三菱重工が旅客機開発中止

三菱重工が、1960年代に開発されたYS-11以来、初の国産旅客機として開発していたMRJを中止するニュースがありました。機関投資家で機械セクターアナリストとして、丁度MRJ開発を発表した三菱重工を調査したので、感慨深いです。駆け出しアナリストから見ても、旅客機開発はノウハウがないと成功確率が低い難しい事業だとすぐに分かりました。当初計画通りに進む可能性はかなり低いだろうと思っていました。

三菱重工と話して驚いたのは、具体的な予算計画が無いように感じた点でした。社外秘で開示できないというより、投資額、リターン、投資効率などの基本的な数字をそもそも持ち合わせていないように感じました。投資リターンのハードルなくして、投資の可否を決めることはできないはずです。投資リターンではない力が働いているのかな、と不思議に思ったことを思い出しました。

開発中止と聞いて、自分の考えが正しかったことは嬉しいですが、新しい飛行機を見れないことは残念でもあります。6回も計画延長しての開発中止。おそらく、当初から開発中止する撤退ラインを決めていなかったのでしょう。社長交代もある中で、ズルズル損失を出し続け、埋没費用(Sunk Cost)の典型例になった意思決定できなくなったように感じます。コロナ禍で自社はもちろん、お客さんの航空業界に余裕がなくなり、ようやく重い腰を上げて決断したのでしょう。

似た事例として、投資でも、損切ラインや利益確定ラインを事前に決めておくことが大事です。いざ含み損を抱えてから考えようと思っても、既に冷静さを欠いています。日本では戦時中、「負ける場合」を考えるのは精神的に弱くなると避けられたそうですが、不都合なシナリオにこそ具体的な対応策を考えておく必要があると思います。

株価推移は以下の通り。MRJ開発が議論されたであろう2007年の株価、発表された2008年4月の株価に対して、現在の株価は大幅に下回っています。現在の時価総額は約8000億円。総額1兆円とも言われる開発費は、身の丈にあった投資だったのでしょうか?

Go To キャンペーン

10月1日から東京都がGo To キャンペーンに含まれ、話題を聞くことが増えた。私もGo To したいなと思って調べてみたら、楽天トラベルやYahooトラベルなど大手インターネットポータルサイトでは既にGo To キャンペーンが終了していると聞いて驚いた。予算は余っているらしい。どういうことなのか?

からくりは、Go To キャンペーン予算配分方法にあるらしい。過去の旅行手配実績に基づき、旅行会社ごとに国交省が配分したそうだが、その配分ルールや配分実績は非公開。コロナ禍の前からオンライン代理店(楽天、Yahoo、じゃらん)が伸び、対面代理店(JTB)が伸び悩んでいたが、この流れはコロナ禍で一層加速しただろう。JTBの主要顧客層はインターネットを使わない高齢者が多いと想像される。感染リスクの高い高齢者は、今回のGo To キャンペーン参加率が低いだろう。結果として、オンライン代理店は早々に予算を使い切り、JTBなどは予算が余っているという状態になっているようだ。

今後どうなるか?Go To キャンペーンを使いたいから、できればオンライン代理店を使いたい客も、仕方なく対面代理店に行くのだろう。Go To キャンペーンは、対面代理店への延命策・補助金という機能も担っていたようだ。税金を使っている以上、まずは業者ごとの手配実績と予算配分を公開して欲しい。予算配分に偏りがなかったのか?伸びている業者と伸び悩む業者を同列に、昨年実績に応じて対応することがフェアなのだろうか?仮に昨年100億円づつの売上があったとして、成長率の差違が継続する前提では、今年110億円 vs 95億円になっていたかもしれない。

せっかく旅行に行きたいと思っても、予算を残して10日間で終わってしまっては勿体ない。まずは制度の透明性を高めて欲しい。

ワークマン土屋専務のインタビュー

ワークマンの土屋専務のインタビューを聞いて、Audrey Tang氏に続いてデジタル化が効果を生むための前提条件について考えました。どうやら、デジタル化がうまく言っている国や会社は共通点があるようです。

ワークマンの土屋専務は三井物産で情報系子会社社長を務めた後、親戚である創業者の土屋嘉雄氏に招かれ、2012年に入社しました。当時のワークマンは作業着業界で盤石のトップシェアで、データ活用など社内整備はできていたようです。問題は、作業着は成熟市場で、このままでは先細りになりこと。土屋専務は、作業着製造ノウハウを普段着に横展開することで、機能性ウェアを安く提供するワークマンプラス業態を生み出しました。

私の聞いたZoomインタビューは、マイクロソフトの方を司会に、ワークマン土屋専務と、ecbeing林社長が対談する形式でした。印象的だったのは、林社長が回答しているとき、土屋専務がメモを取り続けていることです。このように、経営陣の素顔が垣間見れるようになったのは、ビデオ会議のお陰ですね。さらに、林社長の回答で分からない点があれば、土屋専務はその場で質問をしています。まるで学生のように知識を吸収しようという姿勢に、ワークマンの社風を垣間見た気がしました。このような方が上司であれば、データに裏付けられた施策を提案して、受け入れてもらえる可能性が高いでしょう。

デジタル化によって物事が可視化されたとしても、(1)それがより良い意思決定につながるか、(2)その意思決定に基づいて行動できるか、は別問題です。客観的に見て撤退すべき店舗や事業を辞められるか。これはデジタル化とは関係ない話です。そもそも合理的な議論ができる環境なのかどうかによってデジタル化の効果は大きく変わるでしょう。結局、ITは技術に過ぎません。それ自体は、良いものでも悪いものでもない。活用できる企業とそうでない企業の差はますます開いていくなと確信に変わってきました。デジタル活用できる社風に後から変えるのは並大抵のことではないでしょう。そのような社風を持つワークマンやニトリのような会社の競争優位性は、さらに高まったと感じます。

 

台湾のデジタル大臣Audrey Tang氏

コロナ対策の成功例として語られる台湾。人口2400万に対して、コロナ感染者は約500人、死者10人以下だそうだ(データ)。日本は欧米と比べてうまくやっていると言うものの、感染者は8万人を超えている(データ)。台湾から学ぶことが多いのは間違いない。

台湾のコロナ対策の成功を語る時に、必ずデジタル大臣のAudrey Tang氏の名前が出てくる(wikipedia)。1981年生まれで、2016年よりデジタル大臣を務めている。肉体的には男性だが、精神的には女性というTang氏のインタビューを聞く機会に恵まれた。

まず、説明が具体的で分かりやすい。威張ったところが全くなく、まるで友達に説明されているかのような印象を受ける。上下関係が強い行政世界の中に、デジタル的な水平関係を持ち込むことが役目なのだろう。これまで国民が情報発信する行政プロセスは4年に1回の投票行動だけだったが、スマホ社会においては、多種多様な行動データを行政プロセスに生かすことができるという。デジタルによってさらに民主主義が進化する。投票という民主プロセスしか経験のない自分としては、目から鱗の感覚だった。明るい将来を示してくれるリーダーとは、こういう人のことを言うのだろう。

台湾では、1月1日から武漢からのフライトで検疫。感染症対策本部による毎日の会見を始めたそうだ。フリーダイヤル「1922」にかければ、誰でもアイディアを出せるという。ある日、マスク不足から小学生が、「ピンクのマスクしかなくて学校でいじめられないか心配です」と投書したら、翌日の会見では、感染症対策本部の幹部が全員ピンクのマスクをして登場したそうだ。IT技術を使って、政治をより身近にするのは、心がけ次第なんだなと再認識した。技術そのものに良いも悪いもなく、使う人次第。

想像するに、台湾は政治家と国民の間に信頼関係があるのだろう。その感覚が、羨ましかった。日本の自民党幹部の多くは具体的な話が少なく、何を言っているのかよく分からない。「俺たちが決めてやる」という上から目線が感じられ、デジタル時代特有のフラットさがない。その挙句、都合が悪くなると情報を隠したり、さらに悪いことには改ざんしてしまう。政治と国民の信頼作りから始めないことには、デジタル庁を作っても、仕組みを作ってもなかなかうまくいかないのではないか。作り手を信頼できないシステムに、大事な情報を預けようとは思わないだろう。

日本でデジタルが進まない理由が、ようやく少し分かった気がする。政治に限らず、多くの場面でデータをやり取りするための基盤である信頼関係ができていないのだろう。投資目線でも、顧客、会社、従業員の間に信頼関係があるからデータ利活用が進み、IT技術の恩恵を活かせる企業と、そうでない企業の差が歴然としてきた。国レベルでも同じ話のようだ。

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私の大好きなニュースメディア、ビデオニュースを見ながら感じたこと。(https://www.videonews.com/marugeki-talk/1017/)

トランプさんのCOVID感染がニュースになっていますが、医師の署名が入った正式な診断書が公開されていたとは知りませんでした。一方、病気を理由に総理大臣という要職を突然辞めた安倍さん。結局、診断書を公開することも、医師からのコメントもありませんでした。

安倍さんは日経新聞のインタビューで、「新しく使い始めた薬が非常に良く効いて、順調に快復している」(https://www.nikkei.com/article/DGXMZO64309070Y0A920C2SHA000/)などと呑気なことを言っているようですが、本当に病気だったのか?どのような病気だったのか?執務が続けられないほどの病状だったのか?など、分からないことだらけです。情報公開の遅れた日本のことですから、今後も本当のことが分かることはないのだろうと思ってしまう自分が情けないです。

記録隠蔽や改ざんなど、情報公開という面では目を覆いたくなるような安倍政権。おかしいなとは感じていましたが、診断書を出してくるトランプ政権と比べて、またその思いを強くしました。我が身を振り返り、投資や意思決定のプロセスを書面で残しているのだろうかと自問自答しました。文書で残していないと、記憶はあやふやなもので客観的な振り返りはできません。より良い判断をしていくために、詳細な記録を残していこうと改めて思いました。