最高益は更新して当たり前

連続最高益アピール

新聞や決算説明資料で、「○○年連続最高益!」という文章に出会うことがあります。あたかも凄いことを成し遂げたような印象を与えようという意図が見えて、私は嫌いです。

最高益は更新して当たりまえ

金利1%で100万円貯金したとしましょう。1年後には1万円増えて、101万円になります。資金を引き出さなければ、2年後には1.01万円増えます。最高益更新です。3年後には1.02万円増えます。またまた最高益更新です。最高益とは、預金などを通して誰にでも達成できるものです。

最高益よりROE

私が気にするのは、最高益よりもROEです。前例では金利1%ということで、100万円の資本を使って1万円しか生み出していません。全世界の経済成長率が2~3%あることから考えても、全く魅力を感じないリターンです。

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私は、ROE(=事業に使用している資本に対するリターン)10%が一つの目安だと思っています。株主資本100万円の会社であれば、10万円利益として稼ぎ、平均的な日本企業は30%を配当として支払います。残った資本は7万円で、来期は株主資本107万円に対して10.7万円の利益を稼ぎます。株主資本は7%で増えていきますが、これは長期的な株式市場リターンに近い数字です。

値上がりと配当を合計したトータルリターンは長期的にROEに近似します。投資先企業にROE10%を求める以上、投資家である私も年率10%以上のリターンは必達目標です。

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ドミー(9924)の粉飾に思う

株価下落率トップに頻出するドミー(9924)

ヤフーファイナンスの株価上昇・下落ランキングを見ていると、ドミー(9924)という会社が数日連続で下落率トップに出ていることに気付きました。株価は何年も2500円で横ばいに推移した後、今日(3月2日)には600円台にまで下落しています。一過性の理由による株価下落はバリュー投資のチャンスになることもあるので、調べてみました。

愛知のスーパー上場廃止の陰に東芝?

ドミーは、1913年に呉服屋として創業、スーパーに業態転換して、現在は愛知県に37店を展開しています。スーパーと言えば地味で安定的な事業に思えるのですが、名古屋証券取引所へ有価証券報告書の提出が遅れ、上場廃止が決まってしまいました。監査法人(新日本)からの適正意見(報告書が会計上適切であるというお墨付き)がもらえなかったという事が理由のようです。

スーパーは仕入れ先から、販売金額などの目標達成に応じたリベートを受け取っているそうです。ドミーでは、そのリベートの配分を作為的に変更して、業績が悪い店舗の業績をよく見せるという粉飾を行っていました。全社での利益合計が同じならいいじゃないかと思うかもしれませんが、資産価値を評価する減損テストに影響があるのです。例えば、3000万円かけて店舗を作ったとします。通常は10年の減価償却期間であれば、年間300万円の減価償却を費用として計上します。しかし、仮にその店舗が赤字続きであった場合は、資産価値がないと判断されて、3000万円を例えば一気に1000万円まで2000万円減損することを監査法人に求められることがあります。

この背景には、東芝の不祥事があると思います。新日本監査法人は東芝の粉飾決算を見抜けなかったとして、金融庁に21億円の課徴金を支払いました。二度と起こらないように、厳しい姿勢で監査業務に臨んでいることが想像されます。

ドミーに見る危険信号の数々

このような企業に投資して地雷を踏まないために、何が学べるのでしょうか?
1、売上成長率が低い:売上成長率は年率1%を切っている。
2、営業利益率が低い:営業利益利が1%しかありません。ちなみに、優良スーパーの営業利益率は4%以上(ハローズ、ヤオコー)。

1,2とも当たり前に感じます。むしろ、これまで株価が下落していないことが不思議なくらいです。会社は当期純利益を超えても1株10円の配当を維持して来ました。1株500円(合併前)に対して2%の利回りが出ていればよいという感覚で保有されていた株主が多かったのでしょうか。

まとめ

粉飾は問題ですが、上場廃止にするほどのことなのかなと思いました。東芝への東京証券取引所の柔軟な対応と、ハードな名古屋証券取引所の対応に随分差があるなと感じました。また、ドミーの株価は、売上成長率と利益率の低さを考えると、非常に割高だったことも事実だと思います。苦しい状況に置かれた企業や従業員ほど、粉飾に手を出したくなります。既存事業の伸びしろがある企業、競争優位性のある企業に投資しましょう!

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波及効果を考える

中国で天然ガス不足という記事

日経新聞の朝刊8面に、中国で天然ガス不足という記事がありました。天然ガスは世界的に供給過剰とされているが、中国政府による石炭利用制限により、代替する天然ガスの不足や価格高騰が全土に広まっているという内容です。

波及効果を考える

中国では、大気汚染が問題になっていました。その原因の一つは、エネルギー源としての石炭利用が多いことにあります。そこで、環境問題改善のために、政府は石炭利用に制限をかけます。問題は、この後にどういうことが起きるかです。その波及効果についてどれほど論理的想像力が働くかは、株式投資において大きな差を生むように思います。

中国は経済成長率が高い国です。現代生活において、経済成長することはエネルギー消費量の増加につながります。つまり、中国のエネルギー消費量は将来にわたって拡大していく確率が高いです。その一方で、政府は石炭利用を制限しようとしています。この結果として、どうなるでしょう。

波及効果① 

下の表のように、石炭火力発電は中国の発電量の80%をまかなってきました。それが2016年には66%にまで低下しています。石炭火力発電に関与している企業にとってはネガティブですが、代替発電方法を提供できる企業にとっては追い風です。代替電源のうち原子力発電や水力発電は、稼働までに時間がかかります。太陽光はクリーンですが、出力が低いので石炭火力を置き換えるベースロード電源となることはできません。今求められているのは、短期間で立ち上げることができ、出力が高く、かつ石炭よりもクリーンなエネルギー源だと推察できます。ここまで推察できれば、高効率のガス発電に対する需要が増加する可能性が高いことが予想できます。

出典:Wikipedia

波及効果②

ガス発電所が増えるとどうなるでしょう?当然、天然ガスの需要が増えます。世界的には天然ガスが余っていても、ガスは簡単に移動することができません。LNGという形で、超低温輸送することになります。LNGタンカーの建造にも数年かかりますし、港の受け入れ態勢、港からの運搬手段(パイプラインとか)も必要です。世界のどこかにガスはあるが、それを需要地まで運べないということが一番の問題なのかもしれません。短期的な需要の増加に供給が対応できないと、価格は上がります。これが日経新聞に出ている記事の背景だと思います。

出典:日経新聞

分かってしまえば、中国政府による石炭規制ニュースから天然ガス価格が上昇する論理展開は、当たり前に聞こえます。難しく、また投資を面白くするのは、それを不確実な未来に向けて行うことです。時々、高い確率で波及効果を予想できる事態に遭遇します。市場価格がその波及効果を織り込んでいないときは、大きく稼ぐチャンスであることが多いです。

波及効果③

さらなる波及効果を考えてみましょう。価格が上昇すれば、供給が増加します。天然ガスインフラ設備への投資は増えるでしょう。また、中国国内や近辺でガス田を開発できれば、輸送コストも抑えられます。

さらに中国の天然ガス需要が高まるのであれば、供給過多と言われる世界市場価格にも影響があるかもしれません。世界的に天然ガス価格が上昇すれば、天然ガスを原料としている企業にとっては調達コストが上がってしまうので減益要因になるかもしれません。日本のガス会社など、割高な天然ガス価格での長期契約を批判されることが多いのですが、これから恒常的に天然ガス高が続くのであれば、長期契約が良い経営判断だったと言われるようになるかもしれません。

論理的空想にふける時間を

あるニュースを聞いたときには、波及効果を考えることをおススメします。波及効果にはいくつかのパターンがあるので、慣れてくると思います。自分の考えた波及効果が現実になると嬉しいですし、違っていたとしても学びがあります。何より、小説より奇なる現実世界と向き合う投資が面白くなると思います。

良い投資アイディアほどシンプルなものが多いと思います。自分の子供にも説明できる投資アイディアが良いものであると言う格言もあります。しかし、①当たり前の事実をつなぎ合わせて確度の高い推察を行い、②その推察に基づいて大きなチャンス(推察が現実化したときに予想される価格と、現在の市場価格の乖離が大きい)と判断すれば大きな資金を投資して、③推察が現実化するまで待ち続け、途中で市場価格が推察と逆に向かうことに耐える ことは簡単ではありません。

“Investing is simple, but not easy” – Warren Buffett

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SMC(6273)の空売り推奨レポートに感動しました

ウェル・インベストメンツ・リサーチのSMCレポート

12月13日、弁護士兼投資家の荒井裕樹さん率いるウェル・インベストメンツ・リサーチから『会計神話をパンクさせよ』というSMC(6273)空売り推奨レポートが発行されました。

ウェル・インベストメンツ・リサーチは調査レポートを投資家に販売することを事業としており、自らポジションを取ることはしていないようです。

SMCは空気圧機器の世界トップシェア企業

関連資料】SMC(6273)の長期業績レポート

SMCは5000億円近い売上の空気圧機器の世界トップシェア企業です。他社を圧倒する営業資源を投下し、また多くの在庫を抱えることで短納期を実現する戦略で、世界各地で着々とシェアを高めてきました。空気圧機器は自動化するために欠かせない製品なので、どんな工場へ行ってもSMC製品を見つけることができます。

私は機関投資家時代にSMCを調査した気になっていました

私はキャピタル・グループという米系投資顧問でアジアの機械セクターのアナリストをしていたことがあります。SMCも調査対象企業の一つで、時価総額も大きかったことから色々と調べました。経営陣への取材はもちろん、欧州、中国、米国の製造販売拠点を訪問した上で投資もさせて頂いていた、思い入れのある会社です。

スイスで会った欧州事業トップには、「ここまで足を運んでくれた投資家は初めてだ」などと持ち上げられ、自分ほどSMCについて知っている投資家はいないなどと思い込んでいました。しかし、今回のウェル・インベストメンツ・リサーチのレポートを読んで、自分の調査は実に足りなかったなと反省しました。

ウェル・インベストメンツ・リサーチのレポートから学んだこと

このレポートではSMCの在庫レベルを問題にしており、在庫評価損を計上すべきだとしています。さらに、グローバル企業になった今でも小さな会計事務所が会計監査を行っており、財務諸表の数字が実態を表していないとしています。

世界中の子会社が提出している財務諸表を実際に取り寄せ、有価証券報告書と辻褄が合うかを細かく調べており、素晴らしい内容です。私はSMCの高い在庫レベルを競争戦略の一環としかとらえていませんでしたが、このレポートの指摘に納得する点が多くありました。

まとめ

個人投資家が、高い水準の調査レポートを読める機会は滅多にありません。このようなレポートを読むと、自分の調査水準の低さを反省するとともに、調べれば調べるほど理解できる深い世界があるんだな希望を持ちます。

ウェル・インベストメンツ・リサーチのように、本当に独立した立場で調査レポートを書ける人は少ないです。例えば証券会社は、調査部門が客観的なレポートを書きたくても、投資銀行部門にとって上場企業はお客さんになります。今回のように企業を鋭く批判する内容を書けば、投資銀行部門としては仕事をもらえなくなるどころか、おそらく出入り禁止になるでしょう。

私は、多くの意見があればあるほどより良い資本市場につながると思っています。このようなレポートは市場の開示性や透明性を高めることつながると思い、高く評価しています。ウェル・インベストメンツ・リサーチのみなさま、ありがとうございます。

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日本郵船、商船三井、川崎汽船のコンテナ船事業統合を長期業績から検証する

日本郵船、商船三井、川崎汽船のコンテナ船事業を統合した新会社が発足します

12月5日の日経新聞朝刊5面に、日本郵船、商船三井、川崎汽船のコンテナ船事業を統合した新会社発足についての記事がありました。ニュースはなかなか客観的事実を掲載してくれないので、自分で集めることになります。

過去10年でコンテナ船は7年以上赤字。不定期専用船の利益で穴埋めしてきた

有価証券報告書から各社のセグメント情報を調べると、定期船・コンテナ船事業は過去10年で7年以上赤字を計上していることが分かります。逆に、不定期専用船事業は過去10年で2年しか赤字がありません。リーマンショック前に運賃が高かった時代に大量発注された船舶が完成したことによって需給が崩れたことは確かですが、定期船と不定期船では崩れ方に差があるのです。

定期船・コンテナ船事業が儲からない理由

Wikipediaで、定義を確認しました。
定期船  = 一定の航路を、定期的に航行する船舶
不定期船 = 特定の航路を定めず、貨物の有無によりその都度運航される船舶

定期船は荷物の有無に関わらずに運行するので、需給に合わせて柔軟に供給量を調整できないことが想像できます。船舶は固定費ビジネスなので、空きスペースがあれば極端な話、どんなに安く受注しても収益貢献します。各社で価格競争を行った結果、全員がダメージを受けると言う典型的な囚人のジレンマ状態が発生しています。これを抜本的に解消するには、船舶を減らすしかありません。そんなこと百も承知でしょうが、自分の船を減らしたい船会社はありません。足並みが揃わないまま、ズルズルと低収益環境が続いてしまいます。

このような、どの会社に運んでもらっても変わらないようなコモディティーを提供している場合、苦しい時期を耐え忍んだ会社に残存者利益が与えられる体力勝負になるので、合併が起きやすいです。結果として世界上位のMaerskとMSCが15%程度のシェアを持っています。今回の合併でできる新会社は、7.5%程度のシェアでしょうか。単体よりはだいぶましですが、まだまだ体力勝負に自信が持てる規模ではありません。

世界のコンテナ船シェア 【出典】 https://youtu.be/EFgDc1fe8DI

不定期専用船の収益性も下がっているなか、定期船・コンテナ船切り離しは抜本的な解決にならない

不採算事業からの撤退が遅れると、敗走が続く悪循環に入ってしまう

ようやく定期船・コンテナ船の切り離しに合意できた3社ですが、ダラダラと不採算事業の切り離しを先送りにしてきたため、収益力の高かった不定期専用船事業の収益性まで下がってきてしまいました。世界全体での船舶供給過多が主因ですが、企業単位でも不採算事業の延命に資源を割いていると、ほかの事業の収益力を維持するための資源配分がおろさかになる悪循環も想像されます。

リーマンショック後、日立の経営危機に社長就任した川村さんの言葉を思い出さずにはいられません。

[aside type=”normal”]経営者の仕事は各事業の将来性を見極め、そろそろピークアウトすると分かった事業から早めに手を引くことだ。業績が悪化してからでは手遅れになる。 [/aside]

[aside type=”normal”]一度決めたら心を強く持ち、周囲がどう言おうと最後までやりきることが大切。 [/aside]

関連投稿】日立の経営危機に社長就任した川村さんが語る経営者の役割

不定期専用船事業でも同じことが起きると予想する

今後数年を見通すと、造船所の受注残は少なく船舶供給量も減ってきます。需給がバランスして海運運賃が改善すれば、コンテナ船事業切り離しで固定費が軽くなったこともあり、一時的に海運各社の業績は回復するかもしれません。しかし、構造的には不定期専用船も規模の経済が決め手となるビジネスです。次の運賃低下局面では、おそらくさらに市場の寡占化が進んでおり、また日本の各社は苦境に立つでしょう。そのときまでに、収益を支えられる事業を育てられるのでしょうか?

まとめ

事業が不採算化してからの撤退には、苦しみしかありません。それにしても、過去10年中のうち7年赤字でもコンテナ船事業を続けてしまう海運各社の経営陣は何を考えているんでしょうか?彼らは何を最大化しようとしているのでしょう?何にせよ、それが株主価値ではなさそうなので、私は彼らと同じ船に乗ることはできません。

今回のコンテナ船の切り離しは当然として、一歩踏み込んで、収益が低下しつつあるがまだ瀕死ではない不定期専用船事業も統合できたらインパクトがあったと思います。自らの社長任期の先を見通して経営判断する難しさを感じさせるニュースです。

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日立の経営危機に社長就任した川村さんが語る経営者の役割

日立の経営危機に社長就任した川村さんが語る経営者の役割

関連】日立製作所(6501)の長期業績レポート

11月27日の日経新聞に、日立製作所(6501)で2009年から社長を務めた川村隆さんの言葉が出ていました。

当時の日立は2009年3月に8000億円近い損失を計上したばかりで、株主資本は2.2兆円から1兆円まで半減していました。売上10兆円、連結従業員36万人という大企業の建て直しを託された川村さんの言葉を日経新聞より抜粋しました。

[aside type=”normal”]経営者の仕事は各事業の将来性を見極め、そろそろピークアウトすると分かった事業から早めに手を引くことだ。業績が悪化してからでは手遅れになる。 [/aside]

[aside type=”normal”]一度決めたら心を強く持ち、周囲がどう言おうと最後までやりきることが大切 [/aside]

川村さんは、経営者の仕事として、(1)資本配分の大切さと、(2)組織の習性に屈しないこと、を挙げています。これは、『年率21.6%の29年複利リターンを達成した8人の破天荒な経営者に共通すること』という記事で書いた7つの共通点の1番と5番と符号します。

(1)経営者の最も重要な仕事は資産配分
(2)長期的に重要なことは、全社的な成長や規模ではなく、一株あたりの価値
(3)長期的な価値を決めるのは、報告利益ではなくキャッシュフロー
(4)分権組織は起業家的エネルギーを放出し、コストと「怨念」を減らす
(5)長期的な成功には独自の考え方が不可欠で、外部からの助言は気が散るし時間の無駄
(6)最高の投資先が自社株のこともある
(7)買収においては忍耐が肝心だが、ときには大胆さも必要

ここで、ウォーレン・バフェットのコメントを追記しておきます。資本配分ができる経営者は希少なのです。私は、そんな経営者を見つけたら抱きしめて離さないようにしようと思っています。

[aside type=”normal”] 企業のトップの多くは、資本配分のスキルを持っていません。ただ、彼らの力不足は驚くことではないのです。社長になる人は、販売や製造や技術や管理など何らかの分野で優れていたり、なかには社内の駆け引きがうまかったりしたことでその地位まで上り詰めた人が多いからです。しかし、CEOになれば新しい任務として資本配分の決断を下す必要に迫られます。ところが、これは重要な仕事であるにもかかわらず、彼らの多くはまったく経験がないし、簡単に極められることでもありません。 [/aside]

日本の大企業では、合理的な指導者は経営危機にしか登場できないのか?

川村さんは社長を1年、会長を4年で退任してから、経団連の会長就任要請も固辞して財界活動とも縁を切っているそうです。投資家として長期的に高いリターンを達成するためには、資本配分を理解している合理的な経営者を見つけて長く伴走することが必要です。川村さんのような経営者には長く経営して頂きたいのですが、日本の大企業ではこうした合理的な指導者は経営危機にしか登場できないのでしょうか?

川村さん就任をめぐるニュースを読んでいると、変化を嫌う大企業の内部政治を制圧するために『高年齢、短期』という2つのキーワードが浮かんできます。経営者として成功をおさめているがために、世間や社内の評判を気にすることなく背水の陣に立つことのできる経営者が覚悟を見せることで、社内に変革への理解と諦めが広がったと想像します。

大企業の経営を評価するには10年単位の時間が必要

日立のような大企業は、巨大タンカーさがなら経営の舵を切っても進路が変わるまでに時間がかかります。そのような企業の経営を評価するには10年単位の時間が必要だと思います。川村さんは外科の立場で、悪い部位をバッサリ切り捨て企業の生命維持に努めました。日立の健康体を取り戻して、次の経営者にバトンを渡しました。2014年に就任した東原社長に期待されることは、長期的な競争力を維持拡大することです。

しかし、長期的な取り組みになればなるほど、変化を嫌う大企業の組織としての習性が働いてしまいます。結果として合理的な社員は排除され、社内政治に長けた者が昇進してきます。結局歴史は繰り返し、次の経営危機まで合理的な経営者が現れないことを心配してしまいます。

まとめ

日立の経営危機に社長就任した川村さんは(1)資本配分と(2)組織の習性に負けないという、経営者としての2つのキーポイントを理解していました。しかし、川村さんのような合理的な経営者が日本企業のトップになるためには、経営危機が必要で、かつ荒療治をするため短期の在任となってしまうことが残念です。平常時には幅を利かせてしまう組織の習性に打ち勝てる合理的な経営者に投資するためには、経営者自身がオーナーである、ソフトバンクの孫さんや、ファーストリテイリングの柳井さん、楽天の三木谷さんのような存在を探すしかないのかなと思います。

富士フイルムによる和光純薬の買収

なぜいまさら総合メーカーを目指すのか?

関連】富士フィルム(4901)長期業績レポート
関連】武田薬品(4502)長期業績レポート

11月3日の日経新聞で、富士フィルム(4901)が武田薬品(4502)から和光純薬を2000億円規模で買収すると報じられました。11月4日の日経新聞には、富士フィルム古森会長の「医療の総合メーカーになりたい」というコメントがのっていましたが、いまさら総合メーカーを目指す姿勢に違和感を感じました。たとえば総合重電メーカーであれば、General Electricは1981年から2001年までにCEOを務めたJack Welchの元、選択と集中を進めます。30年以上前の話です。彼が残した格言の一つ:

『市場で4位か5位でいると、No.1がくしゃみをしただけで肺炎にかかってしまう。No.1なら、自分の命運をコントロールできる。第4 位グループの連中は合併に明け暮れ、苦しむ。第4位になると、事情が全く違ってしまうからだ。苦しむことが仕事になってしまう。だからこそ、より強大にな るための戦略的方法を見極めることが必要になる。世界でNo.1かNo.2でなければ再建か、売却か、閉鎖かのどれかだ。』(出典:名言DB

GEに遅れること30年、日立(6501)はリーマンショックを受けて2009年から2013年まで経営を担った川村氏が選択と集中に舵を切って結果を出します。一方では造船事業を諦めきれず、さらには飛行機を飛ばそうと多角化を進める三菱重工(7011)は業績悪化に苦しんでいます。このような歴史認識の中で、総合メーカーを目指す富士フィルムの戦略は時代錯誤に感じます。

古森会長の経営成績を評価する

富士フィルムの古森氏は、2000年から社長、2012年から会長として15年以上経営を主導しています。日経ビジネスに賢人の警鐘というコラムを連載する著名な経営者ですが、経営者としての成績はどうだったのでしょうか?まずは、15年業績サマリーを作成してみます。

2002年3月から2016年3月までの富士フィルム株リターンは年率1.7%しかなかった

富士フィルムのEPSは過去15年間、年率4%で成長しました。PERが26倍から17倍に切り下がる影響が年率-3.2%あり、富士フィルム株を2002年3月末に購入して2016年3月末まで14年間保有したときの配当再投資込みリターンは年率1.7%しかありません。事業構成の変化を細かく分析していませんが、魅力的な投資先でなかったことは確かです。競争力はあるが頭打ちの事務機(富士ゼロックス)とデジカメ事業からのキャッシュフローを、次の成長事業に有効利用することができなかったようです。

比較のため、事務機+デジカメという似た事業展開を行うキャノン(7751)の15年業績サマリーものせました。

(出典:有価証券報告書)
(出典:有価証券報告書)

資本配分成績が悪い経営者による買収に注意しよう

過去15年を見る限り、古森氏による資本配分の成績はいまいちです。そのような経営者が買収に踏み切る場合は注意が必要です。売上が伸びない現状を打破するために高値での買収を厭わない可能性が高いからです。これは、キャノンが2016年3月に東芝メディカルを7000億円、EV/EBITDA 20倍以上の高値で買収したことにも表れています(参考記事)。

まとめ

経営者にしかできない一番大事な仕事は、資本配分です。既存事業からのキャッシュフローの使い方は次の4つあります:(1)既存事業に投資、(2)新規事業に投資、(3)債務を削減する、(4)株主に還元する。100あるキャッシュフローを、この4つにそれぞれいくら振り向けるのか、というのが経営者にしかできず、一番考えるべき仕事です。

ところが、日本に限らず経営者の多くは事業部でオペレーションを回すことに長けた人たちが昇進してくるので、既存事業を成長させるという意識になりがちです。しかし既存事業に投資しても成長できない富士フィルムやキャノンのような状況になると、どうしてよいか分からず、自分の存在価値を正当化するために金で成長を買いたくなり、高値で買収をするという結果になりがちです。冷静に投資リターンを比べて、必要であれば撤退という判断をするのは、大組織であればあるほど難しいようです。

毎月分配型投資信託に御用心

日本で運用残高の多い投資信託はインデックス型と毎月分配型

下の表は、10月31日にモーニングスターによる投資信託の純資産残高ランキングのトップ20です。緑色のインデックス型、オレンジ色の毎月分配型が占めていることが分かります。

毎月分配型投資信託とは何か?

毎月分配型投資信託とは文字通り、毎月分配金を支払うように設計された投資信託です。定期的な収入があるように見えるので、特にリタイヤした年金受給者の方に人気が高いようです。

投資信託純資産残高ランキング (出典:モーニングスター)

新光US-REITオープンの投資損益をシミュレーションしてみます

毎月分配型投信で最も人気のある(=一番純資産残高が大きい)、新光US-REITオープンの投資損益をシミュレーションしてみます。まず、ファンドの基礎データは以下の通りです。

(出典:モーニングスター)

2016年10月1日から償還日である2024年9月30日まで8年間投資すると仮定します。年間運用利回り6%、分配金利回り28%が続くと仮定すると以下のようになります。投資家には8年で累計8のリターン(年率1.0%)しか返ってきません。分配金として100のうち97が支払われて一見安定的な配当がなされているように見えますが、実は自分自身が投資した資金を分割して返してもらっているのが実態です。

投資家が全リスクを背負いながら、無リスクの国と運用会社がリターンの50%以上を獲得

投資家(税金)、運用会社(手数料)という3者の収入を比べてみると、22あるリターンのうち、国と運用会社が合計13とリターンの50%以上を獲得しています。投資家が全リスクを背負いながら、リスクを取らない国と運用会社がリターンの50%以上を獲得しているのです。これはひどい状況だと思います。

 

分配金をやめるとどうなる?

上と同じシナリオで比べてみると、投資家のリターンは年率1.0%から3.2%へ大幅に上昇。分配金でもらっていた金額が税前で複利効果で増やすことができることが大きいです。さらに、国(税金)のリターンも4→7、運用会社(手数料)のリターンも9→18へと増えます。なんと、分配金を止めると関係者全員の収入がアップするのです!

 

関係者全員が得をする分配金廃止をなぜできないのか?

分配金を廃止すると、関係者全員が得をすることから利害が一致しているように見えます。しかし、現実には毎月分配型投信に人気があるのはなぜなのでしょうか?それはおそらく、毎月分配型が人気があるからでしょう。長期的には投資家のリターンを悪化させるような設計になっている毎月分配型投信を、投資家自身が選んで買ってしまい、運用会社としては売れる商品を提供し続けてしまうのでしょう。

まとめ

みてきたように、毎月分配型投信は投資家のリターンを著しく低下させます。全リスクを背負いながら、国や運用会社に奉仕しようという精神を持っている方以外は、全く魅力のない商品です。残念なのは、金融商品の基本的なリターン構造を理解できず、『毎月お小遣いが手に入るような』目先の感覚で大切な自己資金の投資を決定してしまう、日本人個人投資家の金融知識の低さです。読者のみなさんは、大丈夫ですよね?

自社株買いが増えるときは株の買い時なのか

自社株買い金額の過去からの推移

19日の日経新聞に、自社株買いが急増しているという記事がありました。より長期的な自社株買いの推移をみるために、左側に大和証券のレポートからの抜粋ものせました。大和証券の図表は年度単位、右側の日経の図表は1~9月までで集計しているので、たとえば2014を比べても金額が違っています。金額の傾向をつかんでください。

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自社株買いは株価が高いときに多い

自社株買いの図表、なんだか日本の株式市場にそっくりではありませんか?そうなんです。日本企業は「業績がよいとき=株価が高いとき」に積極的に自社株買いをして、「業績が悪い=株価が安いとき」に控える傾向があります。理想的な投資行動としては、「業績がよいときは株価も高いので自社株買いをせず内部留保を積み上げ、業績が悪く株価が安いときに自社株買いに動くこと」ですが、そういう企業は少ないのが現実です。

独自の株主還元の考え方は持つ企業は少ない

多くの企業は、特に株主還元において自分の頭で考えることが苦手なようです。たとえば配当性向をなぜ30%にしているのかについて説明を求めると、「日本企業の平均だから」というような回答をよく聞きます。自社株買いについても、「ほかの会社もしているし、うちもしやっとくか」という程度の会社が少なくありません。

自社株買いをしているからと言って、株式が割安だとは限らない

投資家としては、ある企業が自社株買いしているからと言って、ただ真似してその企業の株を買うのは危険だと思います。過去にさかのぼって各企業の自社株買い実績を評価する必要があります。ある企業が自社株買いしているということは、株価が割安な可能性が高く真似する価値があるのか、ただ単に周りに流されて自社株買いしているだけで真似する価値はないのか、しっかりと見極めたいです。