革新投資機構の役員辞任
日本国が出資する産業革新機構の全役員が辞任することになりました。メディア報道を見ていると、高額報酬が問題になっているように受け取れますが、辞任した役員のコメントを読むと、より深い問題があることが分かりました。
この気付きは、「銀行員のための教科書」というブログから得ました。銀行に勤務されていると思われる方の匿名ブログですが、内容は非常に充実しています。情報発信を通して、日本を良くしたいという気概を感じます。いつも、学ばせて頂き、ありがとうございます。
問題の本質は、契約の軽視
取締役の辞任コメント(リンク)を一読されることを、お薦めします。坂根正弘氏(元コマツ社長)や、コンサルタントの冨山和彦氏など、各界を代表する方々の本音が聞ける、貴重な機会となっています。
私なりに総括させて頂くと、経済産業省が契約を軽視したことが問題の焦点です。高額報酬が問題なのであれば、それは予め伝えるべきことです。もしかすると、高額報酬でなくとも、日本のためにひと肌脱ごうという人が集まったかもしれません。しかし、世界レベルで戦える人を集めるために、世界基準の報酬を払おうと合意したことを、後から変更しようとする経済産業省の姿勢は問題です。契約内容の朝令暮改が許されると、関係者は疑心暗鬼のまま日々を過ごし、一体何を信じれば良いのか分からなくなります。
例えば、会社と社員が雇用契約したとします。部長の判断で年収1000万円で契約したとして、その後、社長が「高すぎる」と言ったところで、契約期間中は年収1000万円が続きます。逆に、年収1000万円の市場価値がある人物が、年収500万円で契約してしまい、「安すぎた!」と思っても、これまた後の祭り。契約内容の変更方法もまた、契約書に記載の通りに行うのみです。
国内で足を引っ張り合っている場合ではない
経済産業省など役所全般の行動を見ていて感じるのは、彼らが日本国内しか見ていないということです。優秀な運用者は、世界中で求められています。例えば、冨山和彦氏のコメントに、ノルウェーやカナダの公的ファンドが成功例として取り上げられています。
例えばカナダには、CPPIB(Canada Pension Plan Investment Board)という公的年金ファンドがあり、インフラ投資やプライベートエクイティ投資に積極的です。解約リスクがないため長期的な時間軸で投資ができるという、年金ファンドの強みを活かした運用をしていると思います。私は、このファンドと面接したことがありますが、香港オフィスで面接した相手5,6人のうち、カナダ人は1人だったように思います。ちなみに私の上司になるであろう人は、インド系アメリカ人でした。
ノルウェーの公的ファンドも同じような状況でしょう。日本オフィスもありますが、そもそもノルウェーの人口が約500万人ですから、ノルウェー人だけでグローバル運用人材を充足できるとは思いません。ノルウェー銀行は日本株式市場の大株主として四季報で目にすることも多いです。シンガポールのテマセクやGICも、世界中から運用者を集めています。
このような状況で、国内で足を引っ張り合っている場合ではないと思うのです。産業革新投資機構と同時期に生まれた政府系ファンド、株式会社INCJの挨拶には、「日本の産業は自前主義によって宝の持ち腐れ」と書いてあります。今回もまた、宝の持ち腐れを起こしてしまった気がして、残念です。
例え万全の体制で臨んでも、結果が分からないのが投資の世界です。特に半年後、1年後という短期的な結果は誰にも分りません。だからこそ、より良い体制で臨めるように、少しでも勝てる確率を上げようとしのぎを削っている世界です。もしかすると、政府や官僚の方々は、運用を簡単だと考えているのかもしれません。投資は、安く買って高く売るだけ。単純ですが、簡単ではないところがポイントです。とにかく、国内や社内で足を引っ張り合っている場合ではないのです。競争相手は、外だけで十分です。
Happy Investing!!
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