エンジェルジャパン・アセットマネジメント社のご紹介

2017年8月末の投資信託クローニングレポート

私は毎月末に、過去5年、10年間の運用成績が良かった投資信託の保有上位企業を観察しています。

【参考リンク】長期的に高い運用実績を残している投資信託の保有銘柄アップデート

実績を残してきた投資家の考えを知ることができ、なぜこの企業を買ったのかを考えることは勉強になると思います。ご参考までに、2017年8月末に作成した資料を添付しました。

【参考リンク】2017年8月の投資信託クローニングレポート

中小型株に特化した投資信託は足元絶好調

9月4日時点で、日経平均のリターンが年初来+2%に対してJASDAQのリターンは年初来+24%を超えています。日本の大型株に対して、中小型株の大幅なアウトパフォームが続いています。投資信託クローニングレポートを見ても、過去5年のリターンが年率+40%を超えるものも散見されるなど、絶好調以外の何物でもありません。ちなみに、100円の元本を年率+40%で5年間投資できたとすると、5倍以上に増えています。素晴らしい成績です。

景気後退局面を含めた過去10年のリターンに注目

しかし、より注目したいのが過去10年のリターンです。なぜなら、リーマンショックなど景気後退局面を含んでいるからです。投資家の中には、上げ相場に強い人もいれば、私のように保守的で下げ相場に強い人もいます。どちらに偏ってしまっても、景気サイクルを通して高いリターンを上げることは難しくなります。過去10年のリターンが高いということは、攻守のバランスのよい投資家ということができます。

私は、10年以上の長期に渡って高い複利運用を達成することを目指しています。私にとって参考にすべきは、こうした長期リターンの高い投資家です。

10年リターン首位は、SBI中小型割安成長株ファンドジェイリバイブ

モーニングスターで以下のようなスクリーニングを行いました。SBI中小型割安成長株ファンドが年率+16.41%でぶっちぎりのトップです。2位とは年率3%も開きがあります。年率3%というと大したことないような気がするかもしれませんが、投資の世界では気が遠くなるような差です。100円を投資したとすると、年率+16.41%であれば、10年後に457円。年率+13.65%であれば、10年後に359円に増えています。どちらも満足いく結果には違いありませんが、年率3%の差を積み重ねる大きさを実感してください。

首位の投資信託を運用しているのは、エンジェルジャパン・アセットマネジメント社

首位のファンドはSBIという名前がついていますが、私はかねがね、なぜSBI証券にこのような優秀な運用能力があるのだろうかと不思議に思ってきました。今回、このファンドはエンジェルジャパン・アセットマネジメント社の投資助言を受けていることを知りました。

エンジェルジャパン・アセットマネジメント社は1981年から未公開株、中小型株調査に従事している宇佐美さんが2002年に設立した会社です。1981年と言えば、私が生まれた年です。私の人生と同じだけの時間を株式調査に充てられてきた宇佐美さんの継続力に頭が下がります。これだけ長く中小型株をカバーしている方は日本にいないでしょうし、宇佐美さんも対談のなかで、現在の上場企業の半数以上をIPOから見てきたと語っています。日本電産の永守さんや、ソフトバンクの孫さんなど、今を輝くカリスマ投資家も、IPOの過程で宇佐美さんとお会いしているそうです。まるで日本の株式市場のゲートキーパーのような方です。

エンジェルジャパン社の投資チームは4名(2017年7月から5名になるそうです)。うち3名は、2002年の創業時から15年間一緒に投資を行ってきたチームということです。少数精鋭、高い人材定着率で高い運用成果を残している機関投資家が日本にもいたんですね。こうした大先輩の存在を知ることで勇気づけられますし、高い目標に向かってまた頑張っていこうと思いました。エンジェルジャパン社の皆さま、ありがとうございます。

【参考リンク】モーニングスター社と宇佐美社長の対談
【参考リンク】エンジェルジャパン社、2017年新年の挨拶

Happy Investing!!

金融資産の3分類

金融資産を3つに分類すると理解しやすい

ここ半年ほど、月1回投資セミナーを開催してきました。複利効果やiDeCo制度を利用した積立投資など、投資の基本を説明しています。セミナーで勘違いしている方が多いと感じたので、金融資産の3分類について書いてみます。

投資目的(将来より多くの購買力を獲得する目的)で購入する金融資産にはどのようなものがあるでしょうか?色々あると思うのですが、私は下のように分類すると理解しやすいと思っています。

タイプ1:国債、銀行預金、社債

タイプ2:金、原油、美術品、現金

タイプ3:株式、不動産、農地

3分類の特徴

私は、どんな金融商品であっても、即座に3分類に当てはめることができます。さて、どのような基準で分類されているのでしょうか?

答えは、キャッシュフローです。キャッシュフローを書いてみると、各分類の特徴がよく分かると思います。

タイプ1

5年10%という社債を100円購入した場合のキャッシュフローを考えてみましょう。まず、投資した時点では100円のアウトフローです。そして、毎年10円(100円 x 10%)の利息収入があります。5年目には、利息収入と元金合わせて110円が払い戻されます。下図のようになります。

タイプ1は、購入時点で将来のキャッシュフローが契約で決まっている金融商品になります。ただし、契約で決まっているからと言って、会社が倒産すれば融資は焦げ付きますし、必ず守られる訳ではありませんのでご注意ください。

タイプ2

金に5年間投資することを考えてみましょう。100円分の金を買ったとして、1年後に何か起こるでしょうか?ポイントはキャッシュフローについて考えることです。金は相変わらずピカピカしていますが、キャッシュフローはありません。2,3,4年後にもキャッシュフローはありません。そして5年経って売却するときに返ってくる金額は、そのときの金相場次第です。大きな値上がりも期待できる一方で、損失の可能性もあります。

タイプ2は、期中にキャッシュローが発生せず、売却時の価格も決まっていない金融商品です。

タイプ3

ある企業の株式に5年間投資することを考えてみましょう。一株100円で購入したとすると、キャッシュフローはどうなるでしょうか?株式は会社の一部なので、会社全体のキャッシュフローを考えてみましょう。事業内容によってキャッシュフローの発生タイミングは違いますが、例えば飲食業や小売りであれば、毎日のようにキャッシュフローが生まれます。一方、建築業界であれば、キャッシュフローの発生回数は少なく大きくなるでしょう。図にすると次のようになります。

タイプ3は、投資期間中にキャッシュフローはあるが、その発生タイミングや大小は分からない。また、売却金額も分からないという金融商品です。

長期投資に適した金融資産はどれか?

さて、上記の3分類のうち、長期投資に適したタイプはどれでしょうか?ちょっと考えてみてください。

(考え中)

(考え中)

(考え中)

セミナーで同じ質問をすると、多くの人が「タイプ1」と答えます。私もそう思っていましたし、日本では「お年玉は預金しなさい」と言われたように、タイプ1の金融商品が奨励されてきたように思います。投資時点で全てのキャッシュフローが確定しているので、安心感があるのでしょう。

しかし、例えば現在の日本では、10年国債の金利は0.05%を下回っています。10年間0.05%のリターンを確定させることが果たして良い投資行動なのでしょうか?私にはとてもそうは思えません。つまり、キャッシュフローが確定しているということは、確かに不確実性は減少しますが、同時に「低い」キャッシュフローもロックインしてしまう危険があるのです。

逆に、タイプ3はどうでしょうか?キャッシュフローも投資期間満了時の価格も分からないことから不確実性の塊です。しかし、果たしてそうでしょうか?日本のほとんどの人は、会社員であれ自営業であれタイプ3型のキャッシュフロー特性を持つ組織に属しています。そして、日々売上を上げ、コストを抑えることで利益を出すために頑張って仕事をしています。つまり、正確なキャッシュフローは確かに分からないのですが、上げようという自助努力があるのがタイプ3の金融商品です。私は、5年後のキャッシュフローが今よりも増えているであろう会社を選び出す自信がありますし、世界経済全体を考えたとしても、世界の企業全体が稼ぎ出すキャッシュフローが5年後に増えている可能性は高いと思っています。つまり、タイプ3の未来は不確実ですが、同時にアップサイドを得ることができるのです。

長期投資に適した金融資産の順番は、

タイプ3>タイプ1>タイプ2 となります。

アメリカの事例から

次のチャートは、アメリカの金融資産に長期投資(84年間)した場合のリターンです。大型株式は年率9.9%(インフレ調整後で6.9%)に対して、10年国債のリターンは年率5.5%(インフレ調整後で2.5%)に過ぎません。年率4.4%しか違わないのであれば、不確実性の少ない国債を選ぶと考える読者も多いかもしれません。確かに、1年などの短い投資期間でみればそれは正解かもしれません。しかし、数十年に渡って複利効果を続けると、大型株式であれば1ドルが3000ドルに増えたところが、長期国債では93ドルにしかなっていないという、30倍もの差がついてしまいます。これが複利効果の威力です。

Happy Investing!!

砂漠に咲く花を求めて

砂漠に咲く花を求めて

投資で稼ぐために必要なことは、「将来の価値 > 市場価格が織り込んでいる価値」 となることです。例えば、PER240倍以上で取引されているAmazonは、最低でも今後10年間は年率20%成長が続くという前提(1.20% ^ 10yr = 約6倍なので、10年後のPERが40倍に低下する) を織り込んだ市場価値になっていると感じます。

仮にAmazonが今後10年間、年率15%成長(約4倍)を達成した場合、普通の企業にとっては夢のような好成績でも、Amazon株の価値は下落する可能性が高いと思います。年率15%という現実が、年率20%という期待値を下回ってしまったからです。

期待値の低い業界を探そう

多くの投資家は、業界の期待値と企業の期待値を同じものとして捉えがちです。確かに、ここ数年の建築業界のように多くの企業が追い風の恩恵を受けている場合もあります。また、原油価格が値上がりすれば、電力会社はどこも燃料価格の高騰で苦しみます。

しかし、稀に見通しが悪いと一般的に思われている業界に勝ち組企業が現れることがあります。業界の見通しが悪い=企業への期待値も低い ことから、大きく儲けるチャンスになることがあります。私の前職キャピタル・グループには、この投資戦略の達人がいました。

事例1:ワインの栓に使うコルク業界が苦しんだ時期があります。原因は、オーストラリア産ワインなどが、プラスチック系やスクリューキャップを使い始めてコルク需要が減少>価格下落したためです。こうした事業環境で起こるのは、淘汰による寡占化です。結局、コルク栓を作っていたトップシェアの会社は、より大きなシェアを獲得し、結果的に価格決定力も強くなるというおまけまで付いてきました。コルク業界は全部ダメだ!と見境なく売られていく環境で、冷静に個別企業を見極められるかがポイントになりそうです。

事例2:アメリカの住宅と言えば絨毯が定番でしたが、いつしかフローリングが流行しました。すると、コルクと全く同じことが起きました。絨毯の需要が減少>価格下落によって、業界再編が起きたのです。こうなると体力勝負なので、たいていはトップシェア企業がより強くなって帰ってきます。

狙うべき業界のポイント

どんな業界でも苦しんでいればよいというわけではありません。特に望ましいのは、プレーヤーが多く寡占化が道半ばであることです。トップ企業が10%シェアであれば、将来的に25%になることで、市場縮小を跳ね返すイメージは持てます。しかし、既に50%以上のシェアを獲得している企業であれば、業界縮小の影響をシェアアップで挽回する余地は残されていません。

私は、このような業界を常に探していますので、見つけたらすぐにご連絡をお待ちしています。一緒に投資アイディアについて考えましょう。

Happy Investing!!

 

IRフェアのすゝめ

名証IRエキスポ2017に行ってきました

7月21、22日に、名証IRエキスポ2017が開催されました。私は7月22日(土)に行ってきました。旅費と時間を節約しようと夜行バスを利用した(3800円 vs 新幹線は金券ショップで11000円)のですが、名古屋は距離が近すぎて6時間も眠れない上、2回のサービスエリア休憩でも目が覚めてしまうので安眠の工夫が必要ですね。夜行バスには、4列シート、4列ゆったりシート、3列独立シートなど椅子の配置パターンがあります。今回はちょっとリッチな気分で4列ゆったりシートを選びましたが、やはり隣の人次第で眠りの質が変わります。次回は、安眠対策+3列独立シートしたいと思います。

そんなことより、IRエキスポの話でした。名古屋証券取引所には292社が上場していますが、そのうち95社もの企業がブースを出してくれていました。貴重な週末にありがとうございます。こうしたIRフェアは、社員の方々に直接話を聞くことのできる貴重な機会です。決算説明会や株主総会で登壇する社長や役員の方は、対外的に話をすることに慣れています。現実をよりよく見せる話術に長けていることが多いですし、社員を鼓舞するためには夢を語る能力は重要でしょう。しかし、投資家としての私は等身大の企業の姿を見たいと考えます。そのために一番良い方法は、会社訪問だと思います。例えば、みなさん他人の家に行くと感じる雰囲気があると思います。会社も同じようなもので、会社訪問を重ねると社風を肌で感じられるようになります。ただし、会社訪問は個人投資家の立場では難しいのが現状です(私が難しいと思い込んでいるだけかもしれません)。そこで、代案としてIRフェアをおすすめします。特に普段IRを担当していない社員の方は、よい意味で素朴に質問に答えてくれます。投資対象企業について、財務資料、経営者、社員、競合他社、サプライヤー、顧客、ニュース、書籍など、多面的な意見を集めることでより立体的な姿が浮かび上がってきます。何より、企業をより深く理解できたと感じるときは満足感があります。さらに、自分の理解が正しくその見通しに基づいて株式投資で稼げた時など、中毒的な嬉しさがあります。こうして株式投資ジャンキーになっていくのでしょう。

IRフェアに行ってみませんか

以下、1年を通した主なIRフェアです。是非、足を運んで投資対象企業の社員の方々に話を聞いてみてください。私にとっての株式投資は、株券という紙きれを売買するものではなく、株式会社という生き物を売買するものだと思っています。会社には、当たり前ですが生身の人間が働いています。どんな人が働いているのか?働いている人はどこに満足しているのか?どこに不満を感じているのか?興味を持つほどに会社のことが良く分かりますし、分かってくると楽しいですし、結果として運用成績も向上するのではないかと考えています。Happy Investing!!

2月 東証IRフェスタ

7月 名証IRエキスポ

8月 日経IRフェア

12月 野村IR資産運用フェア

株主総会雑感

株主総会が6月に集中する理由

上場企業への投資家にとって毎年5,6月は忙しいです。3月末決算の企業が多い日本では、本決算が5月に発表され、株主総会が6月に開催されるからです。株主総会は決算日から3ヵ月以内に開催することがルールなので、3月末決算→6月下旬の株主総会 となるのです。

2017年はこれまで3社の株主総会に出席

2017年は、今のところ12月決算の会社1社(総会は3月)と、3月決算の会社2社の計3社(総会は6月)の株主総会に出席しました。同じ株主総会と言っても企業によって違いがあり、定性評価のための貴重な情報源だと思っています。

① 日本管理センター@東京国際フォーラム

株主からの活発な質疑応答が印象的。10人以上質問していた。CFOの方は、「ここ数年は株価が伸び悩んでいるが、弊社の株主からは株価についての質問が一切出ないのでありがたい」とコメント。株主総会では、会社説明会で良く顔を見かける個人投資家の方も複数出席しており、事業内容をよく調べ理解している真面目な個人投資家が多い印象を受ける。総会後は立食形式で経営陣との懇親会。経営陣とはろくに話さず、食べ物にむらがる株主(主に高齢者)が多いのは残念だが、直接経営陣の方々とお話しする機会を作ってもらえるのは嬉しいし、オープンな社風を感じます。お土産はなし。

② トランコム@名古屋

ヤマトの業績下方修正からの値上げ要請など、ニュースの多い物流業界の企業。業績は伸び悩んでおり、心配する株主から活発な質問が出ると期待して名古屋まで出かけました。200人以上参加した総会でしたが、なんと質問は3回だけ。そのうち2回は私で、残り1回は、取締役の選任について「みなさんから一言づつ」という質問とは言えない内容。あまりに質問が出ないことに逆に自分が驚いてしまい、質問をしてはいけないかのような場の空気に負けて2回で質問を止めてしまったことが反省点でした。私が2回目に質問している最中には、おじいさん達が周りに聞こえるような声で私語を始める始末で、株主の質が低いと感じざるを得ません。なぜ質問もする気がない株主が大量に出席しているかと言うと、「お土産」がもらえるから。今年はバームクーヘン。多くの株主は、バームクーヘンをもらってさっさと家路に着きたいのでしょうか。それなら、お土産だけもらって参加せずに帰ればいいのに。私は、業績を上げて株価を上げることでリターンを得るという株式投資の王道に興味を持たない株主を集めてしまう、株主優待とお土産が大嫌いです。

③ エイジス@幕張

棚卸サービスを提供する会社。本社が幕張駅から遠い上に、ボロくてビックリしました。取引先だったスーパーが閉店したところを、居抜きで本社にしたとか。徹底したコスト意識を体感できます。そんな会社ですから、もちろん総会のお土産はなし。つまり総会に出席する株主は事業に興味がある人だけです。質問もまともな内容が6問ほどあったでしょうか。帰り道に20年以上も株式を保有しているという株主の方と長話できたことが嬉しかったです。会社の歴史を良く知る方で、勉強になりました。

まとめ

いかがでしょうか?たった3社の株主総会でも、これだけバラエティに富んでいます。是非、株主総会に足を運んでみてください。自分の五感を総動員して、社風や集まっている株主の様子を観察してください。そして、「この人たちと同じ船に乗り続けたいのか?」と自問自答してみてください。数字を超えて企業を生き物として感じられるようになるので、楽しいですよ。

Happy Investing!!

日経平均採用企業の長期業績から見えること

2002~2016年まで14年間の投資リターン

【参考ファイル】日経平均採用銘柄長期リターン

2016年11月に日経平均採用225社の長期業績レポートをまとめ始め、先週ようやく終了しました。225社の中には合併した企業もありますので、15年間の業績を比較できる企業は195社ありました。

例えば3月決算の会社であれば、2002年3月末に購入して2016年3月末まで14年間保有した場合(配当再投資)のリターン分布は以下の通りです。平均値は年率4.7%、中央値は年率4.8%でした。しかし、日経平均の同期間のリターンは年率3.0%と大きく劣後しています。これはどうしてでしょうか?

14年投資リターン(配当再投資)分布

理由の一つは、日経平均には配当が含まれていないこと。二つ目には、日経平均は構成銘柄の平均値ではなく、株価の絶対水準によって構成比重が決まっていることも関係しています。例えば、ユニクロを展開するファーストリテイリング(9983)の株価は36000円と絶対水準が高いため、225社の一つに過ぎないにも関わらず、日経平均における寄与度は8%以上もあります。逆に時価総額ではトップのトヨタ(7203)の寄与度は2%しかありません。

出典:PRESIDENT Online

投資リターントップは楽天だが、採用時期が遅すぎた

投資リターン上位と下位の10社をみてみましょう。1位は楽天で、14年間のリターンは21倍と素晴らしい数字です。しかし、日経平均に採用されたのは、高成長が終わった2016年になってからでした。日経平均に採用されるということは、大企業になったということです。しかし、残念ながら日経平均採用後も高成長を続けることができる企業はほんの一握りです。

楽天の株価(出典:kabutan.jp)

売上成長率は平均年間3.1%。今後はもっと下がるだろう。

次に、日経平均採用企業の長期売上成長率を見てみます。14年平均年率10%以上で売上を伸ばせた会社は8社しかなく、平均値は3.1%、中央値は2.5%です。GDP成長率は上回っていますが、これが大企業の実態です。今後は人口減少からますます需要が減少するでしょう。その中で、日経平均採用企業の売上成長率は1%台に低下すると考えるのが妥当ではないでしょうか。高い成長率を想定して企業へ投資する際には、根拠を確認する必要がありそうです。

成熟企業といえば株主還元するはずが・・・

成熟企業の売上成長率が低いのは仕方がないことです。業界内でカッコたる地位を築き、シェアも高いことから競争が限定的で潤沢なキャッシュフローを創出し、そのキャッシュフローを株主に還元してくれればいう事はありません。株主還元の手法と言えば、配当と自社株買いですが、現実はどうなっているのでしょうか?

下に株数の変化をグラフにしました。平均値が年率-1%ということは、年に1%づつ発行済み株式数が増えたということです。リーマンショックを挟み、安い株価を利用して自社株買いをしたいところでしたが、逆に本業が痛んでしまった企業が多く資本調達に追われてしまった様子がわかります。

まとめ:日本の大型株への投資は難しい

日経平均採用企業は、日本を代表する225社です。私であれば、こうした大企業は成熟企業なので高い成長率は求めません。代わりに、潤沢なキャッシュフローを元にした、株主還元に投資リターンの源泉を求めます。

しかし、長期業績レポートをまとめて改めて感じることは、株主還元が上手い会社は非常に少ないということです。日本の経営者の多くは叩き上げとして、社内で頭角を現して出世します。ある特定事業のオペレーションには精通しているかもしれませんが、経営者の最大の仕事は限りある資本をどのように分配するかということです。資本配分の訓練や経験のある経営者が日本には少ないため、株主還元の巧拙が投資リターンを決定付ける成熟局面での日本大型株リターンは低くなってしまうように感じます。

改めて日本の大型株への投資は難しいなと感じました。個人投資家の強みである資金量の小ささを活かすべく、時価総額の低い企業群の開拓を続けることになりそうです。

Happy Investing!!

長期業績レポート(東京電力、中部電力、関西電力、東京ガス、大阪ガス)

長期業績レポート

9501 東京電力
9502 中部電力
9503 関西電力
9531 東京ガス
9532 大阪ガス

日経225採用企業の長期業績レポート一覧

ひとくちメモ

2016年11月にはじめた日経225採用銘柄の長期業績レポートですが、いよいよ今回で最終回です。有終の美を飾ってくれるのは、毎日の生活でお世話になっている、電力とガス会社です。

日本では、電力会社10社が地域独占的に電力を供給するという、世界的にも珍しい(時代遅れな)仕組みを採用し続けています。現状を維持したい電力会社は「電力を安定的に供給するには現行の供給体制維持が不可欠」と当然に主張しますが、ヨーロッパなどでは国境を越えた電力取引も当たり前に行われている現実を見ると、電力会社の主張には首をかしげしまいます。

地域独占ということは電力会社同士は競争する必要がなく、横並びな発想になるのかなと想像します。ふと、東京電力、中部電力、関西電力の配当金額を比べてみると、各社とも年間60円配当を基本にしていることに気が付きました。まさか、配当水準まで横並びなのかと思い、電力会社全10社の配当金額の推移を調べてみて、驚きました。

上の表から分かるように、福島原発以前の日本の電力会社、本当に配当水準まで50円~60円で横並びだったのです!!!!東京電力は2007年3月期、2008年3月期に他社を一歩リードする70円配当、65円配当を行っていますが、「電力業界のリーダーは俺だぜ!」という井の中の蛙の叫びに聞こえます。日本に10社しかない狭い業界で、生活必需品を提供しながらお互い競争もしないというぬるま湯の中で、お互いに顔を見合わせながら配当水準まで一定にしていたことにはショックを受けました。一体何を目指して経営しているのか、理解に苦しみます。

2012年3月期以降は、配当水準にバラつきが出ています。安定配当を維持している3社(中国電力、北陸電力、沖縄電力)とその他です。他の先進国では当たり前の発送電の分離も2020年4月からようやく導入されます。電力会社の横並び体質がどこまで変わるのか、楽しみです。

Happy Investing!!

長期業績レポート(日本郵船、商船三井、川崎汽船)

長期業績レポート

9101 日本郵船
9104 商船三井
9107 川崎汽船

日経225採用企業の長期業績レポート一覧

ひとことメモ

【関連投稿】日本郵船、商船三井、川崎汽船のコンテナ船事業統合を長期業績から検証する

日本の大手海運3社を取り上げてみました。3社のうち、日本郵船と商船三井の株式を2002年3月末に購入して、2016年3月末まで14年間保有したとすると、配当も含めたトータル  リターンはマイナスという哀しい結果になりました。しかし、2007年には株価が2002年対比で3倍になったような局面もあったのです。

日本郵船(9101)の長期株価推移(kabutan.jpより)

海運業界は、一番好不況のサイクルの長い業種の一つです。海運の運賃は完全に需給バランスによって決まる世界です。コンテナをどの船会社で運ぼうが誰も気にしないので、海運会社の業績も完全に需給バランスによって決まります。需要は世界経済の伸びに合わせて一定の伸びがありますが、供給サイドは海運市況によって大きく上下動してきたのが、これまでの歴史です。(1)運賃が高くなると、船会社はこぞって造船所に発注します。(2)船はすぐに完成しないので、出来上がる3年後には供給過多により海運市況が反落して船会社は大赤字になるというのがお決まりのパターンです。(3)運賃が安くなれば新規造船はストップします。長い供給過多の時代です。(4)時間をかけて供給過多が解消されると、また海運市場が引き締まり、(1)に戻ります。

海運事業の問題は、この(1)から(4)の時間軸が極端に長いことです。山高ければ谷深しとはよく言ったもので、需給が締まったときに新規造船を発注しすぎてしまうのです。そして、業界全体で供給過多になり業界全体が苦しむという構造的な問題を抱えています。下のグラフから分かるように、海運市況の好不況は30年という非常に長いサイクルになっています。現在のは2008年から下降トレンドに入っていますが、歴史が繰り返すのであれば、2020年前には陰の極を迎えるかもしれません(前回の陰の極であった1987~90年+30年)。

 

海運市況は約30年周期で動いている(Clarkson Researchより)

海運、造船各社が苦しみ喘いでいる今、この業界に興味をもっている投資家は少ないと思います。こういうときこそチャンスであることが多いです。

Happy Investing!!

長期業績レポート(日通、ヤマト、ANA、三菱倉庫)

長期業績レポート

9062 日通
9064 ヤマトHD
9202 ANA
9301 三菱倉庫

日経225採用企業の長期業績レポート一覧

ひとくちメモ

日経225採用銘柄のうち、物流、空運、倉庫業に分類される4企業の長期業績レポートをまとめました。

各社とも、利益成長に苦しんでいる様子が伝わってきます。例えば日通とヤマトを比較すると、日通は売上成長を多少犠牲にしても利益率を上げてきた一方、ヤマトは売上成長を求めた結果として利益率が犠牲になってしまいました。

理想的な投資先は、売上が伸びることで数量効果が発現し、固定費の伸びを吸収して利益率も上がることです。この好循環に入ると、市場評価も高まるのでPERも高まります。つまり、売上成長率 < 利益成長率 < 株価上昇率 となるのです。こうなる条件の揃った企業を、前職の尊敬するファンドマネージャーは「天国への階段」と呼んでいました。

残念ながら汎用サービスを提供している物流各社は、売上を上げるためには利益が犠牲になり、利益を上げるためには売上が犠牲になるという環境から抜けられていません。つまりEPSが大きく成長することはなく、結果としてPERも切り下がってしまいました。

顧客が物流企業に求めていることは、荷物がA地点からB地点に無事に到着することです。運ぶ人が日通でも、ヤマトでも、佐川でも関係ありません。「これは大事な荷物だから、佐川ではなくヤマトで運ぼう」とは思わないはずです。このような競争優位性の低い事業に投資している限り、なかなか天国への階段を上ることはできなそうです。

Happy Investing!!

長期業績レポート(JR東日本、JR西日本、JR東海)

長期業績レポート

9020 JR東日本
9021 JR西日本
9022 JR東海

日経225採用企業の長期業績レポート一覧

ひとくちメモ

JR各社は、1987年に旧国鉄が旅客6社と貨物会社の計7社に分割されたことで誕生しました。7社のうち、上場しているのはJR東日本、JR西日本、JR東海、JR九州の4社です。JR九州は2016年にIPOしたばかりなので、今回は長期実績を見ることができる3社を取り上げました。株価については前回取り上げた私鉄各社と同様、売上の伸びが年率1%前後と限定的(安定的)な中、利益率の改善が運用成績に直結していることが分かります。

鉄道事業は安定した需要がありますし、新規参入もありません。結果としてキャッシュフローも安定しているので、キャッシュフローに基づいた企業価値評価を練習するには最適な企業です。

JR東日本を例にとってみました。

決算資料によると、JR東日本の2017年3月期の営業キャッシュフローは約6500億円で、維持更新投資は約3400億円でした。あなたがJR東日本の所有者であれば、線路や建物を補修して来年も問題なく使えるようにした状態で手元に残るお金が約3200億円あるということです。このお金はフリーキャッシュフローと呼ばれ、成長投資(設備投資、M&A)や借入金返済、株主還元(配当、自社株買い)の原資になります。

次に、フリーキャッシュフローを割引率で割ることで事業価値を求めます。JR東日本の株式はフリーキャッシュフローの安定性が高いので、毎年決まった利払いを受けることができる疑似債券として捉えることができます。あなたは、年率何パーセントのリターンが得られれば、JR東日本の株式を買うことができますか?私は、割引率8%を株式の基準値として考えています。その上で、事業の強みや成長余地を加味しています。JR東日本で言えば、参入障壁は恐ろしく高く、また代替商品の可能性も低いので、-1%とします。この辺りのさじ加減は、決まりがある訳ではありません。私が、色々と企業価値を評価してきた中で、感覚的に妥当だと思っている水準に過ぎません。割引率は8%-1% = 7%で割り引くと、事業価値は約4兆5000億円です。

事業価値+現預金ー借入金=企業価値となり、約2兆2000億円です。現在のJR東日本の時価総額は4兆3000億円なので、私の企業価値評価の約2倍の市場価値が付いています。私であれば、余裕で見送る投資案件です。

また、市場価格から逆算すれば、現在市場がJR東日本に求めている割引率が分かります。上の図のように、割引率を4.75%に設定すれば、現在の市場価値が説明できます。これは、今の価格でJR東日本の株式を買った時の期待リターンは4.75%になるということです。このリターンで納得できる投資家は購入すればいいし、私のようにより高いリターンを求めている投資家は、株価が値下がりして期待リターンが得られる水準まで値下がりすることを待つ必要があります。

本来は、まず期待リターンを決めないと、フリーキャッシュフローに対していくらまでなら支払えるかを決められないのです。あなたは株式投資からどれくらいのリターンを求めていますか?

Happy Investing!!