調査対象企業の探し方:スピンオフ

【注記】本投稿は、長友威倫が別のブログに書いた記事をアップデートしたものです。

スピンオフとは

スピンオフとは、ある企業から部門が切り離され、独立した企業となることです。切り離す理由は様々ですが、本業に集中するため、利益が出ないため、など。問題を抱えた事業であることも多いのですが、一方では本質価値との乖離が起きやすい構造的要因も抱えています。

企業Aが部門Bを企業Bとしてスピンオフすると仮定します。この場合、企業Aの株主には、新しく産まれた企業Bの株式が付与されることが多いです。しかし、機関投資家のなかには、企業Bの時価総額が小さすぎるなどの理由により、強制的に売却させられることがあります。この売り圧力によって、企業Bの本質価値に対して株価が安くなる可能性が高まります。

私は、スピンオフを理想的な起業形態だと感じます。サラリーマンの枠に収まりきらない人物が、親会社のサポートを受けて起業する。つまり、社長は組織内でも評価される人物だということです。さらに事業が軌道に乗ったところで、資本関係を超えてより広く取引したいと独立企業となる。顧客基盤もできていますし、あとはより大きな市場を狙うだけです。経営者にしても、今後は親会社の社内規定を超えて、成功しただけ自分にリターンがある訳ですから、モチベーションも高そうです。良いことづくめに思えます。

スピンオフ事例:富士電機 → 富士通 → ファナック

著名な例として、1923年に設立された富士電機の電話部所が分社化して、1935年に富士通となります。さらに、富士通の計算制御部から、1972年にファナックが子会社として独立します。

現在の時価総額は:

親:富士電機 (6504) 4500億円
子:富士通  (6702) 1兆5000億円
孫:ファナック(6954) 4兆1000億円

子が親を超え、孫が子を超える。このようなスピンオフの可能性に、常に目を光らせておきたいです。

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日本郵船、商船三井、川崎汽船のコンテナ船事業統合を長期業績から検証する

日本郵船、商船三井、川崎汽船のコンテナ船事業を統合した新会社が発足します

12月5日の日経新聞朝刊5面に、日本郵船、商船三井、川崎汽船のコンテナ船事業を統合した新会社発足についての記事がありました。ニュースはなかなか客観的事実を掲載してくれないので、自分で集めることになります。

過去10年でコンテナ船は7年以上赤字。不定期専用船の利益で穴埋めしてきた

有価証券報告書から各社のセグメント情報を調べると、定期船・コンテナ船事業は過去10年で7年以上赤字を計上していることが分かります。逆に、不定期専用船事業は過去10年で2年しか赤字がありません。リーマンショック前に運賃が高かった時代に大量発注された船舶が完成したことによって需給が崩れたことは確かですが、定期船と不定期船では崩れ方に差があるのです。

定期船・コンテナ船事業が儲からない理由

Wikipediaで、定義を確認しました。
定期船  = 一定の航路を、定期的に航行する船舶
不定期船 = 特定の航路を定めず、貨物の有無によりその都度運航される船舶

定期船は荷物の有無に関わらずに運行するので、需給に合わせて柔軟に供給量を調整できないことが想像できます。船舶は固定費ビジネスなので、空きスペースがあれば極端な話、どんなに安く受注しても収益貢献します。各社で価格競争を行った結果、全員がダメージを受けると言う典型的な囚人のジレンマ状態が発生しています。これを抜本的に解消するには、船舶を減らすしかありません。そんなこと百も承知でしょうが、自分の船を減らしたい船会社はありません。足並みが揃わないまま、ズルズルと低収益環境が続いてしまいます。

このような、どの会社に運んでもらっても変わらないようなコモディティーを提供している場合、苦しい時期を耐え忍んだ会社に残存者利益が与えられる体力勝負になるので、合併が起きやすいです。結果として世界上位のMaerskとMSCが15%程度のシェアを持っています。今回の合併でできる新会社は、7.5%程度のシェアでしょうか。単体よりはだいぶましですが、まだまだ体力勝負に自信が持てる規模ではありません。

世界のコンテナ船シェア 【出典】 https://youtu.be/EFgDc1fe8DI

不定期専用船の収益性も下がっているなか、定期船・コンテナ船切り離しは抜本的な解決にならない

不採算事業からの撤退が遅れると、敗走が続く悪循環に入ってしまう

ようやく定期船・コンテナ船の切り離しに合意できた3社ですが、ダラダラと不採算事業の切り離しを先送りにしてきたため、収益力の高かった不定期専用船事業の収益性まで下がってきてしまいました。世界全体での船舶供給過多が主因ですが、企業単位でも不採算事業の延命に資源を割いていると、ほかの事業の収益力を維持するための資源配分がおろさかになる悪循環も想像されます。

リーマンショック後、日立の経営危機に社長就任した川村さんの言葉を思い出さずにはいられません。

[aside type=”normal”]経営者の仕事は各事業の将来性を見極め、そろそろピークアウトすると分かった事業から早めに手を引くことだ。業績が悪化してからでは手遅れになる。 [/aside]

[aside type=”normal”]一度決めたら心を強く持ち、周囲がどう言おうと最後までやりきることが大切。 [/aside]

関連投稿】日立の経営危機に社長就任した川村さんが語る経営者の役割

不定期専用船事業でも同じことが起きると予想する

今後数年を見通すと、造船所の受注残は少なく船舶供給量も減ってきます。需給がバランスして海運運賃が改善すれば、コンテナ船事業切り離しで固定費が軽くなったこともあり、一時的に海運各社の業績は回復するかもしれません。しかし、構造的には不定期専用船も規模の経済が決め手となるビジネスです。次の運賃低下局面では、おそらくさらに市場の寡占化が進んでおり、また日本の各社は苦境に立つでしょう。そのときまでに、収益を支えられる事業を育てられるのでしょうか?

まとめ

事業が不採算化してからの撤退には、苦しみしかありません。それにしても、過去10年中のうち7年赤字でもコンテナ船事業を続けてしまう海運各社の経営陣は何を考えているんでしょうか?彼らは何を最大化しようとしているのでしょう?何にせよ、それが株主価値ではなさそうなので、私は彼らと同じ船に乗ることはできません。

今回のコンテナ船の切り離しは当然として、一歩踏み込んで、収益が低下しつつあるがまだ瀕死ではない不定期専用船事業も統合できたらインパクトがあったと思います。自らの社長任期の先を見通して経営判断する難しさを感じさせるニュースです。

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日経225の証券会社3社を比較して感じるオーナー意識の重要性

日経225に採用されている証券会社は、野村・大和・松井の3社

関連】長期業績レポート:大和証券(8601)
関連】長期業績レポート:野村HD(8604)
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インターネット証券の先駆け、松井証券をご存じですか?

日経225に採用されている証券会社は3社あり、野村ホールディングス・大和証券・松井証券です。野村証券と大和証券は町中にも支店がたくさんありますし、広告も目にすることも多いと思います。一方、松井証券の名前を耳にする機会は少ないのではないでしょうか?

1918年創業の松井証券は長らく一般的な中小証券会社でしたが、1995年に社長就任した松井道夫が周囲の反対を押し切り、インターネット証券に参入して大きく成長します。

インターネット証券には長期間トップを務める経営者が多い

証券会社の時価総額を見ると、野村・大和という2大証券会社以外に大きな店舗型証券会社はなく、ネット証券の中で松井証券はトップグループに位置していることが分かります。また、ネット証券は黎明期から長期間トップを務めている経営者が多いことも分かります。

社長の任期が長いことから個人資産に占める保有株式の割合も、ネット証券各社の方が高くなっています。特に松井証券は、配偶者と資産管理会社を含めると保有比率は50%に近く、時価総額にして1000億円以上になります。

野村・大和・松井の長期リターンを比べてみる

2016年3月までの14年投資リターンでは、松井証券が圧勝

3社に2002年3月末から2016年3月末まで14年間投資したとすると、以下のリターンになりました。

大和:年率 +1.3%(100円が120円になった) 
野村:年率 -6.9%(100円が37円になった)
松井:年率 +7.7%(100円が283円になった)

店舗型証券からネット証券への移行期ということもありますが、野村と松井のリターン差が大きくて驚きました。次に、個別要因を見ていきましょう。

松井証券の勝因 その1:リスク管理

売上を比べると、大和は4000億が6000億へ(年率+2.1%)、野村は1.1兆が1.7兆へ(年率+3.1%)、松井は130億が340億へ(年率+7.3%)と拡大します。仮に売上成長率の差は、経営努力ではなくネット証券成長期の追い風によるものだとしましょう。しかし、3社の長期リターンには売上成長以上の差以上の開きがあります。これはなぜでしょう?

手数料中心の証券会社のビジネスモデルにおいて景気循環の影響は避けられません。しかし、避けられないからこそ好況期にも準備を怠らないか、好況期にイケイケで投資してしまい、不況期に損失を出すかは経営者のリスク管理能力です。大和と野村がリーマンショック以降に赤字を計上したのに対して、松井は売上がピークから1/3になっても黒字を維持しています。従業員数の推移を比べると、松井証券は好況期の2002年3月から2008年3月にかけて正社員数を200人から100人へ約半減させて固定費を落としていることに驚きました。業容を拡大したくなりそうな時期に真逆の行動ができるところにリスク対応の高さを感じます。

松井証券の勝因 その2:資本配分

リーマンショック後に赤字に陥った大和と野村は、株価が安い状況で公募増資を余儀なくされます。一方でリスク管理に優れる松井証券は、株価が安い状況で自社株買いを行います。このように、リスク管理は当期利益に影響するだけでなく、キャッシュフローの有効利用によって株式数をコントロールしてさらにEPSを高めることにつながります。

大和証券

野村ホールディングス

松井証券

まとめ

日経225に含まれる証券3社を比べると、松井証券の優位性が際立ちます。ネット証券普及の追い風を除いたとしても、リスク管理能力と資本配分能力の高さは明らかです。特に、好況期に従業員数を半減させる経営判断はなかなかできるものではありません。

こうした経営判断の違いの原因が、オーナー意識にあると考えています。一族の資産1000億円を預かり20年以上の経営実績を持つ松井社長と、自己資金1億程度を投資して5年社長を務めるかどうかの野村、大和という大証券会社。今後10年間、3社の中から一つ証券会社パートナーを選ばなくてはいけないのであれば、私は間違いなく松井証券を選びます。みなさんはどうしますか?

関連】長期業績レポート:大和証券(8601)
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ラストマン意識で投資する

日立の経営危機に社長就任した川村さんが語るラストマン意識

関連投稿】日立の経営危機に社長就任した川村さんが語る経営者の役割

先日の投稿で、リーマンショック後に日立の構造改革にあたった川村さんを紹介しました。素晴らしい経営者だと感銘を受け、著書『ザ・ラストマン』を読みました。ラストマンとは、「最後に責任を取ろうとする意識のある人」のことです。本書のまえがきより、私の心に響いた言葉を抜粋しました。

[aside type=”normal”]若い方のなかには、自分一人が変わってもどうしようもない、と考える人もいるかもしれません。たしかに、大きな改革は、経営トップの意識が変わらなければ不可能です。それでも、一人ひとりが自分で責任を持つ意識を持たなければ、会社が変わるきっかけも生まれないのではないでしょうか。

ちょっと厳しく聞こえるかもしれませんが、会社内に”お仲間”をつくっていても意味がありません。たくさんの人と”話し合い”だけを続けても変化は起きません。外部環境に責任を押しつけても仕方ないでしょう。結局、自分がやるしかないなーそんな感覚で、しかし楽観的に、淡々と実行を続けることこそが重要です。[/aside]

ラストマン意識が持ちやすいことは投資の魅力

この本を読んで、私は自分がなぜ投資が好きなのかよりよく理解できました。それは、投資がラストマン意識を持ちやすい活動だからです。

投資家は運用判断を下し、運用成績という客観的な結果を受け取ります。そこに主観的評価の入る余地はありませんし、私のような個人投資家の立場では誰を責めることもできません。

「やる気」や「頑張り」は大切だと思いますが、やはり理にかなった投資戦略に従って正しい方向に努力しないと結果は出ないと思います。自分では頑張っているつもりでも、それが正しい方向に向かっているのか自信が持てないときがあります。投資においては、市場が客観的な答えを与えてくれます。年を重ね、なかなか他人が自分の改善点を指摘してくれないようになっても、市場はそんなことお構いなしです。お陰で投資家は、いつまでも謙虚に成長を続けることができます。

William Hurt 【出典】Capital Group Website

前職のキャピタル・グループで、William Hurtという80歳を超える投資家と仕事をする機会に恵まれました。60年以上の運用経験を有する方ですが、子供のように好奇心に満ちたキラキラとした目が印象に残っています。新人に対しても、「お前はどう思うんだ?」と常に学ぼう、対等に話を聞こうとする姿勢を尊敬しています。稀代の投資家、Warren Buffettは86歳になりましたが、「日々成長している」と語っています。自分もそのように歳をとりたいです。

謙虚に、しかし楽観的に、淡々と投資に励んでいきましょう。

Happy Investing!!

日立の経営危機に社長就任した川村さんが語る経営者の役割

日立の経営危機に社長就任した川村さんが語る経営者の役割

関連】日立製作所(6501)の長期業績レポート

11月27日の日経新聞に、日立製作所(6501)で2009年から社長を務めた川村隆さんの言葉が出ていました。

当時の日立は2009年3月に8000億円近い損失を計上したばかりで、株主資本は2.2兆円から1兆円まで半減していました。売上10兆円、連結従業員36万人という大企業の建て直しを託された川村さんの言葉を日経新聞より抜粋しました。

[aside type=”normal”]経営者の仕事は各事業の将来性を見極め、そろそろピークアウトすると分かった事業から早めに手を引くことだ。業績が悪化してからでは手遅れになる。 [/aside]

[aside type=”normal”]一度決めたら心を強く持ち、周囲がどう言おうと最後までやりきることが大切 [/aside]

川村さんは、経営者の仕事として、(1)資本配分の大切さと、(2)組織の習性に屈しないこと、を挙げています。これは、『年率21.6%の29年複利リターンを達成した8人の破天荒な経営者に共通すること』という記事で書いた7つの共通点の1番と5番と符号します。

(1)経営者の最も重要な仕事は資産配分
(2)長期的に重要なことは、全社的な成長や規模ではなく、一株あたりの価値
(3)長期的な価値を決めるのは、報告利益ではなくキャッシュフロー
(4)分権組織は起業家的エネルギーを放出し、コストと「怨念」を減らす
(5)長期的な成功には独自の考え方が不可欠で、外部からの助言は気が散るし時間の無駄
(6)最高の投資先が自社株のこともある
(7)買収においては忍耐が肝心だが、ときには大胆さも必要

ここで、ウォーレン・バフェットのコメントを追記しておきます。資本配分ができる経営者は希少なのです。私は、そんな経営者を見つけたら抱きしめて離さないようにしようと思っています。

[aside type=”normal”] 企業のトップの多くは、資本配分のスキルを持っていません。ただ、彼らの力不足は驚くことではないのです。社長になる人は、販売や製造や技術や管理など何らかの分野で優れていたり、なかには社内の駆け引きがうまかったりしたことでその地位まで上り詰めた人が多いからです。しかし、CEOになれば新しい任務として資本配分の決断を下す必要に迫られます。ところが、これは重要な仕事であるにもかかわらず、彼らの多くはまったく経験がないし、簡単に極められることでもありません。 [/aside]

日本の大企業では、合理的な指導者は経営危機にしか登場できないのか?

川村さんは社長を1年、会長を4年で退任してから、経団連の会長就任要請も固辞して財界活動とも縁を切っているそうです。投資家として長期的に高いリターンを達成するためには、資本配分を理解している合理的な経営者を見つけて長く伴走することが必要です。川村さんのような経営者には長く経営して頂きたいのですが、日本の大企業ではこうした合理的な指導者は経営危機にしか登場できないのでしょうか?

川村さん就任をめぐるニュースを読んでいると、変化を嫌う大企業の内部政治を制圧するために『高年齢、短期』という2つのキーワードが浮かんできます。経営者として成功をおさめているがために、世間や社内の評判を気にすることなく背水の陣に立つことのできる経営者が覚悟を見せることで、社内に変革への理解と諦めが広がったと想像します。

大企業の経営を評価するには10年単位の時間が必要

日立のような大企業は、巨大タンカーさがなら経営の舵を切っても進路が変わるまでに時間がかかります。そのような企業の経営を評価するには10年単位の時間が必要だと思います。川村さんは外科の立場で、悪い部位をバッサリ切り捨て企業の生命維持に努めました。日立の健康体を取り戻して、次の経営者にバトンを渡しました。2014年に就任した東原社長に期待されることは、長期的な競争力を維持拡大することです。

しかし、長期的な取り組みになればなるほど、変化を嫌う大企業の組織としての習性が働いてしまいます。結果として合理的な社員は排除され、社内政治に長けた者が昇進してきます。結局歴史は繰り返し、次の経営危機まで合理的な経営者が現れないことを心配してしまいます。

まとめ

日立の経営危機に社長就任した川村さんは(1)資本配分と(2)組織の習性に負けないという、経営者としての2つのキーポイントを理解していました。しかし、川村さんのような合理的な経営者が日本企業のトップになるためには、経営危機が必要で、かつ荒療治をするため短期の在任となってしまうことが残念です。平常時には幅を利かせてしまう組織の習性に打ち勝てる合理的な経営者に投資するためには、経営者自身がオーナーである、ソフトバンクの孫さんや、ファーストリテイリングの柳井さん、楽天の三木谷さんのような存在を探すしかないのかなと思います。

在任中の株価でみる日産ゴーン社長の経営成績は平均点

経営者の能力は、在任中の株価リターンで測ることができる

三菱自動車(7211)への出資というニュースもあり、日産(7201)ゴーン社長の名前を日経新聞でみかけることが多い気がします。先日の投稿で経営者の能力の測り方について書いたので、さっそくゴーン社長の経営成績を評価してみます。

関連投稿】年率21.6%の29年複利リターンを達成した8人の破天荒な経営者に共通すること
長期業績レポート】日産自動車(7201)

重複になりますが、『破天荒な経営者たちー8人の型破りなCEOが実現した桁外れの成功』によると、経営者の偉大さを評価するために必要な数字は三つしかありません。

(1)在任中の株価の年間リターン率(複利)
(2)同じ期間の同業者のリターン率(複利)
(3)幅広いマーケットのリターン率(複利)

もし経営者が同業他社とマーケットの両方を大きく上回るリターンを上げていれば、その人は「優れた」経営者と言えるのです。

ゴーン社長の在任期間は16.5年。現在の日系自動車7社の経営者では最も在任期間が長い

1954年生まれのゴーンさんは、2000年6月に46歳の若さで日産の社長に就任しました。それから16.5年が経ち、スズキの鈴木修さんが息子の俊宏さんに社長を譲ったため、日系自動車7社の経営者で最も在任期間が長くなりました。

下の表は、各社の経営者の変遷をまとめたものです。各社の経営者の平均在任期間が5年程度であることを考えると、ゴーンさんの在任期間は非常に長いと言えます。在任期間の長さと、ゴーン社長の経営者としての能力の高さには相関関係があるのでしょうか?在任中の株価リターンをみてみましょう。

ゴーン社長在任期間の株価リターンは年率3.8%。自動車7社の中では平均点。

ゴーン社長就任直前の2000年5月31日に日産の株を買ったとすると、(配当を除いて)2016年11月21日までに1.8倍になりました。年率3.8%です。

同期間の日系自動車7社の株価リターンは、富士重工の5.6倍から三菱自動車の0.1倍まで大きな幅があります。7社単純平均は2.1倍、富士重工と三菱自動車を除いた中央5社の平均は1.8倍です。つまり、ゴーン社長の経営成績は同業者の平均と言えそうです。経営者としては有名なゴーン社長ですが、株価リターンで評価する限り、経営手腕が特別に優れているとは言えません。

同期間のTOPIXは0.9倍ですから、日産はTOPIXを上回るリターンを達成していました。しかし、自動車業界全体がTOPIXを上回っていたわけですから、日産が特別というよりは、自動車産業にとってよい経営環境だったと評価すべきでしょう。

まとめ

世間的に名の知られた経営者はいますが、彼らの経営能力への客観的な評価を聞いたことはありません。スポーツ選手には世界○位、○連勝と数字での評価を浴びせるのですから、同じように経営者にも物差しを当てて欲しいものです。ニュースで、「日産のゴーン社長は在任16.5年になりますが、在任期間中の株価リターンは年率3.8%となかなか自動車業界平均を上回ることができないでいます」と紹介してくれると、経営者へのイメージも変わってくるのではないでしょうか。

同業他社や市場平均との株価リターン比較は、経営者の能力の客観的評価の一つとなります。世間的なイメージを引きずることなく、投資家目線で冷静に評価しましょう

Happy Investing!

長期的に高い運用実績を残している投資家の真似をしよう

長期的に高い運用実績を出している人がいたら、何を真似できるか考える

日経新聞に出ていた、5本のアクティブ型日本株投信

今朝の日経新聞19面に、過去10年のリターンが高かったアクティブ型日本株投信5本が掲載されていました。最もリターンが高かったのは大和住銀投信のJ-Stockアクティブ・オープンの年率10.04%。100円が10年後に260円に増えたことになります。TOPIX連動型投信の平均10年リターンが年率-0.6%であったことを考えると、超過リターンは年率10%以上と素晴らしい運用成績です。

【出典】日経新聞

成功には必ず要因がある。成功者の行動を観察して真似をすることで、成功を真似したい

私は、長期的に高い運用実績を出している人にまぐれはなく、必ず勝因があると考えています。大勢と同じことをしていては平凡な運用成績に終わります。高い運用実績を出している人の行動を観察して真似をすることで、彼らの成功を真似したいのです。

5つのファンドを比べて見える、2つの共通点

(1)少ない運用資産と(2)集中投資

 5つのファンドの月次運用報告書から特徴をまとめると、私には2つの共通点が見えました。

(共通点1)運用資産が小さい。JPMザ・ジャパンを除いて100億円以下。
(共通点2)自信のある銘柄に集中投資している。最も自信がある銘柄に資産の4~8%を投資する。

個人投資家の立場にあてはめる

個人投資家である自分の立場を振り返ると、(1)運用資産が小さいという項目は、残念ながらしばらくの間は満たし続けそうです。あとは、(2)自信のある投資機会に集中投資できるかどうかです。

私の過去の運用を振り返ると、魅力的な投資機会だと感じていながら少額しか投資していなかったので悔しい思いをしたことが何度もあります。その反省から、この半年はポジション取りや売買ルールの徹底をしています。その結果、今は銘柄につき最低でも資産の7%を投資することに決めています

まとめ

長期的に高い運用実績を残している人がいたら、その要因を分析することをお薦めします。そして、行動を真似できるところは取り入れて、結果も真似しちゃいましょう。

Happy Investing!

過去14年間投資すると100円が12円になったパイオニア(6773)が1990年から採用され続ける日経225にご用心

パイオニア(6773)はこれまで長期業績レポートを作った日経225銘柄の中で、ダントツに経営成績が悪い

日経平均株価にどんなイメージを持っていますか?

みなさんは日経平均株価についてどのようなイメージを持っているでしょうか?ニュースで毎日のように見聞きしているので、私は勝手に日経平均株価とは、日本を代表する企業225社を集めた日本経済の体温計のようなものかと思っていました。

長期業績レポートからは、日経平均採用銘柄すべてが日本を代表する企業だとは思えない

Nagatomo Investmentsでは、日経平均採用銘柄225社の長期業績レポートを作成中です(リンクはこちら)。今日は「電気機器」に分類される企業のレポートを作っていたのですが、パイオニア(6773)の長期業績を見たときに、この企業が日本を代表する225社であるはずがないと思ってしまいました。

パイオニア(6773)に2002年3月に100円投資したら、14年後の2016年3月に12円しか返ってこなかった・・・

1937年に初の国産ダイナミックスピーカーを開発したパイオニアは、1980年代にはオーディオブームを謳歌します。自宅に大きなコンポを持つことが憧れだった時代の話のようです。

我々の音楽の聴き方には、3つの大きな変化がありました。
①据え置き型から携帯型へ
②記憶媒体が実物(カセットやCD)からインターネットへ
③携帯電話と携帯音楽プレーヤー2台持ちから電話一体型へ

エポックメーキングな製品の発表時期を見てみましょう
1979 ソニー ウォークマン(変化①)
1984 ソニー ディスクマン(変化①)
2001 Apple iTunes、iPod(変化②)
2007 iPhone(変化③)

ソニーは②の変化に対応できずに苦しみますが、パイオニアはその前の①の変化に対応できませんでした。大きな業界変化に直面したときに、成功体験から抜け出すことは大変なのです。

パイオニアがオーディオ機器から多角化した先も、残念ながらテレビ事業など競争優位性を維持できる分野ではありませんでした。結果として、事業多角化+減損+株式発行と、株主価値を棄損する経営判断のオンパレードとなってしまいました。2002年3月と2016年3月を比べると、EPSは46円から2円へとなんと96%も減少しています。100円投資すると、配当再投資ベースで12円しか返ってきませんでした(年率-14.0%)。

日経225の決まり方

最初の225社が採用された根拠はない

日本経済新聞社は以下のようにコメントしています。たった60年前の経緯についても記録がないと堂々と認めていますが、新聞社としていかがなものかと思ってしまいます。社内の議事録とかないのでしょうか?

[aside type=”normal”] 60年以上も前(1950年)から日々算出されているため、当時の詳しい経緯は不明ですが、指標性を保つために、売買高の多い銘柄を全業種からバランスよく選んだところ、この銘柄数になったとされています。225という銘柄数に特別な意味づけはないと認識しています。【出典】よくあるご質問(日経平均株価について)
[/aside]

1991年までは能動的な銘柄入れ替えはなかった

1950年から1991年まで、銘柄の入れ替えは倒産や合併して消滅した場合以外には行われませんでした。1991年までの日経平均とは、スタート時の採用根拠が明確ですらない225銘柄を40年も単純平均し続けたものだったのです!40年もたてば、多くの業種で構造変化が起きます。ずいぶんと適当な話だなと思ってしまいました。

ちなみに1990年に三菱鉱業セメントが三菱金属と合併して三菱マテリアルになったことを受けて、パイオニアが採用されます。

現在の銘柄入れ替えには、「流動性」と「業種バランス」が加味されている

現在の日経225は、「企業消滅」に加えて「流動性」と「業種バランス」が考慮されているそうです。そして、毎年10月に入れ替えが行われます。2016年は日本曹達(4041)が外れ、楽天(4755)が採用されました。

まとめ

日常的に見聞きして、何やら権威を感じてしまう日経平均株価ですが、その採用銘柄には明確なルールはありません。明文化されたルールがないので、よほどでない限りは同じ銘柄を維持してしまうのが人情だと思います。

日経225銘柄の中には、とてつもなく時代遅れの銘柄が含まれている可能性があるので、注意してください!この事実を知ってしまった私としては、日経平均インデックスに勝つのは楽勝だなと感じてしまいました。

Happy Investing!!

 

 

年率21.6%の29年複利リターンを達成した8人の破天荒な経営者に共通すること

経営者の能力は、在任中の相対株価リターンで測ることができる

経営者の能力はどうすれば測れるでしょうか?経営者もプロスポーツ選手のように数量的な戦いをしているはずなのに、野球投手の防御率や、外科医の合併症発生率のようにパフォーマンスを測定する基準がないのが現状です。

『破天荒な経営者たちー8人の型破りなCEOが実現した桁外れの成功』によると、経営者の偉大さを評価するために必要な数字は三つしかありません。

(1)在任中の株価の年間リターン率(複利)
(2)同じ期間の同業者のリターン率(複利)
(3)幅広いマーケットのリターン率(複利)

もし経営者が同業他社とマーケットの両方を大きく上回るリターンを上げていれば、その人は「優れた」経営者と言えるのです。

年率21.6%の29年複利リターンを達成した8人の破天荒な経営者

出典:『破天荒な経営者たち』

本書に登場する8人の経営者を平均すると、年率21.6%の29年複利リターンを達成しています。1円が、29年後に290円になって返ってきたのです。彼らは、同業他社リターン(年率13.9%)や市場平均リターン(年率10.2%)を大幅に上回っています。

運用の世界では、長期間(10年以上)にわたって市場平均リターンを年率1%上回れば称賛を浴びます。例えば、私が以前勤めたキャピタル・グループの旗艦ファンドの一つ、EuroPacific Growth Fund(運用資産12兆円)は10年間でインデックスを年率1.2%上回っており、高い評価を受けています。それに比べてこの経営者たちは、同業他社リターンを年率8%上回り、さらに市場リターンを年率11%上回っているのです。まさに、規格外の結果を残しています。

出典:EuroPacific Growth Fund (American Funds)

破天荒な経営者の共通点

経営者として成功するために必要な二つのこと

(1)事業を効率的に運営すること
(2)そこで得た現金をうまく使うこと

ほとんどの経営者は(1)に力を注いでいますが、(2)についてはトップクラスのビジネススクールでさえ教えていないそうです。この状況を、ウォーレン・バフェットは以下のようにまとめています。

[aside type=”normal”] 企業のトップの多くは、資本配分のスキルを持っていません。ただ、彼らの力不足は驚くことではないのです。社長になる人は、販売や製造や技術や管理など何らかの分野で優れていたり、なかには社内の駆け引きがうまかったりしたことでその地位まで上り詰めた人が多いからです。しかし、CEOになれば新しい任務として資本配分の決断を下す必要に迫られます。ところが、これは重要な仕事であるにもかかわらず、彼らの多くはまったく経験がないし、簡単に極められることでもありません。 [/aside]

破天荒な経営者たちの共通点

(1)経営者の最も重要な仕事は資産配分
(2)長期的に重要なことは、全社的な成長や規模ではなく、一株あたりの価値
(3)長期的な価値を決めるのは、報告利益ではなくキャッシュフロー
(4)分権組織は起業家的エネルギーを放出し、コストと「怨念」を減らす
(5)長期的な成功には独自の考え方が不可欠で、外部からの助言は気が散るし時間の無駄
(6)最高の投資先が自社株のこともある
(7)買収においては忍耐が肝心だが、ときには大胆さも必要

まとめ

多くの経営者は事業を効率的に運営することに力を注いでいて、「過去最高売上」や「過去最高益」と誇らしく語る姿からも、会社規模の拡大が社会的地位や自己評価の向上につながると考えているようです。しかし、投資リターンの観点から大切なのは規模や成長ではなく、一株あたりの価値を長期的に上げてくれるかどうかです。

長期的なリターンの原動力は、強い事業 x 優れた資本配分 の両輪です。どちらが欠けていても、長期的に高いリターンは望めません。業績だけではなく、株価が安いときにタイミングよく自社株買いをしているか?企業買収に高いバリュエーションを払いすぎていないか?このような基本的な質問をすることで、経営者の資本配分能力を推察できます。長期間の業績推移を見るために、Nagatomo Investmentの長期業績レポートをご活用ください。

資本配分の優れている日本企業:第一興商(7458)

関連】第一興商(7458)長期業績レポート

最後に私が日本企業で特に資本配分が優れていると思っている第一興商(7458)を紹介します。通信カラオケDAMでトップシェアを持っており、潤沢なキャッシュフローがあります。資本配分として積極的な自社株買いを行っていますが、PERの高かった2005~2007年度は自社株買いを控えるなど規律が感じらる素晴らしい企業です。結果として、過去14年複利で年率20%以上のリターンを株主にもたらしています。

 

 

医薬品銘柄の長期リターンにみる、企業力リターンとバリュエーションのバランス

長期業績推移は企業の履歴書

関連】何年分の業績を調べればいいのか?

Nagatomo Investmentsでは、企業の長期業績推移を調べることを推奨しています。企業価値はこれから稼ぐ金額によって決まりますが、未来は過去とつながっています。

みなさんは、個人を評価するときに履歴書を読むと思います。素晴らしい経歴の方に今後も素晴らしい結果を期待するのは、私たちが暗黙のうちに、成功に慣性があることを知っているからです。

企業も同じです。素晴らしい企業が急に悪くなることも少ないですし、逆にいまいちな企業が急に良くなる確率も低いものです。長期業績推移を調べることで、景気変動の追い風や向かい風を超えた企業や経営者の力を測ることが大切だと考えます。

日経平均医薬品銘柄の長期業績レポートをまとめました

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関連】長期業績レポート(日経平均採用銘柄)

長期リターンが高いのは中外製薬。低いのは大日本住友製薬。

日経平均医薬品銘柄には8銘柄が採用されています。このうち、2005年9月に会社設立した第一三共(4568)を除き、7社について過去15年の長期業績レポートをまとめました。

過去14年投資して最もリターンが高かったのは、中外製薬(4519)で年率9.5%。逆に最もリターンが低かったのは、大日本住友製薬(4506)で年率1.6%でした。同時期の日経平均リターンは、値上がり3%+配当再投資2%=5%程度。みなさんの製薬企業のイメージと比べていかがでしょう?

株式の長期リターンには5つの構成要素があるが、企業がコントロールできるのは4つ。

株式の長期リターンは、次のように大きく5つの構成要素に分けられます。

企業がコントロールできるEPS成長と配当政策による企業力リターンに注目

このうち、PER倍率は市場で決まります。バブルで市場が熱狂すればするほどPER倍率は高くなります。逆に、市場が悲観的になればなるほどPER倍率は低くなります。これは企業がコントロールできるものではありません。そこで、PER変化を除外した、企業力リターンで順位付けしました。

すると、総合リターンでは5位に甘んじていた塩野義製薬(4507)がトップに出てきます。企業力リターンが高いのに、PERが82倍から26倍に切り下がってしまい、総合リターンを押し下げたことが分かります。

理想は企業力リターンの高い企業を低バリュエーションで買うこと

総合リターントップの中外製薬の勝因は、そこそこの企業力リターンに加えてPERが上昇したことです。逆に、塩野義製薬をみると、企業力リターンが高くても、高バリュエーションで買うと総合リターンが出ないことが分かります。

理想的には、企業リターンの高い企業を低バリュエーションで買いたいものです。そのためには、企業力リターンの高い企業に目をつけ、バリュエーションが安くなるまで待つことが必要です。Charlie Mungerが言うように、「売買によって稼ぐのではない。待つことによって稼ぐ」のです。