運用形態と競争優位性

バフェットのファンド運用形態

世界で最も有名な投資家と言えば、おそらくウォーレン・バフェットでしょう。バフェットはバリュー投資という投資戦略で有名ですが、私はそれ以上に彼の運用形態に競争優位性があったのではないかと考えています。

バフェットは1956年(25歳)から1969年(38歳)まで、13年間に渡って投資ファンドを運用していました。個人投資家としては、運用資産が小さく、バフェットが人生最高のリターンを叩き出していた時期から学べることの方が、会社形態となったBerkshire Hathawayから学べることよりも多いと思っています。

バフェットのファンドには以下の特徴があったようです。
① アナリストがいない
② 成功報酬しか取らない
③ 投資先について話さない
④ 年に1回しか解約できない

① アナリストがいない

バフェットには、今も昔もアナリストがいません。”No part of the investment process should be outsourced(投資プロセスの一部を外注することはできない)”と語っています。「自分が理解できる事業に投資する」と言っているのに、アナリストが推奨するというだけで銘柄を購入する訳にはいきません。アナリストの持ってくるアイディアに対して来る日も来る日も「ダメ」と言い続けるのも精神的に負担がかかります。悪いなと思ってアナリストの推奨銘柄を購入してしまえば、投資スタイルが崩れます。結局、アナリストはいない方がいいという結論に落ち着いたようです。バフェットには、チャーリー・マンガ―という相棒がいます。しかし、マンガ―は自らも投資ファンドの経営に成功しており、あくまで相談相手という対等な立場のようです。

② 成功報酬しか受け取らない

大半の投資信託は、運用成果に関わらず固定手数料を取ります。大半のヘッジファンドは、固定手数料を取った上に成功報酬を取ります。しかし、バフェットのファンドは真逆で、固定手数料を取らなかったどころか、運用リターンが6%を超えた部分に対して25%の成功報酬を取りました。つまり、運用リターンが6%を下回れば、1円も受け取ることがありませんでした。「出資者が儲かってからしか、運用者はお金をもらうべきではない」という当たり前の思想が表現されています。バフェットのファンドは、アナリストもいないために、固定費が低く運営されていました。固定費が低いからこそ、安定収入を度外視した報酬体系を採用できるのでしょう。そして、他のファンドは真似することができないような報酬体系を提示することは、投資家集めにおける大きな競争優位性となったことは想像に難くありません。

③ 投資先について話さない

大半の投資信託は、月次報告書で上位10投資先を開示しています。しかし、バフェットが出資者に対して投資先を開示することはありませんでした。一つには、流動性の低い株式を買っているときに情報が漏れると、安い価格で買えなくなること。また、出資者に対して投資先を公開すると、仮に間違えていたときに、他人の目が気になってその事実を認められないという心理バイアスが働くことを避けるためです。

④ 年に1回しか解約できない

大半の投資信託は、毎日購入できるし、いつでも解約できます。便利なのですが、そのためにバックオフィスの人件費やシステム費用が発生してしまいます。アシスタントもいなかったバフェットは、年1回しか購入・解約できなくすることで、手間を省き、コストを低く維持して報酬体系面での競争優位性につなげることができました。また、運用資産規模が大きく増減することは、すなわち銘柄を売買する頻度が増えるので、取引コストも増大します。多くの投資信託にとって、毎日購入・解約できることはメリットなのでしょうか?

なかなか真似できない成功例

バフェットの成功例は、広く知れ渡っていながら、なかなか真似できることができません。多くの機関投資家は、6%を超えるリターンをコンスタントに出す自信がなかったり、何よりライセンス取得・維持コストを考えると固定費を低く抑えることが難しいでしょう。こうしてみると、バフェットの運用形態は機関投資家というより個人投資家に近いなと思います。

参考図書

   

Happy Investing!!

「運用形態と競争優位性」への4件のフィードバック

  1. バフェットのパートナーシップ時代の話は後年ほどには各所で取り上げられませんので興味深く拝読させて頂きました。
    資金を預ける側からしても魅力的な形態と思いますが、このようなファンドを営む企業、個人が現れないのは、貴方コメントにある通り、所詮プロと雖も6%を超えるリターンを継続的に上げる自信がないからに尽きるのでしょうか?

    1. コメントありがとうございます。
      アナリストを多数抱えるなど固定費が高い場合、固定運用報酬無しで運用会社を経営するのことは、予算が立てられないという怖さがあるのではないでしょうか?
      どんな優秀な投資家でも、2-3年の不調はあります。この時期を乗り切れるだけの安定収益、もしくは株主資本の厚さとコスト構造のバランスが必要かと思います。

      少数ですが、バフェットの報酬体系を真似ているファンドはあります。
      モニシュ・パブライ、ガイ・スピア―、など著書もあり参考になるかと思います。

  2. 長友様
    なるほどありがとうございます。
    カイシャ、になると固定報酬がないと予算も立てられませんね。
    例示頂いた2名は“組織”というほどの規模でなく、個人〜数名程度の陣容なのでしょうか?
    書籍もあるとのこと、探して読んでみます。

    1. コメントありがとうございます。

      モニシュ・パブライ、ガイ・スピア―とも、運用チームはバフェットと同じ「1人」です。
      両名とも現在では数百億円を運用してますから、少数のバックオフィススタッフはいます。

      ご存知かと思いますが、バフェット率いるバークシャー・ハサウェイの本社人員は約20名です。
      時価総額50兆円、40万人を雇用する企業としては驚異的な低コストオペレーションになっています。

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