どんな企業かを知る上で、過去の業績を調べます。いったい何年分さかのぼって調べればいいのでしょうか?
35歳の転職者には15年超の経歴を求め、なぜ企業には長期経歴を求めないのか?
バリュー投資の基本は、将来のキャッシュフローの総和である企業の本質価値を算出することです。私は、将来は過去から続く流れの中にあるので、過去を良く理解することは将来の予測精度の向上につながると思っています。そこで、可能なかぎり長く過去の業績を調べるようにしています。
会社ではなく個人について調べると置き換えてみます。履歴書を読むとき、あなたは何年分の経歴を求めますか?過去5年で納得しますか?しませんよね?転職者であれば、高校からの学歴と職歴を求められます。つまり、私のように35歳であれば15年以上の人生について説明を求められるのです。では、大事な資金を預けようという企業について、同じような熱意で調べないのはどうしてでしょうか?
ほとんどの企業は、長期的な業績を投資家が見やすい形で提示をしてくれません。企業に都合よく景気回復局面を切り取って、右肩上がりの綺麗な業績拡大トレンドを見せてきたりします。そこで、投資家自身が業績をつなぎ合わせて長期経歴を作る必要があります。
手軽に調べられる業績は過去15年分
主な業績データの入手先として、以下のものがあります。
(1)四季報(本): 過去3年分
紙ベースの四季報は安価で調べやすいですが、過去3年分の業績しか記載されていません。3年では景気サイクルを含んでいないため、企業の実力を測るには短すぎます。
(2)四季報(CD): 過去10年分
CDベースの四季報は定価7000円ほどしますが、手軽に10年の業績を調べることができます。景気サイクルを1回は含んでいるので、企業の景気敏感度を測ることができます。
(3)有価証券報告書: 過去15年分
一つの有価証券報告書の冒頭には、サマリーページとして過去5年分の財務データがのっています。株主プロという素晴らしい無料サイトでは、各企業の有価証券報告書を2005年度までさかのぼって入手することができます。現在であれば2015年度から2001年度まで、過去15年分の財務データを入手できます。15年あれば景気サイクルを約2回含んでいるので、業績下降局面での企業の対応がどう改善したかを含めて構造的な変化を伺い知ることができます。
(4)会社ホームページ: まちまち
より長期の業績を開示している素晴らしい企業もありますが、残念ながら少数です。
例:日産自動車の15年業績サマリー
私は、15年業績サマリーを作るところから企業分析を開始しています。10分で作れます。
日産自動車を例に見てみます。EPSや営業キャッシュフローが15年間で横ばいです。2002年3月末に日産に投資した場合、2016年3月末までのリターンは複利3%と寂しい結果です。カルロス・ゴーン社長の経営手腕は高く評価されがちですが、客観的には業績が伸び悩んでいるとみるのが自然です。今回の景気回復局面でも、2005年の業績を上回れていません。このような背景を理解した上で三菱自動車へ出資した理由を考えると、より深い理解につながります。
Charlie MungerはGeneral Motors社創業(1908年)以来全ての年次報告書を読んでいる
Mohnish Pabraiというバリュー投資家がカリフォルニア大学アーバイン校のビジネススクールで行った講演(YouTubeリンク参照)で、Warren BuffetのパートナーであるCharlie Mungerが、General Motors社が1908年に創業して以来すべての年次報告書を読んでいると語っています。Charlie Mungerは90代になっても、純粋な好奇心から100年以上の社史を紐解こうしているのです。これが、世界最高峰のバリュー投資家の行動パターンです。
まとめ
長期的な業績推移に注意を払う投資家は少ないのが現実です。大事な資金を提供するというのに、簡単な調べものをしない投資家が多いことに驚きますが、そのぶん努力をいとわない投資家にはチャンスが広がっています。