会社四季報通読のすゝめ

会社四季報2017年新春号の発売日です

今日は会社四季報2017年新春号の発売日です。会社四季報は東洋経済が年4回発行しており、たったの2000円で日本のすべての上場企業を俯瞰することができる素晴らしい資料です。

四季報の通読が最もバイアスの少ない調査方法

私は、四季報の発売日が楽しみで仕方ありません。なぜなら、四季報を通読して投資対象企業を探すことが、最もバイアスの少ない投資調査方法だからです。

四季報の通読は、私が尊敬している個人投資家の角山智さんも一押しの手法です。

リンク】角山さんのホームページ。ショートコラムを愛読しています。メルマガ登録もお忘れなく。
リンク】角山さんが四季報通読に関して書いたメルマガ

2016年9月に購入して3か月間お世話になった四季報2016年冬号にお疲れ様でしたと言い、心機一転まっさらな四季報に向かいます。過去に調べたことのある企業に対しても思い込みを捨て、1社1社に思いを巡らすことで、毎回新しい発見があります。

日本の上場企業投資の対象は4000社しかありません。年に4回、自分に与えられた選択肢の全てに目を通す作業を繰り返すことで、企業の選別眼が養われていくと実感します。

何より、こうした地道な作業を行っている投資家は少ないです。当たり前のことを当たり前にやって、差別化していきましょう

Happy Investing!!

上場企業への株式投資は付加価値が薄い

上場企業への株式投資は付加価値が薄い

経営者と対話することで投資リターンの向上を目指す、みさき投資株式会社の中神社長が書いた『投資される経営 売買される経営』を読みました。コンサルタント出身の投資家である中神社長ならではの、投資と経営の世界を橋渡しする素晴らしい内容になっています。

本書の冒頭に、「投資事業は付加価値が薄い」という刺激的な文章が出てきます。機関投資家に勤めていたころの私が聞いたら、プライドも高かったので「そんなことはない!」と言い返していたと思います。でも、今は「本当にその通りだな」と思います。自分のやっていることは付加価値が薄いと言われると嬉しくはないのですが、事実は事実として受け入れた上で対処しないといけないと思います。

事業で大切なのは、変数をコントロールする力

私が事業において大切だと思うのは、変数をコントロールする力の有無です。例えば、ブランド力があるために価格決定力がある商品(例:コカ・コーラ)と、常に価格競争にさらされる商品(例:PBコーラ)があるとします。仮にコカ・コーラとPBコーラの味が全く同じであったとしても、2つが同じ価格で並んでいたら、ほとんどの人はコカ・コーラを選択します。これこそブランド力であり、それを維持拡大するため、コカ・コーラ社は世界で年間4000億円もの宣伝広告費を使っているのです。実際には、価格で競争する以前に商品スペースが限られる小売店にPBコーラを置いてもらうことさえ難しいでしょう。

コカ・コーラとPBコーラのどちらが事業として魅力的か言うまでもありません。ブランド力が高く価格決定力を持つ前者は付加価値が厚く、プライステイカーである後者は付加価値が薄いのです。私は投資家として、常に付加価値の厚い企業を探しています。付加価値が厚いほど、様々な経営環境に適応することができ、結果として収益性を維持できる可能性が高いと考えているからです。

上場企業への株式投資では、変数は6つしかない

上場企業への株式投資において、投資家がコントロールできる変数はたったの6つしかありません。付加価値が事業における選択肢の多さで測れるとすれば、これほど付加価値の薄い事業はないでしょう。

1、投資対象企業
2、購入時期
3、購入価格
4、ポートフォリオ全体のうちの投資比率
5、売却時期
6、売却価格

付加価値が薄いからどうするのか?

まず、株式投資は付加価値が低いという事実を良く認識する必要があります。結果として私は、株式投資には次の2つの方法しかないと思っています。

1、変数のコントロールを諦め、低コストで幅広く分散投資する(パッシブ投資)
2、変数が限られていることを認識した上で、その精度を高める(アクティブ投資)

変数をコントロールする自信がない、もしくはそんなことに自分の時間やお金を投資したくないのであれば、素直にそれを認めて分散投資すれば時間も無駄になりませんし、結果として中途半端な選択をしてしまうほとんどの投資家よりよい運用成績が残せるでしょう。逆に、変数を他の市場参加者よりうまくコントロールして稼ごうとするのであれば、そこには時間やお金の投資が必要となります。

中途半端な投資スタイルが一番危険

投資における①と②は全くの別世界です。①から徐々に②に移動することはできませんし、ほとんどの人は①にいるべきだと思います。プロの機関投資家が1日何時間もかけて企業調査をしている中で勝てる見通しを持つのは大変なことです。しかし、局所的には例外もあります。例えば製薬業界に勤めている人であれば、勝手知ったる製薬企業への個別投資に限定すれば、②の領域でも競争優位性があるのかもしれません。

まとめ

上場企業投資は本質的に付加価値の薄い事業です。その事業特性を理解した上でアクティブ投資を選ぶのであれば、自分に競争優位性があると自信を持てる戦略を見つけることが大切だと思います。

Happy Investing!!

 

 

 

 

 

調査対象企業の探し方:優秀な知り合いが転職した会社

モルガン・スタンレー証券の同期会で思い出すこと

先日、モルガン・スタンレー証券東京オフィス2004年入社同期の忘年会がありました。入社して10年以上が経ち同期の9割以上が転職していますが、初回から幹事を務めてくださるTさんのおかげで、今年もみんなの元気な顔を見ることができました。ありがとうございます。

さて、この忘年会で毎年思い出すことがあります。それは、「転職している同期がいたら、その企業を投資対象として調べる」ということです。このスクリーニング方法に気が付いたのは、エムスリー(2413)という医療従事者向けの情報サイトで製薬会社の情報提供支援をしている企業がきっかけです。実は、同期のうち2人が別のタイミングでこの会社に転職したのです。1人は2010年、1人は2013年だったと記憶しています。その時の私は、「へー、30人くらいしかいない同期が2人も同じ会社に転職するなんて珍しいこともあるんだな」くらいにしか考えていませんでした。ちなみに、2010年末の株価は350円、2013年末の株価は1300円、今の株価は2600円です。逃した魚は大きいのです。

関連資料】エムスリー長期業績レポート

優秀な知り合いによる企業調査の結果が分かるのが転職先

仕事人にとって、会社ほど多くの時間を過ごす場所はありません。どの会社を選ぶかによって仕事人生は大きく変わったものになります。そういう理由から就職先を真面目に選ばない人はいないし、選択肢が多い優秀な人であればあるほど、より綿密な企業調査の結果として転職していると考えることが出来ます自然です。まずは純粋に知り合いのキャリアアップを喜び、投資家の立場として彼らの企業調査の結果を利用させて頂くことができるのです。

社会人経験を積んだ後最初の転職先情報が特に有用

自らの経験を振り返っても、新卒のときには会社というものが分かっていないものです。一般的な評価に左右されて選びがちです。しかし、社会人になってビジネス上様々な企業と触れ合う中で、自分の企業観が出来上がっていきます。こうして選別力が高まったときに行う転職という行動にこそ、多くの情報価値が含まれていると思います。

まとめ

転職は、綿密な企業調査の結果です。その人が、自分の人生をよりよく導くために知恵を絞って考えた結果ですから、耳を傾ける価値があると思いますし、実際に自分の知り合いの転職先はよい投資候補となりうる企業ばかりです。

特に情報価値が高いのが、社会人経験を5年ほど積んで企業の選別眼を養い、かつ優秀なために引く手あまたという方が行う転職です。知人のキャリアアップを喜び、投資情報としても有り難く活用させて頂きましょう。

Happy Investing!!

調査対象企業の探し方:自社株買い

【注記】本投稿は、長友威倫が別のブログに書いた記事をアップデートしたものです。

大東建託にみる自社株買いの効果

調査対象企業として、自社株買いの有無が一つの目安になります。今日は、具体的な自社株買いの調べ方について書いていきます。対象企業は大東建託(1878)。私が知る限り、日本で最も積極的に自社株買いをしている企業です。

発行済み株式数の調べ方

さっそく、大東建託のIRページに行きます。右にある決算資料へのリンクをクリックして、さらに2016年3月期を選びます。 有価証券報告書をクリックして開きます。これが、上場企業が提出を義務付けられている書類のうちで一番詳細なものになります。2016年3月期の有価証券報告書は全166ページもありますが、どこに必要な情報が書いてあるか分かってくれば、慣れてきます。5~6ページに、過去5年間の経営状態のまとめが載っています。6ページに、「発行済株式総数」とあります。

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この数字を、過去にさかのぼって集めます。ちょっと面倒ですが、コツコツ手作業でやっています。以下のようになります。

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過去14年間、自社株買いによる大東建託のリターン押し上げ効果は年率4%!

過去14年間で、大東建託の当期純利益は年率8%で成長。自社株買いによって株式数が年率4%で減ったので、EPSは年率12%で成長。さらにPERが2002年の12xから直近では19xに拡大したことで、年率3%の株価押し上げ効果があります。利益 x 株数 x PERの力が合わさり、大東建託の株価は2000円から16000円まで、年率16%上昇してきました。株価を上げる大切な構成要素のうちの一つが自社株買いであること、伝わりましたでしょうか?

私も、このような3拍子そろった銘柄を見つけて長期保有したいです。長きにわたって日経平均は不調ですが、輝く個別銘柄は必ずあります。必ず見つかります。頑張って探しましょう!

大東建託のみなさま、素晴らしい事業運営と株主還元によって理想的な株価形成を見せて頂き、ありがとうございます!

Happy Investing!!

 

調査対象企業の探し方:スピンオフ

【注記】本投稿は、長友威倫が別のブログに書いた記事をアップデートしたものです。

スピンオフとは

スピンオフとは、ある企業から部門が切り離され、独立した企業となることです。切り離す理由は様々ですが、本業に集中するため、利益が出ないため、など。問題を抱えた事業であることも多いのですが、一方では本質価値との乖離が起きやすい構造的要因も抱えています。

企業Aが部門Bを企業Bとしてスピンオフすると仮定します。この場合、企業Aの株主には、新しく産まれた企業Bの株式が付与されることが多いです。しかし、機関投資家のなかには、企業Bの時価総額が小さすぎるなどの理由により、強制的に売却させられることがあります。この売り圧力によって、企業Bの本質価値に対して株価が安くなる可能性が高まります。

私は、スピンオフを理想的な起業形態だと感じます。サラリーマンの枠に収まりきらない人物が、親会社のサポートを受けて起業する。つまり、社長は組織内でも評価される人物だということです。さらに事業が軌道に乗ったところで、資本関係を超えてより広く取引したいと独立企業となる。顧客基盤もできていますし、あとはより大きな市場を狙うだけです。経営者にしても、今後は親会社の社内規定を超えて、成功しただけ自分にリターンがある訳ですから、モチベーションも高そうです。良いことづくめに思えます。

スピンオフ事例:富士電機 → 富士通 → ファナック

著名な例として、1923年に設立された富士電機の電話部所が分社化して、1935年に富士通となります。さらに、富士通の計算制御部から、1972年にファナックが子会社として独立します。

現在の時価総額は:

親:富士電機 (6504) 4500億円
子:富士通  (6702) 1兆5000億円
孫:ファナック(6954) 4兆1000億円

子が親を超え、孫が子を超える。このようなスピンオフの可能性に、常に目を光らせておきたいです。

Happy Investing!!

日本郵船、商船三井、川崎汽船のコンテナ船事業統合を長期業績から検証する

日本郵船、商船三井、川崎汽船のコンテナ船事業を統合した新会社が発足します

12月5日の日経新聞朝刊5面に、日本郵船、商船三井、川崎汽船のコンテナ船事業を統合した新会社発足についての記事がありました。ニュースはなかなか客観的事実を掲載してくれないので、自分で集めることになります。

過去10年でコンテナ船は7年以上赤字。不定期専用船の利益で穴埋めしてきた

有価証券報告書から各社のセグメント情報を調べると、定期船・コンテナ船事業は過去10年で7年以上赤字を計上していることが分かります。逆に、不定期専用船事業は過去10年で2年しか赤字がありません。リーマンショック前に運賃が高かった時代に大量発注された船舶が完成したことによって需給が崩れたことは確かですが、定期船と不定期船では崩れ方に差があるのです。

定期船・コンテナ船事業が儲からない理由

Wikipediaで、定義を確認しました。
定期船  = 一定の航路を、定期的に航行する船舶
不定期船 = 特定の航路を定めず、貨物の有無によりその都度運航される船舶

定期船は荷物の有無に関わらずに運行するので、需給に合わせて柔軟に供給量を調整できないことが想像できます。船舶は固定費ビジネスなので、空きスペースがあれば極端な話、どんなに安く受注しても収益貢献します。各社で価格競争を行った結果、全員がダメージを受けると言う典型的な囚人のジレンマ状態が発生しています。これを抜本的に解消するには、船舶を減らすしかありません。そんなこと百も承知でしょうが、自分の船を減らしたい船会社はありません。足並みが揃わないまま、ズルズルと低収益環境が続いてしまいます。

このような、どの会社に運んでもらっても変わらないようなコモディティーを提供している場合、苦しい時期を耐え忍んだ会社に残存者利益が与えられる体力勝負になるので、合併が起きやすいです。結果として世界上位のMaerskとMSCが15%程度のシェアを持っています。今回の合併でできる新会社は、7.5%程度のシェアでしょうか。単体よりはだいぶましですが、まだまだ体力勝負に自信が持てる規模ではありません。

世界のコンテナ船シェア 【出典】 https://youtu.be/EFgDc1fe8DI

不定期専用船の収益性も下がっているなか、定期船・コンテナ船切り離しは抜本的な解決にならない

不採算事業からの撤退が遅れると、敗走が続く悪循環に入ってしまう

ようやく定期船・コンテナ船の切り離しに合意できた3社ですが、ダラダラと不採算事業の切り離しを先送りにしてきたため、収益力の高かった不定期専用船事業の収益性まで下がってきてしまいました。世界全体での船舶供給過多が主因ですが、企業単位でも不採算事業の延命に資源を割いていると、ほかの事業の収益力を維持するための資源配分がおろさかになる悪循環も想像されます。

リーマンショック後、日立の経営危機に社長就任した川村さんの言葉を思い出さずにはいられません。

[aside type=”normal”]経営者の仕事は各事業の将来性を見極め、そろそろピークアウトすると分かった事業から早めに手を引くことだ。業績が悪化してからでは手遅れになる。 [/aside]

[aside type=”normal”]一度決めたら心を強く持ち、周囲がどう言おうと最後までやりきることが大切。 [/aside]

関連投稿】日立の経営危機に社長就任した川村さんが語る経営者の役割

不定期専用船事業でも同じことが起きると予想する

今後数年を見通すと、造船所の受注残は少なく船舶供給量も減ってきます。需給がバランスして海運運賃が改善すれば、コンテナ船事業切り離しで固定費が軽くなったこともあり、一時的に海運各社の業績は回復するかもしれません。しかし、構造的には不定期専用船も規模の経済が決め手となるビジネスです。次の運賃低下局面では、おそらくさらに市場の寡占化が進んでおり、また日本の各社は苦境に立つでしょう。そのときまでに、収益を支えられる事業を育てられるのでしょうか?

まとめ

事業が不採算化してからの撤退には、苦しみしかありません。それにしても、過去10年中のうち7年赤字でもコンテナ船事業を続けてしまう海運各社の経営陣は何を考えているんでしょうか?彼らは何を最大化しようとしているのでしょう?何にせよ、それが株主価値ではなさそうなので、私は彼らと同じ船に乗ることはできません。

今回のコンテナ船の切り離しは当然として、一歩踏み込んで、収益が低下しつつあるがまだ瀕死ではない不定期専用船事業も統合できたらインパクトがあったと思います。自らの社長任期の先を見通して経営判断する難しさを感じさせるニュースです。

Happy Investing!!

日経225の証券会社3社を比較して感じるオーナー意識の重要性

日経225に採用されている証券会社は、野村・大和・松井の3社

関連】長期業績レポート:大和証券(8601)
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インターネット証券の先駆け、松井証券をご存じですか?

日経225に採用されている証券会社は3社あり、野村ホールディングス・大和証券・松井証券です。野村証券と大和証券は町中にも支店がたくさんありますし、広告も目にすることも多いと思います。一方、松井証券の名前を耳にする機会は少ないのではないでしょうか?

1918年創業の松井証券は長らく一般的な中小証券会社でしたが、1995年に社長就任した松井道夫が周囲の反対を押し切り、インターネット証券に参入して大きく成長します。

インターネット証券には長期間トップを務める経営者が多い

証券会社の時価総額を見ると、野村・大和という2大証券会社以外に大きな店舗型証券会社はなく、ネット証券の中で松井証券はトップグループに位置していることが分かります。また、ネット証券は黎明期から長期間トップを務めている経営者が多いことも分かります。

社長の任期が長いことから個人資産に占める保有株式の割合も、ネット証券各社の方が高くなっています。特に松井証券は、配偶者と資産管理会社を含めると保有比率は50%に近く、時価総額にして1000億円以上になります。

野村・大和・松井の長期リターンを比べてみる

2016年3月までの14年投資リターンでは、松井証券が圧勝

3社に2002年3月末から2016年3月末まで14年間投資したとすると、以下のリターンになりました。

大和:年率 +1.3%(100円が120円になった) 
野村:年率 -6.9%(100円が37円になった)
松井:年率 +7.7%(100円が283円になった)

店舗型証券からネット証券への移行期ということもありますが、野村と松井のリターン差が大きくて驚きました。次に、個別要因を見ていきましょう。

松井証券の勝因 その1:リスク管理

売上を比べると、大和は4000億が6000億へ(年率+2.1%)、野村は1.1兆が1.7兆へ(年率+3.1%)、松井は130億が340億へ(年率+7.3%)と拡大します。仮に売上成長率の差は、経営努力ではなくネット証券成長期の追い風によるものだとしましょう。しかし、3社の長期リターンには売上成長以上の差以上の開きがあります。これはなぜでしょう?

手数料中心の証券会社のビジネスモデルにおいて景気循環の影響は避けられません。しかし、避けられないからこそ好況期にも準備を怠らないか、好況期にイケイケで投資してしまい、不況期に損失を出すかは経営者のリスク管理能力です。大和と野村がリーマンショック以降に赤字を計上したのに対して、松井は売上がピークから1/3になっても黒字を維持しています。従業員数の推移を比べると、松井証券は好況期の2002年3月から2008年3月にかけて正社員数を200人から100人へ約半減させて固定費を落としていることに驚きました。業容を拡大したくなりそうな時期に真逆の行動ができるところにリスク対応の高さを感じます。

松井証券の勝因 その2:資本配分

リーマンショック後に赤字に陥った大和と野村は、株価が安い状況で公募増資を余儀なくされます。一方でリスク管理に優れる松井証券は、株価が安い状況で自社株買いを行います。このように、リスク管理は当期利益に影響するだけでなく、キャッシュフローの有効利用によって株式数をコントロールしてさらにEPSを高めることにつながります。

大和証券

野村ホールディングス

松井証券

まとめ

日経225に含まれる証券3社を比べると、松井証券の優位性が際立ちます。ネット証券普及の追い風を除いたとしても、リスク管理能力と資本配分能力の高さは明らかです。特に、好況期に従業員数を半減させる経営判断はなかなかできるものではありません。

こうした経営判断の違いの原因が、オーナー意識にあると考えています。一族の資産1000億円を預かり20年以上の経営実績を持つ松井社長と、自己資金1億程度を投資して5年社長を務めるかどうかの野村、大和という大証券会社。今後10年間、3社の中から一つ証券会社パートナーを選ばなくてはいけないのであれば、私は間違いなく松井証券を選びます。みなさんはどうしますか?

関連】長期業績レポート:大和証券(8601)
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ラストマン意識で投資する

日立の経営危機に社長就任した川村さんが語るラストマン意識

関連投稿】日立の経営危機に社長就任した川村さんが語る経営者の役割

先日の投稿で、リーマンショック後に日立の構造改革にあたった川村さんを紹介しました。素晴らしい経営者だと感銘を受け、著書『ザ・ラストマン』を読みました。ラストマンとは、「最後に責任を取ろうとする意識のある人」のことです。本書のまえがきより、私の心に響いた言葉を抜粋しました。

[aside type=”normal”]若い方のなかには、自分一人が変わってもどうしようもない、と考える人もいるかもしれません。たしかに、大きな改革は、経営トップの意識が変わらなければ不可能です。それでも、一人ひとりが自分で責任を持つ意識を持たなければ、会社が変わるきっかけも生まれないのではないでしょうか。

ちょっと厳しく聞こえるかもしれませんが、会社内に”お仲間”をつくっていても意味がありません。たくさんの人と”話し合い”だけを続けても変化は起きません。外部環境に責任を押しつけても仕方ないでしょう。結局、自分がやるしかないなーそんな感覚で、しかし楽観的に、淡々と実行を続けることこそが重要です。[/aside]

ラストマン意識が持ちやすいことは投資の魅力

この本を読んで、私は自分がなぜ投資が好きなのかよりよく理解できました。それは、投資がラストマン意識を持ちやすい活動だからです。

投資家は運用判断を下し、運用成績という客観的な結果を受け取ります。そこに主観的評価の入る余地はありませんし、私のような個人投資家の立場では誰を責めることもできません。

「やる気」や「頑張り」は大切だと思いますが、やはり理にかなった投資戦略に従って正しい方向に努力しないと結果は出ないと思います。自分では頑張っているつもりでも、それが正しい方向に向かっているのか自信が持てないときがあります。投資においては、市場が客観的な答えを与えてくれます。年を重ね、なかなか他人が自分の改善点を指摘してくれないようになっても、市場はそんなことお構いなしです。お陰で投資家は、いつまでも謙虚に成長を続けることができます。

William Hurt 【出典】Capital Group Website

前職のキャピタル・グループで、William Hurtという80歳を超える投資家と仕事をする機会に恵まれました。60年以上の運用経験を有する方ですが、子供のように好奇心に満ちたキラキラとした目が印象に残っています。新人に対しても、「お前はどう思うんだ?」と常に学ぼう、対等に話を聞こうとする姿勢を尊敬しています。稀代の投資家、Warren Buffettは86歳になりましたが、「日々成長している」と語っています。自分もそのように歳をとりたいです。

謙虚に、しかし楽観的に、淡々と投資に励んでいきましょう。

Happy Investing!!

日立の経営危機に社長就任した川村さんが語る経営者の役割

日立の経営危機に社長就任した川村さんが語る経営者の役割

関連】日立製作所(6501)の長期業績レポート

11月27日の日経新聞に、日立製作所(6501)で2009年から社長を務めた川村隆さんの言葉が出ていました。

当時の日立は2009年3月に8000億円近い損失を計上したばかりで、株主資本は2.2兆円から1兆円まで半減していました。売上10兆円、連結従業員36万人という大企業の建て直しを託された川村さんの言葉を日経新聞より抜粋しました。

[aside type=”normal”]経営者の仕事は各事業の将来性を見極め、そろそろピークアウトすると分かった事業から早めに手を引くことだ。業績が悪化してからでは手遅れになる。 [/aside]

[aside type=”normal”]一度決めたら心を強く持ち、周囲がどう言おうと最後までやりきることが大切 [/aside]

川村さんは、経営者の仕事として、(1)資本配分の大切さと、(2)組織の習性に屈しないこと、を挙げています。これは、『年率21.6%の29年複利リターンを達成した8人の破天荒な経営者に共通すること』という記事で書いた7つの共通点の1番と5番と符号します。

(1)経営者の最も重要な仕事は資産配分
(2)長期的に重要なことは、全社的な成長や規模ではなく、一株あたりの価値
(3)長期的な価値を決めるのは、報告利益ではなくキャッシュフロー
(4)分権組織は起業家的エネルギーを放出し、コストと「怨念」を減らす
(5)長期的な成功には独自の考え方が不可欠で、外部からの助言は気が散るし時間の無駄
(6)最高の投資先が自社株のこともある
(7)買収においては忍耐が肝心だが、ときには大胆さも必要

ここで、ウォーレン・バフェットのコメントを追記しておきます。資本配分ができる経営者は希少なのです。私は、そんな経営者を見つけたら抱きしめて離さないようにしようと思っています。

[aside type=”normal”] 企業のトップの多くは、資本配分のスキルを持っていません。ただ、彼らの力不足は驚くことではないのです。社長になる人は、販売や製造や技術や管理など何らかの分野で優れていたり、なかには社内の駆け引きがうまかったりしたことでその地位まで上り詰めた人が多いからです。しかし、CEOになれば新しい任務として資本配分の決断を下す必要に迫られます。ところが、これは重要な仕事であるにもかかわらず、彼らの多くはまったく経験がないし、簡単に極められることでもありません。 [/aside]

日本の大企業では、合理的な指導者は経営危機にしか登場できないのか?

川村さんは社長を1年、会長を4年で退任してから、経団連の会長就任要請も固辞して財界活動とも縁を切っているそうです。投資家として長期的に高いリターンを達成するためには、資本配分を理解している合理的な経営者を見つけて長く伴走することが必要です。川村さんのような経営者には長く経営して頂きたいのですが、日本の大企業ではこうした合理的な指導者は経営危機にしか登場できないのでしょうか?

川村さん就任をめぐるニュースを読んでいると、変化を嫌う大企業の内部政治を制圧するために『高年齢、短期』という2つのキーワードが浮かんできます。経営者として成功をおさめているがために、世間や社内の評判を気にすることなく背水の陣に立つことのできる経営者が覚悟を見せることで、社内に変革への理解と諦めが広がったと想像します。

大企業の経営を評価するには10年単位の時間が必要

日立のような大企業は、巨大タンカーさがなら経営の舵を切っても進路が変わるまでに時間がかかります。そのような企業の経営を評価するには10年単位の時間が必要だと思います。川村さんは外科の立場で、悪い部位をバッサリ切り捨て企業の生命維持に努めました。日立の健康体を取り戻して、次の経営者にバトンを渡しました。2014年に就任した東原社長に期待されることは、長期的な競争力を維持拡大することです。

しかし、長期的な取り組みになればなるほど、変化を嫌う大企業の組織としての習性が働いてしまいます。結果として合理的な社員は排除され、社内政治に長けた者が昇進してきます。結局歴史は繰り返し、次の経営危機まで合理的な経営者が現れないことを心配してしまいます。

まとめ

日立の経営危機に社長就任した川村さんは(1)資本配分と(2)組織の習性に負けないという、経営者としての2つのキーポイントを理解していました。しかし、川村さんのような合理的な経営者が日本企業のトップになるためには、経営危機が必要で、かつ荒療治をするため短期の在任となってしまうことが残念です。平常時には幅を利かせてしまう組織の習性に打ち勝てる合理的な経営者に投資するためには、経営者自身がオーナーである、ソフトバンクの孫さんや、ファーストリテイリングの柳井さん、楽天の三木谷さんのような存在を探すしかないのかなと思います。

在任中の株価でみる日産ゴーン社長の経営成績は平均点

経営者の能力は、在任中の株価リターンで測ることができる

三菱自動車(7211)への出資というニュースもあり、日産(7201)ゴーン社長の名前を日経新聞でみかけることが多い気がします。先日の投稿で経営者の能力の測り方について書いたので、さっそくゴーン社長の経営成績を評価してみます。

関連投稿】年率21.6%の29年複利リターンを達成した8人の破天荒な経営者に共通すること
長期業績レポート】日産自動車(7201)

重複になりますが、『破天荒な経営者たちー8人の型破りなCEOが実現した桁外れの成功』によると、経営者の偉大さを評価するために必要な数字は三つしかありません。

(1)在任中の株価の年間リターン率(複利)
(2)同じ期間の同業者のリターン率(複利)
(3)幅広いマーケットのリターン率(複利)

もし経営者が同業他社とマーケットの両方を大きく上回るリターンを上げていれば、その人は「優れた」経営者と言えるのです。

ゴーン社長の在任期間は16.5年。現在の日系自動車7社の経営者では最も在任期間が長い

1954年生まれのゴーンさんは、2000年6月に46歳の若さで日産の社長に就任しました。それから16.5年が経ち、スズキの鈴木修さんが息子の俊宏さんに社長を譲ったため、日系自動車7社の経営者で最も在任期間が長くなりました。

下の表は、各社の経営者の変遷をまとめたものです。各社の経営者の平均在任期間が5年程度であることを考えると、ゴーンさんの在任期間は非常に長いと言えます。在任期間の長さと、ゴーン社長の経営者としての能力の高さには相関関係があるのでしょうか?在任中の株価リターンをみてみましょう。

ゴーン社長在任期間の株価リターンは年率3.8%。自動車7社の中では平均点。

ゴーン社長就任直前の2000年5月31日に日産の株を買ったとすると、(配当を除いて)2016年11月21日までに1.8倍になりました。年率3.8%です。

同期間の日系自動車7社の株価リターンは、富士重工の5.6倍から三菱自動車の0.1倍まで大きな幅があります。7社単純平均は2.1倍、富士重工と三菱自動車を除いた中央5社の平均は1.8倍です。つまり、ゴーン社長の経営成績は同業者の平均と言えそうです。経営者としては有名なゴーン社長ですが、株価リターンで評価する限り、経営手腕が特別に優れているとは言えません。

同期間のTOPIXは0.9倍ですから、日産はTOPIXを上回るリターンを達成していました。しかし、自動車業界全体がTOPIXを上回っていたわけですから、日産が特別というよりは、自動車産業にとってよい経営環境だったと評価すべきでしょう。

まとめ

世間的に名の知られた経営者はいますが、彼らの経営能力への客観的な評価を聞いたことはありません。スポーツ選手には世界○位、○連勝と数字での評価を浴びせるのですから、同じように経営者にも物差しを当てて欲しいものです。ニュースで、「日産のゴーン社長は在任16.5年になりますが、在任期間中の株価リターンは年率3.8%となかなか自動車業界平均を上回ることができないでいます」と紹介してくれると、経営者へのイメージも変わってくるのではないでしょうか。

同業他社や市場平均との株価リターン比較は、経営者の能力の客観的評価の一つとなります。世間的なイメージを引きずることなく、投資家目線で冷静に評価しましょう

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