善 vs 欲

福井コンピューター創業者の著書

福井コンピューターという会社をご存知だろうか?建築CADや測量CADの国内トップシェアメーカーである。建築基準法や消防法など、ややこしい日本の法律に完璧に対応することで、AutoCADなど全世界で通用するソフトを作る海外大手に対して競争優位性を維持している、国内ガラパゴスのガリバー企業だ。

そんな福井コンピューターを1979年の創業から率いた小林眞さんの著書を拝読した。

善か欲か

著書の中で、優秀な営業マンが他社に転職してしまった話が出てくる。給料が理由だったそうだ。驚いた小林さんは、「それなりに」できる平均的な営業マンには業界平均に負けない給与を払って来たつもりだった。しかし、「ずば抜けて」できる営業マンに、「ずば抜けた」給与を支払ってこなかったことに気が付いた。

「ずば抜けて」できる営業マンに「ずば抜けた」報酬という正当な評価を与えずとも、愛社精神によって会社のために精一杯頑張ってくれるだろうという善意に頼った経営をしていたことに気が付いた。賞与の上限を排除したところ、「できる」営業マンほどやる気になり、いきなり粗利が10%も増えたそうだ。それまでは、どうせ上限があるからと、無意識のうちに力をセーブして仕事をしてきたということだろう。

この話を聞いてどう思うだろうか?お金で動機付けることは汚いことなのだろうか?しかし、人には様々な欲がある。例えば、多くの給与を稼いでカッコいい車を買いたいという欲求を持つ人もいる。多くの給与を稼いで、家族に経済的に豊かな生活を提供したいという欲求を持つ人もいる。逆に、お金に関係なく、好きなことをしたいという欲求を持つ人もいる。

私は、給与に差をつけない経営は、一見フェアなようで、稼ぎたいという欲求を持つ人にとっては全くフェアではないと思う。人材の流動性が低く転職が難しかったひと昔前の日本では、そうした人材も仕方なく社内に留まっていたのだろうが、今は違うのではないか。少子高齢化で需要に対して恒常的に人材が不足する環境下では、転職のチャンスが増えるだろう。従業員の善意に頼っていた企業からは優秀な人材が流出し、長期的には人材の多様性が奪われると予想する。

多く給料をもらうためには、事業でそれ以上に稼ぐことが必要なはずだ。企業の成長=企業価値の増加、を願う株主の立場からすれば、みなさんドンドン稼いで、ドンドン給与をもらってくださいというのが正直が気持ち。企業のインセンティブ設計に注目していきたい。

Happy Investing!!

オマハ詣で(その4)

UBERの便利さに驚いた

バークシャーの年次総会当日は、会場近くで駐車場を確保できる見通しが立ちません。そこで、人生初めてUBERを利用しました。早朝に捕まるのか、などの心配は全くの杞憂で、配車からものの5分で宿泊先の前に来てくれました。こちらの準備が間に合わないほどのスピードです。事前登録したクレジット決済のため、支払時間もなく到着してから時間ロスもありません。運転手と乗客が双方に評価する仕組みになっているため、運転手の方もとてもフレンドリーでした。

結局、年次総会当日だけでUBERを5回は利用しました。①配車までの時間を心配しなくて良い点、②あらかじめ価格が明らかになっている安心感、③タクシーより安いことが多い価格競争力 によって、既存のタクシーとはくらべものにならない付加価値を実感しました。UBERに慣れてしまうと、待ち時間に対するストレスや価格の不透明感から、タクシーは乗れなくなりますね。

2017年12月の東洋経済の記事によれば、77か国で1日1000万回利用されているとのことです。

日本のタクシー業界の現状

日本では、UBERを使うことはできません。タクシー業界の反対や、規制緩和が進まないことが背景にあるようです。しかし、アメリカで体感してからは、UBERを使わないことのデメリットばかり見えてしまいます。

下がり続けるタクシー需要

出典:http://www.taxi-japan.or.jp/pdf/toukei_chousa/eigyousyuunyuu_suii.pdf

UBER以前に、日本のタクシー需要は右肩下がりです。バブル期に30億人以上あった輸送人員は、15億人を下回っています。

なかなか減らないタクシー供給

出典:http://www.taxi-japan.or.jp/pdf/toukei_chousa/jigyousya_syaryou_suii29.pdf

不思議なことに、需要が半減したにも関わらず、日本のタクシー台数は25万台から23万台に10%程度減っただけです。タクシー業界は明かな供給過多であり、UBER以前に経営が厳しいことが想像できます。私が知る限り、日本のタクシーサービスは20年前から全く変わっていません。つまり、需要が長期間減り続けても新しいサービスを提供して付加価値を上げようとはせず、供給を減らすこともしなければ経営が苦しくなるのは当たり前でしょう。

このような統計を見ると、あまりタクシー業界に同情する気にはなれません。むしろ、現在の経営環境でも事業を続けられるということは、逆に言えば20年前は途方もなく儲かっていたと想像します。

ユーザーのコスト

デメリット① 待ち時間

仕事でタクシーに乗ろうと思っても、なかなか空車を拾えないことがあります。UBERであれば、配車を確認してから外に出るので、路肩での待ち時間はありません。ギリギリまで作業することが可能です。仮に15億人が路肩でタクシーを平均5分間待つとします。75億分=125万時間 です。タクシーは乗って急ぎたい人が多いですから、時給4000円換算で5000億円の経済コストが発生しています(比較のため、タクシー業界の総運賃収入は1.7兆円です)。

デメリット② 決済時間

仕事でタクシーに複数人で乗ると、1人が支払するのを、残り全員が待つという無駄な時間が発生します。スイカ支払で改善されたとは言え、事前登録クレジット決済してくれるUBERには遠く及びません。上記の例から、仮に支払に1分かかっているとすると、1000億円の経済コストと考えられます。

UBERやAirbnbを排除する国

今回のオマハ旅行では、UBERやAirbnbの恩恵をフルに受けることができました。Airbnbを通して普通の民家に泊まることができ、アメリカならではの広い庭を体験できるなど、ホテルにはない貴重な体験でした。バークシャー年次総会の時期はオマハ中のホテルの価格が高騰するわけですが、Airbnbを通して3人で2泊2万円という内容でした。1人1泊3000円。素晴らしいコストパフォーマンスです。

消費者として、選択肢が多いことは豊かさだと思います。ホテルに泊まりたい人は、少し高い料金を払って、良いサービスを受ければいいと思います。しかし、Airbnbのおかげでこれまでは考えられなかった宿泊体験ができるようになりました。UBERも同じです。行政認可されたタクシーに安心する人は、利用すればいいと思います。業界の都合を優先して一律に規制してしまう日本のやり方は、本当に残念です。あるサービスを利用するかどうかは、消費者が決めればいいことです。

Happy Investing!!

オマハ詣で(その3)

オマハは実店舗見学に最適な街

“20 minute city”と呼ばれるオマハは、市内のどこに移動するにも車で20分以内で行けます(空港を含む)。この利便性を利用して、実店舗見学を行いました。

・Walmart
・Home Depot
・Whole Foods
・Chipotle Mexican Grill
・Nebraska Furniture Mart
・Costco
・ショッピングモール

店舗を見ていると、自分の肌間隔がどのように経営指標に反映されているのか、財務状況が知りたくなります。

米国企業も調べるようになった

私はこれまで、バフェットの「理解できる企業に投資せよ」という教えを守ろうとするあまり、日本企業にばかり投資してきました。米国企業の年次報告書を真面目に読んだこともありませんでした。私が米国企業を調べたところで、競争優位性は全くないと感じていたからです。

それが、今回のオマハ詣でのおかげで変わりました。自分に競争優位性があるかどうか、調べることで稼げるチャンスが増えるかはさておき、まずはシンプルにもっと知りたいな、と思えるようになりました。私にとって最大の課題は、ゆっくりでもいいから一定の成長スピードを長期間持続させて、一つのことを続けることだと認識しています。その結果として、長期的な複利効果が発現します。しかし、あまりに稼ごうとする意識が強いと運用がつまらなくなる危険性を感じています。個人投資家で4年も経てば、日本のめぼしい企業については一通り調べています(正しくは、調べた気になっています)。そこで、海外企業の同業企業との比較など、新しい視点を取り入れていきたいと思えるようになりました。

米国企業のROEの高さに驚く

米国企業を調べてすぐに気付くのが、圧倒的なROEの高さです。日本企業のROEが低いと指摘されますが、その差は歴然としています。日本であれば、景気循環を通して継続的にROE10%を上回る企業は稀だと言ってよいと思いますが、米国ではそれがむしろ普通です。日本企業に慣れた目で米国企業を見ると、正直眩しすぎると感じるくらいです。逆に、米国を主力にしている運用者が日本企業を見ると、お眼鏡にかなう会社は少ないだろうと想像します。

日々お世話になっているIT業界の覇者のほとんど(マイクロソフト、アップル、グーグル、フェースブック、アマゾン)がアメリカ発である事実だけを見ても、米国企業を調べる価値があると思います。なぜ、米国企業は強いのか?日本企業とはどこが、どの程度違うのか?このような質問に答えられるようになると、より投資家として成長できると思います。

より広い視点を与えてくれたバークシャーハサウェイの株主総会に感謝で一杯です。また来年も参加したいです。

Happy Investing!!

オマハ詣で(その2)

いよいよ株主総会

5月5日、いよいよ株主総会当日です。CenturyLink Centerは7時開場ということで、6時に到着するように移動しました。既に写真のような長蛇の列・・・美しい朝焼けの中、待ちます。

この時点で良い席を取ることは諦め、2階席に陣取りました。8時半に会社説明動画が始まるまで入場者は増え続け、とうとうバフェットとチャーリーが座る台座の裏手2階まで満席になってしまいました。近隣のホテルにも特設会場が設けられているようで、完全に会場のキャパオーバーです。

8時半から会社説明ビデオが流れます。有名人が多数ボランティア出演している関係上、一般公開されていません。常連さん曰く、鉄板ネタが多いらしいですが、私は初見だったのでとにかく面白かったです。笑って笑って、バフェットさんのサービス精神を垣間見ることができました。その一部、コメディアンConan O’Brien氏による動画はyoutubeにありました。是非大笑いしてください。

9時から総会がスタート(動画はこちら)。バフェット氏による独壇場が始まります。そして話すこと、話すこと、、、、チャーリーも一応横にいるんですが、最初の10分間は一言もしゃべってないんじゃないでしょうか。ときどき口を開いては、皮肉っぽいユーモア満載のチャーリーでしたが、常連さん曰く、「今回のチャーリーはよくしゃべっていた!」そうです。

雑感

(1)まずバフェットとチャーリーの知力・体力に驚きました。昼食を挟んで6時間の質疑応答。何一つ書類を見ることなく、立て板に水のごとくあらゆる質問に答えていきます。私は時差ボケ+狭い椅子に座り、午後2時くらいに疲れ果てていましたが、お二人は全く変わる様子もなく続けていきます。御年87歳と94歳とは信じられません。現実離れしすぎています。こういう経営者に長期投資すると良いことがあるんだな、と納得できました。どんな分野でも、一流のものに触れることの大切さを再確認しました。数多くの企業の有価証券報告書や経営者に触れることで、少しづつ審美眼が磨かれていくと思いたい。私も少しでも近づけるように頑張ります。

(2)バフェットは中国で大変人気があるようで、チェリーコークの缶に似顔絵がのっているほど。その甲斐あってか、中国からの団体が数多く参加していました。質問者も、1/3は中国人だったのではないでしょうか。私は機関投資家時代から、中国は日本より資本主義が浸透していると感じていました。世界最大の共産主義国で、資本主義で最も成功した投資家が大人気とは、世の中面白いですね。

Influential investor Warren Buffett appears on cans of Cherry Coke in China in an image Coca-Cola promises is not an April Fool's prank.

Happy Investing!!

 

 

 

オマハ詣で(その1)

バークシャーの年次総会に参加しました

GW中の5月5日に行われた、バフェット氏率いるバークシャー・ハサウェイの年次総会に参加してきました。バフェット氏は私にとって憧れの存在で、参加したいなと思う事数年、ようやく思い切ることができました。日本の証券会社経由で購入しても参加資格が得られるのか、などと躊躇していたのですが、尾藤さんというフィナンシャル・アドバイザーの方が参加したという記事(こちら)を読んで踏ん切りがつきました。尾藤さん、背中を押して頂きありがとうございました。

日本の証券会社経由で株式を購入すると証券会社名義になるので、直接申込証は届きません。しかし、日本の証券会社が発行する残高証明書を持参すれば、現地で参加証を受け取ることができます。実際に参加してみると手続きは驚くほどスムーズでした。

バフェット氏のシンプル過ぎるライフスタイルに驚く

ネブラスカ州オマハはアメリカの真ん中の穀倉地帯にあります。ネブラスカ州は人口190万人ですが、東のはずれに位置するオマハ(45万人)と州都リンカーン(28万人)に人口の40%ほどが集中しています。この2大都市以外は広大な農業地帯です。実際にオマハから20分ほどドライブしただけでも、地平線が見えるほどでした。オマハには、大学、病院など文化的施設が集まっています。また、Costco、Walmart、Wholefoods、Home Depotなどなど、アメリカ中のチェーンストアがコンパクトに大集合していて、店舗見学には最適でした。「20 minute city」と言われてるそうで、市内のどこへ行っても20分かからないそうです。空港までも20分ということで、東京から比べると羨ましい生活です。オマハで育ったバフェット氏が、ワシントンDCやニューヨークの生活に馴染めずにオマハに戻った理由が少しだけ分かった気がしました。

バフェット氏のシンプルな生活については理解していたつもりですが、これほどまでとは驚きました。まず、1958年に購入した住宅に、60年経った今も住んでいます。本当に普通の家で、隣の人が日曜大工していました。ここに世界有数の大富豪が住んでいるとは絶対に思いません。さらに、自宅オフィスを卒業した1962年にKiewit Plazaに入居してから56年間経った今も、バークシャーの本社は同じ場所にあります。そして、驚くことに、自宅からオフィスまではFarnam Streetという道をまっすぐに運転するだけ。所要時間は5分です。バフェット氏は、この同じ5分通勤を50年以上も続けているのです。


(バフェット氏の自宅前にて)


(バフェット氏のオフィスビルにて。14階だそうです。最上階かもしれないので、眺望には少しだけお金をかけているのか?!)

イチロー選手は朝カレーや、球場入りから出番までの細かいルーチーンで知られていますが、バフェット氏は50年間以上もルーチーンを崩していないのです。「うまく行っているのであれば、変えるな」という言葉の通り、成功パターンを愚直に繰り返し、長期的に高い複利効果を実現することに成功しています。オマハという飾り気のない街の、変化の少ないシンプルな日々生活が、バフェットの成功の一助になっていると強く感じました。適切な環境を構築して、長期間そこに身を置くことの大切さを実感しました。

年次総会そのものも素晴らしいのですが、私にとっては、オマハという場所でのバフェット氏の日々の生活についてを垣間見れたことが一番の収穫でした。次回は、年次総会について書きます。

Happy Investing!!

運用形態と競争優位性

バフェットのファンド運用形態

世界で最も有名な投資家と言えば、おそらくウォーレン・バフェットでしょう。バフェットはバリュー投資という投資戦略で有名ですが、私はそれ以上に彼の運用形態に競争優位性があったのではないかと考えています。

バフェットは1956年(25歳)から1969年(38歳)まで、13年間に渡って投資ファンドを運用していました。個人投資家としては、運用資産が小さく、バフェットが人生最高のリターンを叩き出していた時期から学べることの方が、会社形態となったBerkshire Hathawayから学べることよりも多いと思っています。

バフェットのファンドには以下の特徴があったようです。
① アナリストがいない
② 成功報酬しか取らない
③ 投資先について話さない
④ 年に1回しか解約できない

① アナリストがいない

バフェットには、今も昔もアナリストがいません。”No part of the investment process should be outsourced(投資プロセスの一部を外注することはできない)”と語っています。「自分が理解できる事業に投資する」と言っているのに、アナリストが推奨するというだけで銘柄を購入する訳にはいきません。アナリストの持ってくるアイディアに対して来る日も来る日も「ダメ」と言い続けるのも精神的に負担がかかります。悪いなと思ってアナリストの推奨銘柄を購入してしまえば、投資スタイルが崩れます。結局、アナリストはいない方がいいという結論に落ち着いたようです。バフェットには、チャーリー・マンガ―という相棒がいます。しかし、マンガ―は自らも投資ファンドの経営に成功しており、あくまで相談相手という対等な立場のようです。

② 成功報酬しか受け取らない

大半の投資信託は、運用成果に関わらず固定手数料を取ります。大半のヘッジファンドは、固定手数料を取った上に成功報酬を取ります。しかし、バフェットのファンドは真逆で、固定手数料を取らなかったどころか、運用リターンが6%を超えた部分に対して25%の成功報酬を取りました。つまり、運用リターンが6%を下回れば、1円も受け取ることがありませんでした。「出資者が儲かってからしか、運用者はお金をもらうべきではない」という当たり前の思想が表現されています。バフェットのファンドは、アナリストもいないために、固定費が低く運営されていました。固定費が低いからこそ、安定収入を度外視した報酬体系を採用できるのでしょう。そして、他のファンドは真似することができないような報酬体系を提示することは、投資家集めにおける大きな競争優位性となったことは想像に難くありません。

③ 投資先について話さない

大半の投資信託は、月次報告書で上位10投資先を開示しています。しかし、バフェットが出資者に対して投資先を開示することはありませんでした。一つには、流動性の低い株式を買っているときに情報が漏れると、安い価格で買えなくなること。また、出資者に対して投資先を公開すると、仮に間違えていたときに、他人の目が気になってその事実を認められないという心理バイアスが働くことを避けるためです。

④ 年に1回しか解約できない

大半の投資信託は、毎日購入できるし、いつでも解約できます。便利なのですが、そのためにバックオフィスの人件費やシステム費用が発生してしまいます。アシスタントもいなかったバフェットは、年1回しか購入・解約できなくすることで、手間を省き、コストを低く維持して報酬体系面での競争優位性につなげることができました。また、運用資産規模が大きく増減することは、すなわち銘柄を売買する頻度が増えるので、取引コストも増大します。多くの投資信託にとって、毎日購入・解約できることはメリットなのでしょうか?

なかなか真似できない成功例

バフェットの成功例は、広く知れ渡っていながら、なかなか真似できることができません。多くの機関投資家は、6%を超えるリターンをコンスタントに出す自信がなかったり、何よりライセンス取得・維持コストを考えると固定費を低く抑えることが難しいでしょう。こうしてみると、バフェットの運用形態は機関投資家というより個人投資家に近いなと思います。

参考図書

   

Happy Investing!!

なぜROEが大切なのか?(その2)

ROEと適正価格

(関連)なぜROEが大切なのか?(その1)

企業(株式)への長期投資において一番大切な変数は、長期的なROEの水準です。高いROEを長期間に渡って維持できる企業ほど、複利エンジンをフル稼働させることができます。

A社(ROE8%)

A社は、2017年12月末の一株あたり株主資本(BPS)が100円だったとします。2017年12月末の株価は、1年先のEPS(2018年12月末のEPS)8円にPER15xを掛けた、一株120円でした。話を簡単にするために、税金や配当は考慮しないものとします。

この企業に9年間投資をして、2026年12月末になりました。株価は1年先EPS(2027年12月末のEPS)にPER15xを掛けた、240円に上昇しています。年率換算リターンは、ROEと同じく、8%です。

B社(ROE15%)

B社も2017年12月末のBPSが100円でしたが、A社と違い、ROE15%を達成し続けます。2017年12月末、2026年12月末のPERが両方とも15倍だったとすると、9年間投資した場合の年率リターンは年率15%となります。

2017年12月末の適正PERは?

もし、2017年12月末にA社、B社がともにPER15倍で取引されていれば、B社を購入した方が良いことは明白です。しかし、市場も企業の質の差を織り込みますので、B社が割高に取引されていることでしょう。では、どれくらい割高であれば許容範囲なのでしょう?

B社を2017年12月末PER26倍で購入したとしても、投資リターンは年率8.2%とA社をPER15倍で購入したときよりも高いリターンになります。

実際には、2026年12月末のB社のPERはA社よりも高く評価されているでしょう。仮にB社の売却時PERが20倍だったとすれば、購入時PERは35倍を支払っても、なおA社(購入時PER15倍、売却時PER15倍)よりもリターンが高いことになります。

長期投資になればなるほど、高いPERを支払える

私これまで、3年先の収益から企業価値算出してきたので、どんなに定性的に評価できる会社でも直近EPSベースでPER20~25倍が支払えるギリギリだなと思ってきました。しかし、10年先まで高ROEが維持されることを見通すことができる場合、PER30倍を超える価格でも十分にリターンが出る場合がありますし、バフェットなどはこのようなタイプの投資で大儲けしてきました(例:Coca-Cola)。

10年先を見て投資することが、どれほど希少なことなのでしょうか?一例ですが、2017年の東証1部上場銘柄の年間売買代金は680兆円でした。2017年の平均時価総額が600兆円なので、市場参加者の平均保有期間は約1年ということです。3年先を見て投資している市場参加者は5%程度でしょうか。5年先を見ていれば1%、10年先を見て投資している人は0.1%もいないと思います。遠くを見通すことができればできるほど、足元の価格変動に惑わされることなく、保有し続けることができます。

株価は、せいぜいこの先1年くらいの出来事しか織り込んでいません。短期的には先行投資で収益悪化するが、中長期的(3年先)の展望が明るいというケースなど、割安に評価してしまうことがあります。こうした近視眼的な株式市場の癖を利用して稼ぎたいものです。そして、間違っても自分が株式市場に釣られて近視眼的にならないようにと、言い聞かせています。

Happy Investing!!

なぜROEが大切なのか?(その1)

ろくすけさんのブログより

世の中には素晴らしい運用成績を残している個人投資家の方が多数います。私は、定期的に彼らのブログを訪問して勉強させてもらっています。そんな私が勝手に尊敬している個人投資家の一人に、ろくすけさんがいます。「私を形作る3冊」という3月5日のブログで、『バフェットの銘柄選択術』という本を紹介されていましたので、早速読んでみました。ろくすけさん、ありがとうございます。

長期投資に適するのは、持続的に高いROEを維持できる企業

バフェットの運用手法に対して、どのようなイメージをお持ちでしょうか?私であれば、バリュー投資、集中投資、競争優位性のある企業を探している、といったイメージです。それに対してこの本は、「なぜ、バフェットは競争優位性のある企業を探したのか?」という問いに応えてくれます。

会社の経営成績は、① ROEと② 配当性向の2つの変数のみで決まってしまいます。投資先として最高の企業は、ROEが高く、かつ配当性向の低い会社です。下図で考えてみましょう。A社は、1年目期初の一株あたり純資産(BPS)が100円です。ROE20%の経営を行った結果、一株あたり利益(EPS)は20円。成長余力が十分にあるA社は、配当を行うことなく、EPS全額を再投資に回します。その結果、2年目の期初BPSは120円に増え、またまたROE20%を達成して、EPSは24円にまで拡大します。配当を行わないことで、EPSがROEと同じ20%で成長していく様子が分かります。10年間でEPSは5倍に拡大しています。アマゾンやGoogleはこのパターンです。

次に、ROEも配当性向も高いB社を見てみます。既存事業の収益性は高いものの、再投資する余地が少ないので、EPSの80%を配当として払い出します。その結果、BPSとEPSは年率4%しか成長することができませんが、200円以上の配当を受け取ります。タバコ会社など優良高配当銘柄が、このパターンです。

最悪なのは、ROEが低く、かつ配当性向も低い企業です。投資家としては、資本効率の低い事業(ROEが低い事業)から資金を引き出し、資本効率の高い事業(ROEが高い事業)に投資したいところです。しかし、配当性向が低いと資本効率の低い事業に資金が滞留してしまうことになります。多くの日本企業が、これに当てはまると思います。

日本株と米国株の差はROE

参考までに実際の数字を調べてみると、2002年~2014年の日本企業の平均ROEは6.3%だったそうです。対する米国企業の平均ROEは13.4%。その差は歴然です。配当性向は、米国40%に対して、日本は30%となっています。

日本株に100円投資したら、10年後のPERが変わらない前提で、1.8倍に増えました。米国株に100円投資したら、10年後のPERが変わらない前提で、2.6倍に増えました。どちらが投資家にとって好ましいかは明白です。長期投資するなら米国株、というイメージがありますが、その根拠は、米国企業が長期に渡って世界で一番高いROE水準を維持してきたという事です。

Happy Investing!!

ドミー(9924)の粉飾に思う

株価下落率トップに頻出するドミー(9924)

ヤフーファイナンスの株価上昇・下落ランキングを見ていると、ドミー(9924)という会社が数日連続で下落率トップに出ていることに気付きました。株価は何年も2500円で横ばいに推移した後、今日(3月2日)には600円台にまで下落しています。一過性の理由による株価下落はバリュー投資のチャンスになることもあるので、調べてみました。

愛知のスーパー上場廃止の陰に東芝?

ドミーは、1913年に呉服屋として創業、スーパーに業態転換して、現在は愛知県に37店を展開しています。スーパーと言えば地味で安定的な事業に思えるのですが、名古屋証券取引所へ有価証券報告書の提出が遅れ、上場廃止が決まってしまいました。監査法人(新日本)からの適正意見(報告書が会計上適切であるというお墨付き)がもらえなかったという事が理由のようです。

スーパーは仕入れ先から、販売金額などの目標達成に応じたリベートを受け取っているそうです。ドミーでは、そのリベートの配分を作為的に変更して、業績が悪い店舗の業績をよく見せるという粉飾を行っていました。全社での利益合計が同じならいいじゃないかと思うかもしれませんが、資産価値を評価する減損テストに影響があるのです。例えば、3000万円かけて店舗を作ったとします。通常は10年の減価償却期間であれば、年間300万円の減価償却を費用として計上します。しかし、仮にその店舗が赤字続きであった場合は、資産価値がないと判断されて、3000万円を例えば一気に1000万円まで2000万円減損することを監査法人に求められることがあります。

この背景には、東芝の不祥事があると思います。新日本監査法人は東芝の粉飾決算を見抜けなかったとして、金融庁に21億円の課徴金を支払いました。二度と起こらないように、厳しい姿勢で監査業務に臨んでいることが想像されます。

ドミーに見る危険信号の数々

このような企業に投資して地雷を踏まないために、何が学べるのでしょうか?
1、売上成長率が低い:売上成長率は年率1%を切っている。
2、営業利益率が低い:営業利益利が1%しかありません。ちなみに、優良スーパーの営業利益率は4%以上(ハローズ、ヤオコー)。

1,2とも当たり前に感じます。むしろ、これまで株価が下落していないことが不思議なくらいです。会社は当期純利益を超えても1株10円の配当を維持して来ました。1株500円(合併前)に対して2%の利回りが出ていればよいという感覚で保有されていた株主が多かったのでしょうか。

まとめ

粉飾は問題ですが、上場廃止にするほどのことなのかなと思いました。東芝への東京証券取引所の柔軟な対応と、ハードな名古屋証券取引所の対応に随分差があるなと感じました。また、ドミーの株価は、売上成長率と利益率の低さを考えると、非常に割高だったことも事実だと思います。苦しい状況に置かれた企業や従業員ほど、粉飾に手を出したくなります。既存事業の伸びしろがある企業、競争優位性のある企業に投資しましょう!

Happy Investing!!

相場下落は投資ルールを磨くチャンス

久しぶりの株価調整

2月に入って、日経平均株価は24000円の高値から10%以上下落しています。過去6ヶ月の日経平均株価を見ると大きな調整に見えますが、過去5年のチャートを見ると久しぶりの調整であることが分かります。また、10%では小規模調整です。前回の調整は、2015年夏から2016年夏にかけて20000円から15000円まで25%下落しています。

日経平均株価(6ヶ月)
チャート画像
日経平均株価(5年)

株価調整は、投資ルールの有効性を確かめるチャンス

株価下落は経験しないのが一番ですが、長期間投資する上ではうまく付き合っていくしかありません。そこで、私は投資ルールを磨くチャンスと捉えています。

株価が下がってみると、その株式を自信を持って保有し続けられるのか、売りたくて仕方なくなるのか良く体感できます。売りたくなる株に関しては、どこか投資ルールに無理があったと考えてます。私の今回の場合であれば、(1)強気すぎる価格で購入してしまったと薄々感じていた株、(2)既に割高だなと思っていながら、もっと株価が上がるかもお保有し続けた株、が該当します。

(1)に関しては、相場上昇で自分が考える割安基準(本質価格 x 50%以下)を満たす会社が見つからない中、本質価値算出ルールを破ってしまいました。競争優位性に疑問点が残る中、足元の高成長が続くと夢見てしまいました。

(2)に関しては、新規購入したい株が見つからない中、できるだけ既存投資先の利益を伸ばそうと欲張ってしまいました。以前は、本質価格の50%以下で購入し、本質価格の90%で売却していました。80%のアップサイドが取れていますが、2017年は売却後にさらに株価が上昇する事例が相次ぎました。早すぎる売却を後悔して、本質価格で半分を売却して、残りは保有を続けようとルールを変えました。つまり、100円の価値があるものを50円で買い、100円で50%を利益確定(元本を回収できる)、残りは保有し続けて利益を伸ばそうという作戦です。今回の株価下落で分かったことは、私にはアップサイドを取り逃がす機会損失よりも、割高だと思っている株を保有し続けるストレスの方が大きいということです。

投資ルールで考える要素を減らそう

Investment is most intelligent when it is most businesslike – Benjamin Graham

投資は考えられる要素が多いので、あらかじめルールを決めておかないと続けることが難しいと思います。多くの人が勝ってきたルールに基づいて行動していけば、勝てる確率は高くなると思っています。私にとってはバリュー投資であり、売買ルールはMohnish Pabraiを参考にしています。

バリュー投資には、次の3つのルールが必要だと思っています。

(1)企業評価ルール(どのように本質価値を算出するか)
(2)購入ルール(いつ、どのように、どれだけ購入するか)
(3)売却ルール(いつ、どのように、どれだけ売却するか)

Happy Investing!!