バリュー投資をお薦めする理由

さまざまな投資戦略で成功した投資家がいる

世の中には、さまざまな投資戦略で成功した投資家がいます。日本の個人投資家では、160万を200億以上にしたBNFこと小手川隆さんのスイングトレード、65万を25億以上にした五月こと片山晃さんの適時開示情報投資などが有名です。世界に目を向ければ、George SorosやRay Dalioのグローバル・マクロ投資、Bill Ackmanのアクティビスト投資、Howard Marksのディストレスト投資、とリストはまだまだ続きます。

どんな投資戦略でも成功できる可能性があるのかもしれませんが、大切なのは期待リターン(=リターン x 成功確率)の高い投資戦略を採用することです。たとえ高いリターン実績のある投資戦略でも、それが少数の人に限定されていては、期待リターンとしては見劣りします。

多くの投資家が長期的に高いリターンを出してきた投資戦略という点から、バリュー投資をお薦めします。

バリュー投資とは何か?

バリュー投資は、Benjamin GrahamとDavid Doddが1928年に米国コロンビア大学で教え始めた投資戦略です。バリュー投資の真髄は、投資対象の価値と、その価格の差で稼ぐという事に尽きます。言い換えれば、50円で売られている100円玉を探すのです。社会的には褒められた行動ではないのかもしれませんが、実践できれば大儲けできそうです。

そんな美味しい話は有り得ないと思うかもしれません。主流派経済学の効率市場仮説は、市場価格にはすべての情報が織り込まれているので、価格は常に正しい価値を表していると教えます。効率市場仮説の世界では、誰も日経平均やTOPIXの市場インデックスには勝てません。

一方のバリュー投資は、市場は概ね効率的で市場価格はだいたい正しいが、時として大きく間違えるという考え方です。50円で売られている100円玉がそこらじゅうに転がっていることはありませんが、よくよく探せば見つかると思っているのがバリュー投資家で、絶対に見つからないと思っているのが効率市場仮説信者。そこには天と地ほどの違いがあります。

長期間市場平均を上回るリターンを記録した投資家の多くがバリュー投資を採用している。あなたはどうする?

最も著名なバリュー投資家であり、世界最高の投資家と名高いWarren Buffetが1984年に The Super Investors of Graham-and-Doddsville という記事を書きました。「長期に渡って市場平均を上回るリターンを記録した投資家の多くがバリュー投資を採用している」と指摘しています。統計的にもバリュー投資の投資戦略としての優位性が明らかなのに、バリュー投資を認めようとしない人たちがいる事は理解に苦しむ、とWarren Buffettは首を捻っています。

Buffettの記事に登場するバリュー投資家7人は、平均年率23.5%で16年複利運用。超過リターンは年率16%!

記事に出てくるバリュー投資家7人の運用実績は以下の通りです。青いセルが、運用期間です。

出典:The Superinvestors of Graham-and-Doddsville

平均年率23.5%で16年複利運用したことになります。同時期の市場リターンが年率7.5%だったことを考えると、年に16%も超過リターンを生み出しています。

年率16%の複利効果を噛み締める

年率16%と聞くと、大した差ではないような気がするかもしれません。確かに、日常生活ではより大きな割引を目にすることがあります。セールであれば30%OFF、スーパーでは売れ残り惣菜が50%OFFは当たり前です。では、100円を16年間複利で年率23.5%と年率7.5%で運用するとどうなるでしょうか?

出典:Nagatomo Investments

元手100万のバリュー投資に週末の1日を使っても、16年間で年収800万円の価値がある

バリュー投資家が100円を2900円に増やした一方、市場平均では300円にしかなりません。元手100万から始めると、2900万円と300万円と2600万円の差が出ます。16年で2600万円の差が付く(その後、差はさらに広がっていく)のであれば、2600万 / 16年 = 160万円。バリュー投資のために週末の1日を使ったとして、160万 x 5日/1日 = 週5日勤務の年収換算で800万になります。

元手500万、年率10%(市場は6%)で20年複利運用した超過リターンは年収400万円以上

年率23.5%は著名バリュー投資家の残した数字であり、自分に当てはめるのは非現実的だと思った方もいると思います。そこで、複数のシナリオを比べてみました。投資期間を20年、市場平均リターンが6%(2016年11月現在のTOPIXの平均PERは17倍なので、逆数(=1/17)が期待リターン)と仮定します。

バリュー投資で年率10%を稼いだとするとリターンは3364万円となり、市場平均に投資した場合との差額は1760万円です。これを20年で割ると、1年あたりの超過リターンは年88万円。週1日を投資調査に使った場合の年収換算は440万円です。500万円を投資して年収換算で440万円を生み出せる仕事は、なかなかないと思います。

出典:Nagatomo Investments

 次の表は、様々な元手とバリュー投資リターンについて、超過リターンと、バリュー投資に週1日を使った場合の年収換算です。あなたは、どの升目を目指すしますか?

出典:Nagatomo Investments

まとめ

私は長期的に高い利回りで複利効果を出し、経済的に豊かな人生を送りたいです。年数ごとに差が開いていく複利効果を理解しているので、30代の今から時間を使って努力する覚悟があります。

どの投資戦略でも成功者がいるのは確かですが、成功確率の高さではバリュー投資が群を抜いていると感じます。さらには、Benjamin Graham、Warren Buffett、Charlie Munger、Mohnish Pabrai、Guy Spierなど、ノウハウ提供をためらわない素晴らしい先達に恵まれています。

インデックス投資のリターンでは満足できないという方には、バリュー投資に興味を持って欲しいです。Nagatomo Investmentsでは長期的に高い利回りで複利運用するために必要な情報提供でサポートさせて頂きます。一緒に頑張りましょう。

大勢の投資家が短期志向だからこそ、逆に長期志向を目指す

他人と同じことをして、違う結果を期待するのは無理筋

Nagatomo Investmentsは、『年率26%で30年複利運用して資産を1000倍にする』ための情報提供を行っています。伝説的なファンドマネージャーであるJohn Templetonが言ったように、大多数の人々と違うことをしなければ、高いパフォーマンスをあげることはできないのです。

大勢の行動パターンを知ろう

日本の機関投資家の多くはトレンド追っかけ型、保有期間は数か月

みさき投資株式会社の資料によると、日本の機関投資家の60%以上がトレンド追っかけ型の投資スタイルで、その結果として投資期間も数か月と短いことが分かります。

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出典:みさき投資株式会社

日本の個人投資家の平均保有期間は約1年

日本の個人投資家は機関投資家より保有期間が長いようで、約1年です。

出典:日経新聞

時間軸を思いっきり伸ばす

5年先まで将来性を見通せる会社を探す

多くの投資家は先行き1年くらいを考えているとすれば、私たちはどのくらい先まで考えるべきでしょうか?2年先?3年先?圧倒的な差別化をするためには、最低でも5年先まで将来性を見通せる数少ない会社を見つけたいものです。

長期業績レポートを活用して事業を見る目線を伸ばす

普段の生活において、5年先をイメージするのは難しいことです。5年後の自分がどうなりたいのか明確なビジョンを持ち、そこから逆算して日々を過ごしている人が少ないからです。

メニュー > 分析ツール > 長期業績レポートに15年分の企業業績を載せました。色々な会社の長期業績を眺めていると、次第に長い時間軸で考えられるようになります。長期的に株価が上がる会社と上がらない会社の違いは何だろう?短期的な株価変動を超えた、より本質的な構造要因を考えていきましょう。

まとめ

株式市場において、参加者の大多数と同じ投資行動をしながら平均リターンを上回ることはできません。市場平均リターンを上回ることを目指すのであれば、投資戦略の差別化ポイントを明確にする必要があります。

短期的な投資家が多い日本市場において、長期的視野を持つのは一つの差別化戦略になると思います。日本には、アメリカのValue Lineレポートのように長期業績をまとめた資料がないのが現状ですので、ぜひ15年業績をまとめた、Nagatomo Investmentsの長期業績レポートを活用してください。

長期業績レポートの提供をはじめました

分析ツール > 長期業績推移レポートの提供をはじめました

『何年分の業績を調べればいいのか?』という記事では、入手しやすい2005年度までの有価証券報告書を元に、過去15年分の業績推移を確認することをお薦めしました。慣れてくれば1社10分で完成できますが、みなさまの一助になればと、長期業績レポートの提供をはじめました。企業調査のお役に立てて頂ければ嬉しいです。

ホームページ上部のメニューから、分析ツール > 長期業績レポート と進んでください。日経225採用銘柄からレポートを作成していきます。追加して欲しい情報などコメントを頂けると有り難いです。よろしくお願いします。

長期業績レポートの見方(例:トヨタ自動車)

出典:Nagatomo Investments

まず決算期、経営陣、会計基準をのせました。次に、PLを中心に決算実績をまとめました。さらに、実効株式数(発行済み株式数 – 自己株式数)からEPS(一株利益)、バリュエーション(PER, POCF=営業CF倍率)、配当額をのせました。

一番下に、投資家として一番興味のある投資リターンを、配当再投資あり・なしの2パターンで計算しました。例えば2002年3月末にトヨタ自動車株を購入した場合、2016年3月末に約2倍(14年複利で年率5%少々)になったことが分かります。

投資リターンを要素分解して理解を深めましょう

右の14yr複利という項目ではリターンを要素分解しています。

リターンを要素分解すると、トヨタ自動車は年率11%でEPSを成長させたことが分かります。15兆円という売上規模からでも年率10%以上でEPS成長したという結果は、素晴らしいと思います。さすがはトヨタのオペレーション力です。しかし、PERが21xから8xまで切り下がったことから、投資リターンとしては年率5%と見劣りします。

要素分解から投資のポイントが見えてきます

今後の投資リターンを考える際には、(1)売上、(2)利益率、(3)バリュエーションの見通しがポイントになります。

(1)トヨタ自動車は世界最大の自動車会社になったが、どれくらいの売上成長が見込めるのか(全世界需要 x シェア)?

(2)過去最高の利益率にあるが、この水準を維持できるのか(電気自動車など商品ミックスの影響は)?

(3)バリュエーションは過去最低水準にあるが、本質価値に対して十分に低いか?

Value Line社の長期業績推移レポートを目指しています

アメリカではValue Line社が上場企業各社の長期業績レポートを提供しています。下が、Value Line社の参考レポートです。Johnson&Johnson社の過去16年分の業績推移や経営指標が網羅されていて、これ1枚を見れば企業の概要が分かるようになっています。

出典:Value Line

まとめ

日本では、アメリカのValue Lineレポートのように、会社の長期業績の推移を手軽にみる方法がありません。投資調査の参考にして頂ければ嬉しいです。よりよい資料にしていくためにコメント、アドバイスをお願いします。

ROAでみた富士フイルムの多角化戦略は失敗

前回の投稿では、富士フィルムによる和光純薬の買収ニュースを元に過去15年業績サマリーを振り返り、富士フィルムの資本配分が効率的ではないと指摘しました。

読者の方から、「富士フィルムは主力の写真フィルム需要がデジタルカメラに置き換わる中、大胆な業態転換により生き残った成功例なのではないか?」という質問を頂きました。こうした質問は、より深く考えるきっかけになります。ありがとうございます。

写真フィルムの市場は10年で1/10。富士フィルムの売上は横ばい

2000年度、写真フィルムの売上は全社の20%を占めていたそうです。撮った写真をプリントするための現像液や印画紙を含めると、全社売上の54%、営業利益の70%を占めました(出典:Business Journal)。その後10年間で写真フィルムの世界総需要は約1/10に激減します。

出典:富士フィルムプレゼン資料

売上高やEPSの推移をみると、2002年3月の富士ゼロックス連結子会社化による売上増加を除いては横ばいを維持しています。写真フィルム事業の衰退を考えれば、十分に健闘したと評価すべきなのでしょうか?

出典:有価証券報告書

富士フィルムの多角化に対しては、高い評価がほとんど

Googleで「富士フィルム 成功」、「富士フィルム 失敗」と検索すると、成功事例として取り上げる記事ばかりみつかります。「コダックの失敗、富士フィルムの成功」という構図で語られることがほとんどです。

以下、象徴的だった記事へのリンクです。
・東洋経済オンライン:『富士フィルムはなぜ大改革に成功したのか』 (2013年11月)
・ハーバードビジネススクール出版:『富士フィルム:第二の創業』(2007年3月)

称賛の声ばかりだと、天邪鬼な私は生理的に違和感をもちます。2000年から富士フィルムを率いる古森社長・会長はそれほど完璧な経営をしたのでしょうか?

ROAという尺度で各事業をはかると、多角化は失敗している

富士フィルムは、(1)イメージング、(2)インフォメーション、(3)ドキュメントという3事業を展開しています。各事業をROA(総資産利益率)という尺度ではかってみます。

ROAは、稼ぐためにどれだけの資金を使っているかを表しています。例えば、「事業で1億円稼いた」という人がいたとします。知りたいのは、「1億円稼ぐためにいくら使ったの?」という事です。仮にAさんは100億円で工場を建て、1億円を稼ぎました。Bさんは10億円で飲食店チェーンを作り、1億円を稼ぎました。利益は同じですが、AさんのROAは1%(=1/100)、Bさんは10%(=1/10)です。資本配分という観点からは、Bさんがはるかに効率のよい事業経営をしています。

(1)イメージング事業

出典:富士フィルムプレゼン資料

フィルムやデジカメなど写真撮影に関する事業です。売上高は2001年度の約8000億から2015年度の約3500億円まで半減以上しました。2004年度から9期連続赤字を記録しながら撤退の意思決定は遅く、2013年になってコンパクトデジカメの開発を諦めましたが、まだ高価格帯の製品開発は続けています。高価格帯はキャノンやニコンに対してユーザー数、レンズのラインナップ、保守などの観点から勝ち目がないと思うのですが、やめられないようです。それでもROA10%台を回復しているので、事業の絞り込みによる一定の成果が出ていると評価できます。

出典:有価証券報告書

(2)インフォメーション事業

出典:富士フィルムプレゼン資料

多角化の目玉である、化粧品、医療機器、医薬品に関する事業です。売上高は2001年度の約7000億円から2015年度の約9500億円まで+40%成長しましたが、使っている資産は7000億円から1兆4500億円まで倍増しています。営業利益に至っては+14%しか増えていません。つまり、「2倍以上のお金を使いながら、14%しか利益が増やせていない」状況です。これはよい資本配分とは言えませんし、必然的にROAは低下しています。

出典:有価証券報告書

(3)ドキュメント事業

出典:富士フィルムプレゼン資料

ドキュメント事業は、業務用印刷を担っています。OA機器本体だけではなく、ソリューションとして提供するMPS(マネージド・プリント・サービス)で、富士ゼロックスは国内トップシェアです。オフィスで印刷する需要は景気変動の影響を受けにくく、リーマンショック後も売上は微減しただけです。印刷技術が確立している以上、新規参入障壁も高く、先行きが見通せる非常に強い事業です。大きな成長は見込めませんが、ROAは10%近辺で安定推移しています。

出典:有価証券報告書

主力はドキュメント事業。多角化しない方が資本効率は改善する。

3事業をROAの水準や安定性から判断される競争力で並べると、ドキュメント>イメージ>インフォメーション の順になります。「富士フィルム=多角化成功」という図式は誤解を生んでいます。

経営陣として私が考える最適解は、写真フィルムの衰退は受け入れて需要に合わせて供給能力を絞り、競争力のないデジカメには参入しない。写真フィルムで培った技術を活かして多角化展開したくなる「技術優位的衝動」を抑え、競争優位性が確立できていて先行きが見通せるドキュメント事業に投資するという地味なものです。

ドキュメント事業からのキャッシュフローを多角化に使わず、海外ドキュメント事業へ投資できた可能性は十分にあったように感じて残念です。富士フィルム=多角化成功という誤った評価が経営陣を縛り、多角化以外の選択肢をとれなくなっている可能性を懸念します。

まとめ

富士フィルムの多角化経営が成功したというような、広く受け入れられている評価についても、数字の裏付けを持って理解することが大切です。セグメント別ROAの推移を比較すると、インフォメーション事業への多角化投資する経営判断が、資本配分という観点から疑問であることが分かります。

富士フイルムによる和光純薬の買収

なぜいまさら総合メーカーを目指すのか?

関連】富士フィルム(4901)長期業績レポート
関連】武田薬品(4502)長期業績レポート

11月3日の日経新聞で、富士フィルム(4901)が武田薬品(4502)から和光純薬を2000億円規模で買収すると報じられました。11月4日の日経新聞には、富士フィルム古森会長の「医療の総合メーカーになりたい」というコメントがのっていましたが、いまさら総合メーカーを目指す姿勢に違和感を感じました。たとえば総合重電メーカーであれば、General Electricは1981年から2001年までにCEOを務めたJack Welchの元、選択と集中を進めます。30年以上前の話です。彼が残した格言の一つ:

『市場で4位か5位でいると、No.1がくしゃみをしただけで肺炎にかかってしまう。No.1なら、自分の命運をコントロールできる。第4 位グループの連中は合併に明け暮れ、苦しむ。第4位になると、事情が全く違ってしまうからだ。苦しむことが仕事になってしまう。だからこそ、より強大にな るための戦略的方法を見極めることが必要になる。世界でNo.1かNo.2でなければ再建か、売却か、閉鎖かのどれかだ。』(出典:名言DB

GEに遅れること30年、日立(6501)はリーマンショックを受けて2009年から2013年まで経営を担った川村氏が選択と集中に舵を切って結果を出します。一方では造船事業を諦めきれず、さらには飛行機を飛ばそうと多角化を進める三菱重工(7011)は業績悪化に苦しんでいます。このような歴史認識の中で、総合メーカーを目指す富士フィルムの戦略は時代錯誤に感じます。

古森会長の経営成績を評価する

富士フィルムの古森氏は、2000年から社長、2012年から会長として15年以上経営を主導しています。日経ビジネスに賢人の警鐘というコラムを連載する著名な経営者ですが、経営者としての成績はどうだったのでしょうか?まずは、15年業績サマリーを作成してみます。

2002年3月から2016年3月までの富士フィルム株リターンは年率1.7%しかなかった

富士フィルムのEPSは過去15年間、年率4%で成長しました。PERが26倍から17倍に切り下がる影響が年率-3.2%あり、富士フィルム株を2002年3月末に購入して2016年3月末まで14年間保有したときの配当再投資込みリターンは年率1.7%しかありません。事業構成の変化を細かく分析していませんが、魅力的な投資先でなかったことは確かです。競争力はあるが頭打ちの事務機(富士ゼロックス)とデジカメ事業からのキャッシュフローを、次の成長事業に有効利用することができなかったようです。

比較のため、事務機+デジカメという似た事業展開を行うキャノン(7751)の15年業績サマリーものせました。

(出典:有価証券報告書)
(出典:有価証券報告書)

資本配分成績が悪い経営者による買収に注意しよう

過去15年を見る限り、古森氏による資本配分の成績はいまいちです。そのような経営者が買収に踏み切る場合は注意が必要です。売上が伸びない現状を打破するために高値での買収を厭わない可能性が高いからです。これは、キャノンが2016年3月に東芝メディカルを7000億円、EV/EBITDA 20倍以上の高値で買収したことにも表れています(参考記事)。

まとめ

経営者にしかできない一番大事な仕事は、資本配分です。既存事業からのキャッシュフローの使い方は次の4つあります:(1)既存事業に投資、(2)新規事業に投資、(3)債務を削減する、(4)株主に還元する。100あるキャッシュフローを、この4つにそれぞれいくら振り向けるのか、というのが経営者にしかできず、一番考えるべき仕事です。

ところが、日本に限らず経営者の多くは事業部でオペレーションを回すことに長けた人たちが昇進してくるので、既存事業を成長させるという意識になりがちです。しかし既存事業に投資しても成長できない富士フィルムやキャノンのような状況になると、どうしてよいか分からず、自分の存在価値を正当化するために金で成長を買いたくなり、高値で買収をするという結果になりがちです。冷静に投資リターンを比べて、必要であれば撤退という判断をするのは、大組織であればあるほど難しいようです。

何年分の業績を調べればいいのか?

どんな企業かを知る上で、過去の業績を調べます。いったい何年分さかのぼって調べればいいのでしょうか?

35歳の転職者には15年超の経歴を求め、なぜ企業には長期経歴を求めないのか?

バリュー投資の基本は、将来のキャッシュフローの総和である企業の本質価値を算出することです。私は、将来は過去から続く流れの中にあるので、過去を良く理解することは将来の予測精度の向上につながると思っています。そこで、可能なかぎり長く過去の業績を調べるようにしています。

会社ではなく個人について調べると置き換えてみます。履歴書を読むとき、あなたは何年分の経歴を求めますか?過去5年で納得しますか?しませんよね?転職者であれば、高校からの学歴と職歴を求められます。つまり、私のように35歳であれば15年以上の人生について説明を求められるのです。では、大事な資金を預けようという企業について、同じような熱意で調べないのはどうしてでしょうか? 

ほとんどの企業は、長期的な業績を投資家が見やすい形で提示をしてくれません。企業に都合よく景気回復局面を切り取って、右肩上がりの綺麗な業績拡大トレンドを見せてきたりします。そこで、投資家自身が業績をつなぎ合わせて長期経歴を作る必要があります。

手軽に調べられる業績は過去15年分

主な業績データの入手先として、以下のものがあります。

(1)四季報(本): 過去3年分

紙ベースの四季報は安価で調べやすいですが、過去3年分の業績しか記載されていません。3年では景気サイクルを含んでいないため、企業の実力を測るには短すぎます。

(2)四季報(CD): 過去10年分

CDベースの四季報は定価7000円ほどしますが、手軽に10年の業績を調べることができます。景気サイクルを1回は含んでいるので、企業の景気敏感度を測ることができます。

(3)有価証券報告書: 過去15年分

一つの有価証券報告書の冒頭には、サマリーページとして過去5年分の財務データがのっています。株主プロという素晴らしい無料サイトでは、各企業の有価証券報告書を2005年度までさかのぼって入手することができます。現在であれば2015年度から2001年度まで、過去15年分の財務データを入手できます。15年あれば景気サイクルを約2回含んでいるので、業績下降局面での企業の対応がどう改善したかを含めて構造的な変化を伺い知ることができます。

(4)会社ホームページ: まちまち

より長期の業績を開示している素晴らしい企業もありますが、残念ながら少数です。

例:日産自動車の15年業績サマリー

私は、15年業績サマリーを作るところから企業分析を開始しています。10分で作れます。

日産自動車を例に見てみます。EPSや営業キャッシュフローが15年間で横ばいです。2002年3月末に日産に投資した場合、2016年3月末までのリターンは複利3%と寂しい結果です。カルロス・ゴーン社長の経営手腕は高く評価されがちですが、客観的には業績が伸び悩んでいるとみるのが自然です。今回の景気回復局面でも、2005年の業績を上回れていません。このような背景を理解した上で三菱自動車へ出資した理由を考えると、より深い理解につながります。

(出典:有価証券報告書)
(出典:有価証券報告書)

Charlie MungerはGeneral Motors社創業(1908年)以来全ての年次報告書を読んでいる

Mohnish Pabraiというバリュー投資家がカリフォルニア大学アーバイン校のビジネススクールで行った講演(YouTubeリンク参照)で、Warren BuffetのパートナーであるCharlie Mungerが、General Motors社が1908年に創業して以来すべての年次報告書を読んでいると語っています。Charlie Mungerは90代になっても、純粋な好奇心から100年以上の社史を紐解こうしているのです。これが、世界最高峰のバリュー投資家の行動パターンです。

 まとめ

長期的な業績推移に注意を払う投資家は少ないのが現実です。大事な資金を提供するというのに、簡単な調べものをしない投資家が多いことに驚きますが、そのぶん努力をいとわない投資家にはチャンスが広がっています。

毎月分配型投資信託に御用心

日本で運用残高の多い投資信託はインデックス型と毎月分配型

下の表は、10月31日にモーニングスターによる投資信託の純資産残高ランキングのトップ20です。緑色のインデックス型、オレンジ色の毎月分配型が占めていることが分かります。

毎月分配型投資信託とは何か?

毎月分配型投資信託とは文字通り、毎月分配金を支払うように設計された投資信託です。定期的な収入があるように見えるので、特にリタイヤした年金受給者の方に人気が高いようです。

投資信託純資産残高ランキング (出典:モーニングスター)

新光US-REITオープンの投資損益をシミュレーションしてみます

毎月分配型投信で最も人気のある(=一番純資産残高が大きい)、新光US-REITオープンの投資損益をシミュレーションしてみます。まず、ファンドの基礎データは以下の通りです。

(出典:モーニングスター)

2016年10月1日から償還日である2024年9月30日まで8年間投資すると仮定します。年間運用利回り6%、分配金利回り28%が続くと仮定すると以下のようになります。投資家には8年で累計8のリターン(年率1.0%)しか返ってきません。分配金として100のうち97が支払われて一見安定的な配当がなされているように見えますが、実は自分自身が投資した資金を分割して返してもらっているのが実態です。

投資家が全リスクを背負いながら、無リスクの国と運用会社がリターンの50%以上を獲得

投資家(税金)、運用会社(手数料)という3者の収入を比べてみると、22あるリターンのうち、国と運用会社が合計13とリターンの50%以上を獲得しています。投資家が全リスクを背負いながら、リスクを取らない国と運用会社がリターンの50%以上を獲得しているのです。これはひどい状況だと思います。

 

分配金をやめるとどうなる?

上と同じシナリオで比べてみると、投資家のリターンは年率1.0%から3.2%へ大幅に上昇。分配金でもらっていた金額が税前で複利効果で増やすことができることが大きいです。さらに、国(税金)のリターンも4→7、運用会社(手数料)のリターンも9→18へと増えます。なんと、分配金を止めると関係者全員の収入がアップするのです!

 

関係者全員が得をする分配金廃止をなぜできないのか?

分配金を廃止すると、関係者全員が得をすることから利害が一致しているように見えます。しかし、現実には毎月分配型投信に人気があるのはなぜなのでしょうか?それはおそらく、毎月分配型が人気があるからでしょう。長期的には投資家のリターンを悪化させるような設計になっている毎月分配型投信を、投資家自身が選んで買ってしまい、運用会社としては売れる商品を提供し続けてしまうのでしょう。

まとめ

みてきたように、毎月分配型投信は投資家のリターンを著しく低下させます。全リスクを背負いながら、国や運用会社に奉仕しようという精神を持っている方以外は、全く魅力のない商品です。残念なのは、金融商品の基本的なリターン構造を理解できず、『毎月お小遣いが手に入るような』目先の感覚で大切な自己資金の投資を決定してしまう、日本人個人投資家の金融知識の低さです。読者のみなさんは、大丈夫ですよね?

長期投資すればいいのか?

長期投資とは何か?

パッシブ投資全盛の今ではあまり聞かれなくなりましたが、長期投資という言葉が流行った時期があります。澤上篤人さんが1999年8月に立ち上げた『さわかみ投信』が積極的に発信していた、優良企業の株式を景気循環を超えて長期間にわたって保有すれば高リターンが得られるという投資哲学です。長期にわたって投資先企業を応援しようという、素晴らしい発想に思えますが、果たしてリターンは伴っていたのでしょうか?

長期投資を推奨する『さわかみ投信』の運用成績は? 

1999年からのリターンは年率4.2%。TOPIXの年率-0.5%を大幅に上回っている

長期投資を推奨する『さわかみ投信』の運用成績はどうだったのでしょうか?2016年10月26日の基準価格は20279円で、17.2年の投資リターンは年率4.2%でした。同期間のTOPIXリターンは、1500円から1383円で、年率-0.5%。配当再投資を含めるとリターンが1.5%改善して年率1.0%としても、さわかみ投信はTOPIXを大幅に上回る運用成績を残しています。

市場ベンチマークを長期間に渡って年率3%も上回ることはとても難しいことです。そのようなファンドはほとんどないはずです。さわかみ投信の発足期から投資していれば、日本株に投資しているファンドの運用成績として十分に納得できると思います。

さわかみ投信の基準価格
TOPIX

さわかみ投信の発足時からのリターンは、S&P500へのパッシブ投資とも遜色ない

パッシブ投資の代表格が米国S&P500です。同期間のS&Pリターンは円換算で年率2.8%。配当再投資でリターンが1.5%改善すると仮定して年率4.3%。さわかみ投信のリターンは、S&P500のパッシブ投資とも遜色ないリターンが出ています。

日本株アクティブ vs 米国株パッシブ

日本株へのパッシブ投資は厳しい

ここまで見て来たリターンの順位は、さわかみ投信=米国株パッシブ>日本株パッシブ です。まず、日本株へのパッシブ投資は避けた方が良さそうです。私が考えるその理由は、TOPIXに長期パッシブ投資をしたとしても競争力のない大企業が数多く含まれており、さらには市場の自浄作用が作用しにくいためリターンが出ません。

さわかみ投信より、米国株パッシブ

仮にさわかみ投信と米国株パッシブが同じリターンを出るとすれば、どちらに投資すべきでしょうか?私であれば、米国株パッシブを選びます。判断すべきは、さわかみ投信の運用能力と米国大企業の競争力のどちらが持続性があるかという点です。私は、米国大企業全体の競争力を選びます。

では、日本株への長期投資に可能性はないのでしょうか?

日本株のアクティブ投資で勝つにはどうすればいいのか?

さわかみ投信の保有株式は大企業中心

さわかみ投信の保有株式上位10社は以下の通りです。ある事業領域で世界的に高シェアを持つ競争力ある企業が並んでおり、長期投資を有言実行していると感じます。しかし、大企業に偏っているとも感じます。さわかみ投信の運用資産は2500億円あるので、ある銘柄を資産の2%買おうと思えば、購入金額は50億円になります。大量保有報告書提出基準以下の時価総額5%以下で50億円買おうと思うと、最低でも時価総額1000億円必要です。

さわかみ投信保有株式上位10社(2016年9月30日)

時価総額1000億以上は約700社に対して、1000億以下は約3000社

現在、時価総額1000億以上の企業は現在700社。1つの企業を資産の2%買うとすれば合計50社必要だから、1/14の確率で投資しなくてはいけません。逆に、時価総額1000億以下は3000社もあります。このうち10社投資すれば、1/300の確率でいい会社を探せばいいだけで、一気に投資機会が広がります。

中小型株への長期集中投資で個人投資家の特徴を最大限に活かす

個人投資家は運用資産が小さいので、時価総額の小さな流動性の低い企業にも投資できます。また、自己資金を運用しているので、短期的な株価変動が大きくても文句を言うお客さんはなく、厳選した企業への集中投資ができます。日本の中小型株への長期集中投資では、個人投資家の特徴が最大限に活かせるのです。

まとめ

時間のない個人投資家は、米国株パッシブ投資を

日本の優良大企業への長期投資は、さわかみ投信が実践してくれたように日本株パッシブ投資よりよい運用成績を残せるようです。しかし、日本企業の競争力や日本市場の自浄能力そのものが弱いため、米国株パッシブ投資と遜色ない運用成績となってしまい、それであれば私は米国株パッシブ投資を選びます。

時間をかけても高いリターンを目指す個人投資家は、日本株の優良中小企業への長期集中投資を

私が考える日本株投資の解決策は、優良中小型株への長期集中投資。そもそも良い企業は少ないので、投資対象の母集団を増やすか、投資する企業数を減らすしかありません。これは運用資産の小さい個人投資家の強みが生きる分野です。埋もれた宝石を探すために、頑張りましょう!

三井物産の自社株買い実績を評価する

2014年3月期に自社株買いして、2015年3月期に消却した。

三井物産の発行済株式数と、実効株式数(発行済株式数ー自己株式)の推移をみていくと、2014年3月期に3000万株以上(発行済株式の2%)の自社株買いを行い、2015年3月期に消却したことが分かります。

株価が高いときに株式発行して、株価が安いときに自社株買いしているのは◎

株価が高かった2006~2009に株式発行して、株価が安い2010~2013に買い戻すというのは理想的です。三井物産はこのケースに当てはまります。さすが、事業投資を生業としている企業です。

逆に悪いケースは、株価が高いときに自社株買いして、株価が安いときに株式発行することです。

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本業は2005年から売上が頭打ち

自社株買いタイミングが良さそうな三井物産ですが、本業は伸び悩んでいます。過去15年間の経営成績を見ると、2002年3月期から2006年3月期までは順調に売上、利益率ともに拡大したあと、2016年3月期までの10年間は売上、利益率ともに横ばいで推移しています。

2005~2007に株式発行したのも、買収による成長で借入金が増えすぎたことに起因していると想像します。おそらくオーガニック成長余地が乏しく、既存事業からのキャッシュフローで買収するか株主還元するかの選択を迫られているはずです。2013年は自社株買いによる還元を選んだものの、2015年は資源価格の下落もあり、本業の収益低下からキャッシュの確保に追われているようです。裏を返せば、買収先の株価も安いチャンスなのかもしれません。

まとめ

三井物産の株価が安いとき=資源価格が安いとき=買収先の価格も安いとき という関係が成り立つとすれば、私が三井物産に期待する経営戦略は、資源価格が高く業績が良いときにキャッシュを貯めて、資源価格が下がったときは自社株買いより買収に資金を使って成長を確保することです。オーガニック成長が乏しい企業が自社株買いに走ると、将来が先細りになってしまうような気がしてしまいます。

キャノンの自社株買い実績を評価する

自社株買い+企業名での検索トップはキャノン

Googleでは検索キーワードの人気を調べることができます。自社株買いと企業名を含む検索キーワードを探すと、次のような企業名が出てきました → キャノン、三井物産、ガンホー、みずほ、ユニ・チャーム、トヨタ、NTT、任天堂、ドコモ、三菱商事、野村證券。まず、キャノンから見ていきます。

キャノンの発行済株式数は2001年から減っていない

2001年まで遡って調べましたが、キャノンの発行済み株式数が減った年はありませんでした。むしろ、2002~2005年に微増しています。なぜキャノンが自社株買い検索のトップに出てくるのでしょうか。

キャノンは自社株買いしても、消却していない

発行済株式が減るには自己株式の消却が必要

発行済み株式数が減るためには、(1)自社株買い、(2)消却 という2ステップが必要です。発行済株式数の減少はこの2つが行われたことを示しています。

自社株買いはしたが消却しない場合、発行済み株式数は変わらず、自己株式が増えていきます。キャノンもこれに当てはまります。下のグラフは、キャノンの『実効株式数=発行済み株式数ー自己株式数』の推移です。2007年から積極的に自社株買いしているようすが分かります。

なぜ消却せずに自己株式で持つのか

自己株式とは、自分で自分を所有している不思議な状態です。なぜこんなことをするのでしょうか?会社側は、将来のM&Aに備えるなどともっともらしいことを言いますが、私は株主還元への意識が低いことの表れと捉えています。自己株式を保有する背景には、困ったときには自己株式を売ればいいという考えがあります。そして困ったときは、だいたい株価が低いときです。例えば、株価が3000円のときに自社株買いしたものを、株価2000円のときに売ると、株主還元が幻だったどころか、1株あたり1000円の損害を会社に与えます。以上の理由から、私は自社株買いするが消却しない会社に対して不信感を持たざるを得ません。

キャノンは自社株買いや増配以前の問題として、業績が伸び悩んでいる

キャノンの増配や自社株買いが注目されるようですが、過去15年間の根本的な問題は本業が伸び悩んでいることです。売上は年率2%しか伸びず、利益率も改善せずに結果として株価は2001年末の3000円から2015年末の3600円まで微増しただけです。株価と配当を合わせたリターンは年率3.5%という寂しい状況です。

まとめ

キャノンは積極的な株主還元によって株価を維持しようとしているようですが、それは新しい投資先がないことの表れでもあると思います。

経営者として著名な御手洗さんは1995年から社長、2006年から会長を勤めています。2015年の報酬は2.88億円だったそうですが、キャノンの長期的な業績を見る限り、御手洗さんにその価値があるとは思えません。