2016年の振り返り

12月30日は大納会で、1年の株式取引が終わりました。みなさまにとって、2016年はどんな1年だったでしょうか?

私にとっては気づきの多い1年となりました。

高い絶対リターンを目指すことの大切さ

2014年から個人で投資をしてきましたが、特に数値目標を設けていませんでした。あまりに高い絶対リターンを目指すと過剰にリスクを取ってしまうことを懸念していたのです。しかし、2016年半ばから考え方を変えました。

私は『ダンドー』の著者であるバリュー投資家Mohnish Pabraiを尊敬しており、彼の投資戦略を出来る限り真似しようとしています。彼は1995年から運用しており2013年まで年率26%で18年間、複利運用することに成功しています。最初の資金が実に64倍になったことになります。

長期的に高い運用成績を残している人の投資手法を真似すればするほど、必然的に私の運用成績も似たものになるはずという単純な発想です。

上のYoutubeで、Mohnish Pabraiが投資の考え方を紹介しています。成功の秘訣として、「高い絶対リターンを目指すこと」を上げています。具体的には、年率26%で30年運用して資産を1000倍にすることを目指したそうです。ようやく謙虚に成功者を真似することに目覚めた私も、同じく年率26%で30年運用して資産を1000倍にしようと決めました。

年率26%で30年運用すると決めて変わったこと

年率26%で長期間運用できる投資家はほとんどいません。例えば、過去10年で最も運用成績が高かった日本の投資信託でも年率10%程度です。

関連投稿】長期的に高い運用実績を残している投資家の真似をしよう

どうすれば高いリターンを達成できるのか?必然的に投資プロセスを洗練させることにつながります。基本戦略としては、2-3年で最低2倍になると思えない会社には投資しないことです。以前の私であれば、「そんな投資先はない!」と反射的に思ってしまっていました。実際に、そんな投資先はほとんどありません。でも、全くないのと、ほとんどないことには天と地ほどの差があります。四季報の通読や、有力投資家の投資先をカンニングすることで、そうした投資先を見つけることができるという自信を得た1年でした。

2016年の運用成績は+25.9%

年末の株高にも助けられ、2016年の運用成績は+25.9%となりました。目標としている年率26%まであと一歩でした。12月に購入を始めた株の上昇スピードが速く焦ってしまい、自らの投資ルールを破って買い急いでしまったことで高値掴みとなり、年率26%を達成できなかったことが悔やまれます。2017年に向けて具体的な改善ポイントも見えているので、来年も楽しみです。

みなさまにとって、2017年がますますよい1年となりますように。

Happy Investing!!

SMC(6273)の空売り推奨レポートに感動しました

ウェル・インベストメンツ・リサーチのSMCレポート

12月13日、弁護士兼投資家の荒井裕樹さん率いるウェル・インベストメンツ・リサーチから『会計神話をパンクさせよ』というSMC(6273)空売り推奨レポートが発行されました。

ウェル・インベストメンツ・リサーチは調査レポートを投資家に販売することを事業としており、自らポジションを取ることはしていないようです。

SMCは空気圧機器の世界トップシェア企業

関連資料】SMC(6273)の長期業績レポート

SMCは5000億円近い売上の空気圧機器の世界トップシェア企業です。他社を圧倒する営業資源を投下し、また多くの在庫を抱えることで短納期を実現する戦略で、世界各地で着々とシェアを高めてきました。空気圧機器は自動化するために欠かせない製品なので、どんな工場へ行ってもSMC製品を見つけることができます。

私は機関投資家時代にSMCを調査した気になっていました

私はキャピタル・グループという米系投資顧問でアジアの機械セクターのアナリストをしていたことがあります。SMCも調査対象企業の一つで、時価総額も大きかったことから色々と調べました。経営陣への取材はもちろん、欧州、中国、米国の製造販売拠点を訪問した上で投資もさせて頂いていた、思い入れのある会社です。

スイスで会った欧州事業トップには、「ここまで足を運んでくれた投資家は初めてだ」などと持ち上げられ、自分ほどSMCについて知っている投資家はいないなどと思い込んでいました。しかし、今回のウェル・インベストメンツ・リサーチのレポートを読んで、自分の調査は実に足りなかったなと反省しました。

ウェル・インベストメンツ・リサーチのレポートから学んだこと

このレポートではSMCの在庫レベルを問題にしており、在庫評価損を計上すべきだとしています。さらに、グローバル企業になった今でも小さな会計事務所が会計監査を行っており、財務諸表の数字が実態を表していないとしています。

世界中の子会社が提出している財務諸表を実際に取り寄せ、有価証券報告書と辻褄が合うかを細かく調べており、素晴らしい内容です。私はSMCの高い在庫レベルを競争戦略の一環としかとらえていませんでしたが、このレポートの指摘に納得する点が多くありました。

まとめ

個人投資家が、高い水準の調査レポートを読める機会は滅多にありません。このようなレポートを読むと、自分の調査水準の低さを反省するとともに、調べれば調べるほど理解できる深い世界があるんだな希望を持ちます。

ウェル・インベストメンツ・リサーチのように、本当に独立した立場で調査レポートを書ける人は少ないです。例えば証券会社は、調査部門が客観的なレポートを書きたくても、投資銀行部門にとって上場企業はお客さんになります。今回のように企業を鋭く批判する内容を書けば、投資銀行部門としては仕事をもらえなくなるどころか、おそらく出入り禁止になるでしょう。

私は、多くの意見があればあるほどより良い資本市場につながると思っています。このようなレポートは市場の開示性や透明性を高めることつながると思い、高く評価しています。ウェル・インベストメンツ・リサーチのみなさま、ありがとうございます。

Happy Investing!!

 

会社四季報通読のすゝめ

会社四季報2017年新春号の発売日です

今日は会社四季報2017年新春号の発売日です。会社四季報は東洋経済が年4回発行しており、たったの2000円で日本のすべての上場企業を俯瞰することができる素晴らしい資料です。

四季報の通読が最もバイアスの少ない調査方法

私は、四季報の発売日が楽しみで仕方ありません。なぜなら、四季報を通読して投資対象企業を探すことが、最もバイアスの少ない投資調査方法だからです。

四季報の通読は、私が尊敬している個人投資家の角山智さんも一押しの手法です。

リンク】角山さんのホームページ。ショートコラムを愛読しています。メルマガ登録もお忘れなく。
リンク】角山さんが四季報通読に関して書いたメルマガ

2016年9月に購入して3か月間お世話になった四季報2016年冬号にお疲れ様でしたと言い、心機一転まっさらな四季報に向かいます。過去に調べたことのある企業に対しても思い込みを捨て、1社1社に思いを巡らすことで、毎回新しい発見があります。

日本の上場企業投資の対象は4000社しかありません。年に4回、自分に与えられた選択肢の全てに目を通す作業を繰り返すことで、企業の選別眼が養われていくと実感します。

何より、こうした地道な作業を行っている投資家は少ないです。当たり前のことを当たり前にやって、差別化していきましょう

Happy Investing!!

上場企業への株式投資は付加価値が薄い

上場企業への株式投資は付加価値が薄い

経営者と対話することで投資リターンの向上を目指す、みさき投資株式会社の中神社長が書いた『投資される経営 売買される経営』を読みました。コンサルタント出身の投資家である中神社長ならではの、投資と経営の世界を橋渡しする素晴らしい内容になっています。

本書の冒頭に、「投資事業は付加価値が薄い」という刺激的な文章が出てきます。機関投資家に勤めていたころの私が聞いたら、プライドも高かったので「そんなことはない!」と言い返していたと思います。でも、今は「本当にその通りだな」と思います。自分のやっていることは付加価値が薄いと言われると嬉しくはないのですが、事実は事実として受け入れた上で対処しないといけないと思います。

事業で大切なのは、変数をコントロールする力

私が事業において大切だと思うのは、変数をコントロールする力の有無です。例えば、ブランド力があるために価格決定力がある商品(例:コカ・コーラ)と、常に価格競争にさらされる商品(例:PBコーラ)があるとします。仮にコカ・コーラとPBコーラの味が全く同じであったとしても、2つが同じ価格で並んでいたら、ほとんどの人はコカ・コーラを選択します。これこそブランド力であり、それを維持拡大するため、コカ・コーラ社は世界で年間4000億円もの宣伝広告費を使っているのです。実際には、価格で競争する以前に商品スペースが限られる小売店にPBコーラを置いてもらうことさえ難しいでしょう。

コカ・コーラとPBコーラのどちらが事業として魅力的か言うまでもありません。ブランド力が高く価格決定力を持つ前者は付加価値が厚く、プライステイカーである後者は付加価値が薄いのです。私は投資家として、常に付加価値の厚い企業を探しています。付加価値が厚いほど、様々な経営環境に適応することができ、結果として収益性を維持できる可能性が高いと考えているからです。

上場企業への株式投資では、変数は6つしかない

上場企業への株式投資において、投資家がコントロールできる変数はたったの6つしかありません。付加価値が事業における選択肢の多さで測れるとすれば、これほど付加価値の薄い事業はないでしょう。

1、投資対象企業
2、購入時期
3、購入価格
4、ポートフォリオ全体のうちの投資比率
5、売却時期
6、売却価格

付加価値が薄いからどうするのか?

まず、株式投資は付加価値が低いという事実を良く認識する必要があります。結果として私は、株式投資には次の2つの方法しかないと思っています。

1、変数のコントロールを諦め、低コストで幅広く分散投資する(パッシブ投資)
2、変数が限られていることを認識した上で、その精度を高める(アクティブ投資)

変数をコントロールする自信がない、もしくはそんなことに自分の時間やお金を投資したくないのであれば、素直にそれを認めて分散投資すれば時間も無駄になりませんし、結果として中途半端な選択をしてしまうほとんどの投資家よりよい運用成績が残せるでしょう。逆に、変数を他の市場参加者よりうまくコントロールして稼ごうとするのであれば、そこには時間やお金の投資が必要となります。

中途半端な投資スタイルが一番危険

投資における①と②は全くの別世界です。①から徐々に②に移動することはできませんし、ほとんどの人は①にいるべきだと思います。プロの機関投資家が1日何時間もかけて企業調査をしている中で勝てる見通しを持つのは大変なことです。しかし、局所的には例外もあります。例えば製薬業界に勤めている人であれば、勝手知ったる製薬企業への個別投資に限定すれば、②の領域でも競争優位性があるのかもしれません。

まとめ

上場企業投資は本質的に付加価値の薄い事業です。その事業特性を理解した上でアクティブ投資を選ぶのであれば、自分に競争優位性があると自信を持てる戦略を見つけることが大切だと思います。

Happy Investing!!

 

 

 

 

 

調査対象企業の探し方:優秀な知り合いが転職した会社

モルガン・スタンレー証券の同期会で思い出すこと

先日、モルガン・スタンレー証券東京オフィス2004年入社同期の忘年会がありました。入社して10年以上が経ち同期の9割以上が転職していますが、初回から幹事を務めてくださるTさんのおかげで、今年もみんなの元気な顔を見ることができました。ありがとうございます。

さて、この忘年会で毎年思い出すことがあります。それは、「転職している同期がいたら、その企業を投資対象として調べる」ということです。このスクリーニング方法に気が付いたのは、エムスリー(2413)という医療従事者向けの情報サイトで製薬会社の情報提供支援をしている企業がきっかけです。実は、同期のうち2人が別のタイミングでこの会社に転職したのです。1人は2010年、1人は2013年だったと記憶しています。その時の私は、「へー、30人くらいしかいない同期が2人も同じ会社に転職するなんて珍しいこともあるんだな」くらいにしか考えていませんでした。ちなみに、2010年末の株価は350円、2013年末の株価は1300円、今の株価は2600円です。逃した魚は大きいのです。

関連資料】エムスリー長期業績レポート

優秀な知り合いによる企業調査の結果が分かるのが転職先

仕事人にとって、会社ほど多くの時間を過ごす場所はありません。どの会社を選ぶかによって仕事人生は大きく変わったものになります。そういう理由から就職先を真面目に選ばない人はいないし、選択肢が多い優秀な人であればあるほど、より綿密な企業調査の結果として転職していると考えることが出来ます自然です。まずは純粋に知り合いのキャリアアップを喜び、投資家の立場として彼らの企業調査の結果を利用させて頂くことができるのです。

社会人経験を積んだ後最初の転職先情報が特に有用

自らの経験を振り返っても、新卒のときには会社というものが分かっていないものです。一般的な評価に左右されて選びがちです。しかし、社会人になってビジネス上様々な企業と触れ合う中で、自分の企業観が出来上がっていきます。こうして選別力が高まったときに行う転職という行動にこそ、多くの情報価値が含まれていると思います。

まとめ

転職は、綿密な企業調査の結果です。その人が、自分の人生をよりよく導くために知恵を絞って考えた結果ですから、耳を傾ける価値があると思いますし、実際に自分の知り合いの転職先はよい投資候補となりうる企業ばかりです。

特に情報価値が高いのが、社会人経験を5年ほど積んで企業の選別眼を養い、かつ優秀なために引く手あまたという方が行う転職です。知人のキャリアアップを喜び、投資情報としても有り難く活用させて頂きましょう。

Happy Investing!!

調査対象企業の探し方:自社株買い

【注記】本投稿は、長友威倫が別のブログに書いた記事をアップデートしたものです。

大東建託にみる自社株買いの効果

調査対象企業として、自社株買いの有無が一つの目安になります。今日は、具体的な自社株買いの調べ方について書いていきます。対象企業は大東建託(1878)。私が知る限り、日本で最も積極的に自社株買いをしている企業です。

発行済み株式数の調べ方

さっそく、大東建託のIRページに行きます。右にある決算資料へのリンクをクリックして、さらに2016年3月期を選びます。 有価証券報告書をクリックして開きます。これが、上場企業が提出を義務付けられている書類のうちで一番詳細なものになります。2016年3月期の有価証券報告書は全166ページもありますが、どこに必要な情報が書いてあるか分かってくれば、慣れてきます。5~6ページに、過去5年間の経営状態のまとめが載っています。6ページに、「発行済株式総数」とあります。

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この数字を、過去にさかのぼって集めます。ちょっと面倒ですが、コツコツ手作業でやっています。以下のようになります。

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過去14年間、自社株買いによる大東建託のリターン押し上げ効果は年率4%!

過去14年間で、大東建託の当期純利益は年率8%で成長。自社株買いによって株式数が年率4%で減ったので、EPSは年率12%で成長。さらにPERが2002年の12xから直近では19xに拡大したことで、年率3%の株価押し上げ効果があります。利益 x 株数 x PERの力が合わさり、大東建託の株価は2000円から16000円まで、年率16%上昇してきました。株価を上げる大切な構成要素のうちの一つが自社株買いであること、伝わりましたでしょうか?

私も、このような3拍子そろった銘柄を見つけて長期保有したいです。長きにわたって日経平均は不調ですが、輝く個別銘柄は必ずあります。必ず見つかります。頑張って探しましょう!

大東建託のみなさま、素晴らしい事業運営と株主還元によって理想的な株価形成を見せて頂き、ありがとうございます!

Happy Investing!!

 

調査対象企業の探し方:スピンオフ

【注記】本投稿は、長友威倫が別のブログに書いた記事をアップデートしたものです。

スピンオフとは

スピンオフとは、ある企業から部門が切り離され、独立した企業となることです。切り離す理由は様々ですが、本業に集中するため、利益が出ないため、など。問題を抱えた事業であることも多いのですが、一方では本質価値との乖離が起きやすい構造的要因も抱えています。

企業Aが部門Bを企業Bとしてスピンオフすると仮定します。この場合、企業Aの株主には、新しく産まれた企業Bの株式が付与されることが多いです。しかし、機関投資家のなかには、企業Bの時価総額が小さすぎるなどの理由により、強制的に売却させられることがあります。この売り圧力によって、企業Bの本質価値に対して株価が安くなる可能性が高まります。

私は、スピンオフを理想的な起業形態だと感じます。サラリーマンの枠に収まりきらない人物が、親会社のサポートを受けて起業する。つまり、社長は組織内でも評価される人物だということです。さらに事業が軌道に乗ったところで、資本関係を超えてより広く取引したいと独立企業となる。顧客基盤もできていますし、あとはより大きな市場を狙うだけです。経営者にしても、今後は親会社の社内規定を超えて、成功しただけ自分にリターンがある訳ですから、モチベーションも高そうです。良いことづくめに思えます。

スピンオフ事例:富士電機 → 富士通 → ファナック

著名な例として、1923年に設立された富士電機の電話部所が分社化して、1935年に富士通となります。さらに、富士通の計算制御部から、1972年にファナックが子会社として独立します。

現在の時価総額は:

親:富士電機 (6504) 4500億円
子:富士通  (6702) 1兆5000億円
孫:ファナック(6954) 4兆1000億円

子が親を超え、孫が子を超える。このようなスピンオフの可能性に、常に目を光らせておきたいです。

Happy Investing!!

日本郵船、商船三井、川崎汽船のコンテナ船事業統合を長期業績から検証する

日本郵船、商船三井、川崎汽船のコンテナ船事業を統合した新会社が発足します

12月5日の日経新聞朝刊5面に、日本郵船、商船三井、川崎汽船のコンテナ船事業を統合した新会社発足についての記事がありました。ニュースはなかなか客観的事実を掲載してくれないので、自分で集めることになります。

過去10年でコンテナ船は7年以上赤字。不定期専用船の利益で穴埋めしてきた

有価証券報告書から各社のセグメント情報を調べると、定期船・コンテナ船事業は過去10年で7年以上赤字を計上していることが分かります。逆に、不定期専用船事業は過去10年で2年しか赤字がありません。リーマンショック前に運賃が高かった時代に大量発注された船舶が完成したことによって需給が崩れたことは確かですが、定期船と不定期船では崩れ方に差があるのです。

定期船・コンテナ船事業が儲からない理由

Wikipediaで、定義を確認しました。
定期船  = 一定の航路を、定期的に航行する船舶
不定期船 = 特定の航路を定めず、貨物の有無によりその都度運航される船舶

定期船は荷物の有無に関わらずに運行するので、需給に合わせて柔軟に供給量を調整できないことが想像できます。船舶は固定費ビジネスなので、空きスペースがあれば極端な話、どんなに安く受注しても収益貢献します。各社で価格競争を行った結果、全員がダメージを受けると言う典型的な囚人のジレンマ状態が発生しています。これを抜本的に解消するには、船舶を減らすしかありません。そんなこと百も承知でしょうが、自分の船を減らしたい船会社はありません。足並みが揃わないまま、ズルズルと低収益環境が続いてしまいます。

このような、どの会社に運んでもらっても変わらないようなコモディティーを提供している場合、苦しい時期を耐え忍んだ会社に残存者利益が与えられる体力勝負になるので、合併が起きやすいです。結果として世界上位のMaerskとMSCが15%程度のシェアを持っています。今回の合併でできる新会社は、7.5%程度のシェアでしょうか。単体よりはだいぶましですが、まだまだ体力勝負に自信が持てる規模ではありません。

世界のコンテナ船シェア 【出典】 https://youtu.be/EFgDc1fe8DI

不定期専用船の収益性も下がっているなか、定期船・コンテナ船切り離しは抜本的な解決にならない

不採算事業からの撤退が遅れると、敗走が続く悪循環に入ってしまう

ようやく定期船・コンテナ船の切り離しに合意できた3社ですが、ダラダラと不採算事業の切り離しを先送りにしてきたため、収益力の高かった不定期専用船事業の収益性まで下がってきてしまいました。世界全体での船舶供給過多が主因ですが、企業単位でも不採算事業の延命に資源を割いていると、ほかの事業の収益力を維持するための資源配分がおろさかになる悪循環も想像されます。

リーマンショック後、日立の経営危機に社長就任した川村さんの言葉を思い出さずにはいられません。

[aside type=”normal”]経営者の仕事は各事業の将来性を見極め、そろそろピークアウトすると分かった事業から早めに手を引くことだ。業績が悪化してからでは手遅れになる。 [/aside]

[aside type=”normal”]一度決めたら心を強く持ち、周囲がどう言おうと最後までやりきることが大切。 [/aside]

関連投稿】日立の経営危機に社長就任した川村さんが語る経営者の役割

不定期専用船事業でも同じことが起きると予想する

今後数年を見通すと、造船所の受注残は少なく船舶供給量も減ってきます。需給がバランスして海運運賃が改善すれば、コンテナ船事業切り離しで固定費が軽くなったこともあり、一時的に海運各社の業績は回復するかもしれません。しかし、構造的には不定期専用船も規模の経済が決め手となるビジネスです。次の運賃低下局面では、おそらくさらに市場の寡占化が進んでおり、また日本の各社は苦境に立つでしょう。そのときまでに、収益を支えられる事業を育てられるのでしょうか?

まとめ

事業が不採算化してからの撤退には、苦しみしかありません。それにしても、過去10年中のうち7年赤字でもコンテナ船事業を続けてしまう海運各社の経営陣は何を考えているんでしょうか?彼らは何を最大化しようとしているのでしょう?何にせよ、それが株主価値ではなさそうなので、私は彼らと同じ船に乗ることはできません。

今回のコンテナ船の切り離しは当然として、一歩踏み込んで、収益が低下しつつあるがまだ瀕死ではない不定期専用船事業も統合できたらインパクトがあったと思います。自らの社長任期の先を見通して経営判断する難しさを感じさせるニュースです。

Happy Investing!!

日経225の証券会社3社を比較して感じるオーナー意識の重要性

日経225に採用されている証券会社は、野村・大和・松井の3社

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インターネット証券の先駆け、松井証券をご存じですか?

日経225に採用されている証券会社は3社あり、野村ホールディングス・大和証券・松井証券です。野村証券と大和証券は町中にも支店がたくさんありますし、広告も目にすることも多いと思います。一方、松井証券の名前を耳にする機会は少ないのではないでしょうか?

1918年創業の松井証券は長らく一般的な中小証券会社でしたが、1995年に社長就任した松井道夫が周囲の反対を押し切り、インターネット証券に参入して大きく成長します。

インターネット証券には長期間トップを務める経営者が多い

証券会社の時価総額を見ると、野村・大和という2大証券会社以外に大きな店舗型証券会社はなく、ネット証券の中で松井証券はトップグループに位置していることが分かります。また、ネット証券は黎明期から長期間トップを務めている経営者が多いことも分かります。

社長の任期が長いことから個人資産に占める保有株式の割合も、ネット証券各社の方が高くなっています。特に松井証券は、配偶者と資産管理会社を含めると保有比率は50%に近く、時価総額にして1000億円以上になります。

野村・大和・松井の長期リターンを比べてみる

2016年3月までの14年投資リターンでは、松井証券が圧勝

3社に2002年3月末から2016年3月末まで14年間投資したとすると、以下のリターンになりました。

大和:年率 +1.3%(100円が120円になった) 
野村:年率 -6.9%(100円が37円になった)
松井:年率 +7.7%(100円が283円になった)

店舗型証券からネット証券への移行期ということもありますが、野村と松井のリターン差が大きくて驚きました。次に、個別要因を見ていきましょう。

松井証券の勝因 その1:リスク管理

売上を比べると、大和は4000億が6000億へ(年率+2.1%)、野村は1.1兆が1.7兆へ(年率+3.1%)、松井は130億が340億へ(年率+7.3%)と拡大します。仮に売上成長率の差は、経営努力ではなくネット証券成長期の追い風によるものだとしましょう。しかし、3社の長期リターンには売上成長以上の差以上の開きがあります。これはなぜでしょう?

手数料中心の証券会社のビジネスモデルにおいて景気循環の影響は避けられません。しかし、避けられないからこそ好況期にも準備を怠らないか、好況期にイケイケで投資してしまい、不況期に損失を出すかは経営者のリスク管理能力です。大和と野村がリーマンショック以降に赤字を計上したのに対して、松井は売上がピークから1/3になっても黒字を維持しています。従業員数の推移を比べると、松井証券は好況期の2002年3月から2008年3月にかけて正社員数を200人から100人へ約半減させて固定費を落としていることに驚きました。業容を拡大したくなりそうな時期に真逆の行動ができるところにリスク対応の高さを感じます。

松井証券の勝因 その2:資本配分

リーマンショック後に赤字に陥った大和と野村は、株価が安い状況で公募増資を余儀なくされます。一方でリスク管理に優れる松井証券は、株価が安い状況で自社株買いを行います。このように、リスク管理は当期利益に影響するだけでなく、キャッシュフローの有効利用によって株式数をコントロールしてさらにEPSを高めることにつながります。

大和証券

野村ホールディングス

松井証券

まとめ

日経225に含まれる証券3社を比べると、松井証券の優位性が際立ちます。ネット証券普及の追い風を除いたとしても、リスク管理能力と資本配分能力の高さは明らかです。特に、好況期に従業員数を半減させる経営判断はなかなかできるものではありません。

こうした経営判断の違いの原因が、オーナー意識にあると考えています。一族の資産1000億円を預かり20年以上の経営実績を持つ松井社長と、自己資金1億程度を投資して5年社長を務めるかどうかの野村、大和という大証券会社。今後10年間、3社の中から一つ証券会社パートナーを選ばなくてはいけないのであれば、私は間違いなく松井証券を選びます。みなさんはどうしますか?

関連】長期業績レポート:大和証券(8601)
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ラストマン意識で投資する

日立の経営危機に社長就任した川村さんが語るラストマン意識

関連投稿】日立の経営危機に社長就任した川村さんが語る経営者の役割

先日の投稿で、リーマンショック後に日立の構造改革にあたった川村さんを紹介しました。素晴らしい経営者だと感銘を受け、著書『ザ・ラストマン』を読みました。ラストマンとは、「最後に責任を取ろうとする意識のある人」のことです。本書のまえがきより、私の心に響いた言葉を抜粋しました。

[aside type=”normal”]若い方のなかには、自分一人が変わってもどうしようもない、と考える人もいるかもしれません。たしかに、大きな改革は、経営トップの意識が変わらなければ不可能です。それでも、一人ひとりが自分で責任を持つ意識を持たなければ、会社が変わるきっかけも生まれないのではないでしょうか。

ちょっと厳しく聞こえるかもしれませんが、会社内に”お仲間”をつくっていても意味がありません。たくさんの人と”話し合い”だけを続けても変化は起きません。外部環境に責任を押しつけても仕方ないでしょう。結局、自分がやるしかないなーそんな感覚で、しかし楽観的に、淡々と実行を続けることこそが重要です。[/aside]

ラストマン意識が持ちやすいことは投資の魅力

この本を読んで、私は自分がなぜ投資が好きなのかよりよく理解できました。それは、投資がラストマン意識を持ちやすい活動だからです。

投資家は運用判断を下し、運用成績という客観的な結果を受け取ります。そこに主観的評価の入る余地はありませんし、私のような個人投資家の立場では誰を責めることもできません。

「やる気」や「頑張り」は大切だと思いますが、やはり理にかなった投資戦略に従って正しい方向に努力しないと結果は出ないと思います。自分では頑張っているつもりでも、それが正しい方向に向かっているのか自信が持てないときがあります。投資においては、市場が客観的な答えを与えてくれます。年を重ね、なかなか他人が自分の改善点を指摘してくれないようになっても、市場はそんなことお構いなしです。お陰で投資家は、いつまでも謙虚に成長を続けることができます。

William Hurt 【出典】Capital Group Website

前職のキャピタル・グループで、William Hurtという80歳を超える投資家と仕事をする機会に恵まれました。60年以上の運用経験を有する方ですが、子供のように好奇心に満ちたキラキラとした目が印象に残っています。新人に対しても、「お前はどう思うんだ?」と常に学ぼう、対等に話を聞こうとする姿勢を尊敬しています。稀代の投資家、Warren Buffettは86歳になりましたが、「日々成長している」と語っています。自分もそのように歳をとりたいです。

謙虚に、しかし楽観的に、淡々と投資に励んでいきましょう。

Happy Investing!!