長期業績レポート(日本郵船、商船三井、川崎汽船)

長期業績レポート

9101 日本郵船
9104 商船三井
9107 川崎汽船

日経225採用企業の長期業績レポート一覧

ひとことメモ

【関連投稿】日本郵船、商船三井、川崎汽船のコンテナ船事業統合を長期業績から検証する

日本の大手海運3社を取り上げてみました。3社のうち、日本郵船と商船三井の株式を2002年3月末に購入して、2016年3月末まで14年間保有したとすると、配当も含めたトータル  リターンはマイナスという哀しい結果になりました。しかし、2007年には株価が2002年対比で3倍になったような局面もあったのです。

日本郵船(9101)の長期株価推移(kabutan.jpより)

海運業界は、一番好不況のサイクルの長い業種の一つです。海運の運賃は完全に需給バランスによって決まる世界です。コンテナをどの船会社で運ぼうが誰も気にしないので、海運会社の業績も完全に需給バランスによって決まります。需要は世界経済の伸びに合わせて一定の伸びがありますが、供給サイドは海運市況によって大きく上下動してきたのが、これまでの歴史です。(1)運賃が高くなると、船会社はこぞって造船所に発注します。(2)船はすぐに完成しないので、出来上がる3年後には供給過多により海運市況が反落して船会社は大赤字になるというのがお決まりのパターンです。(3)運賃が安くなれば新規造船はストップします。長い供給過多の時代です。(4)時間をかけて供給過多が解消されると、また海運市場が引き締まり、(1)に戻ります。

海運事業の問題は、この(1)から(4)の時間軸が極端に長いことです。山高ければ谷深しとはよく言ったもので、需給が締まったときに新規造船を発注しすぎてしまうのです。そして、業界全体で供給過多になり業界全体が苦しむという構造的な問題を抱えています。下のグラフから分かるように、海運市況の好不況は30年という非常に長いサイクルになっています。現在のは2008年から下降トレンドに入っていますが、歴史が繰り返すのであれば、2020年前には陰の極を迎えるかもしれません(前回の陰の極であった1987~90年+30年)。

 

海運市況は約30年周期で動いている(Clarkson Researchより)

海運、造船各社が苦しみ喘いでいる今、この業界に興味をもっている投資家は少ないと思います。こういうときこそチャンスであることが多いです。

Happy Investing!!

長期業績レポート(日通、ヤマト、ANA、三菱倉庫)

長期業績レポート

9062 日通
9064 ヤマトHD
9202 ANA
9301 三菱倉庫

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ひとくちメモ

日経225採用銘柄のうち、物流、空運、倉庫業に分類される4企業の長期業績レポートをまとめました。

各社とも、利益成長に苦しんでいる様子が伝わってきます。例えば日通とヤマトを比較すると、日通は売上成長を多少犠牲にしても利益率を上げてきた一方、ヤマトは売上成長を求めた結果として利益率が犠牲になってしまいました。

理想的な投資先は、売上が伸びることで数量効果が発現し、固定費の伸びを吸収して利益率も上がることです。この好循環に入ると、市場評価も高まるのでPERも高まります。つまり、売上成長率 < 利益成長率 < 株価上昇率 となるのです。こうなる条件の揃った企業を、前職の尊敬するファンドマネージャーは「天国への階段」と呼んでいました。

残念ながら汎用サービスを提供している物流各社は、売上を上げるためには利益が犠牲になり、利益を上げるためには売上が犠牲になるという環境から抜けられていません。つまりEPSが大きく成長することはなく、結果としてPERも切り下がってしまいました。

顧客が物流企業に求めていることは、荷物がA地点からB地点に無事に到着することです。運ぶ人が日通でも、ヤマトでも、佐川でも関係ありません。「これは大事な荷物だから、佐川ではなくヤマトで運ぼう」とは思わないはずです。このような競争優位性の低い事業に投資している限り、なかなか天国への階段を上ることはできなそうです。

Happy Investing!!

長期業績レポート(JR東日本、JR西日本、JR東海)

長期業績レポート

9020 JR東日本
9021 JR西日本
9022 JR東海

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ひとくちメモ

JR各社は、1987年に旧国鉄が旅客6社と貨物会社の計7社に分割されたことで誕生しました。7社のうち、上場しているのはJR東日本、JR西日本、JR東海、JR九州の4社です。JR九州は2016年にIPOしたばかりなので、今回は長期実績を見ることができる3社を取り上げました。株価については前回取り上げた私鉄各社と同様、売上の伸びが年率1%前後と限定的(安定的)な中、利益率の改善が運用成績に直結していることが分かります。

鉄道事業は安定した需要がありますし、新規参入もありません。結果としてキャッシュフローも安定しているので、キャッシュフローに基づいた企業価値評価を練習するには最適な企業です。

JR東日本を例にとってみました。

決算資料によると、JR東日本の2017年3月期の営業キャッシュフローは約6500億円で、維持更新投資は約3400億円でした。あなたがJR東日本の所有者であれば、線路や建物を補修して来年も問題なく使えるようにした状態で手元に残るお金が約3200億円あるということです。このお金はフリーキャッシュフローと呼ばれ、成長投資(設備投資、M&A)や借入金返済、株主還元(配当、自社株買い)の原資になります。

次に、フリーキャッシュフローを割引率で割ることで事業価値を求めます。JR東日本の株式はフリーキャッシュフローの安定性が高いので、毎年決まった利払いを受けることができる疑似債券として捉えることができます。あなたは、年率何パーセントのリターンが得られれば、JR東日本の株式を買うことができますか?私は、割引率8%を株式の基準値として考えています。その上で、事業の強みや成長余地を加味しています。JR東日本で言えば、参入障壁は恐ろしく高く、また代替商品の可能性も低いので、-1%とします。この辺りのさじ加減は、決まりがある訳ではありません。私が、色々と企業価値を評価してきた中で、感覚的に妥当だと思っている水準に過ぎません。割引率は8%-1% = 7%で割り引くと、事業価値は約4兆5000億円です。

事業価値+現預金ー借入金=企業価値となり、約2兆2000億円です。現在のJR東日本の時価総額は4兆3000億円なので、私の企業価値評価の約2倍の市場価値が付いています。私であれば、余裕で見送る投資案件です。

また、市場価格から逆算すれば、現在市場がJR東日本に求めている割引率が分かります。上の図のように、割引率を4.75%に設定すれば、現在の市場価値が説明できます。これは、今の価格でJR東日本の株式を買った時の期待リターンは4.75%になるということです。このリターンで納得できる投資家は購入すればいいし、私のようにより高いリターンを求めている投資家は、株価が値下がりして期待リターンが得られる水準まで値下がりすることを待つ必要があります。

本来は、まず期待リターンを決めないと、フリーキャッシュフローに対していくらまでなら支払えるかを決められないのです。あなたは株式投資からどれくらいのリターンを求めていますか?

Happy Investing!!

長期業績レポート(私鉄5社)

長期業績レポート

9001 東武
9005 東急
9007 小田急
9008 京王電鉄
9009 京成電鉄

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ひとくちメモ

鉄道各社の長期株式リターンを比べてみた。

2002年3月末から2016年3月末までの14年間に渡り保有し、かつ配当金を再投資したという前提になっている。例えば、一番下にある京成電鉄を例に取ると、リターン合計は年率換算で11.9%、100円投資したとすると、14年後に483円(譲渡税前)まで増えている。

さらに、11.9%のリターンを要素分解したものが右手。売上成長が年率1% x 利益率改善が9% x 株数が増えた効果が-1%で、合わせてEPSを年率9%押し上げている。最後にPERが12倍から17倍まで年率換算3%拡大したので、合わせて11.9%のリターンとなっている。

PERに基づいて投資するときには、(1)売上成長、(2)利益率改善、(3)株数、(4)PER、という4つの変数がどのような組み合わせで上昇するのかを明確にした方が良いと思う。

(1)売上に関しては、鉄道事業の特性上、これまでも大きく伸びていないし、これからの人口動態を考えても大きな伸びは期待できない。

(2)利益率はどうだろう?過去14年の鉄道会社への投資リターンの源泉は利益率が改善したことにある。東京ディズニーランドからの収入がある京成電鉄を除けば、ここ数年は各社とも利益率は5%で頭打ちになっている。ここからさらに上振れることができるのだろうか?

(3)株式数の変化がプラスに寄与しているのは京王電鉄のみ。中期経営計画などを見ても、自社株買いによる株主還元の文化は根付いていない。

(4)PERに関しては、京成電鉄の15倍から京王の30倍まで開きがあるようだ。

以上を総合すると、現在鉄道会社を購入して株式の値上がりを期待するには(4)PERの拡大に頼ることになりそうだ。しかし、残念ながらPERも過去最高圏内にある。売上が伸びず、利益率は過去最高の水準にあり、自社株もしない会社がPER20倍以上で取引されているのは、私にはとても不思議に感じる。このような成長がない安定事業はせいぜいPER10倍で取引されるべきだと思うのだが、10年後にはどうなっているだろうか?

Happy Investing!!

長期業績レポート(不動産5社)

長期業績レポート

3289 東急不動産
8801 三井不動産
8802 三菱地所
8804 東京建物
8830 住友不動産

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ひとくちメモ

日経平均には不動産が5社採用しているが、売上規模でみると、1兆円規模の4強(売上規模順に、三井不動産>三菱地所>住友不動産>東急不動産)と、売上2500億円規模の1弱(東京建物)となっている。今回は大手4社を比べてみた。

一番興味深かったのは、住友不動産のROEが比較的高いことだ。他の3社がROE6%程度しかないところ、住友不動産はROE10%を維持できている。同業他社に比べて段違いの強さを見せる企業があるときは、調査に値することが多い。この優位性を維持できれば、たいていはシェアを拡大することが可能だからだ。

ROEのは、利益率 x 資産回転率 x レバレッジ の3要素に分解できる。

各社の3要素を見ていると、一番大きな違いはレバレッジに対する考え方のようだ。オフィスビル賃貸比率が高い三菱地所、三井不動産、住友不動産を比べると、ROA(=利益率 x 回転率)までは2%程度で大差ないが、レバレッジは3倍程度の三井不動産と三菱地所に比べて、住友不動産は5倍程度かけて高いROEを維持している。

果たしてどの程度のレバレッジが適正なのだろうか?これは投資家それぞれに個人差があるところだが、レバレッジが低めでROEも低い三菱地所(PER27倍)や三井不動産(PER19倍)が、レバレッジが高めでROEも高い住友不動産(PER14倍)に対してPERで高く評価されている現状は、私はちょっと違和感を感じる。みなさんはどう評価されるだろうか?

Happy Investing!!