なぜROEが大切なのか?(その2)

ROEと適正価格

(関連)なぜROEが大切なのか?(その1)

企業(株式)への長期投資において一番大切な変数は、長期的なROEの水準です。高いROEを長期間に渡って維持できる企業ほど、複利エンジンをフル稼働させることができます。

A社(ROE8%)

A社は、2017年12月末の一株あたり株主資本(BPS)が100円だったとします。2017年12月末の株価は、1年先のEPS(2018年12月末のEPS)8円にPER15xを掛けた、一株120円でした。話を簡単にするために、税金や配当は考慮しないものとします。

この企業に9年間投資をして、2026年12月末になりました。株価は1年先EPS(2027年12月末のEPS)にPER15xを掛けた、240円に上昇しています。年率換算リターンは、ROEと同じく、8%です。

B社(ROE15%)

B社も2017年12月末のBPSが100円でしたが、A社と違い、ROE15%を達成し続けます。2017年12月末、2026年12月末のPERが両方とも15倍だったとすると、9年間投資した場合の年率リターンは年率15%となります。

2017年12月末の適正PERは?

もし、2017年12月末にA社、B社がともにPER15倍で取引されていれば、B社を購入した方が良いことは明白です。しかし、市場も企業の質の差を織り込みますので、B社が割高に取引されていることでしょう。では、どれくらい割高であれば許容範囲なのでしょう?

B社を2017年12月末PER26倍で購入したとしても、投資リターンは年率8.2%とA社をPER15倍で購入したときよりも高いリターンになります。

実際には、2026年12月末のB社のPERはA社よりも高く評価されているでしょう。仮にB社の売却時PERが20倍だったとすれば、購入時PERは35倍を支払っても、なおA社(購入時PER15倍、売却時PER15倍)よりもリターンが高いことになります。

長期投資になればなるほど、高いPERを支払える

私これまで、3年先の収益から企業価値算出してきたので、どんなに定性的に評価できる会社でも直近EPSベースでPER20~25倍が支払えるギリギリだなと思ってきました。しかし、10年先まで高ROEが維持されることを見通すことができる場合、PER30倍を超える価格でも十分にリターンが出る場合がありますし、バフェットなどはこのようなタイプの投資で大儲けしてきました(例:Coca-Cola)。

10年先を見て投資することが、どれほど希少なことなのでしょうか?一例ですが、2017年の東証1部上場銘柄の年間売買代金は680兆円でした。2017年の平均時価総額が600兆円なので、市場参加者の平均保有期間は約1年ということです。3年先を見て投資している市場参加者は5%程度でしょうか。5年先を見ていれば1%、10年先を見て投資している人は0.1%もいないと思います。遠くを見通すことができればできるほど、足元の価格変動に惑わされることなく、保有し続けることができます。

株価は、せいぜいこの先1年くらいの出来事しか織り込んでいません。短期的には先行投資で収益悪化するが、中長期的(3年先)の展望が明るいというケースなど、割安に評価してしまうことがあります。こうした近視眼的な株式市場の癖を利用して稼ぎたいものです。そして、間違っても自分が株式市場に釣られて近視眼的にならないようにと、言い聞かせています。

Happy Investing!!

なぜROEが大切なのか?(その1)

ろくすけさんのブログより

世の中には素晴らしい運用成績を残している個人投資家の方が多数います。私は、定期的に彼らのブログを訪問して勉強させてもらっています。そんな私が勝手に尊敬している個人投資家の一人に、ろくすけさんがいます。「私を形作る3冊」という3月5日のブログで、『バフェットの銘柄選択術』という本を紹介されていましたので、早速読んでみました。ろくすけさん、ありがとうございます。

長期投資に適するのは、持続的に高いROEを維持できる企業

バフェットの運用手法に対して、どのようなイメージをお持ちでしょうか?私であれば、バリュー投資、集中投資、競争優位性のある企業を探している、といったイメージです。それに対してこの本は、「なぜ、バフェットは競争優位性のある企業を探したのか?」という問いに応えてくれます。

会社の経営成績は、① ROEと② 配当性向の2つの変数のみで決まってしまいます。投資先として最高の企業は、ROEが高く、かつ配当性向の低い会社です。下図で考えてみましょう。A社は、1年目期初の一株あたり純資産(BPS)が100円です。ROE20%の経営を行った結果、一株あたり利益(EPS)は20円。成長余力が十分にあるA社は、配当を行うことなく、EPS全額を再投資に回します。その結果、2年目の期初BPSは120円に増え、またまたROE20%を達成して、EPSは24円にまで拡大します。配当を行わないことで、EPSがROEと同じ20%で成長していく様子が分かります。10年間でEPSは5倍に拡大しています。アマゾンやGoogleはこのパターンです。

次に、ROEも配当性向も高いB社を見てみます。既存事業の収益性は高いものの、再投資する余地が少ないので、EPSの80%を配当として払い出します。その結果、BPSとEPSは年率4%しか成長することができませんが、200円以上の配当を受け取ります。タバコ会社など優良高配当銘柄が、このパターンです。

最悪なのは、ROEが低く、かつ配当性向も低い企業です。投資家としては、資本効率の低い事業(ROEが低い事業)から資金を引き出し、資本効率の高い事業(ROEが高い事業)に投資したいところです。しかし、配当性向が低いと資本効率の低い事業に資金が滞留してしまうことになります。多くの日本企業が、これに当てはまると思います。

日本株と米国株の差はROE

参考までに実際の数字を調べてみると、2002年~2014年の日本企業の平均ROEは6.3%だったそうです。対する米国企業の平均ROEは13.4%。その差は歴然です。配当性向は、米国40%に対して、日本は30%となっています。

日本株に100円投資したら、10年後のPERが変わらない前提で、1.8倍に増えました。米国株に100円投資したら、10年後のPERが変わらない前提で、2.6倍に増えました。どちらが投資家にとって好ましいかは明白です。長期投資するなら米国株、というイメージがありますが、その根拠は、米国企業が長期に渡って世界で一番高いROE水準を維持してきたという事です。

Happy Investing!!

ドミー(9924)の粉飾に思う

株価下落率トップに頻出するドミー(9924)

ヤフーファイナンスの株価上昇・下落ランキングを見ていると、ドミー(9924)という会社が数日連続で下落率トップに出ていることに気付きました。株価は何年も2500円で横ばいに推移した後、今日(3月2日)には600円台にまで下落しています。一過性の理由による株価下落はバリュー投資のチャンスになることもあるので、調べてみました。

愛知のスーパー上場廃止の陰に東芝?

ドミーは、1913年に呉服屋として創業、スーパーに業態転換して、現在は愛知県に37店を展開しています。スーパーと言えば地味で安定的な事業に思えるのですが、名古屋証券取引所へ有価証券報告書の提出が遅れ、上場廃止が決まってしまいました。監査法人(新日本)からの適正意見(報告書が会計上適切であるというお墨付き)がもらえなかったという事が理由のようです。

スーパーは仕入れ先から、販売金額などの目標達成に応じたリベートを受け取っているそうです。ドミーでは、そのリベートの配分を作為的に変更して、業績が悪い店舗の業績をよく見せるという粉飾を行っていました。全社での利益合計が同じならいいじゃないかと思うかもしれませんが、資産価値を評価する減損テストに影響があるのです。例えば、3000万円かけて店舗を作ったとします。通常は10年の減価償却期間であれば、年間300万円の減価償却を費用として計上します。しかし、仮にその店舗が赤字続きであった場合は、資産価値がないと判断されて、3000万円を例えば一気に1000万円まで2000万円減損することを監査法人に求められることがあります。

この背景には、東芝の不祥事があると思います。新日本監査法人は東芝の粉飾決算を見抜けなかったとして、金融庁に21億円の課徴金を支払いました。二度と起こらないように、厳しい姿勢で監査業務に臨んでいることが想像されます。

ドミーに見る危険信号の数々

このような企業に投資して地雷を踏まないために、何が学べるのでしょうか?
1、売上成長率が低い:売上成長率は年率1%を切っている。
2、営業利益率が低い:営業利益利が1%しかありません。ちなみに、優良スーパーの営業利益率は4%以上(ハローズ、ヤオコー)。

1,2とも当たり前に感じます。むしろ、これまで株価が下落していないことが不思議なくらいです。会社は当期純利益を超えても1株10円の配当を維持して来ました。1株500円(合併前)に対して2%の利回りが出ていればよいという感覚で保有されていた株主が多かったのでしょうか。

まとめ

粉飾は問題ですが、上場廃止にするほどのことなのかなと思いました。東芝への東京証券取引所の柔軟な対応と、ハードな名古屋証券取引所の対応に随分差があるなと感じました。また、ドミーの株価は、売上成長率と利益率の低さを考えると、非常に割高だったことも事実だと思います。苦しい状況に置かれた企業や従業員ほど、粉飾に手を出したくなります。既存事業の伸びしろがある企業、競争優位性のある企業に投資しましょう!

Happy Investing!!