貴重な失敗例に学ぼう:江守HD(9963)

株式は紙切れになる?

株式は紙屑になるかもしれないから株式投資は危ない、と言う人がいます。タカタや東芝など大企業の不祥事や倒産は大きく報道されるので、そういう印象を持ってしまうかもしれません。では、ここで質問です。2015年に上場廃止になった銘柄は何社あったでしょうか?Wikipediaによると、答えは以下の通りです。

東京証券取引所

名古屋証券取引所

  • オプトロム(2015年10月1日、セントレックス 7824)上場契約違反等

東京証券取引所で8社、名古屋証券取引所で1社、合計9社です。2014年末の上場企業数が約3500社であったことを考えると、1年間の間に株式が紙切れになった確率は0.3%です。景気状況によっても違うでしょうから厳しめにみて、10年間でも平均0.5% x 10年=5%程度ではないでしょうか?個人的にはあまり高いとは思えないのですが、いかがでしょうか?

貴重な失敗例から学ぼう:江守HD(9963)

株式が紙屑になることを心配するより、貴重な大失敗例から学ぶ方がお得だと思います。99%以上の企業が倒産しないなか、どうすれば倒産できるのか?

第1回としまして、江守ホールディングスを取り上げたいと思います。民事再生手続きを経て興和グループに譲渡され、現在は江守商事株式会社として興和グループ出身の市川哲夫社長の元で再出発を図っています。江守商事のホームページはありますが、過去の決算資料など都合の悪い情報を会社から公開することはありません。しかし、上場廃止になった企業も含めた決算資料を株主プロで見ることができます。株主プロを運営する有報データマイニング社のみなさん、本当にありがとうございます!

そして、上場廃止になった企業の株価はヤフーファイナンスなどからは見れなくなります。そこで、株ドラゴンというサイトがお薦めです。

決算情報

【参考リンク 】 江守HDの長期業績レポート

売上・利益やROE・ROAを見ている限り、江守HDは素晴らしい会社に見えます。中国事業の急拡大によって、順調に業績を伸ばしているようにみえます。

 

しかし、営業キャッシュフローには危機の兆候が表れています。

2010年3月期までも営業CFは赤字と黒字を繰り返し、そもそもキャッシュ管理の甘い会社だったことが分かります。しかし、それまで多くても±20億円だった営業CFが、2011年3月期から60億円以上の赤字に急拡大します。売上が急激に伸びたからという説明になるのでしょうが、商社というビジネスモデルを考えてみましょう。

① 在庫を仕入先から購入する。代金は買掛金で後払い。
② 顧客に在庫を販売する。代金は売掛金で後日回収。
③ 仕入先に支払う。買掛金がなくなり、現金が減る。
④ 顧客から代金を回収する。売掛金がなくなり、現金が増える。

以上、①~④をグルグルと繰り返すことになります。③と④の間に時間差があることが多いので、この間の運転資金需要が生まれることは理解できます。

では、問題の2010年3月期~2011年3月期のバランスシートを見てみましょう。

いかがでしょうか?何か気になる点はありましたか?

私は、上記①から④の事業サイクルを回しているはずなのに、売掛金、在庫、買掛金の伸び率にばらつきが気になりました。

売上  659億円 > 953億円 +44%
売掛金 182億円 > 248億円 +36%
在庫  26億円 > 40億円  +53%
買掛金 107億円 > 127億円 +18%

売上、売掛、在庫の伸びは+40%内外で理解できます。在庫も将来の成長を見越して多めに保有していると考えることもできます。ですが、それに対して買掛金の伸びが低すぎます。顧客からの代金回収は今まで通りでありながら、仕入れ先には早く支払い行っているということです。これでは、キャッシュが必要になってしまうことは容易に想像がつきます。

この状態が単年度で是正されればまだしも、4年間も続くという事は異常です。営業キャッシュフローは特殊な業界(例:分譲住宅)を覗いて黒字であることが当たり前です。そもそも、赤字と黒字を繰り返していたことが経営陣によるキャッシュ管理の甘さを表しています。管理の甘さが、中国法人の責任者による架空販売を許す土壌をはぐくんでしまったのだと考えます。

江守HDの教訓

キャッシュフローは会社にとっての血液です。利益は出なくても会社は死にませんが、キャッシュがなくなれば確実に死にます。利益の伸びを考える前に、まず長期的な営業キャッシュフローの推移を確認することが大切だと思います。その事業は、(競合他社と比較して)普通はどの程度の運転資金が必要なのでしょうか?それに対して、調査対象企業のキャッシュ管理は優れているのか・劣っているのでしょうか?

サルも木から落ちる

江守HDの大量保有報告書を見ると、フィデリティという有名機関投資家が2013年から大株主であることが分かります。これまで見てきた通り、既に2011年3月期に問題の兆候が見えていましたが、売上や利益の拡大が魅力的に感じてしまったのでしょう。有名機関投資家でも、こうした間違いがあるという一例です。ご参考まで。

Happy Investing!!

株主総会雑感

株主総会が6月に集中する理由

上場企業への投資家にとって毎年5,6月は忙しいです。3月末決算の企業が多い日本では、本決算が5月に発表され、株主総会が6月に開催されるからです。株主総会は決算日から3ヵ月以内に開催することがルールなので、3月末決算→6月下旬の株主総会 となるのです。

2017年はこれまで3社の株主総会に出席

2017年は、今のところ12月決算の会社1社(総会は3月)と、3月決算の会社2社の計3社(総会は6月)の株主総会に出席しました。同じ株主総会と言っても企業によって違いがあり、定性評価のための貴重な情報源だと思っています。

① 日本管理センター@東京国際フォーラム

株主からの活発な質疑応答が印象的。10人以上質問していた。CFOの方は、「ここ数年は株価が伸び悩んでいるが、弊社の株主からは株価についての質問が一切出ないのでありがたい」とコメント。株主総会では、会社説明会で良く顔を見かける個人投資家の方も複数出席しており、事業内容をよく調べ理解している真面目な個人投資家が多い印象を受ける。総会後は立食形式で経営陣との懇親会。経営陣とはろくに話さず、食べ物にむらがる株主(主に高齢者)が多いのは残念だが、直接経営陣の方々とお話しする機会を作ってもらえるのは嬉しいし、オープンな社風を感じます。お土産はなし。

② トランコム@名古屋

ヤマトの業績下方修正からの値上げ要請など、ニュースの多い物流業界の企業。業績は伸び悩んでおり、心配する株主から活発な質問が出ると期待して名古屋まで出かけました。200人以上参加した総会でしたが、なんと質問は3回だけ。そのうち2回は私で、残り1回は、取締役の選任について「みなさんから一言づつ」という質問とは言えない内容。あまりに質問が出ないことに逆に自分が驚いてしまい、質問をしてはいけないかのような場の空気に負けて2回で質問を止めてしまったことが反省点でした。私が2回目に質問している最中には、おじいさん達が周りに聞こえるような声で私語を始める始末で、株主の質が低いと感じざるを得ません。なぜ質問もする気がない株主が大量に出席しているかと言うと、「お土産」がもらえるから。今年はバームクーヘン。多くの株主は、バームクーヘンをもらってさっさと家路に着きたいのでしょうか。それなら、お土産だけもらって参加せずに帰ればいいのに。私は、業績を上げて株価を上げることでリターンを得るという株式投資の王道に興味を持たない株主を集めてしまう、株主優待とお土産が大嫌いです。

③ エイジス@幕張

棚卸サービスを提供する会社。本社が幕張駅から遠い上に、ボロくてビックリしました。取引先だったスーパーが閉店したところを、居抜きで本社にしたとか。徹底したコスト意識を体感できます。そんな会社ですから、もちろん総会のお土産はなし。つまり総会に出席する株主は事業に興味がある人だけです。質問もまともな内容が6問ほどあったでしょうか。帰り道に20年以上も株式を保有しているという株主の方と長話できたことが嬉しかったです。会社の歴史を良く知る方で、勉強になりました。

まとめ

いかがでしょうか?たった3社の株主総会でも、これだけバラエティに富んでいます。是非、株主総会に足を運んでみてください。自分の五感を総動員して、社風や集まっている株主の様子を観察してください。そして、「この人たちと同じ船に乗り続けたいのか?」と自問自答してみてください。数字を超えて企業を生き物として感じられるようになるので、楽しいですよ。

Happy Investing!!

東京オフィスの空室率データを見て考えた

不動産ビジネスには3つの変数しかない

不動産ビジネスで起業する友人の手伝いをしている関係で、これまであまり縁のなかった不動産関連データに目を通すようになった。

不動産ビジネスについて考えてみよう。費用側は、ほとんどが固定費だ。一度物件を購入すれば減価償却費が決まり、借入による金利負担も変動か固定金利かの違いはあるが、固定費であることには変わりない。一方の売上=賃料 x (1 – 空室率)なので、(1)物件の購入価格、(2)賃料と(3)空室率という3つの変動要素で収益性が決まってしまうという、単純なビジネスだと思う。

私が事業を評価するとき、その企業がどの変動要因をコントロールできるかを重要視している。これが競争優位性の源泉だと思っているからだ。不動産ビジネスでいえば、物件の購入価格は安くならないと買わないと決めて我慢できればコントロールできる。しかし、賃料を下げれば空室率は下がるが、賃料を上げれば空室率も上がってしまうので、賃料と空室率について企業がコントロールできるとは評価できない。結局、不動産ビジネスはどんな物件をいくらで買ったかという時点で、ほぼ勝負がついているのではないだろうか。

その意味では、私が行っている上場企業投資と似ていると思う。上場企業投資は、どの銘柄をいくらで買うかをコントロールできるのみで、少数株主の立場からはその他一切コントロールできない。だからこそ、以前このブログで書いたように、上場企業投資は付加価値が薄いことを自覚しなくてはいけないし、企業価値評価に注力するバリュー投資戦略を採用することにしている。

現在の東京のオフィス市況

代表的なデータに、三鬼商事が月次で発表している日本の主要都市のオフィス市況データがある。長期的にこの統計を見ていくと、空室率と賃料のきれいな相関性が見えてくる。

空室率6%を境に、それ以上であれば平均賃料は下がり、それ以下であれば平均賃料は上がる。そして、空室率は6% プラスマイナス 3%、つまり3% ~ 9%の間で振り子のように行ったり来たりする。オフィスビルを建築することを考えてみると良く分かる。空室率が下がると、新規オフィスの供給は止まるが、急には止まれない。なぜなら、今供給されてくるビルは数年前に計画されたものだからだ。

例えば、東京では2018-2020に大型オフィスが多数完成するが、その多くは2013年にアベノミクス開始ごろに計画されたものだからだ。5年ほどの年月がかかってしまうので、足元の景気動向だけでは止まれない。その結果、次のような不動産ビジネス循環ができる。

景気が回復する > 空室率が下がり始める > 賃料が上がり始める > 新規オフィス供給計画が出る > 4,5年先までは供給されない > 新規供給までの間、空室率は下がり続ける > 賃料は上がり続ける > 景気回復から4,5年経ち、景気減速局面になって新規オフィスが供給され始める > 空室率が上がる > 賃料が下がる > オフィス供給が止まる

実際の統計データもこれに近く、前回は2003年~2008年までが回復期、今回は2013年~2018年が回復期になっている。分かりやすい5年周期だから、今後は不動産市況は冷え込む確率の方が高いような気がする。「不動産セクターは、新規オフィス計画が発表されてから投資して、4年持って売るということを繰り返せばいい」というのが勝ちパターンだとは思うが、それを実践するには強い精神力が要求される。何しろ、10年に1回くらいしか投資のチャンスが訪れない。分かってはいても、2回半もオリンピックが過ぎるのを寝て待てる人がどれだけいるだろうか。また機関投資家だったとしたら、「私は10年に1回しか投資しません」と豪語してお金を預けてくれる人がどれだけいるだろうか?

行動している方が賢く見えてしまうという人間の悲しい習性がある限り、不動産投資の勝ちパターンは残り続けるだろうし、長い時間軸で勝負できる人は勝ち続けるだろう。偉そうに言っている私も、月次やひどいときには日次の損益で一喜一憂してしまう行動を反省することにします。

Happy Investing!!

 

報酬体系に御用心:富士フイルムによる和光純薬買収の場合

和光純薬の買収価格のバリュエーションに触れた報道がみつからない

関連】富士フィルム(4901)長期業績レポート
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関連投稿】富士フィルムによる和光純薬の買収
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2016年12月15日に、富士フィルムによる和光純薬(武田薬品の子会社)の買収が正式に発表されました(会社リンク)。

インターネットで『和光純薬 買収』と検索すると、「1547億円」という数字が目につきます。しかし、この数字は富士フィルムが支払う予定の買付代金であり、和光純薬全体の企業価値ではありません。そこで、今回の取引における和光純薬のバリュエーションについてまとめてみました。

上の表にあるように、和光純薬の発行済み株式数は33.3百万株あります。このうち、自己株式12百万株を除いた流動株式数は21.3百万株。さらに、富士フィルムは既に3.2百万株を保有しているので、今回の買収で購入する必要のある株数は18.1百万株です。この株数に、買収価格である一株8535円を掛けると、1547億円という報道される金額が算出できます。つまり、これは和光純薬の一部分の価格であることが分かります。

では、和光純薬全体はいくらで評価されたのでしょう?一般的に、時価総額=発行済み株式数 x 株価 で計算されます(日経新聞リンク)。 つまり、和光純薬は2842億円の時価総額で取引されることになりました。

2016年3月の純利益が57億円だったので、PERは50倍を超えていますし、仮にバランスシート上のネットキャッシュを除いたとしてもPERは40倍以上です。40~50倍というPERは、高成長企業に許されるバリュエーションです。果たして和光純薬にその価値があるのでしょうか?

和光純薬の業績

和光純薬の有価証券報告書をまとめてみました(EDINETより取得)。

2008年3月期以降、売上は約750億円、経常利益は約80億円で安定的に推移していることが分かります。和光純薬は研究で使われる試薬で高いシェアを持つ安定した優良事業であることは分かりますが、高成長企業とは呼べないと思います。

価値評価をする人の報酬体系に気を付けよう

和光純薬の買収発表資料には、第三者算定期間(SMBC日興証券)、ファイナンシャルアドバイザー(メリルリンチ)、経営陣による3つの価値算定が出てきます。私(Nagatomo Investments)による価値評価を含めて上にまとめました。

気付くことは、私とSMBC日興による価値評価が1株4000~5000円(時価総額1300~1700億円)と近いこと。和光純薬の安定した事業実績を元にDCFを行うとすれば、誰がやっても大差ない評価になると思います。それに比べて、メリルリンチと富士フィルム経営陣は非常に高い評価をしています。

ここで、価値評価をする人の動機付けを考えることが大切です。私は個人投資家であり、投資リターンが報酬です。SMBC日興は固定報酬を受け取る第三者算定期間なので、無理に値段を高く見せる動機付けはありません。自然体での評価になると思います。

問題はメリルリンチと経営陣です。メリルリンチは、買収成立価格に応じた手数料を受け取ります。仮に取引金額の1%としても、15億円の収入です。メリルリンチとしては取引を成立させないことには始まりません。さらに、価格が吊り上がることには自分たちの手数料が増えるだけだという事で、自然体で価値評価する動機付けは全くありません。

出典:有価証券報告書(2016年3月)

最後に富士フィルム経営陣です。富士フィルムを2000年から経営している古森会長をみてみると、2016年3月に22,300株を保有しています。現在の株価4500円換算で、約1億円の富士フィルム株式を保有しています。その一方で、給与として年間2億円以上を受け取っています。

そもそも富士フィルムを15年以上経営しながら1億円しか自社株を保有していないことに驚きます。15年で受け取った給与は軽く10億円を超えているでしょうから、自社の株には投資先として魅力を感じていないということではないでしょうか?

まとめ

こうした材料を見ていくと、古森会長や富士フィルムの目的が株主価値の最大化にあるとは考えにくいです。そんな経営陣に雇われているメリルリンチに正しい価値評価を期待することもできません。投資リターンでしか稼ぐことのできない投資家の立場としては、価値評価をしている人の報酬体系、動機付けに気を付けましょう。

ちなみに、ウォーレン・バフェットは時価総額40兆円のBerkshire Hathawayを経営しながら、給与は年間1000万円です。そして自ら大株主として、少数株主と全く同じリスクを背負っています。株主の立場であれば、どちらの経営者に資金を託したいですか?

Happy Investing!!

調査対象企業の探し方:自社株買い

【注記】本投稿は、長友威倫が別のブログに書いた記事をアップデートしたものです。

大東建託にみる自社株買いの効果

調査対象企業として、自社株買いの有無が一つの目安になります。今日は、具体的な自社株買いの調べ方について書いていきます。対象企業は大東建託(1878)。私が知る限り、日本で最も積極的に自社株買いをしている企業です。

発行済み株式数の調べ方

さっそく、大東建託のIRページに行きます。右にある決算資料へのリンクをクリックして、さらに2016年3月期を選びます。 有価証券報告書をクリックして開きます。これが、上場企業が提出を義務付けられている書類のうちで一番詳細なものになります。2016年3月期の有価証券報告書は全166ページもありますが、どこに必要な情報が書いてあるか分かってくれば、慣れてきます。5~6ページに、過去5年間の経営状態のまとめが載っています。6ページに、「発行済株式総数」とあります。

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この数字を、過去にさかのぼって集めます。ちょっと面倒ですが、コツコツ手作業でやっています。以下のようになります。

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過去14年間、自社株買いによる大東建託のリターン押し上げ効果は年率4%!

過去14年間で、大東建託の当期純利益は年率8%で成長。自社株買いによって株式数が年率4%で減ったので、EPSは年率12%で成長。さらにPERが2002年の12xから直近では19xに拡大したことで、年率3%の株価押し上げ効果があります。利益 x 株数 x PERの力が合わさり、大東建託の株価は2000円から16000円まで、年率16%上昇してきました。株価を上げる大切な構成要素のうちの一つが自社株買いであること、伝わりましたでしょうか?

私も、このような3拍子そろった銘柄を見つけて長期保有したいです。長きにわたって日経平均は不調ですが、輝く個別銘柄は必ずあります。必ず見つかります。頑張って探しましょう!

大東建託のみなさま、素晴らしい事業運営と株主還元によって理想的な株価形成を見せて頂き、ありがとうございます!

Happy Investing!!

 

日経225の証券会社3社を比較して感じるオーナー意識の重要性

日経225に採用されている証券会社は、野村・大和・松井の3社

関連】長期業績レポート:大和証券(8601)
関連】長期業績レポート:野村HD(8604)
関連】長期業績レポート:松井証券(8628)

インターネット証券の先駆け、松井証券をご存じですか?

日経225に採用されている証券会社は3社あり、野村ホールディングス・大和証券・松井証券です。野村証券と大和証券は町中にも支店がたくさんありますし、広告も目にすることも多いと思います。一方、松井証券の名前を耳にする機会は少ないのではないでしょうか?

1918年創業の松井証券は長らく一般的な中小証券会社でしたが、1995年に社長就任した松井道夫が周囲の反対を押し切り、インターネット証券に参入して大きく成長します。

インターネット証券には長期間トップを務める経営者が多い

証券会社の時価総額を見ると、野村・大和という2大証券会社以外に大きな店舗型証券会社はなく、ネット証券の中で松井証券はトップグループに位置していることが分かります。また、ネット証券は黎明期から長期間トップを務めている経営者が多いことも分かります。

社長の任期が長いことから個人資産に占める保有株式の割合も、ネット証券各社の方が高くなっています。特に松井証券は、配偶者と資産管理会社を含めると保有比率は50%に近く、時価総額にして1000億円以上になります。

野村・大和・松井の長期リターンを比べてみる

2016年3月までの14年投資リターンでは、松井証券が圧勝

3社に2002年3月末から2016年3月末まで14年間投資したとすると、以下のリターンになりました。

大和:年率 +1.3%(100円が120円になった) 
野村:年率 -6.9%(100円が37円になった)
松井:年率 +7.7%(100円が283円になった)

店舗型証券からネット証券への移行期ということもありますが、野村と松井のリターン差が大きくて驚きました。次に、個別要因を見ていきましょう。

松井証券の勝因 その1:リスク管理

売上を比べると、大和は4000億が6000億へ(年率+2.1%)、野村は1.1兆が1.7兆へ(年率+3.1%)、松井は130億が340億へ(年率+7.3%)と拡大します。仮に売上成長率の差は、経営努力ではなくネット証券成長期の追い風によるものだとしましょう。しかし、3社の長期リターンには売上成長以上の差以上の開きがあります。これはなぜでしょう?

手数料中心の証券会社のビジネスモデルにおいて景気循環の影響は避けられません。しかし、避けられないからこそ好況期にも準備を怠らないか、好況期にイケイケで投資してしまい、不況期に損失を出すかは経営者のリスク管理能力です。大和と野村がリーマンショック以降に赤字を計上したのに対して、松井は売上がピークから1/3になっても黒字を維持しています。従業員数の推移を比べると、松井証券は好況期の2002年3月から2008年3月にかけて正社員数を200人から100人へ約半減させて固定費を落としていることに驚きました。業容を拡大したくなりそうな時期に真逆の行動ができるところにリスク対応の高さを感じます。

松井証券の勝因 その2:資本配分

リーマンショック後に赤字に陥った大和と野村は、株価が安い状況で公募増資を余儀なくされます。一方でリスク管理に優れる松井証券は、株価が安い状況で自社株買いを行います。このように、リスク管理は当期利益に影響するだけでなく、キャッシュフローの有効利用によって株式数をコントロールしてさらにEPSを高めることにつながります。

大和証券

野村ホールディングス

松井証券

まとめ

日経225に含まれる証券3社を比べると、松井証券の優位性が際立ちます。ネット証券普及の追い風を除いたとしても、リスク管理能力と資本配分能力の高さは明らかです。特に、好況期に従業員数を半減させる経営判断はなかなかできるものではありません。

こうした経営判断の違いの原因が、オーナー意識にあると考えています。一族の資産1000億円を預かり20年以上の経営実績を持つ松井社長と、自己資金1億程度を投資して5年社長を務めるかどうかの野村、大和という大証券会社。今後10年間、3社の中から一つ証券会社パートナーを選ばなくてはいけないのであれば、私は間違いなく松井証券を選びます。みなさんはどうしますか?

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在任中の株価でみる日産ゴーン社長の経営成績は平均点

経営者の能力は、在任中の株価リターンで測ることができる

三菱自動車(7211)への出資というニュースもあり、日産(7201)ゴーン社長の名前を日経新聞でみかけることが多い気がします。先日の投稿で経営者の能力の測り方について書いたので、さっそくゴーン社長の経営成績を評価してみます。

関連投稿】年率21.6%の29年複利リターンを達成した8人の破天荒な経営者に共通すること
長期業績レポート】日産自動車(7201)

重複になりますが、『破天荒な経営者たちー8人の型破りなCEOが実現した桁外れの成功』によると、経営者の偉大さを評価するために必要な数字は三つしかありません。

(1)在任中の株価の年間リターン率(複利)
(2)同じ期間の同業者のリターン率(複利)
(3)幅広いマーケットのリターン率(複利)

もし経営者が同業他社とマーケットの両方を大きく上回るリターンを上げていれば、その人は「優れた」経営者と言えるのです。

ゴーン社長の在任期間は16.5年。現在の日系自動車7社の経営者では最も在任期間が長い

1954年生まれのゴーンさんは、2000年6月に46歳の若さで日産の社長に就任しました。それから16.5年が経ち、スズキの鈴木修さんが息子の俊宏さんに社長を譲ったため、日系自動車7社の経営者で最も在任期間が長くなりました。

下の表は、各社の経営者の変遷をまとめたものです。各社の経営者の平均在任期間が5年程度であることを考えると、ゴーンさんの在任期間は非常に長いと言えます。在任期間の長さと、ゴーン社長の経営者としての能力の高さには相関関係があるのでしょうか?在任中の株価リターンをみてみましょう。

ゴーン社長在任期間の株価リターンは年率3.8%。自動車7社の中では平均点。

ゴーン社長就任直前の2000年5月31日に日産の株を買ったとすると、(配当を除いて)2016年11月21日までに1.8倍になりました。年率3.8%です。

同期間の日系自動車7社の株価リターンは、富士重工の5.6倍から三菱自動車の0.1倍まで大きな幅があります。7社単純平均は2.1倍、富士重工と三菱自動車を除いた中央5社の平均は1.8倍です。つまり、ゴーン社長の経営成績は同業者の平均と言えそうです。経営者としては有名なゴーン社長ですが、株価リターンで評価する限り、経営手腕が特別に優れているとは言えません。

同期間のTOPIXは0.9倍ですから、日産はTOPIXを上回るリターンを達成していました。しかし、自動車業界全体がTOPIXを上回っていたわけですから、日産が特別というよりは、自動車産業にとってよい経営環境だったと評価すべきでしょう。

まとめ

世間的に名の知られた経営者はいますが、彼らの経営能力への客観的な評価を聞いたことはありません。スポーツ選手には世界○位、○連勝と数字での評価を浴びせるのですから、同じように経営者にも物差しを当てて欲しいものです。ニュースで、「日産のゴーン社長は在任16.5年になりますが、在任期間中の株価リターンは年率3.8%となかなか自動車業界平均を上回ることができないでいます」と紹介してくれると、経営者へのイメージも変わってくるのではないでしょうか。

同業他社や市場平均との株価リターン比較は、経営者の能力の客観的評価の一つとなります。世間的なイメージを引きずることなく、投資家目線で冷静に評価しましょう

Happy Investing!

過去14年間投資すると100円が12円になったパイオニア(6773)が1990年から採用され続ける日経225にご用心

パイオニア(6773)はこれまで長期業績レポートを作った日経225銘柄の中で、ダントツに経営成績が悪い

日経平均株価にどんなイメージを持っていますか?

みなさんは日経平均株価についてどのようなイメージを持っているでしょうか?ニュースで毎日のように見聞きしているので、私は勝手に日経平均株価とは、日本を代表する企業225社を集めた日本経済の体温計のようなものかと思っていました。

長期業績レポートからは、日経平均採用銘柄すべてが日本を代表する企業だとは思えない

Nagatomo Investmentsでは、日経平均採用銘柄225社の長期業績レポートを作成中です(リンクはこちら)。今日は「電気機器」に分類される企業のレポートを作っていたのですが、パイオニア(6773)の長期業績を見たときに、この企業が日本を代表する225社であるはずがないと思ってしまいました。

パイオニア(6773)に2002年3月に100円投資したら、14年後の2016年3月に12円しか返ってこなかった・・・

1937年に初の国産ダイナミックスピーカーを開発したパイオニアは、1980年代にはオーディオブームを謳歌します。自宅に大きなコンポを持つことが憧れだった時代の話のようです。

我々の音楽の聴き方には、3つの大きな変化がありました。
①据え置き型から携帯型へ
②記憶媒体が実物(カセットやCD)からインターネットへ
③携帯電話と携帯音楽プレーヤー2台持ちから電話一体型へ

エポックメーキングな製品の発表時期を見てみましょう
1979 ソニー ウォークマン(変化①)
1984 ソニー ディスクマン(変化①)
2001 Apple iTunes、iPod(変化②)
2007 iPhone(変化③)

ソニーは②の変化に対応できずに苦しみますが、パイオニアはその前の①の変化に対応できませんでした。大きな業界変化に直面したときに、成功体験から抜け出すことは大変なのです。

パイオニアがオーディオ機器から多角化した先も、残念ながらテレビ事業など競争優位性を維持できる分野ではありませんでした。結果として、事業多角化+減損+株式発行と、株主価値を棄損する経営判断のオンパレードとなってしまいました。2002年3月と2016年3月を比べると、EPSは46円から2円へとなんと96%も減少しています。100円投資すると、配当再投資ベースで12円しか返ってきませんでした(年率-14.0%)。

日経225の決まり方

最初の225社が採用された根拠はない

日本経済新聞社は以下のようにコメントしています。たった60年前の経緯についても記録がないと堂々と認めていますが、新聞社としていかがなものかと思ってしまいます。社内の議事録とかないのでしょうか?

[aside type=”normal”] 60年以上も前(1950年)から日々算出されているため、当時の詳しい経緯は不明ですが、指標性を保つために、売買高の多い銘柄を全業種からバランスよく選んだところ、この銘柄数になったとされています。225という銘柄数に特別な意味づけはないと認識しています。【出典】よくあるご質問(日経平均株価について)
[/aside]

1991年までは能動的な銘柄入れ替えはなかった

1950年から1991年まで、銘柄の入れ替えは倒産や合併して消滅した場合以外には行われませんでした。1991年までの日経平均とは、スタート時の採用根拠が明確ですらない225銘柄を40年も単純平均し続けたものだったのです!40年もたてば、多くの業種で構造変化が起きます。ずいぶんと適当な話だなと思ってしまいました。

ちなみに1990年に三菱鉱業セメントが三菱金属と合併して三菱マテリアルになったことを受けて、パイオニアが採用されます。

現在の銘柄入れ替えには、「流動性」と「業種バランス」が加味されている

現在の日経225は、「企業消滅」に加えて「流動性」と「業種バランス」が考慮されているそうです。そして、毎年10月に入れ替えが行われます。2016年は日本曹達(4041)が外れ、楽天(4755)が採用されました。

まとめ

日常的に見聞きして、何やら権威を感じてしまう日経平均株価ですが、その採用銘柄には明確なルールはありません。明文化されたルールがないので、よほどでない限りは同じ銘柄を維持してしまうのが人情だと思います。

日経225銘柄の中には、とてつもなく時代遅れの銘柄が含まれている可能性があるので、注意してください!この事実を知ってしまった私としては、日経平均インデックスに勝つのは楽勝だなと感じてしまいました。

Happy Investing!!

 

 

医薬品銘柄の長期リターンにみる、企業力リターンとバリュエーションのバランス

長期業績推移は企業の履歴書

関連】何年分の業績を調べればいいのか?

Nagatomo Investmentsでは、企業の長期業績推移を調べることを推奨しています。企業価値はこれから稼ぐ金額によって決まりますが、未来は過去とつながっています。

みなさんは、個人を評価するときに履歴書を読むと思います。素晴らしい経歴の方に今後も素晴らしい結果を期待するのは、私たちが暗黙のうちに、成功に慣性があることを知っているからです。

企業も同じです。素晴らしい企業が急に悪くなることも少ないですし、逆にいまいちな企業が急に良くなる確率も低いものです。長期業績推移を調べることで、景気変動の追い風や向かい風を超えた企業や経営者の力を測ることが大切だと考えます。

日経平均医薬品銘柄の長期業績レポートをまとめました

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長期リターンが高いのは中外製薬。低いのは大日本住友製薬。

日経平均医薬品銘柄には8銘柄が採用されています。このうち、2005年9月に会社設立した第一三共(4568)を除き、7社について過去15年の長期業績レポートをまとめました。

過去14年投資して最もリターンが高かったのは、中外製薬(4519)で年率9.5%。逆に最もリターンが低かったのは、大日本住友製薬(4506)で年率1.6%でした。同時期の日経平均リターンは、値上がり3%+配当再投資2%=5%程度。みなさんの製薬企業のイメージと比べていかがでしょう?

株式の長期リターンには5つの構成要素があるが、企業がコントロールできるのは4つ。

株式の長期リターンは、次のように大きく5つの構成要素に分けられます。

企業がコントロールできるEPS成長と配当政策による企業力リターンに注目

このうち、PER倍率は市場で決まります。バブルで市場が熱狂すればするほどPER倍率は高くなります。逆に、市場が悲観的になればなるほどPER倍率は低くなります。これは企業がコントロールできるものではありません。そこで、PER変化を除外した、企業力リターンで順位付けしました。

すると、総合リターンでは5位に甘んじていた塩野義製薬(4507)がトップに出てきます。企業力リターンが高いのに、PERが82倍から26倍に切り下がってしまい、総合リターンを押し下げたことが分かります。

理想は企業力リターンの高い企業を低バリュエーションで買うこと

総合リターントップの中外製薬の勝因は、そこそこの企業力リターンに加えてPERが上昇したことです。逆に、塩野義製薬をみると、企業力リターンが高くても、高バリュエーションで買うと総合リターンが出ないことが分かります。

理想的には、企業リターンの高い企業を低バリュエーションで買いたいものです。そのためには、企業力リターンの高い企業に目をつけ、バリュエーションが安くなるまで待つことが必要です。Charlie Mungerが言うように、「売買によって稼ぐのではない。待つことによって稼ぐ」のです。

 

ROAでみた富士フイルムの多角化戦略は失敗

前回の投稿では、富士フィルムによる和光純薬の買収ニュースを元に過去15年業績サマリーを振り返り、富士フィルムの資本配分が効率的ではないと指摘しました。

読者の方から、「富士フィルムは主力の写真フィルム需要がデジタルカメラに置き換わる中、大胆な業態転換により生き残った成功例なのではないか?」という質問を頂きました。こうした質問は、より深く考えるきっかけになります。ありがとうございます。

写真フィルムの市場は10年で1/10。富士フィルムの売上は横ばい

2000年度、写真フィルムの売上は全社の20%を占めていたそうです。撮った写真をプリントするための現像液や印画紙を含めると、全社売上の54%、営業利益の70%を占めました(出典:Business Journal)。その後10年間で写真フィルムの世界総需要は約1/10に激減します。

出典:富士フィルムプレゼン資料

売上高やEPSの推移をみると、2002年3月の富士ゼロックス連結子会社化による売上増加を除いては横ばいを維持しています。写真フィルム事業の衰退を考えれば、十分に健闘したと評価すべきなのでしょうか?

出典:有価証券報告書

富士フィルムの多角化に対しては、高い評価がほとんど

Googleで「富士フィルム 成功」、「富士フィルム 失敗」と検索すると、成功事例として取り上げる記事ばかりみつかります。「コダックの失敗、富士フィルムの成功」という構図で語られることがほとんどです。

以下、象徴的だった記事へのリンクです。
・東洋経済オンライン:『富士フィルムはなぜ大改革に成功したのか』 (2013年11月)
・ハーバードビジネススクール出版:『富士フィルム:第二の創業』(2007年3月)

称賛の声ばかりだと、天邪鬼な私は生理的に違和感をもちます。2000年から富士フィルムを率いる古森社長・会長はそれほど完璧な経営をしたのでしょうか?

ROAという尺度で各事業をはかると、多角化は失敗している

富士フィルムは、(1)イメージング、(2)インフォメーション、(3)ドキュメントという3事業を展開しています。各事業をROA(総資産利益率)という尺度ではかってみます。

ROAは、稼ぐためにどれだけの資金を使っているかを表しています。例えば、「事業で1億円稼いた」という人がいたとします。知りたいのは、「1億円稼ぐためにいくら使ったの?」という事です。仮にAさんは100億円で工場を建て、1億円を稼ぎました。Bさんは10億円で飲食店チェーンを作り、1億円を稼ぎました。利益は同じですが、AさんのROAは1%(=1/100)、Bさんは10%(=1/10)です。資本配分という観点からは、Bさんがはるかに効率のよい事業経営をしています。

(1)イメージング事業

出典:富士フィルムプレゼン資料

フィルムやデジカメなど写真撮影に関する事業です。売上高は2001年度の約8000億から2015年度の約3500億円まで半減以上しました。2004年度から9期連続赤字を記録しながら撤退の意思決定は遅く、2013年になってコンパクトデジカメの開発を諦めましたが、まだ高価格帯の製品開発は続けています。高価格帯はキャノンやニコンに対してユーザー数、レンズのラインナップ、保守などの観点から勝ち目がないと思うのですが、やめられないようです。それでもROA10%台を回復しているので、事業の絞り込みによる一定の成果が出ていると評価できます。

出典:有価証券報告書

(2)インフォメーション事業

出典:富士フィルムプレゼン資料

多角化の目玉である、化粧品、医療機器、医薬品に関する事業です。売上高は2001年度の約7000億円から2015年度の約9500億円まで+40%成長しましたが、使っている資産は7000億円から1兆4500億円まで倍増しています。営業利益に至っては+14%しか増えていません。つまり、「2倍以上のお金を使いながら、14%しか利益が増やせていない」状況です。これはよい資本配分とは言えませんし、必然的にROAは低下しています。

出典:有価証券報告書

(3)ドキュメント事業

出典:富士フィルムプレゼン資料

ドキュメント事業は、業務用印刷を担っています。OA機器本体だけではなく、ソリューションとして提供するMPS(マネージド・プリント・サービス)で、富士ゼロックスは国内トップシェアです。オフィスで印刷する需要は景気変動の影響を受けにくく、リーマンショック後も売上は微減しただけです。印刷技術が確立している以上、新規参入障壁も高く、先行きが見通せる非常に強い事業です。大きな成長は見込めませんが、ROAは10%近辺で安定推移しています。

出典:有価証券報告書

主力はドキュメント事業。多角化しない方が資本効率は改善する。

3事業をROAの水準や安定性から判断される競争力で並べると、ドキュメント>イメージ>インフォメーション の順になります。「富士フィルム=多角化成功」という図式は誤解を生んでいます。

経営陣として私が考える最適解は、写真フィルムの衰退は受け入れて需要に合わせて供給能力を絞り、競争力のないデジカメには参入しない。写真フィルムで培った技術を活かして多角化展開したくなる「技術優位的衝動」を抑え、競争優位性が確立できていて先行きが見通せるドキュメント事業に投資するという地味なものです。

ドキュメント事業からのキャッシュフローを多角化に使わず、海外ドキュメント事業へ投資できた可能性は十分にあったように感じて残念です。富士フィルム=多角化成功という誤った評価が経営陣を縛り、多角化以外の選択肢をとれなくなっている可能性を懸念します。

まとめ

富士フィルムの多角化経営が成功したというような、広く受け入れられている評価についても、数字の裏付けを持って理解することが大切です。セグメント別ROAの推移を比較すると、インフォメーション事業への多角化投資する経営判断が、資本配分という観点から疑問であることが分かります。