APAグループに学ぶ

APAグループは、ホテルチェーン3強の一角

私が尊敬している個人投資家の一人、角山さんのブログに、APAグループ元谷社長の対談が取り上げられていました。APAグループは、日本最大のホテルチェーンとして、2020年までに提携ホテルを含めて10万室の稼働を目指しているそうです(中期5か年計画)。国内宿泊市場規模は、ホテル(87万室)と旅館(69万室)を合わせた約160万室(参照リンク)ということで、全国で6%シェアを目指すという計画です。競合としては、東横インやルートインが2016年時点でそれぞれ約5万室、約4万室となっていて、3強。APAグループがダントツ#1という訳ではなさそうだ(参照リンク)。

各社HPの情報をまとめたものが、下図。

成功例から学ぶ

APAグループのような成功事例を見つけたときは、まず素直に他人の成功を喜び、その理由を学べるようになりたいです。成功事例に共通する要素を抽出することで、将来の成功事例を見つける選球眼を養いたいです。

今回読んだ、参考記事リンク
社長が語る企業物語
ダイヤモンドオンライン 2015年12月
CEO社長情報
プレジデントオンライン 2013年9月

ポイント1:事業の根幹である資金の流れを把握すること

元谷さんは、金融の実態を知るには金融機関に勤めることが一番と考え、地元の信用金庫に入社します。例えば、NIKEを創業したPhil Knightや、Fiatを立て直したSergio Marchionneは、会計士資格を持ち、実務経験もあります。もし創業者に会計知識がない場合は、本田宗一郎と藤沢武夫のように、弱みを補う体制づくりが必要だと思っています。

ポイント2:市場規模が成長余地を決める

元谷さんは、「市場規模でいえば頑張っても一定の需要しかないもの、例えば10億円、100億円の規模であれば、最大でもそこまでしか伸ばせない」と気付きます。より大きな市場規模を求めて、住宅産業で創業したそうです。大きく成長する企業に投資したい場合は、市場規模が大切になります。

ポイント3:戦略論の重要性

元谷さんは、戦略論に興味があり、孫氏の兵法、マキャベリ、ランチェスター戦略を研究して自らの経営に生かしているそうです。成功している企業で、ランチェスター戦略に言及している成功事例は、ソフトバンク、日本電産、SMCなど枚挙にいとまがありません。ランチェスター戦略によれば、業界1位以外は、全て弱者です。投資先企業が、ポジションに合わせた戦略を選択できているかどうかは、重要です。

ポイント4:節税の大切さ

元谷さんは、節税の重要性について徹底的に語っています。その一方、対談の最後には、「適正利益を上げて納税義務を果たす」とも述べていて、少し話しが食い違っているように感じました。

建売銃額の利益を相殺するために償却が大きい賃貸住宅へ。さらに分譲マンションの譲渡益を節税するために償却がさらに大きい自社ホテル経営へ進出したそうです(ベッドや冷蔵庫、テレビなど20万円以下の備品を一括償却できるので、節税効果が大きい)。不動産市況が割高で再投資できないとみるや、航空機リースを利用して節税を行ってきたそうです。節税は、不動産のように資金力勝負になる産業の場合は、特に重要になると感じました。一方で、資金需要の少ないITやコンサルのような業種は節税方法が限られます。この場合は、無理な節税によって多角化につながるデメリットの方が大きいのかもしれません。

ポイント5:オーナー企業の強さ

元谷さん、バブル期を前に、土地価格が収益還元法に基づく価値の4-5倍という異常な高値であることに気付きます。1988年、1989年と全ての不動産を処分し、東京本社も引き払って創業の地金沢に撤退したそうです。このような極端な行動は、オーナー企業でなければ、まず出来ません。普通の企業であれば、社内反対派の説得に消耗しているうちに、不動産価格の下落が始まっていたことでしょう。逆に2010年からは都心の一等地をキャッシュで買いまくり、東京でトップホテルチェーンの礎を気付きました。フルブレーキからフルアクセルへ。極端にみえる行動の結果として、APAグループは創業から一度もリストラをしていないということで、素晴らしい実績です。ビジネスにおいては、結局は実績が全てです。上場企業でも、経営者が株式を大量保有しているか否かは、一つの参考指標になるのではないでしょうか。

(注記)行動力が強みのオーナー企業ですが、そもそも行動が間違っていた場合は、一般企業よりもダメージが大きくなる可能性もあります。例えば、ルートインの創業者、永山さんの対談には、「リーマンショックで大失敗した」というコメントがありました(参考リンク)。

まとめ

業界は違えど、勝ちパターンには共通点があると思います。多くの成功事例に触れることで、より将来の成功事例を見極められるようになりたいです。

Happy Investing!!

AI(Artificial Intelligence)より、AA(Artificial Alien)の方が納得できる

AIによってチェスに何が起きたか?

AIやRPAという言葉をよく耳にするようになってきました。私など、つい半年前まで「RPA?」という感じでしたから、技術革新と普及スピードは速いものです。これら技術について、単純作業が代替されることで多くの失業者を産む可能性がニュースに取り上げられていますが、果たしてどのような影響を与えるのでしょうか?

我々を取り巻く構造的な技術変化を理解したく、Wired Magazineを創業したKevin Kellyさんによる、The Inevitableという本を読んでいます。

この本に、AIとチェスの事例が出てきます。1997年に、IBMのディープブルーというAIが、当時の世界チャンピオンGarry Kasparovさんに勝ちました。私はこのイベントを、将棋、囲碁と続く、機械優位性証明の歴史の始まりとして認識していました。しかし、現実はもっと複雑でした。チェス業界はその後、機械 vs 人間の個人戦ではなく、フリースタイルと呼ばれる、機械を利用しても良い勝負に傾倒していったそうです。例えば2014年のフリースタイル選手権では、AIが42勝に対して、AIと人間のタッグチームが53勝したそうです。飛行機のパイロットのように、操縦の大半は機械が行いながら、機械の弱点を熟知した人間が必要箇所だけ介入するというスタイルのようです。本書が発行された2016年時点で一番強いチェスプレーヤーは、Intagrandという、複数の人間と複数のAIのタッグチームだとか。自分のイメージするチェスからはかけ離れていますが、AI勝利後の業界推移が興味深いです。AIを否定して人間戦にこだわることなく、AIの良さと人間の良さをうまく取り入れているところに好感が持てましたし、何よりAIとの直接対決では人間が負けてしまうという現実から目をつぶっては仕方ありません。

さらに驚いたのは、人間チェスプレーヤーのレベルまで上がったということです。機械に負けたゲームとしてチェス人気が衰えるどころか、強い機械と気軽に対戦できるようになったことで、逆にチェス競技人口は増えたそうです。現在は、チェスの最高位であるグランド・マスターの人数が、1997年当時の2倍に増えたそうです。特に、ポイントランキング1位のMagus Carlsenさん(今日でも1位を維持しています)は、AIと練習を繰り返した1990年生まれのノルウェー人です。この話を聞くと、将棋界を席巻している藤井聡太さんを思い出します(2002年生まれ)。藤井さんは練習方法について、次のように述べています。

Q: 練習方法を教えてください。
A: 一人で練習することが多いです。もっぱらリビングのパソコンで、AIソフトなども利用しながら、練習をしています。
リンク

AI(Artificial Intelligence)より、AA(Artificial Alien)の方が納得できる

AIと練習を重ねた若者の打ち手は、古参のプレーヤーには異質に映ると想像します。Alpha Goが世界トッププレーヤーを破った囲碁の世界でも、永く信じられてきた定石に変化を与えているようです。

我々は、他者がいて初めて自分について認識できます。もし世界に自分一人しかいなかったとしたら、自他の認識すら生まれていないでしょう。私は東京生まれですが、他の地方で育った人と触れることで初めて、東京の特徴に気が付きます。海外を訪れ、外国人と話してみることで、日本の常識、世界の非常識に気付かされることもあります。さらに人類について知るには、違う認知構造を持った異星人に出会うことが必要だろうと思っていました。

The Inevitablesの記述を読んで、AIはその疑似体験を与えてくれている、ということに気付きました。今後のAIの進化と普及によって、人類は本質的に異なる視点からの思考に触れることでしょう。チェス、将棋、囲碁の違いが分かるトッププレーヤーは、既に未知との遭遇体験を持っているはずです。それが、現在ゲームの枠を超えて社会レベルで進行しています。生活習慣や商習慣を変えることを要求され、社会ストレスも大きいことでしょう。しかし、AIをAA(Artificial Alien)だと思い、他者から学ぶ気持ちをもって接することができるかどうか。機械が出した結論だと色眼鏡で見ることなく、良いものは良い、と合理的に判断して採用できるかどうかが、ポイントになると思いました。一体どんな未来になるのか、より高い次元での人間と機械のコラボがますます楽しみです。

Happy Investing!!