日産(7201)の取締役構成は、日産出身者が多い?ルノー出身者が多い?

2018年11月に逮捕された、カルロス・ゴーンさん

2018年11月の逮捕以来、カルロス・ゴーンさんの拘留が続いています。

会社資金を不正利用したのかもしれませんが、4か月も拘留する理由になるのでしょうか?

日本の司法制度は恣意的で、問題点が多いと感じます。

ゴーンさんが派手な生活を送っていたことは日産社員も知っていたことでしょうから、本当に不正利用が問題なのであれば、取締役会のガバナンス・監督責任の欠如を表していると思います。

日産自動車の取締役構成

日産自動車の取締役が大株主であるルノー出身者で占められていて、ガバナンスに問題があったのかもしれないと考え、有価証券報告書から各年度の取締役構成を作ってみました。

上記の通り、日産自動車の取締役は9名であることが多く、日産自動車の出身者が過半数を占めています。

取締役構成を見る限り、ルノーに有利な決定がなされるとは考えにくいのですが、いかがでしょうか?

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岡山県の備前信用金庫と日生信用金庫の合併ニュースで考えた

岡山県の備前信用金庫と日生信用金庫が合併

日経新聞ニュースによると、岡山県の備前信用金庫と日生信用金庫が2020年に合併予定だという事です。

備前信用金庫日生信用金庫の両ホームページには3月1日付けでニュースリリースが出ていました。

両信用金庫の概要

まず、ニュースリリースから、両信用金庫の概要を確認してみました。

業歴70年、預金高1000億円、貸出金500億円、役職員120名、店舗数10と、よく似た規模感の信用金庫のようです。

合併の基本合意事項

同じくニュースリリースより、合併の基本合意事項を確認しました。

対等合併であり、本店は備前信用金庫に置くが、理事長は日生信用金庫の木下さんが務めることで、バランスを取ろうとしているように感じます。

また、職員は存続金庫において引き続き雇用するそうです。

考え事

両信用金庫の経営状況を確認してみました。

備前信用金庫(2018年3月ディクロージャ―より)

日生信用金庫(2018年3月ディスクロージャーより)

経営を立て直すには、売上を上げるか、コストを下げるかですが、急激に売上を上げる妙案があるようには思えません。

コストを下げるには、支店の統廃合や人員削減が中心になりそうです。

既に両信用金庫とも過去5年で職員数が減ってきていますが、合併の基本事項に、「職員は引き続き雇用する」と明記されており、コスト削減効果は未知数です。

しかし、両信用金庫に体力があるうちに合併しようという経営陣の判断は、評価できます。

高森理事業、木下理事長とも、2015年に就任されたようで、新しい考えのできる理事長が揃ったことで、合併が実現したのではないでしょうか。

統合によって、ますます優れた金融機関になりますように。

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2月の株式市場の振り返り

2月の振り返り

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12月末の暴落が嘘だったかのように、株価が戻っています。

市場心理とは実に、移り気ですね。

12月末の市場心理悪化理由を振り返ってみると、①景気悪化懸念があるにも関わらず、FRBが利上げ姿勢を続けていること、②米中貿易戦争の悪化、③イギリスEU離脱問題が進展しないこと、という3点セットだったように思います。

それから何が変わったのでしょうか。

一番大きいのは①、FRBが株価下落を受けてか方針転換して、利上げを停止しました。

FRBが利上げを停止すると、日本との期待金利差が縮小するので円高圧力となり、日本輸出企業にはネガティブかなと思いきや、株価は順調に反発してます。

②と③に関しては、特に進展がないように思うのですが、市場は随分と楽観的になってきているように感じます。

景気敏感企業の業績は、日本電産の下方修正を皮切りに、2018年10-12月四半期でかなり悪化していました。

2018年10-12月四半期から業績回復を見込まずに2020年3月期予想を作った場合、2019年3月期に対して20%くらい減益になるのではないでしょうか。

その一方で、日経平均は2018年10月の24000円高値から、10%安い水準にあります。

個人的には、業績悪化が十分に織り込まれていないように感じて違和感があります。

米中貿易戦争は無事解決して、中国政府が景気刺激策を発動して回復、米国は利上げもなくなったし景気後退はない、という楽観的なシナリオが主流でしょうか。

イギリスのEU離脱問題や、日本では消費税上げというリスクイベントも控えていますけどね。

相場観やマクロを考えすぎても良いことはないので、丁寧に個別銘柄を調べていきましょう。

みなさまにとって、良い3月となりますように。

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校長先生の権限はとてつもなく大きい。組織が変われるかはリーダー次第

千代田区立麹町中学校の工藤校長

日経新聞に、千代田区立麹町中学校で2014年から校長を務める、工藤勇一さんが取り上げられていました。

読んで、驚きました。

リクルート出身、東京都初の民間人校長として杉並区立和田中学校で2003~2008年に数々の改革を行った藤原和博さんのことは知っていましたが、工藤さんは教師出身です。

学校にある数多くの当たり前、例えば、宿題の強制、中間テスト、服装チェック、担任制度を廃止してしまったそうです。

さらに、命や人権を上位目標に置き、服装の乱れや遅刻では叱らない。

中学校の目的は何か、これまでは教師の都合を優先してきただけで、「社会で活躍する人材を育てるための場所」であるときちんと定義し、全てを目的に照らして判断していきます。

ビジョナリーカンパニー的な発想です。

詳しくは、こちらの記事をお読みください。

結局、組織はトップ次第

公教育について批判的な意見を目にすることも多いですが、工藤さんや藤原さんを見ると、校長の権限の大きさに驚きます。

校長が本当にやる気になれば、大きく学校を変えることができるのです。

結局のところ、変わらない学校は、校長がそこまで変えたくないのでしょう。

同じことは、会社にも当てはまります。

結局のところ、変わらない会社は、社長がそこまで変えたくないのでしょう。

改めて、組織はトップ次第だな、と思いました。

工藤さん、ますますのご活躍を。

日本の公教育がよりよくなりますように。

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日本のテニスコートはガラパゴス?人は環境の産物だ

日本選手が世界で戦えない一因

日経新聞に、テニスプレーヤー伊達公子さんのインタビューが出ていました。

その中で、日本のテニスコート環境を、日本選手が世界で戦えない一因として挙げていました。

私はテニスをやらないので詳しく知らなかったのですが、テニスコートには主に5種類(ハード、クレー、砂入り人工芝、芝、カーペット)あるそうです(説明リンク)。

テニスの4大大会では、全豪、全米がハード、全仏がクレー、ウィンブルドンは芝ですが、芝は管理が大変なので、実際に世界レベルで普及しているのは、ハードとクレーということになるようです。

ところが、日本で普及しているのは、「砂入り人工芝コート」だそうです。

その理由は、雨の多い日本で、雨上がり後短時間で利用できるからのようで、稼働率を上げたいテニスコート経営者目線では、理にかなっています。

人工芝コートのメーカーも、住友ゴム、東レ、三菱化成など、日本企業が中心となっており、日本独特のガラパゴス業界が出来上がっています。

日本の気候風土にあった砂入り人工芝コートですが、世界標準のハードやクレーと比べると、球足が遅くなるそうです。

人工芝コートに慣れてしまった選手は、ハードやクレーが一般的な世界では戦いづらいことは想像ができます。

日本選手として活躍している錦織選手は中学生から、大坂選手は4歳からアメリカで練習しています。

考え事

日本の気候に合った砂入り人工芝コートは、日本でのテニス普及に貢献したと思います。

その一方、世界で活躍できる選手を育てる環境としては、確かに不適切なのでしょう。

解決方法は3つ考えられます:①世界基準に合わせて、日本にハードやクレーコートを増やす、②世界基準を日本に合わせてもらい、4大大会の一つを砂入り人工芝コートで行う、③世界基準に合った場所で練習する。

世界で活躍できる選手を育てようと思っている人は一握りですので、①はテニスコート経営者の理解が得られず、②も非現実的。

結局、③のように世界を目指す選手が個人レベルで日本を離れるということになります。

日本は国内市場がそこそこ大きいため日本基準が成立してしまい、例えばですが、砂入り人工芝メーカーも事業として成り立ってしまう。

日本の経済力が大きい証で嬉しい反面、日本基準と世界基準との乖離に苦しむケースが見られます。

そう考えると、アメリカのように自国の基準が世界基準になることが多い国は有利だな、と感じます。

まとめ

テニスコートのように、人は環境から強く影響を受けます。

国内トップを目指すのであれば、砂入り人工芝コートで、世界トップを目指すのであれば、ハードコートで練習した方がよさそうです。

それぞれの目的に合った環境が見つけられますように。

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カトリック教会のニュースで考えた

ローマ法王庁#3が、少年への性的虐待で有罪判決を受けた

ペル枢機卿が少年への性的虐待の罪で有罪判決を受けたというニュースが出ていました(BBC日経)。

現在ペル枢機卿はローマ法王庁で3番目の地位にあるということで、有罪を受けるカトリック教会聖職者としては最高位だということです。

Wikipediaによれば、21世紀に入ってから世界中でカトリック聖職者による性的虐待が発覚しているようです。

考え事

これまで隠してこれた不祥事が発覚しているカトリック教会の様子は、昨今の日本企業や政府の不祥事発覚と似たものを感じます。

当人たちにしてみれば、これまで通りの行動を続けているだけなのでしょうが、告発者を抑えきれなくなっているように感じます。

背景には、①個人に対して相対的に組織の力が低下していること、②SNSなどで個人の発信力が強くなっていること があるような気がします。

宗教に対しても、厳しいコンプライアンスの目が向けられ批判の声があがる現状は、良いことだなと思います。

ただし、問題の根絶は難しいと予想します。

不祥事を起こした企業を見ていると、1回の発覚で終わることは少なく、残念ながら氷山の一角であったことの方が多いように思います。

バフェットさん曰く「ゴキブリを一匹見たら、もっとたくさんいると思え」。

この問題を契機に、ますます透明性のある、ガバナンスの効いた組織になりますように。

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TTP(徹底的にパクる)

実社会はTTP(徹底的にパクる)してOK!

私たちは、学校生活を通して、テストのカンニングやレポート丸写しを禁じられてきます。その後遺症か、私は実社会に出てからしばらく、自分のオリジナル探しに拘り過ぎていたなと思います。しかし、新社会人がいくら頭をひねったところで、出てくるアイディアはたかが知れている確率が高いと思います。社会人になって15年くらい経ちましたが、今では逆に、TTP(徹底的にパクる)信者になってしまいました。圧倒的な成功例の行動様式を真似することに躊躇がなくなりました。それで圧倒的な成功例の結果に少しでも近づけるのであれば、自分のオリジナリティを捨てることなど安いものだと思えるようになりました。自分もようやく、オリジナリティから来る小さな成功に飽き足らず、オリジナリティを犠牲にしても圧倒的な結果を出したくなったのだと思います。

大事なのは、「都合よく」パクるのではなく、「徹底的に」パクること

2月11日の日経新聞朝刊の12面に、「官民ファンドのインセンティブ」について記事がありました(リンク)。人事でゴタゴタのあった産業革新機構(INCJ)については、私も2018年12月に記事を書きました(リンク)。しかし、インセンティブ面での特徴については、今回の記事で初めて学びました。

この官民ファンドは、政策的にイノベーションを後押ししようと、米国のベンチャーキャピタル(VC)をモデルに作られました。米国のVCは長い歴史の中で試行錯誤を続け、最も効果的と思われる報酬体系などを磨いてきたわけです。その特徴を取り出してみると

1、ファンドは10年期限。期限が来れば、損失も確定する。
2、成功報酬は、投資元本を全て返却してから発生(元本返還原則)し、青天井であること
3、成功報酬にクローバック条項があること。成功報酬が発生した後、別案件で損失が発生した場合、成功報酬を返却すること。

しかし、VCを模倣したはずのINCJのファンドを見てみると、

1、損失確定して国民負担を生じさせてはいけないと、ファンド解散を先延ばしする可能性がある。
2、元本返還原則がない。2018年1月までに、INCJは9093億円を投資し、6875億円を回収したそうです。元本返還原則に照らせば、成功報酬はゼロです。しかし、INCJは個別案件ごとに成功報酬を発生させているそうです。また、報酬が青天井であることも、ありえません。
3、クローバック条項がない。

あなたがINCJの運用者であれば、このインセンティブ設計を前にどのように行動するでしょうか?おそらく、利益は積極的に確定させて成功報酬を稼ぐ一方、含み損を抱えた案件はできるだけ先送りにするのではないでしょうか?これでは、イノベーションとは全く逆の結果になり、ゾンビ企業群を産んでしまいます。米国VCは報酬が青天井であるからこそ、含み益を抱えた投資先の保有を続け、10倍、100倍の利益を享受しようとします。10年期限とクローバック条項があるからこそ、含み損を抱えた案件を上手く処理しようとします。このあたりのインセンティブ設計を理解して真似することなく、イノベーションが起こせると思っているとしたら、甘すぎます。

「ファンド」などという言葉に惑わされず、細かい制度設計まで真似されているか、確認が必要です。

自分が誰かの真似しようとしたときも、都合よく真似していないか、チェックしようと思いました。

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行使価額修正条項付新株予約権(MSワラント)の問題点

相次ぐ行使価額修正条項付新株予約権(MSワラント)の発行と株価下落

最近、行使価額修正条項付新株予約権(Moving Strike ワラント=MSワラント)の発行の発表が相次いでいます。そして、発表と同時に株価が大幅安になっています。仮に本質価値を超えた株価下落であれば、投資チャンスになるのでしょうか?

事例1:日本管理センター(3276)11月15日発表(リンク

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事例2:プレミアグループ(7199)12月17日発表(リンク

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事例3:コムチュア(3844)12月18日発表(リンク

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MSワラントとは何か?

MSワラントは、資金調達の一種です。コムチュアの事例を考えてみました(リンク)。

ステップ1

野村証券に対して、コムチュアがMSワラントを発行します。
13000個 x 930円 = 1200万円がコムチュアに支払われます。

ステップ2

この新株予約権は、コムチュアが野村証券に対してMSワラントの行使を指示できるそうです(どこまで本当なのでしょうか?)。コムチュアとしては、できるだけ株価の高いときに行使したいところです。行使価額は、行使日前日終値 x 92%に設定されています。行使日前日終値に応じて行使価額が修正されることから、「行使価額修正条項付」と呼ばれています。

仮に3000円の終値の翌日に行使したとします。野村證券は、13000個 x 100株 x 3000円 x 92% = 約36億円をコムチュアに支払い、130万株を受け取ります。野村證券は株式を長期する意思はないので、すぐに売却します。仮に3000円で売却できたとして、39億円で売却でき、3億円が野村證券の利益となります。

ステップ3

ステップ2の場合、野村證券は3000円 x 92% = 2760円以上で売れなかった場合、損失を抱えてしまいます。時価総額400億円の企業の株式39億円分、約10%を保有する引き受けるわけですから、簡単に売り抜けられる量ではありません。

野村證券も手をこまねいている訳はなく、あらかじめコムチュア株を空売りすることで、大量引受に備えます。大量の空売り需要が出ることを市場も認識しているので、他の投資家も売り手に回り、株価は急落します。少なくとも、引受株数に相当する空売りが必要となります。コムチュアは12月19日の出来高は約85万株でした。野村證券は130万株を引き受けるので、12月19日の全ての売りが野村證券だったとしても、45万株足りません。実際には、野村證券の空売りは出来高の50%程度と仮定すると(42万株)、今日の2倍の売り圧力(88万株)が控えているとも考えられます。仮に短期的に株価が反発したとしても、空売り圧力があることが分かっている訳ですから、短期的には株価が上昇しずらい環境が発生します。

野村證券としては、空売りさえできていれば、行使価額 x 8%分は確実に儲かります。しかも、自分の売りで株価を下げることで、空売りからも利益を得られる可能性もあります。

野村證券の損益シナリオ

シナリオ1:空売り平均株価3000円、行使価格3000円 x 92%

利益 = 39億円 – 35.88億円 – 発行手数料0.12億円=3億円

シナリオ2:空売り平均株価3000円、行使価格2900円 x 92%

利益 = 39億円 – 34.68億円 – 発行手数料0.12億円 = 4.2億円

シナリオ3:空売り平均株価3000円、行使価格3100円 x 92%

利益 = 39億円 – 37.08億円 – 発行手数料0.12億円 = 1.8億円

野村証券としては、かなり有利な取引であることが分かります。

資金調達するとして、なぜ借入でなく、公募増資でなく、MSワラント?

引き受ける野村證券にとっては、非常に魅力的なMSワラントですが、無からお金は生まれません。反対側で損をしているのは、既存株主です。発行済株式が増えることで、一株利益が希薄化することはもちろん、野村證券の空売りによって(短期的には)株価も下落します。

空売りによる株価下落は一過性のものだと思いますが、それにしても、なぜ資金調達の方法としてMSワラントを選ぶのでしょうか?株式調達であれば、公募増資が王道です。調達金額に対する証券会社への手数料は2~4%(出典)だそうです。なぜ、8%という高額の手数料を支払ってまでMSワラントを発行したいのでしょうか?

さらに、コムチュアのバランスシートはピカピカです。現預金47億円に対して借入金7億円。ネットキャッシュ40億円です(決算短信)。過去5年間の年平均年間営業キャッシュフローは約10億円に対して、IT企業なので設備投資も少なく潤沢なフリーキャッシュフローを生み出しています。今回の40億円の調達、余裕で借入できたと思うのです。その場合は、金利は高くても2%程度でしょう。

借入、公募増資というコストの安い選択肢があるにも関わらず、なぜコムチュアはMSワラントを選択したのでしょうか?サラリーマン社長であれば分かりますが、コムチュアの向さんは創業者として筆頭株主23%を保有しています。社長の大野さんも1.9%を保有しています。経営者と既存株主の利害は一致しているように見えます。

ここが、私にとって実に不可解な部分です。取締役に野村総研出身者が多いので、野村證券の意向が通りやすいのでしょうか?それとも、借入できないような、公募増資できないな事情があるのでしょうか?少なくとも今回の一件で、コムチュアは資本配分に大きな問題があることが明らかになりました。経営陣には、事業の競争優位性を高めることはもちろんですが、資本配分の勉強をして頂きたいものです。資本配分の巧拙は、企業価値を大きく変化させるということを理解して頂きたいです。まずは、最近のMSワラントブームが終わることを祈って。

もし私の理解が間違っていましたら、是非ともご指摘をよろしくお願いします!

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産業革新投資機構の役員辞任で感じたこと

革新投資機構の役員辞任

日本国が出資する産業革新機構の全役員が辞任することになりました。メディア報道を見ていると、高額報酬が問題になっているように受け取れますが、辞任した役員のコメントを読むと、より深い問題があることが分かりました。

この気付きは、「銀行員のための教科書」というブログから得ました。銀行に勤務されていると思われる方の匿名ブログですが、内容は非常に充実しています。情報発信を通して、日本を良くしたいという気概を感じます。いつも、学ばせて頂き、ありがとうございます。

問題の本質は、契約の軽視

取締役の辞任コメント(リンク)を一読されることを、お薦めします。坂根正弘氏(元コマツ社長)や、コンサルタントの冨山和彦氏など、各界を代表する方々の本音が聞ける、貴重な機会となっています。

私なりに総括させて頂くと、経済産業省が契約を軽視したことが問題の焦点です。高額報酬が問題なのであれば、それは予め伝えるべきことです。もしかすると、高額報酬でなくとも、日本のためにひと肌脱ごうという人が集まったかもしれません。しかし、世界レベルで戦える人を集めるために、世界基準の報酬を払おうと合意したことを、後から変更しようとする経済産業省の姿勢は問題です。契約内容の朝令暮改が許されると、関係者は疑心暗鬼のまま日々を過ごし、一体何を信じれば良いのか分からなくなります。

例えば、会社と社員が雇用契約したとします。部長の判断で年収1000万円で契約したとして、その後、社長が「高すぎる」と言ったところで、契約期間中は年収1000万円が続きます。逆に、年収1000万円の市場価値がある人物が、年収500万円で契約してしまい、「安すぎた!」と思っても、これまた後の祭り。契約内容の変更方法もまた、契約書に記載の通りに行うのみです。

国内で足を引っ張り合っている場合ではない

経済産業省など役所全般の行動を見ていて感じるのは、彼らが日本国内しか見ていないということです。優秀な運用者は、世界中で求められています。例えば、冨山和彦氏のコメントに、ノルウェーやカナダの公的ファンドが成功例として取り上げられています。

例えばカナダには、CPPIB(Canada Pension Plan Investment Board)という公的年金ファンドがあり、インフラ投資やプライベートエクイティ投資に積極的です。解約リスクがないため長期的な時間軸で投資ができるという、年金ファンドの強みを活かした運用をしていると思います。私は、このファンドと面接したことがありますが、香港オフィスで面接した相手5,6人のうち、カナダ人は1人だったように思います。ちなみに私の上司になるであろう人は、インド系アメリカ人でした。

ノルウェーの公的ファンドも同じような状況でしょう。日本オフィスもありますが、そもそもノルウェーの人口が約500万人ですから、ノルウェー人だけでグローバル運用人材を充足できるとは思いません。ノルウェー銀行は日本株式市場の大株主として四季報で目にすることも多いです。シンガポールのテマセクやGICも、世界中から運用者を集めています。

このような状況で、国内で足を引っ張り合っている場合ではないと思うのです。産業革新投資機構と同時期に生まれた政府系ファンド、株式会社INCJの挨拶には、「日本の産業は自前主義によって宝の持ち腐れ」と書いてあります。今回もまた、宝の持ち腐れを起こしてしまった気がして、残念です。

例え万全の体制で臨んでも、結果が分からないのが投資の世界です。特に半年後、1年後という短期的な結果は誰にも分りません。だからこそ、より良い体制で臨めるように、少しでも勝てる確率を上げようとしのぎを削っている世界です。もしかすると、政府や官僚の方々は、運用を簡単だと考えているのかもしれません。投資は、安く買って高く売るだけ。単純ですが、簡単ではないところがポイントです。とにかく、国内や社内で足を引っ張り合っている場合ではないのです。競争相手は、外だけで十分です。

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AI(Artificial Intelligence)より、AA(Artificial Alien)の方が納得できる

AIによってチェスに何が起きたか?

AIやRPAという言葉をよく耳にするようになってきました。私など、つい半年前まで「RPA?」という感じでしたから、技術革新と普及スピードは速いものです。これら技術について、単純作業が代替されることで多くの失業者を産む可能性がニュースに取り上げられていますが、果たしてどのような影響を与えるのでしょうか?

我々を取り巻く構造的な技術変化を理解したく、Wired Magazineを創業したKevin Kellyさんによる、The Inevitableという本を読んでいます。

この本に、AIとチェスの事例が出てきます。1997年に、IBMのディープブルーというAIが、当時の世界チャンピオンGarry Kasparovさんに勝ちました。私はこのイベントを、将棋、囲碁と続く、機械優位性証明の歴史の始まりとして認識していました。しかし、現実はもっと複雑でした。チェス業界はその後、機械 vs 人間の個人戦ではなく、フリースタイルと呼ばれる、機械を利用しても良い勝負に傾倒していったそうです。例えば2014年のフリースタイル選手権では、AIが42勝に対して、AIと人間のタッグチームが53勝したそうです。飛行機のパイロットのように、操縦の大半は機械が行いながら、機械の弱点を熟知した人間が必要箇所だけ介入するというスタイルのようです。本書が発行された2016年時点で一番強いチェスプレーヤーは、Intagrandという、複数の人間と複数のAIのタッグチームだとか。自分のイメージするチェスからはかけ離れていますが、AI勝利後の業界推移が興味深いです。AIを否定して人間戦にこだわることなく、AIの良さと人間の良さをうまく取り入れているところに好感が持てましたし、何よりAIとの直接対決では人間が負けてしまうという現実から目をつぶっては仕方ありません。

さらに驚いたのは、人間チェスプレーヤーのレベルまで上がったということです。機械に負けたゲームとしてチェス人気が衰えるどころか、強い機械と気軽に対戦できるようになったことで、逆にチェス競技人口は増えたそうです。現在は、チェスの最高位であるグランド・マスターの人数が、1997年当時の2倍に増えたそうです。特に、ポイントランキング1位のMagus Carlsenさん(今日でも1位を維持しています)は、AIと練習を繰り返した1990年生まれのノルウェー人です。この話を聞くと、将棋界を席巻している藤井聡太さんを思い出します(2002年生まれ)。藤井さんは練習方法について、次のように述べています。

Q: 練習方法を教えてください。
A: 一人で練習することが多いです。もっぱらリビングのパソコンで、AIソフトなども利用しながら、練習をしています。
リンク

AI(Artificial Intelligence)より、AA(Artificial Alien)の方が納得できる

AIと練習を重ねた若者の打ち手は、古参のプレーヤーには異質に映ると想像します。Alpha Goが世界トッププレーヤーを破った囲碁の世界でも、永く信じられてきた定石に変化を与えているようです。

我々は、他者がいて初めて自分について認識できます。もし世界に自分一人しかいなかったとしたら、自他の認識すら生まれていないでしょう。私は東京生まれですが、他の地方で育った人と触れることで初めて、東京の特徴に気が付きます。海外を訪れ、外国人と話してみることで、日本の常識、世界の非常識に気付かされることもあります。さらに人類について知るには、違う認知構造を持った異星人に出会うことが必要だろうと思っていました。

The Inevitablesの記述を読んで、AIはその疑似体験を与えてくれている、ということに気付きました。今後のAIの進化と普及によって、人類は本質的に異なる視点からの思考に触れることでしょう。チェス、将棋、囲碁の違いが分かるトッププレーヤーは、既に未知との遭遇体験を持っているはずです。それが、現在ゲームの枠を超えて社会レベルで進行しています。生活習慣や商習慣を変えることを要求され、社会ストレスも大きいことでしょう。しかし、AIをAA(Artificial Alien)だと思い、他者から学ぶ気持ちをもって接することができるかどうか。機械が出した結論だと色眼鏡で見ることなく、良いものは良い、と合理的に判断して採用できるかどうかが、ポイントになると思いました。一体どんな未来になるのか、より高い次元での人間と機械のコラボがますます楽しみです。

Happy Investing!!