上場企業への株式投資は付加価値が薄い

上場企業への株式投資は付加価値が薄い

経営者と対話することで投資リターンの向上を目指す、みさき投資株式会社の中神社長が書いた『投資される経営 売買される経営』を読みました。コンサルタント出身の投資家である中神社長ならではの、投資と経営の世界を橋渡しする素晴らしい内容になっています。

本書の冒頭に、「投資事業は付加価値が薄い」という刺激的な文章が出てきます。機関投資家に勤めていたころの私が聞いたら、プライドも高かったので「そんなことはない!」と言い返していたと思います。でも、今は「本当にその通りだな」と思います。自分のやっていることは付加価値が薄いと言われると嬉しくはないのですが、事実は事実として受け入れた上で対処しないといけないと思います。

事業で大切なのは、変数をコントロールする力

私が事業において大切だと思うのは、変数をコントロールする力の有無です。例えば、ブランド力があるために価格決定力がある商品(例:コカ・コーラ)と、常に価格競争にさらされる商品(例:PBコーラ)があるとします。仮にコカ・コーラとPBコーラの味が全く同じであったとしても、2つが同じ価格で並んでいたら、ほとんどの人はコカ・コーラを選択します。これこそブランド力であり、それを維持拡大するため、コカ・コーラ社は世界で年間4000億円もの宣伝広告費を使っているのです。実際には、価格で競争する以前に商品スペースが限られる小売店にPBコーラを置いてもらうことさえ難しいでしょう。

コカ・コーラとPBコーラのどちらが事業として魅力的か言うまでもありません。ブランド力が高く価格決定力を持つ前者は付加価値が厚く、プライステイカーである後者は付加価値が薄いのです。私は投資家として、常に付加価値の厚い企業を探しています。付加価値が厚いほど、様々な経営環境に適応することができ、結果として収益性を維持できる可能性が高いと考えているからです。

上場企業への株式投資では、変数は6つしかない

上場企業への株式投資において、投資家がコントロールできる変数はたったの6つしかありません。付加価値が事業における選択肢の多さで測れるとすれば、これほど付加価値の薄い事業はないでしょう。

1、投資対象企業
2、購入時期
3、購入価格
4、ポートフォリオ全体のうちの投資比率
5、売却時期
6、売却価格

付加価値が薄いからどうするのか?

まず、株式投資は付加価値が低いという事実を良く認識する必要があります。結果として私は、株式投資には次の2つの方法しかないと思っています。

1、変数のコントロールを諦め、低コストで幅広く分散投資する(パッシブ投資)
2、変数が限られていることを認識した上で、その精度を高める(アクティブ投資)

変数をコントロールする自信がない、もしくはそんなことに自分の時間やお金を投資したくないのであれば、素直にそれを認めて分散投資すれば時間も無駄になりませんし、結果として中途半端な選択をしてしまうほとんどの投資家よりよい運用成績が残せるでしょう。逆に、変数を他の市場参加者よりうまくコントロールして稼ごうとするのであれば、そこには時間やお金の投資が必要となります。

中途半端な投資スタイルが一番危険

投資における①と②は全くの別世界です。①から徐々に②に移動することはできませんし、ほとんどの人は①にいるべきだと思います。プロの機関投資家が1日何時間もかけて企業調査をしている中で勝てる見通しを持つのは大変なことです。しかし、局所的には例外もあります。例えば製薬業界に勤めている人であれば、勝手知ったる製薬企業への個別投資に限定すれば、②の領域でも競争優位性があるのかもしれません。

まとめ

上場企業投資は本質的に付加価値の薄い事業です。その事業特性を理解した上でアクティブ投資を選ぶのであれば、自分に競争優位性があると自信を持てる戦略を見つけることが大切だと思います。

Happy Investing!!

 

 

 

 

 

ラストマン意識で投資する

日立の経営危機に社長就任した川村さんが語るラストマン意識

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先日の投稿で、リーマンショック後に日立の構造改革にあたった川村さんを紹介しました。素晴らしい経営者だと感銘を受け、著書『ザ・ラストマン』を読みました。ラストマンとは、「最後に責任を取ろうとする意識のある人」のことです。本書のまえがきより、私の心に響いた言葉を抜粋しました。

[aside type=”normal”]若い方のなかには、自分一人が変わってもどうしようもない、と考える人もいるかもしれません。たしかに、大きな改革は、経営トップの意識が変わらなければ不可能です。それでも、一人ひとりが自分で責任を持つ意識を持たなければ、会社が変わるきっかけも生まれないのではないでしょうか。

ちょっと厳しく聞こえるかもしれませんが、会社内に”お仲間”をつくっていても意味がありません。たくさんの人と”話し合い”だけを続けても変化は起きません。外部環境に責任を押しつけても仕方ないでしょう。結局、自分がやるしかないなーそんな感覚で、しかし楽観的に、淡々と実行を続けることこそが重要です。[/aside]

ラストマン意識が持ちやすいことは投資の魅力

この本を読んで、私は自分がなぜ投資が好きなのかよりよく理解できました。それは、投資がラストマン意識を持ちやすい活動だからです。

投資家は運用判断を下し、運用成績という客観的な結果を受け取ります。そこに主観的評価の入る余地はありませんし、私のような個人投資家の立場では誰を責めることもできません。

「やる気」や「頑張り」は大切だと思いますが、やはり理にかなった投資戦略に従って正しい方向に努力しないと結果は出ないと思います。自分では頑張っているつもりでも、それが正しい方向に向かっているのか自信が持てないときがあります。投資においては、市場が客観的な答えを与えてくれます。年を重ね、なかなか他人が自分の改善点を指摘してくれないようになっても、市場はそんなことお構いなしです。お陰で投資家は、いつまでも謙虚に成長を続けることができます。

William Hurt 【出典】Capital Group Website

前職のキャピタル・グループで、William Hurtという80歳を超える投資家と仕事をする機会に恵まれました。60年以上の運用経験を有する方ですが、子供のように好奇心に満ちたキラキラとした目が印象に残っています。新人に対しても、「お前はどう思うんだ?」と常に学ぼう、対等に話を聞こうとする姿勢を尊敬しています。稀代の投資家、Warren Buffettは86歳になりましたが、「日々成長している」と語っています。自分もそのように歳をとりたいです。

謙虚に、しかし楽観的に、淡々と投資に励んでいきましょう。

Happy Investing!!