株主総会雑感

株主総会が6月に集中する理由

上場企業への投資家にとって毎年5,6月は忙しいです。3月末決算の企業が多い日本では、本決算が5月に発表され、株主総会が6月に開催されるからです。株主総会は決算日から3ヵ月以内に開催することがルールなので、3月末決算→6月下旬の株主総会 となるのです。

2017年はこれまで3社の株主総会に出席

2017年は、今のところ12月決算の会社1社(総会は3月)と、3月決算の会社2社の計3社(総会は6月)の株主総会に出席しました。同じ株主総会と言っても企業によって違いがあり、定性評価のための貴重な情報源だと思っています。

① 日本管理センター@東京国際フォーラム

株主からの活発な質疑応答が印象的。10人以上質問していた。CFOの方は、「ここ数年は株価が伸び悩んでいるが、弊社の株主からは株価についての質問が一切出ないのでありがたい」とコメント。株主総会では、会社説明会で良く顔を見かける個人投資家の方も複数出席しており、事業内容をよく調べ理解している真面目な個人投資家が多い印象を受ける。総会後は立食形式で経営陣との懇親会。経営陣とはろくに話さず、食べ物にむらがる株主(主に高齢者)が多いのは残念だが、直接経営陣の方々とお話しする機会を作ってもらえるのは嬉しいし、オープンな社風を感じます。お土産はなし。

② トランコム@名古屋

ヤマトの業績下方修正からの値上げ要請など、ニュースの多い物流業界の企業。業績は伸び悩んでおり、心配する株主から活発な質問が出ると期待して名古屋まで出かけました。200人以上参加した総会でしたが、なんと質問は3回だけ。そのうち2回は私で、残り1回は、取締役の選任について「みなさんから一言づつ」という質問とは言えない内容。あまりに質問が出ないことに逆に自分が驚いてしまい、質問をしてはいけないかのような場の空気に負けて2回で質問を止めてしまったことが反省点でした。私が2回目に質問している最中には、おじいさん達が周りに聞こえるような声で私語を始める始末で、株主の質が低いと感じざるを得ません。なぜ質問もする気がない株主が大量に出席しているかと言うと、「お土産」がもらえるから。今年はバームクーヘン。多くの株主は、バームクーヘンをもらってさっさと家路に着きたいのでしょうか。それなら、お土産だけもらって参加せずに帰ればいいのに。私は、業績を上げて株価を上げることでリターンを得るという株式投資の王道に興味を持たない株主を集めてしまう、株主優待とお土産が大嫌いです。

③ エイジス@幕張

棚卸サービスを提供する会社。本社が幕張駅から遠い上に、ボロくてビックリしました。取引先だったスーパーが閉店したところを、居抜きで本社にしたとか。徹底したコスト意識を体感できます。そんな会社ですから、もちろん総会のお土産はなし。つまり総会に出席する株主は事業に興味がある人だけです。質問もまともな内容が6問ほどあったでしょうか。帰り道に20年以上も株式を保有しているという株主の方と長話できたことが嬉しかったです。会社の歴史を良く知る方で、勉強になりました。

まとめ

いかがでしょうか?たった3社の株主総会でも、これだけバラエティに富んでいます。是非、株主総会に足を運んでみてください。自分の五感を総動員して、社風や集まっている株主の様子を観察してください。そして、「この人たちと同じ船に乗り続けたいのか?」と自問自答してみてください。数字を超えて企業を生き物として感じられるようになるので、楽しいですよ。

Happy Investing!!

日経平均採用企業の長期業績から見えること

2002~2016年まで14年間の投資リターン

【参考ファイル】日経平均採用銘柄長期リターン

2016年11月に日経平均採用225社の長期業績レポートをまとめ始め、先週ようやく終了しました。225社の中には合併した企業もありますので、15年間の業績を比較できる企業は195社ありました。

例えば3月決算の会社であれば、2002年3月末に購入して2016年3月末まで14年間保有した場合(配当再投資)のリターン分布は以下の通りです。平均値は年率4.7%、中央値は年率4.8%でした。しかし、日経平均の同期間のリターンは年率3.0%と大きく劣後しています。これはどうしてでしょうか?

14年投資リターン(配当再投資)分布

理由の一つは、日経平均には配当が含まれていないこと。二つ目には、日経平均は構成銘柄の平均値ではなく、株価の絶対水準によって構成比重が決まっていることも関係しています。例えば、ユニクロを展開するファーストリテイリング(9983)の株価は36000円と絶対水準が高いため、225社の一つに過ぎないにも関わらず、日経平均における寄与度は8%以上もあります。逆に時価総額ではトップのトヨタ(7203)の寄与度は2%しかありません。

出典:PRESIDENT Online

投資リターントップは楽天だが、採用時期が遅すぎた

投資リターン上位と下位の10社をみてみましょう。1位は楽天で、14年間のリターンは21倍と素晴らしい数字です。しかし、日経平均に採用されたのは、高成長が終わった2016年になってからでした。日経平均に採用されるということは、大企業になったということです。しかし、残念ながら日経平均採用後も高成長を続けることができる企業はほんの一握りです。

楽天の株価(出典:kabutan.jp)

売上成長率は平均年間3.1%。今後はもっと下がるだろう。

次に、日経平均採用企業の長期売上成長率を見てみます。14年平均年率10%以上で売上を伸ばせた会社は8社しかなく、平均値は3.1%、中央値は2.5%です。GDP成長率は上回っていますが、これが大企業の実態です。今後は人口減少からますます需要が減少するでしょう。その中で、日経平均採用企業の売上成長率は1%台に低下すると考えるのが妥当ではないでしょうか。高い成長率を想定して企業へ投資する際には、根拠を確認する必要がありそうです。

成熟企業といえば株主還元するはずが・・・

成熟企業の売上成長率が低いのは仕方がないことです。業界内でカッコたる地位を築き、シェアも高いことから競争が限定的で潤沢なキャッシュフローを創出し、そのキャッシュフローを株主に還元してくれればいう事はありません。株主還元の手法と言えば、配当と自社株買いですが、現実はどうなっているのでしょうか?

下に株数の変化をグラフにしました。平均値が年率-1%ということは、年に1%づつ発行済み株式数が増えたということです。リーマンショックを挟み、安い株価を利用して自社株買いをしたいところでしたが、逆に本業が痛んでしまった企業が多く資本調達に追われてしまった様子がわかります。

まとめ:日本の大型株への投資は難しい

日経平均採用企業は、日本を代表する225社です。私であれば、こうした大企業は成熟企業なので高い成長率は求めません。代わりに、潤沢なキャッシュフローを元にした、株主還元に投資リターンの源泉を求めます。

しかし、長期業績レポートをまとめて改めて感じることは、株主還元が上手い会社は非常に少ないということです。日本の経営者の多くは叩き上げとして、社内で頭角を現して出世します。ある特定事業のオペレーションには精通しているかもしれませんが、経営者の最大の仕事は限りある資本をどのように分配するかということです。資本配分の訓練や経験のある経営者が日本には少ないため、株主還元の巧拙が投資リターンを決定付ける成熟局面での日本大型株リターンは低くなってしまうように感じます。

改めて日本の大型株への投資は難しいなと感じました。個人投資家の強みである資金量の小ささを活かすべく、時価総額の低い企業群の開拓を続けることになりそうです。

Happy Investing!!

長期業績レポート(東京電力、中部電力、関西電力、東京ガス、大阪ガス)

長期業績レポート

9501 東京電力
9502 中部電力
9503 関西電力
9531 東京ガス
9532 大阪ガス

日経225採用企業の長期業績レポート一覧

ひとくちメモ

2016年11月にはじめた日経225採用銘柄の長期業績レポートですが、いよいよ今回で最終回です。有終の美を飾ってくれるのは、毎日の生活でお世話になっている、電力とガス会社です。

日本では、電力会社10社が地域独占的に電力を供給するという、世界的にも珍しい(時代遅れな)仕組みを採用し続けています。現状を維持したい電力会社は「電力を安定的に供給するには現行の供給体制維持が不可欠」と当然に主張しますが、ヨーロッパなどでは国境を越えた電力取引も当たり前に行われている現実を見ると、電力会社の主張には首をかしげしまいます。

地域独占ということは電力会社同士は競争する必要がなく、横並びな発想になるのかなと想像します。ふと、東京電力、中部電力、関西電力の配当金額を比べてみると、各社とも年間60円配当を基本にしていることに気が付きました。まさか、配当水準まで横並びなのかと思い、電力会社全10社の配当金額の推移を調べてみて、驚きました。

上の表から分かるように、福島原発以前の日本の電力会社、本当に配当水準まで50円~60円で横並びだったのです!!!!東京電力は2007年3月期、2008年3月期に他社を一歩リードする70円配当、65円配当を行っていますが、「電力業界のリーダーは俺だぜ!」という井の中の蛙の叫びに聞こえます。日本に10社しかない狭い業界で、生活必需品を提供しながらお互い競争もしないというぬるま湯の中で、お互いに顔を見合わせながら配当水準まで一定にしていたことにはショックを受けました。一体何を目指して経営しているのか、理解に苦しみます。

2012年3月期以降は、配当水準にバラつきが出ています。安定配当を維持している3社(中国電力、北陸電力、沖縄電力)とその他です。他の先進国では当たり前の発送電の分離も2020年4月からようやく導入されます。電力会社の横並び体質がどこまで変わるのか、楽しみです。

Happy Investing!!

長期業績レポート(日本郵船、商船三井、川崎汽船)

長期業績レポート

9101 日本郵船
9104 商船三井
9107 川崎汽船

日経225採用企業の長期業績レポート一覧

ひとことメモ

【関連投稿】日本郵船、商船三井、川崎汽船のコンテナ船事業統合を長期業績から検証する

日本の大手海運3社を取り上げてみました。3社のうち、日本郵船と商船三井の株式を2002年3月末に購入して、2016年3月末まで14年間保有したとすると、配当も含めたトータル  リターンはマイナスという哀しい結果になりました。しかし、2007年には株価が2002年対比で3倍になったような局面もあったのです。

日本郵船(9101)の長期株価推移(kabutan.jpより)

海運業界は、一番好不況のサイクルの長い業種の一つです。海運の運賃は完全に需給バランスによって決まる世界です。コンテナをどの船会社で運ぼうが誰も気にしないので、海運会社の業績も完全に需給バランスによって決まります。需要は世界経済の伸びに合わせて一定の伸びがありますが、供給サイドは海運市況によって大きく上下動してきたのが、これまでの歴史です。(1)運賃が高くなると、船会社はこぞって造船所に発注します。(2)船はすぐに完成しないので、出来上がる3年後には供給過多により海運市況が反落して船会社は大赤字になるというのがお決まりのパターンです。(3)運賃が安くなれば新規造船はストップします。長い供給過多の時代です。(4)時間をかけて供給過多が解消されると、また海運市場が引き締まり、(1)に戻ります。

海運事業の問題は、この(1)から(4)の時間軸が極端に長いことです。山高ければ谷深しとはよく言ったもので、需給が締まったときに新規造船を発注しすぎてしまうのです。そして、業界全体で供給過多になり業界全体が苦しむという構造的な問題を抱えています。下のグラフから分かるように、海運市況の好不況は30年という非常に長いサイクルになっています。現在のは2008年から下降トレンドに入っていますが、歴史が繰り返すのであれば、2020年前には陰の極を迎えるかもしれません(前回の陰の極であった1987~90年+30年)。

 

海運市況は約30年周期で動いている(Clarkson Researchより)

海運、造船各社が苦しみ喘いでいる今、この業界に興味をもっている投資家は少ないと思います。こういうときこそチャンスであることが多いです。

Happy Investing!!

長期業績レポート(日通、ヤマト、ANA、三菱倉庫)

長期業績レポート

9062 日通
9064 ヤマトHD
9202 ANA
9301 三菱倉庫

日経225採用企業の長期業績レポート一覧

ひとくちメモ

日経225採用銘柄のうち、物流、空運、倉庫業に分類される4企業の長期業績レポートをまとめました。

各社とも、利益成長に苦しんでいる様子が伝わってきます。例えば日通とヤマトを比較すると、日通は売上成長を多少犠牲にしても利益率を上げてきた一方、ヤマトは売上成長を求めた結果として利益率が犠牲になってしまいました。

理想的な投資先は、売上が伸びることで数量効果が発現し、固定費の伸びを吸収して利益率も上がることです。この好循環に入ると、市場評価も高まるのでPERも高まります。つまり、売上成長率 < 利益成長率 < 株価上昇率 となるのです。こうなる条件の揃った企業を、前職の尊敬するファンドマネージャーは「天国への階段」と呼んでいました。

残念ながら汎用サービスを提供している物流各社は、売上を上げるためには利益が犠牲になり、利益を上げるためには売上が犠牲になるという環境から抜けられていません。つまりEPSが大きく成長することはなく、結果としてPERも切り下がってしまいました。

顧客が物流企業に求めていることは、荷物がA地点からB地点に無事に到着することです。運ぶ人が日通でも、ヤマトでも、佐川でも関係ありません。「これは大事な荷物だから、佐川ではなくヤマトで運ぼう」とは思わないはずです。このような競争優位性の低い事業に投資している限り、なかなか天国への階段を上ることはできなそうです。

Happy Investing!!

長期業績レポート(JR東日本、JR西日本、JR東海)

長期業績レポート

9020 JR東日本
9021 JR西日本
9022 JR東海

日経225採用企業の長期業績レポート一覧

ひとくちメモ

JR各社は、1987年に旧国鉄が旅客6社と貨物会社の計7社に分割されたことで誕生しました。7社のうち、上場しているのはJR東日本、JR西日本、JR東海、JR九州の4社です。JR九州は2016年にIPOしたばかりなので、今回は長期実績を見ることができる3社を取り上げました。株価については前回取り上げた私鉄各社と同様、売上の伸びが年率1%前後と限定的(安定的)な中、利益率の改善が運用成績に直結していることが分かります。

鉄道事業は安定した需要がありますし、新規参入もありません。結果としてキャッシュフローも安定しているので、キャッシュフローに基づいた企業価値評価を練習するには最適な企業です。

JR東日本を例にとってみました。

決算資料によると、JR東日本の2017年3月期の営業キャッシュフローは約6500億円で、維持更新投資は約3400億円でした。あなたがJR東日本の所有者であれば、線路や建物を補修して来年も問題なく使えるようにした状態で手元に残るお金が約3200億円あるということです。このお金はフリーキャッシュフローと呼ばれ、成長投資(設備投資、M&A)や借入金返済、株主還元(配当、自社株買い)の原資になります。

次に、フリーキャッシュフローを割引率で割ることで事業価値を求めます。JR東日本の株式はフリーキャッシュフローの安定性が高いので、毎年決まった利払いを受けることができる疑似債券として捉えることができます。あなたは、年率何パーセントのリターンが得られれば、JR東日本の株式を買うことができますか?私は、割引率8%を株式の基準値として考えています。その上で、事業の強みや成長余地を加味しています。JR東日本で言えば、参入障壁は恐ろしく高く、また代替商品の可能性も低いので、-1%とします。この辺りのさじ加減は、決まりがある訳ではありません。私が、色々と企業価値を評価してきた中で、感覚的に妥当だと思っている水準に過ぎません。割引率は8%-1% = 7%で割り引くと、事業価値は約4兆5000億円です。

事業価値+現預金ー借入金=企業価値となり、約2兆2000億円です。現在のJR東日本の時価総額は4兆3000億円なので、私の企業価値評価の約2倍の市場価値が付いています。私であれば、余裕で見送る投資案件です。

また、市場価格から逆算すれば、現在市場がJR東日本に求めている割引率が分かります。上の図のように、割引率を4.75%に設定すれば、現在の市場価値が説明できます。これは、今の価格でJR東日本の株式を買った時の期待リターンは4.75%になるということです。このリターンで納得できる投資家は購入すればいいし、私のようにより高いリターンを求めている投資家は、株価が値下がりして期待リターンが得られる水準まで値下がりすることを待つ必要があります。

本来は、まず期待リターンを決めないと、フリーキャッシュフローに対していくらまでなら支払えるかを決められないのです。あなたは株式投資からどれくらいのリターンを求めていますか?

Happy Investing!!

長期業績レポート(私鉄5社)

長期業績レポート

9001 東武
9005 東急
9007 小田急
9008 京王電鉄
9009 京成電鉄

日経225採用企業の長期業績レポート一覧

ひとくちメモ

鉄道各社の長期株式リターンを比べてみた。

2002年3月末から2016年3月末までの14年間に渡り保有し、かつ配当金を再投資したという前提になっている。例えば、一番下にある京成電鉄を例に取ると、リターン合計は年率換算で11.9%、100円投資したとすると、14年後に483円(譲渡税前)まで増えている。

さらに、11.9%のリターンを要素分解したものが右手。売上成長が年率1% x 利益率改善が9% x 株数が増えた効果が-1%で、合わせてEPSを年率9%押し上げている。最後にPERが12倍から17倍まで年率換算3%拡大したので、合わせて11.9%のリターンとなっている。

PERに基づいて投資するときには、(1)売上成長、(2)利益率改善、(3)株数、(4)PER、という4つの変数がどのような組み合わせで上昇するのかを明確にした方が良いと思う。

(1)売上に関しては、鉄道事業の特性上、これまでも大きく伸びていないし、これからの人口動態を考えても大きな伸びは期待できない。

(2)利益率はどうだろう?過去14年の鉄道会社への投資リターンの源泉は利益率が改善したことにある。東京ディズニーランドからの収入がある京成電鉄を除けば、ここ数年は各社とも利益率は5%で頭打ちになっている。ここからさらに上振れることができるのだろうか?

(3)株式数の変化がプラスに寄与しているのは京王電鉄のみ。中期経営計画などを見ても、自社株買いによる株主還元の文化は根付いていない。

(4)PERに関しては、京成電鉄の15倍から京王の30倍まで開きがあるようだ。

以上を総合すると、現在鉄道会社を購入して株式の値上がりを期待するには(4)PERの拡大に頼ることになりそうだ。しかし、残念ながらPERも過去最高圏内にある。売上が伸びず、利益率は過去最高の水準にあり、自社株もしない会社がPER20倍以上で取引されているのは、私にはとても不思議に感じる。このような成長がない安定事業はせいぜいPER10倍で取引されるべきだと思うのだが、10年後にはどうなっているだろうか?

Happy Investing!!

長期業績レポート(不動産5社)

長期業績レポート

3289 東急不動産
8801 三井不動産
8802 三菱地所
8804 東京建物
8830 住友不動産

日経225採用企業の長期業績レポート一覧

ひとくちメモ

日経平均には不動産が5社採用しているが、売上規模でみると、1兆円規模の4強(売上規模順に、三井不動産>三菱地所>住友不動産>東急不動産)と、売上2500億円規模の1弱(東京建物)となっている。今回は大手4社を比べてみた。

一番興味深かったのは、住友不動産のROEが比較的高いことだ。他の3社がROE6%程度しかないところ、住友不動産はROE10%を維持できている。同業他社に比べて段違いの強さを見せる企業があるときは、調査に値することが多い。この優位性を維持できれば、たいていはシェアを拡大することが可能だからだ。

ROEのは、利益率 x 資産回転率 x レバレッジ の3要素に分解できる。

各社の3要素を見ていると、一番大きな違いはレバレッジに対する考え方のようだ。オフィスビル賃貸比率が高い三菱地所、三井不動産、住友不動産を比べると、ROA(=利益率 x 回転率)までは2%程度で大差ないが、レバレッジは3倍程度の三井不動産と三菱地所に比べて、住友不動産は5倍程度かけて高いROEを維持している。

果たしてどの程度のレバレッジが適正なのだろうか?これは投資家それぞれに個人差があるところだが、レバレッジが低めでROEも低い三菱地所(PER27倍)や三井不動産(PER19倍)が、レバレッジが高めでROEも高い住友不動産(PER14倍)に対してPERで高く評価されている現状は、私はちょっと違和感を感じる。みなさんはどう評価されるだろうか?

Happy Investing!!

長期業績レポート(ヤマハ)

長期業績レポート

7951 ヤマハ

日経225採用企業の長期業績レポート一覧

ひとくちメモ

ピアノや音楽教室で有名なヤマハのルーツは、明治20年(1897年)に山葉さんがオルガン製作に成功したことに遡る。その後、明治30年(1907年)に日本楽器製造株式会社を設立。昭和24年(1949年)に東京証券取引所に上場して、昭和29年(1954年)に音楽教室を始めている。つまり、ヤマハの主力事業がうまれてから、既に60年が経とうとしている。

超長期での株価の動きをみてみよう。1985年から現在に至る30年間、1000円~3000円というレンジの中で、景気に合わせて行ったり来たりしているという印象だ。今回の長期業績レポートを見ても、直近15年間でヤマハは売上を伸ばすことができていない。

言葉より先に音楽が合ったと言われるほど、音楽事業は人間の根源的な欲求を満たすものだと思う。だからこそ、今後20年で楽器を演奏するという習慣がなくなる可能性は絶対ないと言い切れる。そうした変化の少ない魅力的な事業領域で世界的シェアを獲得できていることは評価できる。これから新興国が経済成長して生活に余裕が出てくれば、文化的支出が増えるだろう。日本の高度経済成長期に一家に一台ピアノを持つのが流行したように、事業環境としては追い風が吹いていると思う。今後に期待できる企業の一つだと思う。ちなみに、楽器の世界市場規模は8600億円。ヤマハのシェアは25%だそうです。

 

Happy Investing!!

東京オフィスの空室率データを見て考えた

不動産ビジネスには3つの変数しかない

不動産ビジネスで起業する友人の手伝いをしている関係で、これまであまり縁のなかった不動産関連データに目を通すようになった。

不動産ビジネスについて考えてみよう。費用側は、ほとんどが固定費だ。一度物件を購入すれば減価償却費が決まり、借入による金利負担も変動か固定金利かの違いはあるが、固定費であることには変わりない。一方の売上=賃料 x (1 – 空室率)なので、(1)物件の購入価格、(2)賃料と(3)空室率という3つの変動要素で収益性が決まってしまうという、単純なビジネスだと思う。

私が事業を評価するとき、その企業がどの変動要因をコントロールできるかを重要視している。これが競争優位性の源泉だと思っているからだ。不動産ビジネスでいえば、物件の購入価格は安くならないと買わないと決めて我慢できればコントロールできる。しかし、賃料を下げれば空室率は下がるが、賃料を上げれば空室率も上がってしまうので、賃料と空室率について企業がコントロールできるとは評価できない。結局、不動産ビジネスはどんな物件をいくらで買ったかという時点で、ほぼ勝負がついているのではないだろうか。

その意味では、私が行っている上場企業投資と似ていると思う。上場企業投資は、どの銘柄をいくらで買うかをコントロールできるのみで、少数株主の立場からはその他一切コントロールできない。だからこそ、以前このブログで書いたように、上場企業投資は付加価値が薄いことを自覚しなくてはいけないし、企業価値評価に注力するバリュー投資戦略を採用することにしている。

現在の東京のオフィス市況

代表的なデータに、三鬼商事が月次で発表している日本の主要都市のオフィス市況データがある。長期的にこの統計を見ていくと、空室率と賃料のきれいな相関性が見えてくる。

空室率6%を境に、それ以上であれば平均賃料は下がり、それ以下であれば平均賃料は上がる。そして、空室率は6% プラスマイナス 3%、つまり3% ~ 9%の間で振り子のように行ったり来たりする。オフィスビルを建築することを考えてみると良く分かる。空室率が下がると、新規オフィスの供給は止まるが、急には止まれない。なぜなら、今供給されてくるビルは数年前に計画されたものだからだ。

例えば、東京では2018-2020に大型オフィスが多数完成するが、その多くは2013年にアベノミクス開始ごろに計画されたものだからだ。5年ほどの年月がかかってしまうので、足元の景気動向だけでは止まれない。その結果、次のような不動産ビジネス循環ができる。

景気が回復する > 空室率が下がり始める > 賃料が上がり始める > 新規オフィス供給計画が出る > 4,5年先までは供給されない > 新規供給までの間、空室率は下がり続ける > 賃料は上がり続ける > 景気回復から4,5年経ち、景気減速局面になって新規オフィスが供給され始める > 空室率が上がる > 賃料が下がる > オフィス供給が止まる

実際の統計データもこれに近く、前回は2003年~2008年までが回復期、今回は2013年~2018年が回復期になっている。分かりやすい5年周期だから、今後は不動産市況は冷え込む確率の方が高いような気がする。「不動産セクターは、新規オフィス計画が発表されてから投資して、4年持って売るということを繰り返せばいい」というのが勝ちパターンだとは思うが、それを実践するには強い精神力が要求される。何しろ、10年に1回くらいしか投資のチャンスが訪れない。分かってはいても、2回半もオリンピックが過ぎるのを寝て待てる人がどれだけいるだろうか。また機関投資家だったとしたら、「私は10年に1回しか投資しません」と豪語してお金を預けてくれる人がどれだけいるだろうか?

行動している方が賢く見えてしまうという人間の悲しい習性がある限り、不動産投資の勝ちパターンは残り続けるだろうし、長い時間軸で勝負できる人は勝ち続けるだろう。偉そうに言っている私も、月次やひどいときには日次の損益で一喜一憂してしまう行動を反省することにします。

Happy Investing!!