『不本意な敗戦』を読んで
エルピーダメモリの社長だった、坂本さんの著書を読みました。エルピーダメモリと聞くと、懐かしい気分になります。1999年にNECと日立のDRAM事業を統合することで誕生した、日本の半導体メーカーです。1990年代に世界一だった日本の半導体産業ですが、大きな設備投資によるスケールメリットを追求する段階での競争に敗れ、シェアを大きく落としてしまいます。例えば、エルピーダメモリ誕生時のDRAM市場シェアは17%あったそうですが、2002年には4%台に落ち込んでしまったそうです。たったの3年で、シェアが1/3以下になってしまうとは、凄まじいスピードです。
エルピーダは1999年から3年連続赤字。NEC派や日立派が争って混乱していたようです。そんな火中の栗を拾いに、2003年に坂本さんが社長就任、2005年には黒字回復して株式上場に成功します。その後、2012年に経営破たんに至るまでのストーリーがまとめられています。
ポイント
この本を読んで、2つの点が心に残りました。一つは、坂本さんが優秀な経営者であること。経営破たんから再生したJALとの比較が出てきます(p.49)が、JALは全社員の1/3が希望退職し、これまで空港までタクシーで行っていたパイロットに公共交通機関を使うようにと、当たり前のコストカットを行いました。しかし、サムソンなど世界の巨人と戦っているエルピーダは、そんな無駄はとっくになくしていました。東京本社の応接室のソファは、広島工場でいらなくなったものを持ってきたそうです。
エルピーダ・ウェイも納得が行く内容(p.84)です。
・会議は1時間以内
・レポートはA4サイズ1枚以内
・メールの返事は24時間以内
・国内出張は全員エコノミーか普通車
・全員を名前で呼び、肩書で呼ばない
坂本さんは、当たり前のことを当たり前に実行できる優秀な経営者だと感じました。問題は、これだけ改善を行っても経営破綻するほど、半導体ビジネスが難しいということです。例えばですが、
・グローバル競争であること
・サムソンのような巨大な競争相手がいること
・市場環境が急変すること
3年後の収益予想はおろか、来年の収益予想を行うことすら難しいと思います。例えエルピーダの経営陣がいかに優秀であったとしても、厳しい結果になった可能性が高いと思います。バフェットは、「優秀と評判な経営者に、難しいと評判な事業を経営させると、だいたいの場合は事業の評判が勝つ」と述べていますが、エルピーダはその典型例だと思いました。
坂本さん、貴重な経験をシェアして頂き、ありがとうございました。
Happy Investing!!