報酬体系に御用心:富士フイルムによる和光純薬買収の場合

和光純薬の買収価格のバリュエーションに触れた報道がみつからない

関連】富士フィルム(4901)長期業績レポート
関連】武田薬品(4502)長期業績レポート
関連投稿】富士フィルムによる和光純薬の買収
関連投稿】ROAでみた富士フィルムの多角化戦略は失敗

2016年12月15日に、富士フィルムによる和光純薬(武田薬品の子会社)の買収が正式に発表されました(会社リンク)。

インターネットで『和光純薬 買収』と検索すると、「1547億円」という数字が目につきます。しかし、この数字は富士フィルムが支払う予定の買付代金であり、和光純薬全体の企業価値ではありません。そこで、今回の取引における和光純薬のバリュエーションについてまとめてみました。

上の表にあるように、和光純薬の発行済み株式数は33.3百万株あります。このうち、自己株式12百万株を除いた流動株式数は21.3百万株。さらに、富士フィルムは既に3.2百万株を保有しているので、今回の買収で購入する必要のある株数は18.1百万株です。この株数に、買収価格である一株8535円を掛けると、1547億円という報道される金額が算出できます。つまり、これは和光純薬の一部分の価格であることが分かります。

では、和光純薬全体はいくらで評価されたのでしょう?一般的に、時価総額=発行済み株式数 x 株価 で計算されます(日経新聞リンク)。 つまり、和光純薬は2842億円の時価総額で取引されることになりました。

2016年3月の純利益が57億円だったので、PERは50倍を超えていますし、仮にバランスシート上のネットキャッシュを除いたとしてもPERは40倍以上です。40~50倍というPERは、高成長企業に許されるバリュエーションです。果たして和光純薬にその価値があるのでしょうか?

和光純薬の業績

和光純薬の有価証券報告書をまとめてみました(EDINETより取得)。

2008年3月期以降、売上は約750億円、経常利益は約80億円で安定的に推移していることが分かります。和光純薬は研究で使われる試薬で高いシェアを持つ安定した優良事業であることは分かりますが、高成長企業とは呼べないと思います。

価値評価をする人の報酬体系に気を付けよう

和光純薬の買収発表資料には、第三者算定期間(SMBC日興証券)、ファイナンシャルアドバイザー(メリルリンチ)、経営陣による3つの価値算定が出てきます。私(Nagatomo Investments)による価値評価を含めて上にまとめました。

気付くことは、私とSMBC日興による価値評価が1株4000~5000円(時価総額1300~1700億円)と近いこと。和光純薬の安定した事業実績を元にDCFを行うとすれば、誰がやっても大差ない評価になると思います。それに比べて、メリルリンチと富士フィルム経営陣は非常に高い評価をしています。

ここで、価値評価をする人の動機付けを考えることが大切です。私は個人投資家であり、投資リターンが報酬です。SMBC日興は固定報酬を受け取る第三者算定期間なので、無理に値段を高く見せる動機付けはありません。自然体での評価になると思います。

問題はメリルリンチと経営陣です。メリルリンチは、買収成立価格に応じた手数料を受け取ります。仮に取引金額の1%としても、15億円の収入です。メリルリンチとしては取引を成立させないことには始まりません。さらに、価格が吊り上がることには自分たちの手数料が増えるだけだという事で、自然体で価値評価する動機付けは全くありません。

出典:有価証券報告書(2016年3月)

最後に富士フィルム経営陣です。富士フィルムを2000年から経営している古森会長をみてみると、2016年3月に22,300株を保有しています。現在の株価4500円換算で、約1億円の富士フィルム株式を保有しています。その一方で、給与として年間2億円以上を受け取っています。

そもそも富士フィルムを15年以上経営しながら1億円しか自社株を保有していないことに驚きます。15年で受け取った給与は軽く10億円を超えているでしょうから、自社の株には投資先として魅力を感じていないということではないでしょうか?

まとめ

こうした材料を見ていくと、古森会長や富士フィルムの目的が株主価値の最大化にあるとは考えにくいです。そんな経営陣に雇われているメリルリンチに正しい価値評価を期待することもできません。投資リターンでしか稼ぐことのできない投資家の立場としては、価値評価をしている人の報酬体系、動機付けに気を付けましょう。

ちなみに、ウォーレン・バフェットは時価総額40兆円のBerkshire Hathawayを経営しながら、給与は年間1000万円です。そして自ら大株主として、少数株主と全く同じリスクを背負っています。株主の立場であれば、どちらの経営者に資金を託したいですか?

Happy Investing!!

長期業績レポート(新日本製鉄、神戸製鋼、JFE)

長期業績レポート

5401 新日鉄住金
5406 神戸製鋼
5411 JFE

日経225採用企業の長期業績レポート一覧

メモ

長期業績レポートをまとめていて、鉄鋼業は本当に経営が難しい産業だと感じました。

多額の設備投資が必要

まず、鉄鉱石から銑鉄を取り出す高炉を作るには千億円単位の設備投資がかかります。一度高炉に火を入れれば、20年ほど稼働し続けなくてはならず需給調整ができません。火を止められない理由は、溶けた鉄が途中で冷えて固まってしまうからです。さらに、改修する場合でも、下の神戸製鋼加古川製鉄所第3高炉のプレスリリースに書かれているように、数百億円単位のお金がかかります。

出典:神戸製鋼プレスリリース

商品としての差別化はなく、資金があれば参入できる

多額の設備投資をして鉄ができたとしても、悲しいかな商品としての差別化は難しいようです。

その根拠として、2007年から2016年までの世界の銑鉄生産量を見ると、2007年に9.6億トンから2016年に11.6億トンまで2億トン増えています。国別にみると、なんと中国だけで2.2億トンも生産量が増加しています。ほかに2007年から2016年にかけて生産量が増えた主要国はインドと韓国だけ。その他の主要生産国、ドイツ、アメリカ、ロシア、ブラジル、日本などは全て減産しています。この事実から、「製鉄所はお金を払えば作れる」ということが言えると思います。

出典:Wikipedia

中国の過剰設備による輸出増加で国際価格が低迷

中国鉄鋼メーカーの生産量増加スピードが内需スピードを超えてしまい、輸出が始まります。中国による2015年の鉄鋼輸出量は1億トン以上(参照リンク)と日本の生産量より多かったそうです。その結果が下の鉄鋼価格に表れています。

直近では価格が反発しているように見えるが?

2016年初めから、鉄鋼の国際価格は2倍ほどに反発しています。では、鉄鋼メーカーは投資先として魅力的なのでしょうか?私にはそうは思えません。鉄鋼価格が高値圏に戻れば、再び設備投資合戦が始まるでしょう。

最後に、買収を繰り返して世界最大の鉄鋼メーカーとなったアセロールミタルの長期株価を載せました。 現在の株価を短期的な安値とみることもできるかもしれませんが、長期投資の難しそうな業界だという印象がぬぐえません。

アセロールミタルの株価(Google Finance)

Happy Investing!!

長期業績レポート(日本碍子NGK)

長期業績レポート

5333 日本碍子NGK

メモ

企業のIRページを見比ていると、その企業の開示姿勢が伝わってきます。私は株式市場の役割を、「企業価値をできるだけ正確に反映し、その結果として社会における資本分配を効率的に行うこと」だと思っています。企業価値を正確に反映するには判断材料が必要であり、企業による開示が必要不可欠です。

日本碍子のIRページを見ていきましょう。

IRトップページ(リンク

特筆すべき点はありません

トップメッセージ(リンク

IRリンクの一番上にある、社長からのメッセージです。日本碍子の場合、有価証券報告書の【対処すべき課題】の丸写しです。有価証券報告書は、【事業内容】などの説明があった後に【対処すべき課題】が書かれています。このホームページを日本碍子について何も知らない個人投資家がまず読んだとして、どういう印象を受けるでしょうか?残念ながら、そういう想像力が感じられません。

財務ハイライト(リンク

IRリンク上から2番目にある、主要財務指標をまとめたグラフです。日本碍子の場合は5年分が掲載されています。なぜ5年分なのでしょうか?これも、有価証券報告書の報告形態を真似しただけなのかもしれませんが、私には不誠実とうつります。下の15年分の長期業績レポートと比べてみてください。

15年分の業績を見れば、日本碍子の業績が景気循環の影響を受けることは一目瞭然です。しかし、財務ハイライトを見ただけの人は、高成長企業かと勘違いする可能性があります。投資は自己責任で行うものなので、長期業績や事業特性を調べなかった投資家が悪いのはもちろんです。しかし、会社側としてはそれくらいの基本的な情報は開示してくれてもいいのではないでしょうか?

長期業績を確認しよう

 

19年の業績推移を見ると、丸をつけた2001年3月、2008年3月に売上がピークを迎え、2017年3月の会社予想を参考にすれば、すでに2016年3月に売上は頭打ちになっています。そして、過去が参考になるのであれば、売上がピークを迎えた年から3年間は売上減少が続いています。そうした先行事例がありながら、もし2018年3月に売上が増えると思って投資するのであれば、それは過去のトレンドに反することでありしっかりとした根拠が必要です。

私ならどういうIRメッセージを出すか?

私が日本碍子の経営者であれば、投資家に向けて次のようなメッセージを出すと思います。

1、事業特性上、設備投資や自動車新車購入の景気変動の影響を受けます。
2、景気循環をコントロールすることはできません。そこで、景気後退局面が5年は続く前提でバランスシートに余力を残し、次の景気ピークで売上・利益が更新できるように事業運営していきます。

よりよいIRへの期待

投資家の方は、企業によりよい情報開示を求めていきましょう。企業IR担当の方が読んでくれていたら、是非、事業特性の本質を分かりやすくまとめたIRサイトの運営をお願いします。

Happy Investing!!

長期業績レポート(TOTO)

長期業績レポート

5332 TOTO

日経225採用企業の長期業績レポート一覧

メモ

TOTOは典型的なバフェット銘柄

TOTOは日本のトイレ市場で60%シェアを持ち(2位はINAXで30%)、日本人であれば誰もが製品を毎日のように利用している企業です。排泄行動を考えてみると、人はトイレにこだわりを持つように思います。トイレにある芳香剤は100均で買ったとしても、安物のトイレを使う人は日本では見かけません。治外法権である大使館のような場所をのぞくと、日本でTOTOとINAX以外のトイレを見た記憶がありません。

バフェットは、Wrigley’sという米国トップシェアのチューインガム会社の買収について、その競争優位性を説明しています。「人にとって口というのはこだわりのある場所だ。よく知らない食べ物を口に入れたくはない。慣れ親しんだWrigley’sガムが100円で売っていて、隣に聞いたこともないプライベートブランドのガムが90円で売っていたとしても、ほとんどの人はWrigley’sを選ぶだろう。」

トイレについて言い換えてみます。「人にとって排泄というのはこだわりのある行動だ。よく知らないトイレにお尻を載せたくはない。慣れ親しんだTOTOのトイレが6万円で売っていて、聞いたこともない海外メーカーのトイレが4万円で売っていたとしても、ほとんどの人はTOTOを選ぶだろう。」

私にもよく理解できる事業を展開する企業であり、かつブランド力という競争優位性が存在することは明らかです。20年後も人間の排泄方法に大変革は起きていないでしょうし、TOTOのトイレにお世話になっている可能性が高い。つまり、高い確度で収益の見通しを持てる典型的なバフェット銘柄と評価できます。こうした企業は数少ないですから、よく調べて理解することをお薦めします。

私の考えるTOTOのポイント

TOTOは、2012年に世界90億ドル市場のうち、17%シェアをもつ世界最大のトイレメーカーでした。

しかし、地域によってシェアは違い、それによって収益率にも大きな差があります。

 

TOTOは中国・アジアの高級トイレ市場でトップシェア(2005年時点で、中国の高級市場で30%以上のシェア。参考記事)です。そして、20%近い営業利益率を叩きだしています。

それに比べて、ウォッシュレットの普及率が低く、地場トイレメーカーが浸透している米国や欧州市場では苦戦が続いています。シェアが高いが低成長の日本事業からのキャッシュを、中国・アジア市場に投資していくことが続くのでしょう。

LIXIL(INAXブランド)と比較してみると

トップシェアが大きく稼げることを理解しているLIXIL(INAXブランド)は、2013年に米国2位の米アメリカン・スタンダード、2014年に欧州水栓金具に強く世界シェア8%ある独グローエを買収して規模を拡大している。

LIXILは2015年3月からIFRS会計基準を採用しており、セグメント利益の調整額が大きいのでTOTOの業績と単純比較はできないが、営業利益率は5%前後だと思われる。私は、高級ブランドイメージを確立できているTOTOの利益率が高く維持されると考えている。さらにLIXILは買収の巧拙が試されるので、経営者の資本分配力の見極めがさらに重要になる。

経営者の資本分配力を測るのは難しい。新しくLIXIL社長に就任した瀬戸さんは、MonotaRoを育てるなど経営者としての実績は素晴らしい。しかし、2位以下のトイレメーカーの経営は価格決定力がないので難しいことは述べた通り。優秀な経営者が凡庸な事業を経営するときにどうなるのか楽しみだ。個人的にどちらを経営したいかと言われれば、間違いなくやるべきことが明確なTOTOだ。

ウォッシュレットはどこまで普及するのか?

日本はウォッシュレット大国です。1980年の発売以来、30年をかけて普及率は80%を超えました。私は普段ウォッシュレットを使わないので、その良さが全く理解できないのできません。蓋の自動開閉に自動洗浄、音が鳴ってみたり、ほとんど余計なお世話だとすら感じてしまい、ハイテクトイレでなかなか落ち着けません。

ウォッシュレットになると、トイレはハイテク製品に様変わりします。普及率が1%以下と言われる欧州などで、果たしてどこまで普及するのでしょうか?最初に述べたようにトイレは地域特性が強く、文化的背景と相まって変化が緩やかな業界です。中国やアジアのようにポットン便所から洋式へ移行するときにはウォッシュレットを導入するチャンスの窓が開きますが、先進国ではどうなるのでしょうか?海外のトイレ事情から目が離せません。

Happy Investing!!

長期業績レポート(花王、資生堂、日東電工)

長期業績レポート

4452 花王
4911 資生堂
6988 日東電工

日経225採用企業の長期業績レポート一覧

メモ

花王

2016年12月まで27年連続増配を予定しており、これは日本の最長記録です。長期にわたり増配を続けるには利益成長が必要です。つまり、花王の増配記録は日用品ブランド事業の安定性の表れです。20年後も人は清潔でありたいという欲求を持ち続けるでしょう。さらに、そのための手法が劇的に変わるとは考えにくいです。おそらくは風呂に入り続け、歯を磨き続けるのでしょう。

米国では、American States Waterという水道・インフラ企業が62年連続増配という最長記録を持っているようです。日用品ブランドを展開する企業では、Procter & Gambleが60年、Johnson & Johnsonが54年とやはり長期間の増配を達成しています。

参考リンク:日本の連続増配ランキング)
参考リンク:米国の連続増配ランキング)

資生堂

2014年から魚谷さんが社長を務めています。以前は日本コカ・コーラ社長を務めていた方です。コカ・コーラが強力なブランド力を持つ製品を売る優良事業であるのに対して、デパートの化粧品コーナーに行けば分かるように、化粧品は多くのブランドであふれかえっています。そのため、多くの販促費を必要とする競争の厳しい事業です。

ウォーレン・バフェット氏は、「優秀な経営者が難しい事業を経営した場合、たいていは事業の難しさが上回る」と述べています。魚谷さんはまさにこのケースに当てはまっているような気がして、注目しています。

Happy Investing!!

長期業績レポート(三菱ケミカル、宇部興産、日本化薬)

長期業績レポート

4188 三菱ケミカル
4208 宇部興産
4272 日本化薬

日経225採用企業の長期業績レポート一覧

メモ

日経225採用企業のうち、何社が化学に分類されているでしょうか?答えは17社です。電気機器に分類される29社に次いで多いのです。そんなに多いのか、と意外な気がします。

電気機器に分類される企業は、パナソニックや日立、ソニー、東芝など、個人向け製品を作っていることから日常的に名前を耳にすることが多いです。しかし、化学メーカーは日常生活では影が薄い存在です。社名を聞いても何をしているのかイメージが湧かず、事業内容を読んでもカタカナの化学製品名が並んでおり、理解を深めるにはハードルの高い分野だと感じます。

一例として、三菱ケミカルの2016年3月期有価証券報告書より、【事業の内容】を抜粋してみました。ちょっとカタカナ多すぎませんかね。

ウォーレン・バフェット氏は常々、”Stay within your circle of competence” 「理解できる領域から出るな」とアドバイスしています。私にとって化学会社は、まさに理解できない会社の典型例です。逆に多くの人になじみがないからこそ、化学業界に精通する人にとっては投資チャンスが溢れていように見えるのかもしれません。

Happy Investing!!

長期業績レポート(東海カーボン)

長期業績レポート

5301 東海カーボン

日経225採用企業の長期業績レポート一覧

メモ

東海カーボンの2大事業は、

(1)カーボンブラック:主にタイヤの添加剤として使用
(2)黒鉛電極:電炉での粗鋼生産に使用

カーボンブラック事業は中国次第

カーボンブラックの国内消費量は1990年から年80万トンで頭打ちになっています。国内生産が約3/4、輸入量が約1/4です。

東海カーボンの有価証券報告書を読むと、コモディティー製品を扱うグローバルな事業が、中国の過剰生産にさらされるとどうなるかをよく理解することができます。以下、2015年12月期有価証券報告書からの抜粋です。

中国で過剰生産 → 輸出 → 日本市場の需給バランスが崩れる → 東海カーボンは価格決定力を失う → 減益

ウィキペディアによると、2012年時点で中国が世界のカーボンブラック生産量の約40%を占めていました。現在はさらにシェアが高まっているでしょう。東海カーボンが日本トップシェアと言ったところで、そもそも日本の世界シェアが5%しかありません。このようなグローバル事業において国内シェアを語る意味はなく、要は中国での需給次第で国際価格が決まっていきます。

では、私に中国の国内需給が見通せるのか?自信はありません。中国が不況に陥り、設備廃棄のニュースが世間を賑わすようなことがあれば、買い時なのかもしれません。

地理的な参入障壁のあるローカル事業を探そう

ここ数日の長期業績レポートでは、ガラス業界、セメント業界、カーボンブラック業界を取り上げました。グローバルに製品が動くガラス業界とカーボンブラック業界は、中国の過剰生産を受けて価格決定力を失い、厳しい経営環境です。一方のセメント業界は、輸入量がほぼゼロという対照的な業界です。輸入量ゼロという状況が今後も継続するための条件については理解する必要がありますが、経営者にとってどちらが経営しやすい事業かは一目瞭然ですし、そういう当たり前な気づきに応じて投資していけばいいのではないでしょうか。

Happy Investing!!

長期業績レポート(住友大阪セメント、太平洋セメント)

長期業績レポート

5232 住友大阪セメント
5233 太平洋セメント

メモ

日本のセメント業界には太平洋セメント、宇部三菱セメント(非上場)、住友大阪セメントの大手3社があり、太平洋セメントのシェア30%を筆頭に、上位3社でシェア80%を占める寡占化の進んだ業界です。

出典:決算発表資料

セメントはコンクリートなどの原材料になるので、需要が建設投資とリンクしていることが想像できます。統計を見てみると、予想通りに需要は1990年度バブルの8600万トンをピークに、2015年度には4300万トンまで半減しています。バブルが終わってもしばらくは熱狂が忘れらずに増産を続けてしまい、生産量がピークを迎えるのは1996年度です。このころはセメント会社にとって厳しい経営環境だったことでしょう。各社の社史をみていると、この頃に大型合併が起きています。需要が半減する中、生産設備も統廃合が進んでいる業界だという印象を受けます。

出典:セメント協会 http://www.jcassoc.or.jp/cement/1jpn/jc5.html

セメントの製品特性

1、原料が国内調達できる(出典:セメント協会
2、輸入量が少ない >なぜ?
3、国内で需給バランスしないから、仕方なく輸出している >大きな輸出先は、シンガポールとオセアニア

セメント輸出先 (出典:セメント協会)

昨日紹介したガラス業界と比較して欲しい(関連投稿)。ガラス業界は次のような負の連鎖に悩んでいる。

中国企業が増産 > 中国国内の需給バランスが崩れる > 中国企業が操業度を維持するために輸出を始める > 世界中のガラス価格が低下 > 世界中のガラスメーカーの収益を圧迫

セメント業界も、中国の建築ラッシュが一巡した段階で中国産セメントのダンピングが始まりそうなものだが、現実には輸入はほぼない。次のような疑問に納得できる答えを得ることができ、セメントを統廃合が続くローカル産業と捉えることができれば、投資チャンスは訪れるのかもしれないなと思った。

過当競争を続けた日本国内のセメント価格が国際的に安いからなのか?
どこから買っても一緒と思うセメントにも商品差違があるのか?例えば、日本での建築基準法クリアにはある品質以上のセメントが必要とか。

答えを知っている方、是非教えてください!

Happy Investing!!

数値目標の功罪(ポジション戦略再考)

関連投稿】ポジション戦略を改善しました

数値目標に縛られて、年初に大失敗

数値目標がないことによる問題点

私は2016年半ばより、「年率26%で30年複利運用して資産を1000倍にする」という、尊敬するバリュー投資家であるMohnish Pabraiの目標を真似して運用に取り組んできました。

それまでは、運用収益で生活していければいいというくらいの考えでした。農業や大工など自給自足系の取り組みを通して生活コストを下げる技術を身に着けることで、生活に必要な運用リターンも低下させることを基本戦略として年率5%も出れば十分と思っていました。しかし、この考え方では自分自身の成長が感じにくいために、投資に飽きてしまうという致命的な欠点がありました。

数値目標の良いところ

「年率26%で30年複利運用して資産を1000倍にする」という数値目標を導入したことで、投資に規律が生まれました。年率26%を達成するには、3年で2倍になる投資をしなくてはなりません。そうしたチャンスは稀なので、見つけたときには大きく投資しなくてはいけません。数値目標を導入したことで、ポジションルールや売買ルールを設定することができ、より感情を排した投資ができるようになりました。

単年度の運用結果は運次第のところが大きいですが、2016年末のトランプラリーの追い風もあり、年率25.9%のリターンを達成できました。

数値目標の悪いところ

2016年にたまたまうまくいってしまったので、「油断するなよ」と自分に言い聞かせていましたが、やはり2017年初に失敗してしまいました。新しい年に入ると、投資家は昨年どんなに良かろうが悪かろうが、年率0%というスタート地点に戻されてしまいます。私にとって年率26%は高い目標であり、勝手にそびえたつ山を前にするように感じてしまっていました。「また今年も登れるだろうか?達成できるだろうか?」という焦りが無意識のうちに生まれていました。稼がなくてはいけないと思っている時点で、精神的には投資に負ける要素がてんこ盛りになっていました。

2016年末に、エムビーエス(1401)という建造物やインフラ補修を行う企業を見つけました。競争力のある製品群に加えて全国への営業所展開により、大きな参入障壁と成長余地があると評価しました。私はエムビーエスの本質価値を一株10000円と試算し、2016年中に投資元本の10%を平均取得価格3000円で購入しました。2017年に入りエムビーエスの株価がジリジリと高くなります。すると、本来は喜ぶべきところが、不思議なことに逆に焦りを感じてしまいました。「チャンスに対して十分な資金を投じたのか?」という焦りです。3倍以上の上値余地があると評価していたのに、投資元本の10%しか買っていないことが原因でした。2016年末のトランプラリーによって、自分が価値算出できると感じていた企業の株価は軒並み上昇してしまいました。「エムビーエスのようなチャンスに大きく投資できないと、年率26%はとても達成できないぞ」という声が心の中で大きくなってしまいました。

私の取引ルールには、以下のようなルールがあります。

(1)取引時間中(9時から15時)は株価をみない
(2)取引時間中は注文発注しない
(3)買い注文は、昨日終値以下でしか発注しない

全て、2016年の高リターンに寄与したルールでした。しかし、エムビーエスが上方修正を発表して株価は2日連続ストップ高を付けたことで私の理性は完全に吹っ飛んでしまい、上記の取引ルールを全て破ってしまいます。1月6日には当ブログで、より集中投資を行うべくポジション戦略の変更を宣言してしまいます(投稿へのリンク)。この投稿は理性的に書いているつもりでしたが、振り返ると稼ぎたくて株を買いたい自分の行動を正当化しているだけだったようです。典型的な高値掴み(PTSで5400円、6300円で購入)をしてしまった私は、上昇力を失って下がる株価を見てようやく現実に戻されました。勝手に自分で自分を追い込んでしまい、機能していたルールを変更した挙句の失敗となりました。この痛みを忘れず、次に生かしたいです。

エムビーエス(1401)の株価、Kabutan.jp

バランスの取れた数値目標を探して

年率26%という目標は、Mohnish PabraiやWarren Buffettの実績から導いた数字です。今回の経験で、私にとっては過度な目標であったことが実感できました。野球に例えるならば、昨年4割打ってしまったバッターの気分でしょうか。新シーズンは0割から始まるわけで、「今年は打てるだろうか?打てなかったら?」などと考えてしまったのです。そこで、「2割9分打てればいいや」と思えれば、随分と気が楽になることでしょう。私にとって、「過度に緊張せず、かと言って努力しなくては到達できない」ラインはどの程度なのか考えてみました。

1年に見つか投資先は2社か3社。私にとって現実的な目標は年率16%

これまで3年間個人投資家としてやってきた中で、これはと思える投資先は1年に2,3社みつかるというのが実感です。投資期間は3年を前提とします。さらに、売却ルールとして本質価値の90%で売却することとします。例えば200の価値があると思う企業を100で購入した場合、180(200 x 90%)で売却して80の利益(180 – 100)に20%の税金がかかるので、税後リターンは64となります。64を3年で割ると、年換算で21.3の利益となります。

私は2倍の上値余地がある銘柄に対してポートフォリオの75%を投資し、かつ7銘柄に投資しようと考えています。1銘柄に10%は投資したいが、75% / 6銘柄 = 12.5%は高いと感じるからです。この辺りに科学的な根拠はありません。肌間隔としてそう思うということです。このポジション戦略であれば、ポートフォリオの75%を上値余地2倍で7銘柄に投資して、想定リターンは年率16%です。

3倍以上の上値余地のある銘柄が見つかるときは1銘柄あたりのポジション量を増やすことでリターンが向上するかもしれませんし、逆に間違いもあるでしょう。この2つがお互いに相殺されるとして、税金効果を含めて考えたときの現実的な目標は年率16%だと思っています。この目標であれば、年に2,3社自信を持てる会社を探せばよいと思えて気が楽です。同時に、根気強く探さないと魅力的な投資対象が見つからないことも経験上分かっているので、怠けすぎる危険も抑えられます。

年率26%の設定によって、間違いが許されない状況に自分を追い込んでしまっていた

同じように年率26%を売却ルールや税効果込みで考えてみます。すると、下のように、上値余地3倍、4倍、5倍、6倍の投資先を見つけることができることはもちろん、間違いを一切しないという前提で、ようやく年率26%が達成できることが分かります。私にはプレッシャーが強すぎます。投資に間違いが付き物なので、間違えられないと思ってしまうことで逆に自分の行動が制約されてしまいます。このように冷静に数字をシミュレーションしていれば、過度に高い目標を掲げて自分にプレッシャーをかけすぎ、結果として大きく間違えるという事を避けられたかもしれません。

自分のリスク許容度に向き合おう

人間はみなリスク許容度が違いますし、大人になってから修正するのは難しいと思います。慎重な人もいれば、大きな不確実性に動じない人もいます。どちら良いということはなく、大切なことは自分のリスク許容度を受け入れ、それにあった投資戦略やポジション戦略を採用することです。私は他者のポジション戦略を真似してきましたが、中には自分のリスク許容度に合わないものが含まれていましたので、今回のように失敗しては調整を重ねています。

自分の許容度以上にリスクを取ると、短期的には大きく稼げるかもしれませんが、長期的にはダメージが高いように思います。何より精神的に疲れてしまい、投資を続けられない危険性もあります。投資で何より優先すべきは生き残ることです。是非、自分自身のリスク許容度に適合したポジション戦略を採用してください。

Happy Investing!!

長期業績レポート(旭硝子、日本板硝子、日本電気硝子)

長期業績レポート

5201 旭硝子
5202 日本板硝子
5214 日本電気硝子

メモ

過去15年を見ると、ガラス業界は厳しい経営環境であった。2006年に売上規模が2倍もあるピルキントン社を大型買収して経営が迷走した日本板硝子の過去14年の株式リターンは年率-10%以下と目を覆いたくなるような状況になっている(100円投資したら20円になっていた・・・)。比較的地道に経営してきたと思われる旭硝子と日本電気硝子の株式リターンも年率1%程度しかない。

日本企業だけが鳴かず飛ばずだったかというと、そういうことではない。ガラスの世界トップ企業である米国のCorning社の株価を見ても、ITバブル以降は横ばいが続いている。

Corning社の株価(Google Finance)

なぜガラス業界はかくも悲惨な状況なのか?

経済産業省のレポートを見ると、ガラス企業の売上は板ガラス(建築用)と自動車ガラスに大別できる。

板ガラスは商品レベルでの差別性が少ない上に、世界最大手の旭硝子ですらシェアが7%しかない。ガラス製品は既に普及して需要が大幅に増えることは考えにくい成熟産業にも関わらず、コスト競争力を武器に中国企業が増産してしまい、需給バランスを破壊してくる。その結果、価格で競争するしかなくなる。統計をみても、中国からの輸出が爆発的に伸び、日本からの平均出荷価格が2004年から2014年から20%ほど下落している。経営者ならどうするか?現状維持すれば、価格が下落しただけ利益が削られる。最新鋭の設備を導入してコスト競争に参加すれば、ますますコスト下落に拍車をかけてしまう。なかなかに難しいかじ取りだ。

自動車ガラスにしても、購入企業が限られているから価格決定権は握られている。

ガラス業界は難しいことだらけです。例をあげれば、

(1)価格決定権がない
(2)寡占化が進んでいない
(3)大きな設備投資が必要
(4)中国勢からの低価格競争にさらされる
(5)商品で差別化できない

ウォーレン・バフェットが、「優秀な経営者が難しい事業に取り組んだとしても、たいていの場合は事業の特性が持続する」と言っている通りです。このような難しい業界にある企業は、仮に資産ベースで割安に見えても投資はしない方がいいような気がします。

Happy Investing!!