価格競争にご用心

1年で70%下落したダイヤモンドワイヤの価格幅にビックリ

昨日、中村超硬(6166)がMSワラント(行使価額修正条項付き新株予約権)の発行を発表しました(リンク)。前回の投稿で、最近多発しているMSワラント発行の問題点を書きました。「またか」という気持ちで発表資料(リンク)を読んで驚きました。珍しく、社長による動画説明もありましたので、ご参考まで。

中村超硬はダイヤモンドワイヤのメーカーです。主に太陽光パネルのシリコン切断に使われているそうで、一見ニッチ分野で競争力のある企業のように感じます。

中村超硬の説明資料によると、ダイヤモンドワイヤの価格が、2018年に入ってからなんと70%も下がっているそうです。太陽光発電メーカーが増えて生産調整が始まった上に、世界トップ市場である中国政府による補助金打ち切りにより、火に油を注ぐ事業環境となっているそうです。市場参加者の感情で動く株価が1年に70%動くことはよくある話ですが、実際の商品価格が1年で70%下がるとは、なかなかお目にかかれません。

予見できなかったのか?

中村超硬は、2017年に個人投資家の間で人気の小型株だったようです。太陽光、収益拡大というテーマ性が魅力的だったのか、2017年に株価は1000円から7000円へ7倍。2018年は逆に、7000円から800円へ。ジェットコースターのような株価です。

過去の事業実績を見ると、赤字が頻発しています。2018年3月期のみ切り出すと、売上が前年比2.4倍と気持ちのよい業績ですが、なぜ赤字になったのかをよく調べた方がいいです。

2017年3月期の有価証券報告書(リンク)によれば、販売単価交渉に失敗して取引量が減ったことで減収、赤字につながったことが分かります。

2018年3月期の有価証券報告書(リンク)には、2018年2月後半から市場が急変して販売単価が大幅に下落していること、リスクも明記してあります。

5年後を見通せるか?

後出しジャンケンという批判はあるでしょうが、以上を見てくると、中村超硬の事業リスクは明らかだったのではないでしょうか?事業を分析するとき、5年後の姿を見通せるかと自問自答すると良いと思います。中村超硬の場合は、過去の事業実績を一目見ただけで難しいことが分かります。とてつもなく儲かってるかもしれないし、赤字が5年間続く可能性すらあります。

爆弾を保有しないように、少なくとも、不況期間を含む過去10年の事業実績+有価証券報告書のリスク注記には目を通した方がいいのではないでしょうか?もっとも、私も今年は基本作業を怠った銘柄で、被弾してしまいましたが・・・。お互い、気を付けましょう!

Happy Investing!!

行使価額修正条項付新株予約権(MSワラント)の問題点

相次ぐ行使価額修正条項付新株予約権(MSワラント)の発行と株価下落

最近、行使価額修正条項付新株予約権(Moving Strike ワラント=MSワラント)の発行の発表が相次いでいます。そして、発表と同時に株価が大幅安になっています。仮に本質価値を超えた株価下落であれば、投資チャンスになるのでしょうか?

事例1:日本管理センター(3276)11月15日発表(リンク

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事例2:プレミアグループ(7199)12月17日発表(リンク

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事例3:コムチュア(3844)12月18日発表(リンク

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MSワラントとは何か?

MSワラントは、資金調達の一種です。コムチュアの事例を考えてみました(リンク)。

ステップ1

野村証券に対して、コムチュアがMSワラントを発行します。
13000個 x 930円 = 1200万円がコムチュアに支払われます。

ステップ2

この新株予約権は、コムチュアが野村証券に対してMSワラントの行使を指示できるそうです(どこまで本当なのでしょうか?)。コムチュアとしては、できるだけ株価の高いときに行使したいところです。行使価額は、行使日前日終値 x 92%に設定されています。行使日前日終値に応じて行使価額が修正されることから、「行使価額修正条項付」と呼ばれています。

仮に3000円の終値の翌日に行使したとします。野村證券は、13000個 x 100株 x 3000円 x 92% = 約36億円をコムチュアに支払い、130万株を受け取ります。野村證券は株式を長期する意思はないので、すぐに売却します。仮に3000円で売却できたとして、39億円で売却でき、3億円が野村證券の利益となります。

ステップ3

ステップ2の場合、野村證券は3000円 x 92% = 2760円以上で売れなかった場合、損失を抱えてしまいます。時価総額400億円の企業の株式39億円分、約10%を保有する引き受けるわけですから、簡単に売り抜けられる量ではありません。

野村證券も手をこまねいている訳はなく、あらかじめコムチュア株を空売りすることで、大量引受に備えます。大量の空売り需要が出ることを市場も認識しているので、他の投資家も売り手に回り、株価は急落します。少なくとも、引受株数に相当する空売りが必要となります。コムチュアは12月19日の出来高は約85万株でした。野村證券は130万株を引き受けるので、12月19日の全ての売りが野村證券だったとしても、45万株足りません。実際には、野村證券の空売りは出来高の50%程度と仮定すると(42万株)、今日の2倍の売り圧力(88万株)が控えているとも考えられます。仮に短期的に株価が反発したとしても、空売り圧力があることが分かっている訳ですから、短期的には株価が上昇しずらい環境が発生します。

野村證券としては、空売りさえできていれば、行使価額 x 8%分は確実に儲かります。しかも、自分の売りで株価を下げることで、空売りからも利益を得られる可能性もあります。

野村證券の損益シナリオ

シナリオ1:空売り平均株価3000円、行使価格3000円 x 92%

利益 = 39億円 – 35.88億円 – 発行手数料0.12億円=3億円

シナリオ2:空売り平均株価3000円、行使価格2900円 x 92%

利益 = 39億円 – 34.68億円 – 発行手数料0.12億円 = 4.2億円

シナリオ3:空売り平均株価3000円、行使価格3100円 x 92%

利益 = 39億円 – 37.08億円 – 発行手数料0.12億円 = 1.8億円

野村証券としては、かなり有利な取引であることが分かります。

資金調達するとして、なぜ借入でなく、公募増資でなく、MSワラント?

引き受ける野村證券にとっては、非常に魅力的なMSワラントですが、無からお金は生まれません。反対側で損をしているのは、既存株主です。発行済株式が増えることで、一株利益が希薄化することはもちろん、野村證券の空売りによって(短期的には)株価も下落します。

空売りによる株価下落は一過性のものだと思いますが、それにしても、なぜ資金調達の方法としてMSワラントを選ぶのでしょうか?株式調達であれば、公募増資が王道です。調達金額に対する証券会社への手数料は2~4%(出典)だそうです。なぜ、8%という高額の手数料を支払ってまでMSワラントを発行したいのでしょうか?

さらに、コムチュアのバランスシートはピカピカです。現預金47億円に対して借入金7億円。ネットキャッシュ40億円です(決算短信)。過去5年間の年平均年間営業キャッシュフローは約10億円に対して、IT企業なので設備投資も少なく潤沢なフリーキャッシュフローを生み出しています。今回の40億円の調達、余裕で借入できたと思うのです。その場合は、金利は高くても2%程度でしょう。

借入、公募増資というコストの安い選択肢があるにも関わらず、なぜコムチュアはMSワラントを選択したのでしょうか?サラリーマン社長であれば分かりますが、コムチュアの向さんは創業者として筆頭株主23%を保有しています。社長の大野さんも1.9%を保有しています。経営者と既存株主の利害は一致しているように見えます。

ここが、私にとって実に不可解な部分です。取締役に野村総研出身者が多いので、野村證券の意向が通りやすいのでしょうか?それとも、借入できないような、公募増資できないな事情があるのでしょうか?少なくとも今回の一件で、コムチュアは資本配分に大きな問題があることが明らかになりました。経営陣には、事業の競争優位性を高めることはもちろんですが、資本配分の勉強をして頂きたいものです。資本配分の巧拙は、企業価値を大きく変化させるということを理解して頂きたいです。まずは、最近のMSワラントブームが終わることを祈って。

もし私の理解が間違っていましたら、是非ともご指摘をよろしくお願いします!

Happy Investing!!

産業革新投資機構の役員辞任で感じたこと

革新投資機構の役員辞任

日本国が出資する産業革新機構の全役員が辞任することになりました。メディア報道を見ていると、高額報酬が問題になっているように受け取れますが、辞任した役員のコメントを読むと、より深い問題があることが分かりました。

この気付きは、「銀行員のための教科書」というブログから得ました。銀行に勤務されていると思われる方の匿名ブログですが、内容は非常に充実しています。情報発信を通して、日本を良くしたいという気概を感じます。いつも、学ばせて頂き、ありがとうございます。

問題の本質は、契約の軽視

取締役の辞任コメント(リンク)を一読されることを、お薦めします。坂根正弘氏(元コマツ社長)や、コンサルタントの冨山和彦氏など、各界を代表する方々の本音が聞ける、貴重な機会となっています。

私なりに総括させて頂くと、経済産業省が契約を軽視したことが問題の焦点です。高額報酬が問題なのであれば、それは予め伝えるべきことです。もしかすると、高額報酬でなくとも、日本のためにひと肌脱ごうという人が集まったかもしれません。しかし、世界レベルで戦える人を集めるために、世界基準の報酬を払おうと合意したことを、後から変更しようとする経済産業省の姿勢は問題です。契約内容の朝令暮改が許されると、関係者は疑心暗鬼のまま日々を過ごし、一体何を信じれば良いのか分からなくなります。

例えば、会社と社員が雇用契約したとします。部長の判断で年収1000万円で契約したとして、その後、社長が「高すぎる」と言ったところで、契約期間中は年収1000万円が続きます。逆に、年収1000万円の市場価値がある人物が、年収500万円で契約してしまい、「安すぎた!」と思っても、これまた後の祭り。契約内容の変更方法もまた、契約書に記載の通りに行うのみです。

国内で足を引っ張り合っている場合ではない

経済産業省など役所全般の行動を見ていて感じるのは、彼らが日本国内しか見ていないということです。優秀な運用者は、世界中で求められています。例えば、冨山和彦氏のコメントに、ノルウェーやカナダの公的ファンドが成功例として取り上げられています。

例えばカナダには、CPPIB(Canada Pension Plan Investment Board)という公的年金ファンドがあり、インフラ投資やプライベートエクイティ投資に積極的です。解約リスクがないため長期的な時間軸で投資ができるという、年金ファンドの強みを活かした運用をしていると思います。私は、このファンドと面接したことがありますが、香港オフィスで面接した相手5,6人のうち、カナダ人は1人だったように思います。ちなみに私の上司になるであろう人は、インド系アメリカ人でした。

ノルウェーの公的ファンドも同じような状況でしょう。日本オフィスもありますが、そもそもノルウェーの人口が約500万人ですから、ノルウェー人だけでグローバル運用人材を充足できるとは思いません。ノルウェー銀行は日本株式市場の大株主として四季報で目にすることも多いです。シンガポールのテマセクやGICも、世界中から運用者を集めています。

このような状況で、国内で足を引っ張り合っている場合ではないと思うのです。産業革新投資機構と同時期に生まれた政府系ファンド、株式会社INCJの挨拶には、「日本の産業は自前主義によって宝の持ち腐れ」と書いてあります。今回もまた、宝の持ち腐れを起こしてしまった気がして、残念です。

例え万全の体制で臨んでも、結果が分からないのが投資の世界です。特に半年後、1年後という短期的な結果は誰にも分りません。だからこそ、より良い体制で臨めるように、少しでも勝てる確率を上げようとしのぎを削っている世界です。もしかすると、政府や官僚の方々は、運用を簡単だと考えているのかもしれません。投資は、安く買って高く売るだけ。単純ですが、簡単ではないところがポイントです。とにかく、国内や社内で足を引っ張り合っている場合ではないのです。競争相手は、外だけで十分です。

Happy Investing!!

APAグループに学ぶ

APAグループは、ホテルチェーン3強の一角

私が尊敬している個人投資家の一人、角山さんのブログに、APAグループ元谷社長の対談が取り上げられていました。APAグループは、日本最大のホテルチェーンとして、2020年までに提携ホテルを含めて10万室の稼働を目指しているそうです(中期5か年計画)。国内宿泊市場規模は、ホテル(87万室)と旅館(69万室)を合わせた約160万室(参照リンク)ということで、全国で6%シェアを目指すという計画です。競合としては、東横インやルートインが2016年時点でそれぞれ約5万室、約4万室となっていて、3強。APAグループがダントツ#1という訳ではなさそうだ(参照リンク)。

各社HPの情報をまとめたものが、下図。

成功例から学ぶ

APAグループのような成功事例を見つけたときは、まず素直に他人の成功を喜び、その理由を学べるようになりたいです。成功事例に共通する要素を抽出することで、将来の成功事例を見つける選球眼を養いたいです。

今回読んだ、参考記事リンク
社長が語る企業物語
ダイヤモンドオンライン 2015年12月
CEO社長情報
プレジデントオンライン 2013年9月

ポイント1:事業の根幹である資金の流れを把握すること

元谷さんは、金融の実態を知るには金融機関に勤めることが一番と考え、地元の信用金庫に入社します。例えば、NIKEを創業したPhil Knightや、Fiatを立て直したSergio Marchionneは、会計士資格を持ち、実務経験もあります。もし創業者に会計知識がない場合は、本田宗一郎と藤沢武夫のように、弱みを補う体制づくりが必要だと思っています。

ポイント2:市場規模が成長余地を決める

元谷さんは、「市場規模でいえば頑張っても一定の需要しかないもの、例えば10億円、100億円の規模であれば、最大でもそこまでしか伸ばせない」と気付きます。より大きな市場規模を求めて、住宅産業で創業したそうです。大きく成長する企業に投資したい場合は、市場規模が大切になります。

ポイント3:戦略論の重要性

元谷さんは、戦略論に興味があり、孫氏の兵法、マキャベリ、ランチェスター戦略を研究して自らの経営に生かしているそうです。成功している企業で、ランチェスター戦略に言及している成功事例は、ソフトバンク、日本電産、SMCなど枚挙にいとまがありません。ランチェスター戦略によれば、業界1位以外は、全て弱者です。投資先企業が、ポジションに合わせた戦略を選択できているかどうかは、重要です。

ポイント4:節税の大切さ

元谷さんは、節税の重要性について徹底的に語っています。その一方、対談の最後には、「適正利益を上げて納税義務を果たす」とも述べていて、少し話しが食い違っているように感じました。

建売銃額の利益を相殺するために償却が大きい賃貸住宅へ。さらに分譲マンションの譲渡益を節税するために償却がさらに大きい自社ホテル経営へ進出したそうです(ベッドや冷蔵庫、テレビなど20万円以下の備品を一括償却できるので、節税効果が大きい)。不動産市況が割高で再投資できないとみるや、航空機リースを利用して節税を行ってきたそうです。節税は、不動産のように資金力勝負になる産業の場合は、特に重要になると感じました。一方で、資金需要の少ないITやコンサルのような業種は節税方法が限られます。この場合は、無理な節税によって多角化につながるデメリットの方が大きいのかもしれません。

ポイント5:オーナー企業の強さ

元谷さん、バブル期を前に、土地価格が収益還元法に基づく価値の4-5倍という異常な高値であることに気付きます。1988年、1989年と全ての不動産を処分し、東京本社も引き払って創業の地金沢に撤退したそうです。このような極端な行動は、オーナー企業でなければ、まず出来ません。普通の企業であれば、社内反対派の説得に消耗しているうちに、不動産価格の下落が始まっていたことでしょう。逆に2010年からは都心の一等地をキャッシュで買いまくり、東京でトップホテルチェーンの礎を気付きました。フルブレーキからフルアクセルへ。極端にみえる行動の結果として、APAグループは創業から一度もリストラをしていないということで、素晴らしい実績です。ビジネスにおいては、結局は実績が全てです。上場企業でも、経営者が株式を大量保有しているか否かは、一つの参考指標になるのではないでしょうか。

(注記)行動力が強みのオーナー企業ですが、そもそも行動が間違っていた場合は、一般企業よりもダメージが大きくなる可能性もあります。例えば、ルートインの創業者、永山さんの対談には、「リーマンショックで大失敗した」というコメントがありました(参考リンク)。

まとめ

業界は違えど、勝ちパターンには共通点があると思います。多くの成功事例に触れることで、より将来の成功事例を見極められるようになりたいです。

Happy Investing!!

AI(Artificial Intelligence)より、AA(Artificial Alien)の方が納得できる

AIによってチェスに何が起きたか?

AIやRPAという言葉をよく耳にするようになってきました。私など、つい半年前まで「RPA?」という感じでしたから、技術革新と普及スピードは速いものです。これら技術について、単純作業が代替されることで多くの失業者を産む可能性がニュースに取り上げられていますが、果たしてどのような影響を与えるのでしょうか?

我々を取り巻く構造的な技術変化を理解したく、Wired Magazineを創業したKevin Kellyさんによる、The Inevitableという本を読んでいます。

この本に、AIとチェスの事例が出てきます。1997年に、IBMのディープブルーというAIが、当時の世界チャンピオンGarry Kasparovさんに勝ちました。私はこのイベントを、将棋、囲碁と続く、機械優位性証明の歴史の始まりとして認識していました。しかし、現実はもっと複雑でした。チェス業界はその後、機械 vs 人間の個人戦ではなく、フリースタイルと呼ばれる、機械を利用しても良い勝負に傾倒していったそうです。例えば2014年のフリースタイル選手権では、AIが42勝に対して、AIと人間のタッグチームが53勝したそうです。飛行機のパイロットのように、操縦の大半は機械が行いながら、機械の弱点を熟知した人間が必要箇所だけ介入するというスタイルのようです。本書が発行された2016年時点で一番強いチェスプレーヤーは、Intagrandという、複数の人間と複数のAIのタッグチームだとか。自分のイメージするチェスからはかけ離れていますが、AI勝利後の業界推移が興味深いです。AIを否定して人間戦にこだわることなく、AIの良さと人間の良さをうまく取り入れているところに好感が持てましたし、何よりAIとの直接対決では人間が負けてしまうという現実から目をつぶっては仕方ありません。

さらに驚いたのは、人間チェスプレーヤーのレベルまで上がったということです。機械に負けたゲームとしてチェス人気が衰えるどころか、強い機械と気軽に対戦できるようになったことで、逆にチェス競技人口は増えたそうです。現在は、チェスの最高位であるグランド・マスターの人数が、1997年当時の2倍に増えたそうです。特に、ポイントランキング1位のMagus Carlsenさん(今日でも1位を維持しています)は、AIと練習を繰り返した1990年生まれのノルウェー人です。この話を聞くと、将棋界を席巻している藤井聡太さんを思い出します(2002年生まれ)。藤井さんは練習方法について、次のように述べています。

Q: 練習方法を教えてください。
A: 一人で練習することが多いです。もっぱらリビングのパソコンで、AIソフトなども利用しながら、練習をしています。
リンク

AI(Artificial Intelligence)より、AA(Artificial Alien)の方が納得できる

AIと練習を重ねた若者の打ち手は、古参のプレーヤーには異質に映ると想像します。Alpha Goが世界トッププレーヤーを破った囲碁の世界でも、永く信じられてきた定石に変化を与えているようです。

我々は、他者がいて初めて自分について認識できます。もし世界に自分一人しかいなかったとしたら、自他の認識すら生まれていないでしょう。私は東京生まれですが、他の地方で育った人と触れることで初めて、東京の特徴に気が付きます。海外を訪れ、外国人と話してみることで、日本の常識、世界の非常識に気付かされることもあります。さらに人類について知るには、違う認知構造を持った異星人に出会うことが必要だろうと思っていました。

The Inevitablesの記述を読んで、AIはその疑似体験を与えてくれている、ということに気付きました。今後のAIの進化と普及によって、人類は本質的に異なる視点からの思考に触れることでしょう。チェス、将棋、囲碁の違いが分かるトッププレーヤーは、既に未知との遭遇体験を持っているはずです。それが、現在ゲームの枠を超えて社会レベルで進行しています。生活習慣や商習慣を変えることを要求され、社会ストレスも大きいことでしょう。しかし、AIをAA(Artificial Alien)だと思い、他者から学ぶ気持ちをもって接することができるかどうか。機械が出した結論だと色眼鏡で見ることなく、良いものは良い、と合理的に判断して採用できるかどうかが、ポイントになると思いました。一体どんな未来になるのか、より高い次元での人間と機械のコラボがますます楽しみです。

Happy Investing!!

投資10戒

Mohnish Pabraiの最新講義

Mohnish Pabraiは、毎年ボストン大学の学生に向けて講義を行っています。ありがたいことに内容がYoutubeにアップされますので、私は毎年楽しみに見ています。今年のトピックは、『投資10戒』でした。

投資10戒

1. Thou shall not skim off the top (資産運用業に向けて)稼いでいないのに、固定手数料を取ることなかれ

2. Thou shalt not have an investment team 投資をチームで行うことなかれ

3. Thou shalt accept that thou shalt be wrong at least one-third of the time 投資では、誰しも1/3は間違うということを受け入れろ

4. Thou shalt look for hidden PE of 1 stocks 明白ではないPE 1倍株を探せ

5. Thou shalt never use Excel エクセルを使わないと安いかどうか判断できないような案件は見送れ

6. Thou shalt always have a rope to climb out of the deepest well ひどい状況から抜け出すための用意をしておけ

7. Thou shalt be singularly focused 一つのことに集中しろ

8. Thou shalt never short a stock 空売りをするな

9. Thou shalt not introduce leverage レバレッジをかけるな

10. Thou shalt be a shameless cloner 優秀な投資家の真似をしろ

投資戦略、その先に

投資を続けていて思うのは、進む道を選ばなくてはいけないという事です。投資の稼ぎ方はたくさんあります。デイトレ、スイング、優待投資、増資ディスカウント、IPO抽選、バリュー、グロース、ロングショート、割安成長株、、、、どんな投資戦略であっても、統計的に裏打ちされた方法を続けていれば、最終的には勝つことができます。実際に、どの投資戦略にもそれを極めた猛者がいます。

しかし、どんな投資戦略でも勝つことができる一方、全ての投資戦略で勝つことはできないと考えます。継続的に勝とうとするには、投資戦略を選ぶ必要があると思います。実績ある個人投資家の人にお会いすると、総じて投資ルールが明確だと感じます。自分が取り組むべき局面、そうではない局面の判断がしっかりとしていますし、得意でないパターンで勝てなかったからと言って悔しがることもありません。他の投資戦略で稼いでいる人がいても、羨ましく思いません。自分が勝てる確率が高いときのみ、市場に参加するというスタンスです。

私は、Benjamin Graham、Warren Buffett、Charlie Munger、Mohnish Pabraiと続くバリュー投資戦略はもちろん、その背景にある考え方まで理解したいと思っています。投資家の性格、行動、そして投資戦略が一致してこそ、長期的に良い結果が生まれると考えます。例えば、短気な人がバリュー投資を採用するのは難しいでしょう。身体が拒否反応を起こすでしょうから、違う投資戦略を探すか、自己変革に挑戦する必要があります。私は、自己洗脳するかのように、目標とすべきバリュー投資家の写真を飾り、文章を読み、声に耳を傾け、オマハに詣でます。そこまでして近づきたいと思うほど、高く素晴らしい目標だと思っています。Mohnish Pabraiの投資10戒を胸に、さらに信心を深めたいです。

Happy Investing!!

私の投資ヒーロー(Mohnish Pabrai)

Mohnish Pabraiのカッコよさ

Mohnish Pabraiについては、当ブログでも何度か取り上げています。エンジニア出身で、1994年にバフェットの伝記を読んだことで投資家としてのキャリアをスタート。1999年からPabrai Investment Fundsを運用しています。私が彼を尊敬するところとは、師匠の教えに忠実であるということです。彼は機関投資家での勤務経験がないため業界の常識に染まっていないという見方もできますが、バフェットの初期パートナーシップと同じく、毎年の運用成績が6%を超えた部分の25%という成功報酬のみを受け取っています。仮に運用成績が10%であれば、(10%-6%)x 25% = 1%の成功報酬を得ることになります。

リーマンショックでは、ファンドの運用成績が前年比-70%まで悪化したそうです。年初に100あった運用資産が30にまで目減りしたわけで、成功報酬モデルにとっては悲惨な状況です。しかも、成功報酬をもらうためのハードルは年間6%づつ高くなっていくのです。100>106>112、、、という具合です。結局、Pabrai氏は2017年まで10年間、無報酬でファンドを運用していたそうです。Warren Bufefttの相棒Charlie Mungerは、取締役を務めるDaily Journalの2018年次総会で、Pabrai氏の行動について賛辞を送っています(書き起こし全編はこちら)。以下に抜粋します。

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Question 9: This question is for Mr. Kauffman.  You mentioned about the “five aces” and aligning the interests with investors with the right fee structure to benefit both.  What have you seen as a good fee structure, both from a start-up fund with say $50 million in assets, and then the larger funds with assets over billion?

Peter Kaufman: I’ll let Charlie answer that because he can describe to you what he thinks is the most fair fee formula that ever existed and that’s the formula in Warren Buffett’s original partnership.

Charlie: Yeah, Buffett copied that from Graham.  And Mohnish Pabrai is probably here…is Mohnish here?  Stand up and wave to them Mohnish.  This man uses the Buffett formula, and always has, he just copied it.  And Mohnish has just completed 10 years…where he was making up for a high water-mark.  So he took nothing off the top at all for 10 years, he sucked his living out of his own capital for ten long years, because that’s what a good money manager should be cheerfully willing to do.  But there aren’t many Mohnish’s.  Everybody else wants to scrape it off the top in gobs.  And it’s a wrong system.  Why shouldn’t a man who has to manage your money whose 40 years of age be already rich?  Why would you want to give your money to somebody who hasn’t accumulated anything by the time he was 40.  If he has some money, why should he on the downside suffer right along with you the investor?  I’m not talking about the employees under the top manager.  But I like the Buffett formula.  Here he is, he’s had these huge successes.  Huge in Buffett’s career.  But who is copying the Buffett formula?  Well we got Mohnish and maybe there are a few others, probably in the room.  But everybody wants to scrape it off the top, because that’s what everybody really needs, is a check every month.  That’s what is comforting to human nature.  And of course half the population, that’s all they have, they’re living pay check to pay check.  The Buffett formula was that he took 25% of the profits over 6% per annum with a high water mark.  So if the investor didn’t get 6%, Buffett would get nothing.  And that’s Mohnish’s system.  And I like that system, but it’s like many things that I like and I think should spread, we get like almost no successes spreading that system.  It’s too hard.  The people who are capable of attracting money on more lenient terms, it just seems too hard.  If it were easier, I think there would be more copying of the Buffett system.  But we still got Mohnish. (laughter)
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そんなMohnish PabraiのYouTube動画は、全てお薦めです(動画リンク)。


(Pabrai Investment Fund 年次総会にて@シカゴ)

Pabraiさん、本当にありがとうございます。

Happy Investing!!

最高益は更新して当たり前

連続最高益アピール

新聞や決算説明資料で、「○○年連続最高益!」という文章に出会うことがあります。あたかも凄いことを成し遂げたような印象を与えようという意図が見えて、私は嫌いです。

最高益は更新して当たりまえ

金利1%で100万円貯金したとしましょう。1年後には1万円増えて、101万円になります。資金を引き出さなければ、2年後には1.01万円増えます。最高益更新です。3年後には1.02万円増えます。またまた最高益更新です。最高益とは、預金などを通して誰にでも達成できるものです。

最高益よりROE

私が気にするのは、最高益よりもROEです。前例では金利1%ということで、100万円の資本を使って1万円しか生み出していません。全世界の経済成長率が2~3%あることから考えても、全く魅力を感じないリターンです。

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私は、ROE(=事業に使用している資本に対するリターン)10%が一つの目安だと思っています。株主資本100万円の会社であれば、10万円利益として稼ぎ、平均的な日本企業は30%を配当として支払います。残った資本は7万円で、来期は株主資本107万円に対して10.7万円の利益を稼ぎます。株主資本は7%で増えていきますが、これは長期的な株式市場リターンに近い数字です。

値上がりと配当を合計したトータルリターンは長期的にROEに近似します。投資先企業にROE10%を求める以上、投資家である私も年率10%以上のリターンは必達目標です。

Happy Investing!!

フィリピン雑感

フィリピンでの1ヵ月

セブシティーから入国し、セブ島の各所に滞在してきました。現地で生活を体験しながら、株式調査するのは楽しかったです。日中に街で見た企業について、上場しているのか?どれくらいのシェア・収益性があるのか?と妄想します。現地に滞在して、現地の人と話してこそ、なぜ、どのような需要があるのか、より良く理解できると思いました。

GDP3000ドルの世界

フィリピンの一人当たりGDPは約3000ドルです。一般的にGDPが3000ドルを超えると、耐久財消費が増えるなど、消費経済が活性化すると言われています(参考リンク)。田舎へ行っても、液晶テレビや冷蔵庫が普及していたことには驚きました(普及率40%くらい?)。住宅は狭い(6畳 x 2部屋)のですが、大型液晶テレビを置いた結果、家の中からでは近すぎてテレビを見ることができず、玄関のドアを開けて外に椅子を置いてみている家族もいて、笑ってしまいました。スマホの普及はまだ道半ばと感じました(20%くらい?)。おそらく、若者の欲しいものランキングの上位はスマホでしょう。世界中どこへ行っても、小さな画面を見つめる姿だらけになるのでしょう。

投資対象として

どの分野を見ても供給不足から大きな成長性が感じられ、需要が停滞しているのに供給過多で収益性が低下する日本に慣れた身としては新鮮でした。大企業が少なく、副業が当たり前の社会なので、現地運転手さんも「資金があれば、こういうビジネスを始めたい」とアイディアを熱く話してくれました。金融緩和で資本が溢れかえって行き場を失っている日本に対して、フィリピンのように資本不足で困っている国もある。収益機会のある国・分野へ、もっとうまく資本の融通ができればいいですね。私が日本で銀行を経営していたとしたら、国内事業だけでは頭打ちになるのが目に見えている訳で、早く海外に進出すると思います。日本で低金利で預金を集めて新興国で貸し出すことができれば、儲かる気がします。需要に対して供給不足の領域を探すのが、事業の基本だと思います。

フィリピンでは、銀行口座の保有率は35%(参考リンク)。保険の保有率は中高所得者層の16%(中高所得者が30%いるとして、全人口の5%?)(参考リンク)。株式市場参加者は1%しかいないそうです。(参考リンク)。シンプルに、業界トップの銀行、保険会社、証券会社を買って10年くらい保有していれば、儲かるんじゃないかと思いました。現在のフィリピンを日本に当てはめると、3種の神器(テレビ、冷蔵庫、洗濯機)が普及した1960年代でしょうか。当時は、日本でも資本が不足していたはずで、業界トップの野村證券、日本生命などに投資していれば随分と儲かったのではないでしょうか。

具体的に見てみましょう。下図(株探より)は1960年からの野村證券の株価です。1960年の約20円から、バブルを除いても2000円を超えています。残念なのは、現在の株価が500円であること。1980年初頭(40年前)と同じ水準に低迷しています。供給過多・資本余剰の現在の環境では、資本アクセスがサービスである証券会社の付加価値が薄くなるのでしょう。どの国・産業・企業にも栄枯盛衰がありますので、成長フェーズで投資するようにしたいものです。

Happy Investing!!

フィリピンに行ってきます

1ヵ月@フィリピン

1ヵ月ほどフィリピンに行ってきます。個人的な目標として、毎年知らない国に家族で長期滞在して現地生活を垣間見たいと思っています。第1回目の2018年はフィリピンです。訪問を株式投資とも絡めたいので、どうしても英語圏外は開示資料が読めなくてハードル高いです。ベトナム株など興味あるのですが、会社HPを訪問すると、全く読めないのためにやる気がなくなります。当面は、新興国+英語圏+株式市場があるというのが選定軸になりそうです。

フィリピンには約270社が上場しているので、1日10社 x 27日で全企業に目を通すことが目標です。フィリピンは既に人口1億人以上ですが、中絶を許さないカトリック教徒が多いため、ピラミッド型の人口分布をしています(https://www.populationpyramid.net/ より)。

日本にいると人口減少が当たり前に感じてしまいますが、それは投資家として片手落ちになる危険性があると感じています。なぜなら、世界全体の人口分布はピラミッド型に近く、まだまだ人口増加過程にあるからです。人口が増えていく過程にある経済を実感することで、新興国へ展開する日本企業の成長ストーリーをより良く理解したいです。山梨という日本の地方に住んでいると、高齢化を肌で感じます。家の近くで道路工事している人ですら全員65歳以上で、一体10年後は誰が工事するんだろうと思ってしまいます(なぜか肉体負担の少ない交通誘導員は40代っぽい)。若者を見ると、「珍しい!」という感覚は世界的には異質なものです。

気が早いですが、2019年はアフリカ大陸に挑戦したいです。例えば、ナイジェリアの人口分布を見てください。指数関数的に子供が増えている状況など、日本に住んでいては全く想像できません。自分の中の体験の引出しを増やしたいです。

Happy Investing!!