理センター(3276)11月15日発表(リンク

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事例2:プレミアグループ(7199)12月17日発表(リンク

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事例3:コムチュア(3844)12月18日発表(リンク

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MSワラントとは何か?

MSワラントは、資金調達の一種です。コムチュアの事例を考えてみました(リンク)。

ステップ1

野村証券に対して、コムチュアがMSワラントを発行します。
13000個 x 930円 = 1200万円がコムチュアに支払われます。

ステップ2

この新株予約権は、コムチュアが野村証券に対してMSワラントの行使を指示できるそうです(どこまで本当なのでしょうか?)。コムチュアとしては、できるだけ株価の高いときに行使したいところです。行使価額は、行使日前日終値 x 92%に設定されています。行使日前日終値に応じて行使価額が修正されることから、「行使価額修正条項付」と呼ばれています。

仮に3000円の終値の翌日に行使したとします。野村證券は、13000個 x 100株 x 3000円 x 92% = 約36億円をコムチュアに支払い、130万株を受け取ります。野村證券は株式を長期する意思はないので、すぐに売却します。仮に3000円で売却できたとして、39億円で売却でき、3億円が野村證券の利益となります。

ステップ3

ステップ2の場合、野村證券は3000円 x 92% = 2760円以上で売れなかった場合、損失を抱えてしまいます。時価総額400億円の企業の株式39億円分、約10%を保有する引き受けるわけですから、簡単に売り抜けられる量ではありません。

野村證券も手をこまねいている訳はなく、あらかじめコムチュア株を空売りすることで、大量引受に備えます。大量の空売り需要が出ることを市場も認識しているので、他の投資家も売り手に回り、株価は急落します。少なくとも、引受株数に相当する空売りが必要となります。コムチュアは12月19日の出来高は約85万株でした。野村證券は130万株を引き受けるので、12月19日の全ての売りが野村證券だったとしても、45万株足りません。実際には、野村證券の空売りは出来高の50%程度と仮定すると(42万株)、今日の2倍の売り圧力(88万株)が控えているとも考えられます。仮に短期的に株価が反発したとしても、空売り圧力があることが分かっている訳ですから、短期的には株価が上昇しずらい環境が発生します。

野村證券としては、空売りさえできていれば、行使価額 x 8%分は確実に儲かります。しかも、自分の売りで株価を下げることで、空売りからも利益を得られる可能性もあります。

野村證券の損益シナリオ

シナリオ1:空売り平均株価3000円、行使価格3000円 x 92%

利益 = 39億円 – 35.88億円 – 発行手数料0.12億円=3億円

シナリオ2:空売り平均株価3000円、行使価格2900円 x 92%

利益 = 39億円 – 34.68億円 – 発行手数料0.12億円 = 4.2億円

シナリオ3:空売り平均株価3000円、行使価格3100円 x 92%

利益 = 39億円 – 37.08億円 – 発行手数料0.12億円 = 1.8億円

野村証券としては、かなり有利な取引であることが分かります。

資金調達するとして、なぜ借入でなく、公募増資でなく、MSワラント?

引き受ける野村證券にとっては、非常に魅力的なMSワラントですが、無からお金は生まれません。反対側で損をしているのは、既存株主です。発行済株式が増えることで、一株利益が希薄化することはもちろん、野村證券の空売りによって(短期的には)株価も下落します。

空売りによる株価下落は一過性のものだと思いますが、それにしても、なぜ資金調達の方法としてMSワラントを選ぶのでしょうか?株式調達であれば、公募増資が王道です。調達金額に対する証券会社への手数料は2~4%(出典)だそうです。なぜ、8%という高額の手数料を支払ってまでMSワラントを発行したいのでしょうか?

さらに、コムチュアのバランスシートはピカピカです。現預金47億円に対して借入金7億円。ネットキャッシュ40億円です(決算短信)。過去5年間の年平均年間営業キャッシュフローは約10億円に対して、IT企業なので設備投資も少なく潤沢なフリーキャッシュフローを生み出しています。今回の40億円の調達、余裕で借入できたと思うのです。その場合は、金利は高くても2%程度でしょう。

借入、公募増資というコストの安い選択肢があるにも関わらず、なぜコムチュアはMSワラントを選択したのでしょうか?サラリーマン社長であれば分かりますが、コムチュアの向さんは創業者として筆頭株主23%を保有しています。社長の大野さんも1.9%を保有しています。経営者と既存株主の利害は一致しているように見えます。

ここが、私にとって実に不可解な部分です。取締役に野村総研出身者が多いので、野村證券の意向が通りやすいのでしょうか?それとも、借入できないような、公募増資できないな事情があるのでしょうか?少なくとも今回の一件で、コムチュアは資本配分に大きな問題があることが明らかになりました。経営陣には、事業の競争優位性を高めることはもちろんですが、資本配分の勉強をして頂きたいものです。資本配分の巧拙は、企業価値を大きく変化させるということを理解して頂きたいです。まずは、最近のMSワラントブームが終わることを祈って。

もし私の理解が間違っていましたら、是非ともご指摘をよろしくお願いします!

Happy Investing!!

産業革新投資機構の役員辞任で感じたこと

革新投資機構の役員辞任

日本国が出資する産業革新機構の全役員が辞任することになりました。メディア報道を見ていると、高額報酬が問題になっているように受け取れますが、辞任した役員のコメントを読むと、より深い問題があることが分かりました。

この気付きは、「銀行員のための教科書」というブログから得ました。銀行に勤務されていると思われる方の匿名ブログですが、内容は非常に充実しています。情報発信を通して、日本を良くしたいという気概を感じます。いつも、学ばせて頂き、ありがとうございます。

問題の本質は、契約の軽視

取締役の辞任コメント(リンク)を一読されることを、お薦めします。坂根正弘氏(元コマツ社長)や、コンサルタントの冨山和彦氏など、各界を代表する方々の本音が聞ける、貴重な機会となっています。

私なりに総括させて頂くと、経済産業省が契約を軽視したことが問題の焦点です。高額報酬が問題なのであれば、それは予め伝えるべきことです。もしかすると、高額報酬でなくとも、日本のためにひと肌脱ごうという人が集まったかもしれません。しかし、世界レベルで戦える人を集めるために、世界基準の報酬を払おうと合意したことを、後から変更しようとする経済産業省の姿勢は問題です。契約内容の朝令暮改が許されると、関係者は疑心暗鬼のまま日々を過ごし、一体何を信じれば良いのか分からなくなります。

例えば、会社と社員が雇用契約したとします。部長の判断で年収1000万円で契約したとして、その後、社長が「高すぎる」と言ったところで、契約期間中は年収1000万円が続きます。逆に、年収1000万円の市場価値がある人物が、年収500万円で契約してしまい、「安すぎた!」と思っても、これまた後の祭り。契約内容の変更方法もまた、契約書に記載の通りに行うのみです。

国内で足を引っ張り合っている場合ではない

経済産業省など役所全般の行動を見ていて感じるのは、彼らが日本国内しか見ていないということです。優秀な運用者は、世界中で求められています。例えば、冨山和彦氏のコメントに、ノルウェーやカナダの公的ファンドが成功例として取り上げられています。

例えばカナダには、CPPIB(Canada Pension Plan Investment Board)という公的年金ファンドがあり、インフラ投資やプライベートエクイティ投資に積極的です。解約リスクがないため長期的な時間軸で投資ができるという、年金ファンドの強みを活かした運用をしていると思います。私は、このファンドと面接したことがありますが、香港オフィスで面接した相手5,6人のうち、カナダ人は1人だったように思います。ちなみに私の上司になるであろう人は、インド系アメリカ人でした。

ノルウェーの公的ファンドも同じような状況でしょう。日本オフィスもありますが、そもそもノルウェーの人口が約500万人ですから、ノルウェー人だけでグローバル運用人材を充足できるとは思いません。ノルウェー銀行は日本株式市場の大株主として四季報で目にすることも多いです。シンガポールのテマセクやGICも、世界中から運用者を集めています。

このような状況で、国内で足を引っ張り合っている場合ではないと思うのです。産業革新投資機構と同時期に生まれた政府系ファンド、株式会社INCJの挨拶には、「日本の産業は自前主義によって宝の持ち腐れ」と書いてあります。今回もまた、宝の持ち腐れを起こしてしまった気がして、残念です。

例え万全の体制で臨んでも、結果が分からないのが投資の世界です。特に半年後、1年後という短期的な結果は誰にも分りません。だからこそ、より良い体制で臨めるように、少しでも勝てる確率を上げようとしのぎを削っている世界です。もしかすると、政府や官僚の方々は、運用を簡単だと考えているのかもしれません。投資は、安く買って高く売るだけ。単純ですが、簡単ではないところがポイントです。とにかく、国内や社内で足を引っ張り合っている場合ではないのです。競争相手は、外だけで十分です。

Happy Investing!!

APAグループに学ぶ

APAグループは、ホテルチェーン3強の一角

私が尊敬している個人投資家の一人、角山さんのブログに、APAグループ元谷社長の対談が取り上げられていました。APAグループは、日本最大のホテルチェーンとして、2020年までに提携ホテルを含めて10万室の稼働を目指しているそうです(中期5か年計画)。国内宿泊市場規模は、ホテル(87万室)と旅館(69万室)を合わせた約160万室(参照リンク)ということで、全国で6%シェアを目指すという計画です。競合としては、東横インやルートインが2016年時点でそれぞれ約5万室、約4万室となっていて、3強。APAグループがダントツ#1という訳ではなさそうだ(参照リンク)。

各社HPの情報をまとめたものが、下図。

成功例から学ぶ

APAグループのような成功事例を見つけたときは、まず素直に他人の成功を喜び、その理由を学べるようになりたいです。成功事例に共通する要素を抽出することで、将来の成功事例を見つける選球眼を養いたいです。

今回読んだ、参考記事リンク
社長が語る企業物語
ダイヤモンドオンライン 2015年12月
CEO社長情報
プレジデントオンライン 2013年9月

ポイント1:事業の根幹である資金の流れを把握すること

元谷さんは、金融の実態を知るには金融機関に勤めることが一番と考え、地元の信用金庫に入社します。例えば、NIKEを創業したPhil Knightや、Fiatを立て直したSergio Marchionneは、会計士資格を持ち、実務経験もあります。もし創業者に会計知識がない場合は、本田宗一郎と藤沢武夫のように、弱みを補う体制づくりが必要だと思っています。

ポイント2:市場規模が成長余地を決める

元谷さんは、「市場規模でいえば頑張っても一定の需要しかないもの、例えば10億円、100億円の規模であれば、最大でもそこまでしか伸ばせない」と気付きます。より大きな市場規模を求めて、住宅産業で創業したそうです。大きく成長する企業に投資したい場合は、市場規模が大切になります。

ポイント3:戦略論の重要性

元谷さんは、戦略論に興味があり、孫氏の兵法、マキャベリ、ランチェスター戦略を研究して自らの経営に生かしているそうです。成功している企業で、ランチェスター戦略に言及している成功事例は、ソフトバンク、日本電産、SMCなど枚挙にいとまがありません。ランチェスター戦略によれば、業界1位以外は、全て弱者です。投資先企業が、ポジションに合わせた戦略を選択できているかどうかは、重要です。

ポイント4:節税の大切さ

元谷さんは、節税の重要性について徹底的に語っています。その一方、対談の最後には、「適正利益を上げて納税義務を果たす」とも述べていて、少し話しが食い違っているように感じました。

建売銃額の利益を相殺するために償却が大きい賃貸住宅へ。さらに分譲マンションの譲渡益を節税するために償却がさらに大きい自社ホテル経営へ進出したそうです(ベッドや冷蔵庫、テレビなど20万円以下の備品を一括償却できるので、節税効果が大きい)。不動産市況が割高で再投資できないとみるや、航空機リースを利用して節税を行ってきたそうです。節税は、不動産のように資金力勝負になる産業の場合は、特に重要になると感じました。一方で、資金需要の少ないITやコンサルのような業種は節税方法が限られます。この場合は、無理な節税によって多角化につながるデメリットの方が大きいのかもしれません。

ポイント5:オーナー企業の強さ

元谷さん、バブル期を前に、土地価格が収益還元法に基づく価値の4-5倍という異常な高値であることに気付きます。1988年、1989年と全ての不動産を処分し、東京本社も引き払って創業の地金沢に撤退したそうです。このような極端な行動は、オーナー企業でなければ、まず出来ません。普通の企業であれば、社内反対派の説得に消耗しているうちに、不動産価格の下落が始まっていたことでしょう。逆に2010年からは都心の一等地をキャッシュで買いまくり、東京でトップホテルチェーンの礎を気付きました。フルブレーキからフルアクセルへ。極端にみえる行動の結果として、APAグループは創業から一度もリストラをしていないということで、素晴らしい実績です。ビジネスにおいては、結局は実績が全てです。上場企業でも、経営者が株式を大量保有しているか否かは、一つの参考指標になるのではないでしょうか。

(注記)行動力が強みのオーナー企業ですが、そもそも行動が間違っていた場合は、一般企業よりもダメージが大きくなる可能性もあります。例えば、ルートインの創業者、永山さんの対談には、「リーマンショックで大失敗した」というコメントがありました(参考リンク)。

まとめ

業界は違えど、勝ちパターンには共通点があると思います。多くの成功事例に触れることで、より将来の成功事例を見極められるようになりたいです。

Happy Investing!!

AI(Artificial Intelligence)より、AA(Artificial Alien)の方が納得できる

AIによってチェスに何が起きたか?

AIやRPAという言葉をよく耳にするようになってきました。私など、つい半年前まで「RPA?」という感じでしたから、技術革新と普及スピードは速いものです。これら技術について、単純作業が代替されることで多くの失業者を産む可能性がニュースに取り上げられていますが、果たしてどのような影響を与えるのでしょうか?

我々を取り巻く構造的な技術変化を理解したく、Wired Magazineを創業したKevin Kellyさんによる、The Inevitableという本を読んでいます。

この本に、AIとチェスの事例が出てきます。1997年に、IBMのディープブルーというAIが、当時の世界チャンピオンGarry Kasparovさんに勝ちました。私はこのイベントを、将棋、囲碁と続く、機械優位性証明の歴史の始まりとして認識していました。しかし、現実はもっと複雑でした。チェス業界はその後、機械 vs 人間の個人戦ではなく、フリースタイルと呼ばれる、機械を利用しても良い勝負に傾倒していったそうです。例えば2014年のフリースタイル選手権では、AIが42勝に対して、AIと人間のタッグチームが53勝したそうです。飛行機のパイロットのように、操縦の大半は機械が行いながら、機械の弱点を熟知した人間が必要箇所だけ介入するというスタイルのようです。本書が発行された2016年時点で一番強いチェスプレーヤーは、Intagrandという、複数の人間と複数のAIのタッグチームだとか。自分のイメージするチェスからはかけ離れていますが、AI勝利後の業界推移が興味深いです。AIを否定して人間戦にこだわることなく、AIの良さと人間の良さをうまく取り入れているところに好感が持てましたし、何よりAIとの直接対決では人間が負けてしまうという現実から目をつぶっては仕方ありません。

さらに驚いたのは、人間チェスプレーヤーのレベルまで上がったということです。機械に負けたゲームとしてチェス人気が衰えるどころか、強い機械と気軽に対戦できるようになったことで、逆にチェス競技人口は増えたそうです。現在は、チェスの最高位であるグランド・マスターの人数が、1997年当時の2倍に増えたそうです。特に、ポイントランキング1位のMagus Carlsenさん(今日でも1位を維持しています)は、AIと練習を繰り返した1990年生まれのノルウェー人です。この話を聞くと、将棋界を席巻している藤井聡太さんを思い出します(2002年生まれ)。藤井さんは練習方法について、次のように述べています。

Q: 練習方法を教えてください。
A: 一人で練習することが多いです。もっぱらリビングのパソコンで、AIソフトなども利用しながら、練習をしています。
リンク

AI(Artificial Intelligence)より、AA(Artificial Alien)の方が納得できる

AIと練習を重ねた若者の打ち手は、古参のプレーヤーには異質に映ると想像します。Alpha Goが世界トッププレーヤーを破った囲碁の世界でも、永く信じられてきた定石に変化を与えているようです。

我々は、他者がいて初めて自分について認識できます。もし世界に自分一人しかいなかったとしたら、自他の認識すら生まれていないでしょう。私は東京生まれですが、他の地方で育った人と触れることで初めて、東京の特徴に気が付きます。海外を訪れ、外国人と話してみることで、日本の常識、世界の非常識に気付かされることもあります。さらに人類について知るには、違う認知構造を持った異星人に出会うことが必要だろうと思っていました。

The Inevitablesの記述を読んで、AIはその疑似体験を与えてくれている、ということに気付きました。今後のAIの進化と普及によって、人類は本質的に異なる視点からの思考に触れることでしょう。チェス、将棋、囲碁の違いが分かるトッププレーヤーは、既に未知との遭遇体験を持っているはずです。それが、現在ゲームの枠を超えて社会レベルで進行しています。生活習慣や商習慣を変えることを要求され、社会ストレスも大きいことでしょう。しかし、AIをAA(Artificial Alien)だと思い、他者から学ぶ気持ちをもって接することができるかどうか。機械が出した結論だと色眼鏡で見ることなく、良いものは良い、と合理的に判断して採用できるかどうかが、ポイントになると思いました。一体どんな未来になるのか、より高い次元での人間と機械のコラボがますます楽しみです。

Happy Investing!!

投資10戒

Mohnish Pabraiの最新講義

Mohnish Pabraiは、毎年ボストン大学の学生に向けて講義を行っています。ありがたいことに内容がYoutubeにアップされますので、私は毎年楽しみに見ています。今年のトピックは、『投資10戒』でした。

投資10戒

1. Thou shall not skim off the top (資産運用業に向けて)稼いでいないのに、固定手数料を取ることなかれ

2. Thou shalt not have an investment team 投資をチームで行うことなかれ

3. Thou shalt accept that thou shalt be wrong at least one-third of the time 投資では、誰しも1/3は間違うということを受け入れろ

4. Thou shalt look for hidden PE of 1 stocks 明白ではないPE 1倍株を探せ

5. Thou shalt never use Excel エクセルを使わないと安いかどうか判断できないような案件は見送れ

6. Thou shalt always have a rope to climb out of the deepest well ひどい状況から抜け出すための用意をしておけ

7. Thou shalt be singularly focused 一つのことに集中しろ

8. Thou shalt never short a stock 空売りをするな

9. Thou shalt not introduce leverage レバレッジをかけるな

10. Thou shalt be a shameless cloner 優秀な投資家の真似をしろ

投資戦略、その先に

投資を続けていて思うのは、進む道を選ばなくてはいけないという事です。投資の稼ぎ方はたくさんあります。デイトレ、スイング、優待投資、増資ディスカウント、IPO抽選、バリュー、グロース、ロングショート、割安成長株、、、、どんな投資戦略であっても、統計的に裏打ちされた方法を続けていれば、最終的には勝つことができます。実際に、どの投資戦略にもそれを極めた猛者がいます。

しかし、どんな投資戦略でも勝つことができる一方、全ての投資戦略で勝つことはできないと考えます。継続的に勝とうとするには、投資戦略を選ぶ必要があると思います。実績ある個人投資家の人にお会いすると、総じて投資ルールが明確だと感じます。自分が取り組むべき局面、そうではない局面の判断がしっかりとしていますし、得意でないパターンで勝てなかったからと言って悔しがることもありません。他の投資戦略で稼いでいる人がいても、羨ましく思いません。自分が勝てる確率が高いときのみ、市場に参加するというスタンスです。

私は、Benjamin Graham、Warren Buffett、Charlie Munger、Mohnish Pabraiと続くバリュー投資戦略はもちろん、その背景にある考え方まで理解したいと思っています。投資家の性格、行動、そして投資戦略が一致してこそ、長期的に良い結果が生まれると考えます。例えば、短気な人がバリュー投資を採用するのは難しいでしょう。身体が拒否反応を起こすでしょうから、違う投資戦略を探すか、自己変革に挑戦する必要があります。私は、自己洗脳するかのように、目標とすべきバリュー投資家の写真を飾り、文章を読み、声に耳を傾け、オマハに詣でます。そこまでして近づきたいと思うほど、高く素晴らしい目標だと思っています。Mohnish Pabraiの投資10戒を胸に、さらに信心を深めたいです。

Happy Investing!!