経営破綻前後の日本航空(JAL)の取締役会構成

フジテレビ問題を受け、実行力のある取締役会の変革について考えています。前回は2009年の大赤字から今日まで見事な復活を遂げた日立を取り上げました(リンク)。

過去20年の有名企業の破綻と復活と言えば、稲盛さんが尽力した、日本航空(JAL)を思い出します。2010年2月20日の上場廃止。2012年9月19日に再上場した前後の取締役会構成を比較してみました。

経営破綻前は、取締役21名のうち社外は約30%。再上場後は14名のうち社外が約40%。まだ過半数は社内出世組かつ全員日本人ということで、日立のように社内出身が25%、外国人40%の企業に比べれば独立性やガバナンスが弱いとは思いますが、改善はしています。特筆すべきは、取締役が全員入れ替わったことでしょう。比べて、フジメディアHDは、17名のうち会長、社長の2名しか退任を表明していません。後継社長は現在の取締役から。これでは、これまでの経営路線からの決別の表明にはならないと思うのです。Happy Investing!!

企業風土を変革できた日立製作所の取締役会構成

前回の投稿で、フジメディアHDの社内生え抜きとグループ企業が過半数を占める取締役構成を見て、会長と社長が辞めたくらいで企業風土が改善する可能性は低いと指摘しました(リンク)。

私が社会人になってから20年、企業風土の変革に成功した事例と聞かれたら、日立とJALと答えます。この2社の取締役構成の変遷を調べてみました。

今回は、日立です。2009年3月期、約8000億円の大赤字を出し、株主資本が2兆円から1兆円まで半減する危機に陥ります。2009年4月に社長が川村さんに交代。川村さんは当時取締役ではなく出世コースを外れていた方で、既存の生え抜き経営陣へ忖度しなくて良い立場にいました。比較すると、今回フジメディアHDの新社長となる清水さんは専務からの昇格ですから、既存経営陣路線が続きます。

取締役会の構成は以下の通りですが、2010年から激変しました。以前は過半数が日立社内+グループ企業出身者でしたが、今では社内+グループ企業はわずか25%。40%を外国人経営者が占め、彼らは日本の事情や阿吽の呼吸など全く関係なく発言してくれるでしょうから、日立の取締役会は、経営陣にとって緊張感のある場になっているだろうと想像できます。厳しい指摘もなく、シャンシャンと議案が通っていくとは思えません。取締役が株主価値の代弁者として機能するには、このような構成にする必要があると思います。

日立の復活の裏には、取締役会の構成もグローバルスタンダードに合わせて変化させてきたということが注目されて欲しいし、今回のフジメディアHDにも見習って欲しいです。海外の放送会社の経営者を取締役に入れるくらいの思い切った変化を見てみたいものです。

取締役は何を取り締まるのか?

フジテレビと中居さんの問題が大炎上して、昨日は午後4時から午前2時まで生中継で謝罪会見が行われていました。午後10時頃にテレビを付けたら、まだ続いていてビックリしました。いくら何でも、そんなに質問する内容がありますかね?

フジメディアHDの会長、社長の辞任が発表されましたが、そもそも取締役とは何をする人達なのでしょうか?日本においては、出世コースに勝利した先に「取締役」があるイメージなので、偉くなって社員を取り締まると思われている気がしますが、そもそもの目的は全く違います。取締役は、株主の代表として「経営陣を取り締まる」ことが仕事です。ですから、取締役は株主価値を代表する人たちで、取締役会が社長など経営陣を選び、報酬体系を決定して監視する役目を担っています。日本で良くある、サラリーマンが偉くなって取締役になるというのは、そもそもおかしな話なのです。サラリーマン社員は偉くなっても経営側の人ですから。

そんな成り立ちですから、日本の取締役会は株主ではなく経営陣側にいると勘違いしているケースが多いです。フジメディアHDの取締役会は、「経営陣を取り締まる」体制になっているのでしょうか?以下の表が2006年からの取締役構成です。例えば左端の2006年3月時点では、取締役の人数は24名。新卒入社から出世した人が16名(中途入社はゼロ)、株式持ち合いしているグループ企業で出世した人が6名、純粋に社外と言えるのはキッコーマンの茂木さんと東京電力の南さん2名だけです。直近の2024年3月は、社内出世組10名、グループ企業出世組3名、社外4名の計17名。この17名で多数決をしたら、株主ではなくフジテレビの経営陣よりの判断になると思うのが普通です。今回、社内出世組から2名(会長、社長)が退任しますが、社内出世組の専務が社長に昇格するわけですから、取締役の追加がなければ、合計15名(社内8名、グループ3名、社外4名)と引き続き多数決を取れば社内の論理が優先されてしまいます。こんな適当な対策で、「企業文化を刷新」なんて出来るわけがないでしょう。また、キッコーマンの茂木さんは2003年から現在まで、東京電力の南さんは2006年から2022年までと長期にわたって取締役を務めています。社外とは言え、20年もやっていたら親しくもなるでしょう。緊張感のある関係を維持するためにも社外取締役が過半数を占め、任期は4年くらいにするのが欧米のスタンダードです。問題は大きければ大きいほど、変わるチャンスです。長く続く日本的株式会社のずぶずぶな取締役会のガバガバなガバナンスという悪習から手を切って頂きたいです。Happy Investing!!